本部軍議開始
「ところで、あれから何か動きとかありました?」
談話室まで俺を呼びに来た竜騎士に聞くが、竜騎士は首を力なく横に振るだけだった。
「兵を招集するような話は出ているようだが、それ以上の動きは全く見られない」
「話だけなんですか?」
「あぁ、話だけだ」
単独と言うか少数での偵察も多い竜騎士は、個々に裁量が大きく割かれている。だから、学校の竜騎場にも関わらず軍の竜騎士が所有するドラゴンが等間隔て配置されており、その隣には戦闘用具一式が積み込み待ちで置かれている状態だ。
命令が下れば遅くても一時間以内には飛び立てる。
しかし、それは竜騎士の任務が単純かつ絶対数が少ないための物で、騎馬騎士は騎馬騎士・騎馬兵・歩兵・輜重隊など大量の人員を動かさなければいけないので腰が重くすぐに向きや動きを変えることができないのだ。
その動きの遅さに対して一部の竜騎士は嘲笑の対象として見ているが、その騎馬騎士本部が運営する輜重隊が居なければ戦場で竜騎士やドラゴンが食べる物が無いので、どちらかと言えば竜騎士が弱い対場なんだ。
「ですが、騎馬騎士本部から召喚があったなら、方向性だけは決まったと言う事ですよね?」
「いや。呼んだのは竜騎士本部だ」
「あっ、そっちですか」
事実確認の為か、それとも文句を言いにか分からないけど騎馬騎士本部に呼ばれたかと思っていたら竜騎士本部の方だった。
学校に隣接するように建っている竜騎士本部だが、ロベールの悪評判が高いからかそれとも単に気にされていないからなのか、全くと言って良いほど軍属の竜騎士と接点が無い。
報告も学校を通してだったしな。
★
竜騎士本部に来た俺が通されたのは、20人ほどが収容できそうな中規模の広間だった。
その中央には四角いテーブルが置かれ、すでに軍人然とした人間が十数名座っていた。
「ロベール君。こちらへ座りたまえ」
俺をここまで連れて来た竜騎士とはこの広間へ入る前で別れた。どうすれば良いか迷っていた俺に声をかけたのは、竜騎士育成学校の校長だった。
勧められるまま席につくと、俺が最後だったのか扉に鍵がかけられた。
「それでは、今回の報告を持ってきた竜騎士育成学校の生徒が来たので話を始めるとするか」
出入口から一番遠い上座に座っている、ドワーフ並に髭を蓄えた軍人が軍議の開始を告げた。
竜騎士ではなく軍人と評したのは、その人の来ている服が竜騎士の正規服でも飛行服でも鎧でも無かったからだ。オブザーバー的な人なのか、それとも最高責任者はそう言った服を着ないのかもしれない。
「常識的な事だから分かっていると思うが、彼が竜騎士の大将カショール・アンクトゥ・ドゥ・レナオンだ。皇帝陛下の近衛もやっていた事もあり、陛下の信頼も厚い」
「なるほど、勉強になります」
つまりは、カショール社長か。CEOは皇帝陛下で。軍隊についてなんてこの学校に入ってから学び始めただけだし、学校に入ってからもマシューにばっか入り浸っていたからそこら辺の知識は欠落しているからな。
「それでは、今議題について再度説明します。昨日の夜半にそちらに居る竜騎士育成学校の生徒が、現在国境付近に建設している砦が敵兵に包囲されていると言う報告を出しました」
そこから続いたのは、俺が報告した内容と同じだった。再度、との事だったので俺が来る前から話し合いはされていたのだろう。
ここに呼ばれたのは参考人程度で、報告した以外にも細かな事を聞く程度だろう。
★
「敵の布陣について、何か思い出した事はないか?」
テーブルに敷かれた簡易地図には、砦のつもりのコップと敵兵のつもりの皿が置かれている。
砦を中心として、北と東は平原が広がっており、南には森で西には広く深い川が流れている。その川の向こうにも森が広がっているので、南と西にはどれほど敵兵が居るか分からないと言うのが砦を守る大将の言だ。
しかし、西に川が流れているので一定の視界は確保されており、また川自体が自然の防壁となっているため、そちらから急に襲われることは無いだろうとも言っていた。
東に布陣している兵のさらに東にも敵は布陣しており、そこは砦から出てきた伝令の取りこぼしを潰したり、皇都から出張ってきた部隊を足止めしておく為の物だろう。
砦でエクルースと話した時に、すでに伝令を3部隊走らせているとの事だったが、騎馬騎士本部の動きを見ていれば3部隊とも死んだと見た方がいいだろう。
「――このくらいですかね」
報告した内容は、砦が敵に包囲されている・敵のおおよその数・それらの装備だ。なので今回は報告した内容をなぞるだけではダメだろうと思い、自分の飛行航路や敵の即応性、敵竜騎士の技量を私見ではあるが話した。
「なるほど、分かった」
目新しい報告も無い俺の話に、カショール大将は大きく頷いた。
「カタン砦に残っている兵力と食料を鑑みて、あとどのくらい持つか?」
カタン砦とは俺が突っ込んで行った砦の名前だ。先も言ったように、砦の西には川が流れていてそこの名前がカタン川と言うそうだ。
「およそ2週間くらいでしょうか?」
カショール大将の問いに司会進行役が答えた。カショール大将はその答えに頷くと、再びこちら側を見て言った。
「ジェスナはこう言っているが、異なる意見は居るか?」
「私が――」
細身で目のギラ着いた竜騎士が手を上げた。肩章の色からどこかの隊長クラスと思われるが、俺にはそれがどこの部隊なのか分からない。
「キース、言ってみろ」
「はい。砦に詰めているのは、彼の話ではエクルースとの事です。奴とはユーングラントの折り一時共に行動したことがありますが、あの行動力と人心掌握力には目を見張る物があります。奴であれば、3週間と少しは士気をもたせることができます」
その一週間で何が変わる物なのか? それとも旧日本軍の様に無限の精神力で何とかしろと言うつもりなのか……?
カショール大将は鋭い眼差しでキースと呼んだ竜騎士を見つめるが、キースの意見に対して何もいう事は無かった。
だが、俺と同じことを疑問に思った別の竜騎士から声が上がった。
竜騎士が軍議を行うとき、簡易地図で使われる駒が生活用品です。
理由は、ドラゴンに荷物がそれほどつめないのでわざわざ駒を持ち歩けないからです。
本部やそのた自陣であっても、駒を使うよりも慣れ親しんだコップなどを使っての状況説明を好んでいます。
☆お知らせ☆
明日の更新はお休みします。月曜にあげられたらあげますが、できなければ火曜日になります。
10月11日 大よそ→おおよそ に変えました。




