西方に居ると言う蛮族
「だがしかし、問題があるな……」
「問題――ですか?」
待機室で行われている査問会議の終わりが見え始めたとき、折角お互いに落としどころ――それが溜飲できるできないにかかわらず――が見つかったと言うのに、髭の生えていない本部の人間は重々しく呟いた。
「現在、第103部隊のヴァンデスは『演習時の事故』によって、現在は療養中なのだ」
なにが、「なのだ」だ。この部屋に来る時の待合室で、ドアの向こうからヴァンデスの怒鳴り声が聞こえたぞ。
『あのクソガキが来てるんだろ!! 離せ! 一発でもぶん殴ってやらないと、エルズがうかばれないだろ!!』ってな。
まっ、殴られたら痛いし、そんなマゾじゃないしね。
「では、そちらの治療費も育成学校で持たせていただきます」
「いやいや、そんなつもりは毛頭ない。ただ、彼はある重要な任務をおっていたのだ」
金はあればあるだけ良いと言った感じの世の中だから、ヴァンデスを重傷者扱いして金をせびろうとしているのだと思ったら、まさかの任務フラグだった。
「重要な任務……ですか?」
「えぇ。西方領域に蔓延る蛮族の調査をせよ――とね」
「蛮族ですか?」
ヴァンデスにやらせるような任務だから簡単な物だろうと思ったけど、話を聞いていると結構危険そうな任務だった。
そもそも、現在ユスベル帝国は西方遠征真っ只中だと言うのに、ヴァンデスの任務は西の方へ行く途中にある山に住む蛮族の勢力調査だそうだ。
そんな物、戦争を起こす前に事前に調べておくのが普通じゃ無いのか?
「それが、『演習による事故』で使い物にならなくなってしまったので、代替えが必要となってな……」
それの代わりをやれって事か。さっきまで、責任の所在をどうしようかオドオドしていたくせに、有利になった瞬間から大きく出やがって……。
「そこで、竜騎士育成学校には物資の輸送を――」
耳に膜が張ったように聞こえるのは、色々と面倒臭くなって脳みそが処理速度をギリギリまで落としているせいだろうか?
窓から見える薄暗くなり始めた空は、気分を滅入らせるのに一役買っている。まさに、最高のシチュエーションだ。
「あぁ、なら、俺が行きますよ」
弁論人が役に立たないと分かった今、全てが面倒くさくなってしまった。
「演習でヘマをしたから、蛮族を何とかしろって事っスよね?」
大勢は『演習による事故』に決まった今では、話の内容は覆らないし、そもそも二勢力がそれを許さない。
なら、ヴァンデスができなかったことを竜騎士がやって、騎馬騎士本部のこの連中の鼻を明かすくらいしか溜飲を下げる事が出来ない。
「それができれば一番良いのだがな。だが、今は上の人間同士の話し合いだ。貴様のような子供が出しゃばる様な場面ではない」
「蛮族でしょ? なら、俺がパッと行ってパッと平定してきてやりますよ」
蛮族蛮族って言ってるけど、蛮族がどんな物かしらないけどね!
「ロッ、ロベールさん! 貴方、何言ってるんですか!」
弁論人が怒っているけど関係ない。初めに裏切ったのは弁論人だから、弁論人が好きにやるなら、こちらも好きにやるだけだ。
「ほぉ? なら、全権を貴方にお任せします。失敗した場合は、どうなるか分かっていますよね?」
「よく分かりませんね。失敗した時の事なんて、いつも気にしていませんから」
ただし、今回に限る。
微妙にキレた顔をしているおっさん`Sだったが、俺の思考はそこで停止した。面倒くさいからね。
「このことは、育成学校としてはどうお考えですか? 我々としては彼の尽力を期待するところですが、まだ学生である身分でこの件は少々荷が勝つのではないのか?」
弁論人は、俺とおっさん`Sを交互に見てから重いため息を吐き言った。
「騎馬騎士本部の方々に迷惑が掛らぬよう、全力で支援させていただきます」
そして、俺は蛮族討伐――平定するために、夜明け前に竜騎士育成学校を飛び出した。
★
「って、訳だ」
「なるほど。簡潔で分かりやすい」
「カッコいいだろ?」
「惚れる程にな」
前日の内に頼んでいた弁当を広げて、今はピクニック気分で朝食中だ。
その時間を使ってヴィリアにも、騎馬騎士本部で行われた話し合いの概要をかいつまんで説明した。
本当だったら学校に居る時に話したかったけど、クラスメイトが付いて回っていたのでヴィリアと話すに話せず今になってしまった。
ヴィリアはあの時の事を「ムシャクシャしてやった。反省はしていない」と言うスタンスなので反省することは無く、むしろ煩い害虫を殺してやったと言う気持らしい。
それどころか、「突然湧いて出てきたムシが自分や、自分が最も信頼する仲間の事を腐臭を吐く口で侮辱してきて、お前は我慢するのか? それほど仲間はどうでも良い存在なのか?」と逆に問われた。
そういう簡単な話じゃないんだよ。と言ってやりたかったが、ヴィリアにはヴィリアの信念があって言ったのが、その顔と声色を見聞きすればよくわかる。
ああ言った場合はどうすれば正解なのか分からないんだよな。いざとなったら逃げれば良いとは分かっていても、ギリギリまで何とか踏ん張りたいし。
「それで、これからの予定はどうするんだ?」
物思いに耽っていると、ヴィリアが俺の体をトントンと突きながら聞いてきた。
近くに川が無いのでヴィリアは水分補給をすることが無く、俺と会話が無くなると何もやることがなくなるのだ。
「そうだな。まずは、その蛮族とやらを探す為に西へ飛ぶか。誰か居たら、その人に蛮族の情報を貰えば良いことだし」
結構物知りなヴィリアに蛮族について聞いた所、「自分よりも腕力で勝っていて、知的でないなら皆蛮族だろ?」という答えが返ってきた。
なるほど。そういうカテゴリ分けですか。
前半は回想シーンなので、待機室で行われた査問会議の続きになります。
前回アバス君が「押し付けられたのか?」的な事を言っていましたが、実は主人公が勘違いによって蛮族についての任務を引き受け、育成学校もそれをバックアップすると言ったのでスルリときまってしまいましたw
9月13日 誤字脱字を修正しました。&一部の文章を書き換えました。
6月30日 ヴァンデスの愛馬の名前を変更しました。




