発見?
「違うの――」
か? と言った口の形をしたまま眼の前の兵士が固まり、俺の心臓も潰れそうなくらい硬直した。
国単位で見れば鎧は変わるかも知れないが、それほど大きな違いは無い。それでも見た目からして大きな違いと言えば色だろう。
松明に照らされる目の前に居る兵士の鎧の色は――。
「てっ、敵だぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!」
「グオッ!?」
叫ぶ兵士にヴィリアは驚きの声を上げた。
そのヴィリアの驚きの声に、さらに驚いたのが敵兵だった。敵兵はさきほどの大声が気のせいだったのか、と思えるほど情けない悲鳴を上げながら逃げて行った。
「ヴィリア! 空へ上がれ! 急いで逃げるぞ!」
「まさか、敵陣のど真ん中に降りたとはな」
ハッ、と鼻で笑ったヴィリアは翼を広げて駆けだした。
遠くからは敵兵の仲間の物なのか笛がそこら中から響き、それに呼応するように兵士が慌ただしく動き出した。
「止まれぇ! 止まれぇぇぇえ!!」
「止まれと言われて止まるかよ!」
駆けた先に飛び出てきた敵兵の制止を振り切り、ヴィリアは空へ上がった。
「逃がすな! 矢を射れ! ここで逃しては、イシュラン部隊の名が泣くぞ!」
「「「「おおッ!!」」」」
突然の出来事だったにも関わらず、敵兵はすぐに弓兵をまとめ上げると上昇中の俺達へ向かって矢を射る様に命令した。
キュン――キュン――、と体のすぐ横を矢が通り抜けて行く音がする。
「うおぉ!? これは結構恐いぞ!」
「すぐに離れる! もう少し我慢してくれ!」
「頼んだ!」
戦闘行動はない物として行動していたので、鎧は持ってきているが着用していない。今着ているのは防寒用の飛行服のみだ。
それが、まさか敵陣のど真ん中に降りるとはな。油断しすぎていた。
致命傷になりうる頭部への怪我を避けるため、帯びていた鞄で頭を隠しているが心もとなさ過ぎる。
空へ飛んではヴィリアを信じるくらいしかやる事が無いので、何もできない事がもどかしい。
「うおっと――」
ヴィリアが緩い驚きと共に態勢を崩した。それと同時に俺の横を太い槍が飛翔していった。
「バリスタ!? 展開が早すぎるだろう!」
人が持って射れば良い弓と違い、バリスタは添え付けの大型の弓だ。移動は分解して行うので、こういった場所では組立てからでなければ射ることはできない。
ならば、ここは実は前線なのか……?
「もう一丁!」
第二射が飛来してきたのか、ヴィリアは先ほどよりも大きく態勢を崩し――と言うか横転したので、乗っている俺はその動きに対応できずに鞍から手を離してしまった。
「ぐべぁ!」
安全帯が無ければ死んでいた。まさにそれを地で行ってしまった瞬間だった。
ヴィリアも俺が安全帯をしている事をしっており、またその意味を理解しているからこんな無理をしたんだろう。たぶん、きっと。
「大丈夫か、ロベール?」
「ぐへっ……。なっ、何とかな……」
背中から半分ずり落ちた様な格好で引っかかっている体勢から、鐙に足をかけ直して勢いをつけて跨りなおした。
先ほどまで聞こえていた矢の飛来音はすでになく、バリスタの射程範囲からも抜けたのかそれらしい物が飛んでくる気配は無かった。
「参ったな。味方かと思ったら敵だったぞ。どこの兵隊だ?」
「隣の奴だろうな。私は紋章なんか詳しくないから分からんが」
「ほら武器だ」とヴィリアから渡されたのは短槍だった。だが、この槍の柄の部分に羽が着いていたので、さきほど飛んできたバリスタの矢だろう。
竜騎士をやっているとこういった武器とは縁遠くなるので、実物を見るのは初めてだ。
地対空用の武器としては、持ち運びの難を考えなければこれほど良い武器はないだろう、と身を以て知る事となった。
「何とも心もとない武器だな。邪魔になるから長槍を持ってこなかった俺が言うのもなんだけど」
そう言いつつ、俺はヴィリアから受け取った短槍を槍受けに突っ込んだ。
普通は待機中に長槍を立て掛けておくことを目的とした装備だが、バリスタの矢のような短槍であれば問題なくしまっておけるだけの長さはある。
「ユスベル帝国から西へ飛んでいったにも関わらず、初めに会ったのが敵国兵とはな。ユスベルの兵士に気付くことなく通り過ぎてしまったか、それともすでに壊滅したか」
「作っている途中の砦があるのであれば、そこが見つからないのはおかしいのでは無ないのか? 今のは後方の陣地かもしれん」
「だと良いけどな……うおっ!? 鞄に矢が刺さってんじゃねーか」
鞄が無ければ即死だったを地で――。
思えば、ヴィリアに騎乗している時に攻撃を受けたという描写は今回が初めてかも。ってか、初めてですね。
しかも、主人公は攻撃することなく逃げていますが。
学校で行っている模擬戦もどこかで書きたいですね。
9月30日 誤字修正しました。




