蛮族ではなく、野盗だった
「ありがとうございます! 本当に、ありがとうございます!」
「ん、あぁ、良いよ別に。みんな無事で良かった」
野盗に襲われていた行商達は、助けた俺に顔を涙と鼻水でグジュグジュにしながらお礼を言った。
馬車が二台と商人が9人のちょっとした大所帯で、護衛は引きつれていなかった――と思ったら。
「まさか、護衛が逃げ出すなんて……」
「ちくしょう、あいつらめ!」「あの護衛は、野盗とグルだったんだ!」などなど、行商達の口から聞こえるところから、雇ってはいたが逃げられたっぽい。
野盗から護衛とグルだったのか聞こうにも、襲っていた騎馬4頭を含む13人中7人――騎馬2頭を含む――の逃走を許してしまった。残りの6人は全員地面と同化している。
「壊された商品の代わりまで行かないけど、野盗の装備品とか要る?」
「いっ、いいのですか……?」
野盗を倒した場合、その首に掛っていた懸賞金やそれらが集めていた財宝や身に着けている装備品は、全て倒した者に所有権がある。
なので、行商人は恐る恐ると言った様子だが、損を少しでも取り戻してやろうと言う意思で瞳がギラギラとしていた。
「馬以外だったら良いよ」
「馬……ですか?」
そう言って行商人は野盗が乗っていた馬を見るが、逃げる事の出来なかった馬は何れも半死状態で、腹が大きく切り裂かれていたり骨折していたりと明らかに助かる見込みのない状態だった。
「ウチのドラゴンの餌に丁度良いからさ」
「ああ、なるほど。もちろん、助けていただいた上に野盗の装備品を譲っていただけると言うのに、重症の馬を断る様な考えは私にはありませんでした」
どうぞどうぞ、と言う言質を取ってから、俺は行商に協力してもらい馬具を外し、待て状態だったヴィリアに食べるように言った。
他の竜騎士が駆るドラゴンとは違い、ヴィリアはどちらかと言うと雑食の気が強く、その気になれば野草すらも平気で食って生活する。
一応、普通のドラゴンの場合でも基本肉食ではあるが多少の野菜も食べる。余り与えると腹を下すそうだけど。
前にドラゴンの食事について「野菜どころか草も食いますよ」と、学校の先生に言ったところ、「悪食になって万年体調不良になるから止めなさい」と怒られた。
でも野菜や草についてはヴィリア本人に「昔から食ってるから大丈夫」と言われたので大丈夫だと思う。
話がそれてしまったが、ヴィリアは大きなお口で馬を丸のみに近い形で食っていた。
最後に残した馬の後ろ足をフライドチキンの様に俺に差し出しているのは、彼女の優しさの表れだろう。
うん。血と糞尿と土で汚れた肉であっても……。
★
行商達と別れてから、再び空の人となった。
「いやー。蛮族どこだろーなー」
「全くだな」
蛮族について行商達に聞いたが、これと言って情報が無かった。
いや一応あったのだが、それは「何か全身が緑らしい」と言う又聞きの情報だった。全身が緑って森の妖精くらいしか思い浮かばない。
まだ見ぬ蛮族の姿を思い浮かべながら、魚の燻製をブチリと噛み切った。
この魚の燻製は先ほどヴィリアから貰った馬の足と、行商人が保存食として携行していた物とを交換したのだ。
俺としては持ち歩きにくい生物を手放せ、行商人達は久しぶりの新鮮な肉が嬉しいと言う事ですんなりと交換できた。ちなみに、レートは足一本=魚の燻製4匹だ。
おやつ感覚で食べることができる素敵な燻製を堪能していると、ヴィリアから報告が入った。
「野盗を見つけたぞ」
「分かった――」
3分の1になった燻製魚を飲み込み、単眼鏡をバッグから取り出して覗く。ゴーグルの上からの使用を前提としているので、わざわざゴーグルを取り外すことなく覗けるので使い勝手が良い。
その単眼鏡で見た先には、馬が2頭と2人落伍したのか3人の徒歩野盗を見た。思った以上に距離があったので、あれからずっと走っていたようだ。
「あいつらの前に滑り込む。できるな?」
「愚問だ」
ヴィリアは答えると共に急降下を始めた。
明日は祝日ですが、更新はお休みします。
話のストックががが……。
9月14日 誤字修正しました。




