ミーシャのワイバーン
「それで、さっきは待ってるって言ったけど、誰か待ってんの?」
「ヴィリアが起きるのを待っているんだよ」
ペンペン、と枕にしているヴィリアの腹を軽く叩いた。
「えっ――あっ!? 岩かと思ったらワイバーンじゃん!」
「ワイバーンじゃねぇし。ってか、寝てるんだからもう少し静かにしてくれ」
今更感があるけど、これ以上近くで騒いでもらってはヴィリアが寝付けないので少し静かにしてもらう。
ミーシャもハッとした様子で口を手で押さえ、喋りませんよーとアピールしている。
「具合でも悪いの?」
「いいや。ただの寝不足。昨日はずっと空を飛んでもらっていたからよ」
「そっか。良かった」
ニッカリと笑顔を零すミーシャに、俺はドラゴン好きに通ずる匂いを嗅いだ。
「さっきワイバーンって言ってたけど、そんなの居んの?」
こちらの世界に来てからこっち、空を飛ぶ生き物は日本で見ていた鳥や虫以外にはドラゴンくらいしか見たことが無い。
聞いた話では妖精とかも居るらしく、その中にはワイバーンと呼ばれる一般的に思い描かれるプテラノドンタイプの生き物が存在している――らしい。
「らしい」と言うのは妖精と同じで見たことが無かったからだ。
そもそも、ドラゴンは気に入った場所であれば、山でも森でも平野でも好きな所に巣を作って過ごす生き物だけど、ワイバーンは谷に巣を作るから普通に生きていればまずあう事は無い。
野生の野良ドラゴンも会ってしまえば危険過ぎる生き物なので、できるならば野良ドラゴンには会いたくないけど。
「居るよ。今日だって、ナハクックに乗ってここまで来たんだから」
ナハクックとは、たぶんワイバーンの名前だろう。乗ってきたと言っているのに、肝心のナハクックの姿が見えなかった。
「姿が見えないけど、ヴィリアみたいに擬態でもしてんの?」
カメレオンみたいに色が変わるわけじゃないから、寝ているヴィリアは別段擬態している訳ではない。ただ周囲に灰色と黒い石が多いから何となく隠れている様に見えるだけだ。
「私が水浴びしようとしたら、急に飛び去っちゃったんだ。でもドラゴンが居るなら逃げるのも分かるな」
「いやいや、主を置いて逃げるとかダメだろ」
「それもそうだけど、嫌がるナハクックを無理やり川辺に下したのはあたしだしなー。ただの面倒くさがりだと思ってたけど、まさかドラゴンが居るとはなー」
それでも、主を置いてったらダメだろ。それとも普通はそういう物なんだろうか?
ヴィリアだったら――いや、ヴィリアは口が利けるので意志の疎通に全く困らないけど、たぶん口が利けないんだったらいつも行っている場所を渋った時はミーシャと同じように無理やり着陸していたかもしれない。
「そいつはすまんかったな。丁度いい水場があったから止まっただけで、別に他意はないんだ」
「別に降りたのは私の意志だから良いけどねー」
「ナハクックだっけか? そいつが戻って来なかったら、お前の家まで送ってやるから安心しろ」
「マジで!? 良かったぁー。ナハクックが帰って来なかったら、歩いて帰るの面倒くさいなーって思ってたんだよ」
この辺りは危険だし、と言うミーシャの言葉に丁度いいと蛮族の事を聞いた。
「この辺りに蛮族が居るって聞いたんだけど、何か知らない?」
「蛮族? 蛮族って言ったらもっと東に居る奴らの事じゃないの?」
「東ぃ?」
インベート準男爵は南に来過ぎと言っただけなので、方向と言うか位置的には合っていたはずだ。いや、蛮族がミーシャ達の様な遊牧民だったら季節に合わせて動いている可能性もある。
「俺がここに来る前は、蛮族は西の方だって言われたんだけど?」
「それは、分からんなー。蛮族って言っても私は見た事ないし、蛮族は東の方に居て危ないからそっちへは行くなって言ってたのはジジイだしなー」
こいつの場合もどちらかと言えば又聞きの類か。
蛮族について考えていると、ミーシャは「ああ!」と思い出したように口を開いた。
「でもでもこの間にチラッと見たんだけど、蛮族が西の方へ行ったんだよ!」
「蛮族を見たことないのに、何でそれが蛮族だって分かるんだよ?」
「恰好が、ジジイに聞いたのとおんなじだったからさ! 服も鎧も、みんな私達が着ているのとは違ったからさ!」
なるほどな。蛮族って言うくらいだから、普通の服や鎧とは違うようだ。どれだけ違うか分からないけど、他の奴らが言っていたような全身緑なんだろう。たぶん。
……ちょっと待てよ?
ユスベル帝国兵が西へ遠征に行ったはずだ。内容は、インベート準男爵とも話した隣国の子爵との領境に砦を築くと言う物だ。
ドラゴンで飛んできたからほとんど一日で来れたけど、これが地面に足を付けての徒歩であり大所帯だったら進行速度は大分遅くなる。
蛮族の勢力がどのくらいあるのか分からないけど、冬に向けて物資を必要としており、その砦を築く建築兵達の物資を狙ったのだとしたら……。
簡単には取られないと思うけど、蛮族の数も把握できていない状態だ。その任務を請け負うはずだったヴァンデスは、強風によって帰ってきたからな。
ミーシャが言ったように、西へ向かって行ったのであれば建築兵達の背後を取られる可能性が高い。
「こうしちゃ居れん」と、すぐにでも蛮族接近の報せを砦へ向かっている、もしくは砦へ着いているであろう建築兵達に伝えなければならないと思ったが、足であるヴィリアはまだ寝ている。
ワイバーンに乗っているとはいえ、一応は民間人であるミーシャに頼むわけにもいかず――と言うか、ミーシャが報せを持っていたとしても無下に扱われる可能性が高いけど。
「どうするか――な」
ぐぬぬ、と次の行動をとりあぐねていると、寝ていたはずのヴィリアが突然顔を上げた。
「どうした?」
「グルルルルゥ……」
ライオンの唸り声にも似た声を響かせながら、ヴィリアが空を見ていた。それにつられて俺も空を見上げると、遥か上空を一匹のドラゴンが飛んでいた。
「ナハクック!!」
「あれが……?」
遠くて黒い点にしか見えないけど、空を飛んでいるのがワイバーンのナハクックの様だ。
その前に、あんな遠くのワイバーンを良く見分けられる物だ。
新しい生き物参上。
ワイバーンって強く描かれている時と、対飛行タイプのモンスター討伐の初心者と言うか入門編の対象になっていたりと、その強さが様々ですよね。
個人的には、昔はラドンがよわっちくてあまり好きじゃなかったんですけど、ミニラを守っている姿を見てから好きになりましたw
9月25日 誤字修正しました。




