河原の少女 2
「それで、あんたは何してんの?」
「何も?」
「何も……って、何もな訳ないじゃない。こんな何にもない所でやることも無いなんて、あんたどれだけ暇してるのよ」
「暇って言うか、待ってるだけだし」
「待ってるって……ハッ!?」
俺の発言のどこに息を飲むような単語があったのか、少女は何かに気づいた顔をすると少しだけ後ずさった。
「私の沐浴を覗くためか!?」
「もう、えぇっちゅーねん」
「あぁー! ジジイの言うこと聞いてれば良かったぁー!! いつもの水場に、こんな危ない奴が居たなんてぇーーー!!!」
オロロ~ン、とおかしな鳴き声を出しながら、少女は突然ふさぎ込んで地面をたたき始めた。
情緒不安定――もとい、感情豊かな子の様だけどあまり煩くするとヴィリアが寝付けない。これからも飛んでもらわないといけないので、睡眠不足を避けるべく俺はリュックからある物を取り出した。
「ボク、ワルイニンゲンジャナイヨ?」
「んん?」
「ボク、イイモンダヨ?」
「うぅっ、嘘をつけ! ウチのジジイが、悪い奴は良い顔をしながらやって来るって言ってたぞ!」
どこのジジイか知らないけど、ジジイ良い教育してんじゃん。今は全くもって余計な事を教え込んでくれたとしか思えないけど。
「ホラ、ボクノカオヲオタベヨ」
クレイジーアンコブレッドの様に、今朝インベート準男爵から旅立つ前に貰った、お昼ご飯のサンドウィッチを少女の前に差し出した。
サンドウィッチと言ってもサラダ系ではなく惣菜系なので、本当は火に当てた方がチーズも溶けて美味しいけど、動きたくないから火をつけることもできない。
「だだっ、騙されないぞ! その中に毒が入ってるんだ!」
「なら、手を離せよ」
鼻水と涎を垂らしながら、少女は俺の差し出しているサンドウィッチを毒と称しながら掴んでいる。
言動が一致しない人間はたまに見るけど、ここまで清々しいほど一致しない奴もなかなか居ないだろう。
しかも、離せと言っているのに少女のサンドウィッチを掴む力は強くなり、今は少女の指の第二関節までサンドウィッチに埋まっている。
「お前、手ぇ洗ったのかよ?」
「おしっこした後に沐浴したから綺麗だよ! それに、今日は寝坊したからジジイに飯抜きにされたんだ!」
奴隷だった時は教育なんて全くなく、そもそも羞恥心ですらあってないようなガキ時代の仲間達と「うんこ、しっこ」は会話の当たり前だった。
しかし、身なりがある程度しっかりとしているからか、それとも初対面だからか、目の前の少女が「しっこ」と言うと、なぜか居た堪れない気持ちにさせられた。
「お前、仮にも女の子なんだから『しっこ』とか平然と言うなよ」
「何でさ? しっこはしっこでしょ? それ以外に呼び方とかあんの?」
おい、ジジイとやら。もうちょっと言葉づかいの躾をした方がいいんじゃないのか?
見たことの無い少女が『ジジイ』と呼ぶ人物を思うと、想像の中であるにも関わらず爺さんが溜め息を吐く姿が簡単に思い浮かんだ。
このままでは折角のサンドウィッチがボロボロになってしまうし、そもそも多めに作ってくれた物だから、あげたとしてもこちらとしてはさほど痛手ではない。
「わぁーった! わぁーったよ! 放すから落とすんじゃないぞ」
「フリじゃないからな! 絶対に、フリじゃないからな!」と強く念を押すと、少女は素直に頷いた。これはこれで面白くないな。
「ありがとう!」
俺からサンドウィッチを受けとると、少女は勢いよくガッつきだした。よほどお腹がすいていたんだろう、と思わせるその食べっぷりでサンドウィッチはすぐになくなってしまった。
「あの――」
「もうねえって」
あるのは俺のサンドウィッチだ。これまであげてしまっては、俺の昼食が無くなってしまう。
「違うよーっ! 美味しかったって言いたかっただけだよ!」
「おっ、おう。まぁ、どういたしまして、だ」
少女は俺と違って卑しくないのか、手に着いたソースを舐めることなく川で綺麗に洗い流した。
その辺りの村の子供かと思ったけど、ここは辺境なのでそう言った村は見えなかった。まぁ、それほど周囲を見ながら飛んでいたわけじゃないから、小さな村であれば見逃した可能性が高い。
「俺の名前はロベール。お前の名前は?」
「あたし? あたしは、深き森の監視者であり草原を狩る者ダルエナの子ミーシャよ」
「草原を駆る者か。速そうだな」
遊牧民か何かだろうか。そうすると村が見えなかったのも頷ける。
この世界で遊牧民と言う存在はそれほど珍しくない。現に俺が奴隷だった時分でも、遊牧民が領地を通り抜けて行くのを何度か見ている。
普通だったら領地を通過するときに通行税を払うのが一般的だが、その遊牧民は払うことなく悠々と通っていたところを見ると、俺が居た貴族領地ができるよりも前からその道を通っていたんだろう。
スパイが出入りし放題だな、と一時期は考えていたけど、結束の固い遊牧民が余所者を近くの村まで連れて行くことはあっても、そのコミュニティに入れることはあまりない。
その時は、ちゃんと兵士に「こいつは俺達の家族ではない」と教えてくれるので、スパイかどうかはさておき洩れなく誰何することができる。
古くからの慣習であり、こういった事をキチンとしていたから通行税なし――関所で止められることなく――で良かったんだろう。
主人公っていろんなところでごはん貰ってるな……。
貰うつながりですが、田舎に行くと色々とお土産がもらえてうれしいですw
前に九州へ行った時は、大きな紙製の米袋いっぱいにトウモロコシを貰いました。――食いきれないうえにトランクに入らないので、周辺の人に配りましたがw
あとは、お米も60kg単位で貰うんですけど、同じコシヒカリでも作っている場所が5km程度離れただけで香りや味が違うのが面白いですね。
よくお米の食べ比べ(品種単位)でやっていますが、同じ品種でも地域で食べ比べると、また違った面白さがあると思います。




