査問会議 2
「それでも、馬を騎士の眼の前で殺すと言うのは、些かやり過ぎではないのか?」
アゴ髭とカイゼルとは違い髭の生えていない、落ち着いているオッサンが今事件の一番やっかいな所へ切り込んできた。
「それに関しては――」
俺が話し出す前に口を開いた弁護人を手で制し、言葉をつなげた。
「それに関しては、確かに行き過ぎた行動だったと思います。ですが、私のドラゴンは人の言葉を理解できます。ですので、相手から放たれた侮辱の言葉を理解し、主である私が馬鹿にされたと理解したドラゴンは相手を攻撃しました――まぁ、馬だったのは不幸中の幸いですが」
質問したおっさんは静かに唸るだけだが、他の髭面は「何が言葉を理解するだ」と忌々しそうに呟くだけだ。
ヴィリアの様に言葉を理解するドラゴンが他に居ないので、彼らに言っても――竜騎士ですら、言葉が通じていると錯覚するほど意志の疎通ができている、と考えるに留まるだろう。
俺が言葉を区切ったのを確認し、次に弁護人が口を開いた。
「そもそも、騎馬騎士のヴァンデス氏が元クラスメイトを救うと言う名目の元、決闘を申し込んだのがそもそもの間違えではないでしょうか? 奴隷商に確認を取ったところ、横から強制入札することなくきちんと売買は成立しており、買い取り元の書類もありました。帝国では、奴隷の売買は禁止されていません。それなのに、金銭交渉で断られたからと言って決闘へ持って行くなど、少々度が過ぎているのではないでしょうか?」
「そ、それは……」
言いよどんだ……。ここで一気に畳み掛ければこちらの勝ちだ――。弁論人の理路整然とした、俺が言いたいことをキチンと言葉にしてくれた……が。
「ですが、騎馬騎士第103部隊隊長の馬を潰してしまった事は覆りません。あれほど素晴らしい馬は、騎馬騎士本部では可能かもしれませんが、育成学校で用意することは不可能です」
少し引いて見せてから、一気に畳み掛けるんだろう……。酷いやりようと思うかもしれないが、これが一番効果的だ。
非が向こうに大きくあるのだからできる技である――。
「ですので、こちらへの決闘は不問とし、騎馬騎士本部には育成学校から騎馬に対する賠償金を支払わせていただきます」
「そんな――……」
こちらは喧嘩を売られた側だと言うのに、学校が賠償金を支払うと言う話になり納得がいかなかった。
反論しようと声を出すが、弁論人に制止されそれ以上言葉をつなぐことができなかった。
弁論人は俺に口を挟ませないようにこちらを一瞥する事もなく、おっさん達との交渉を再開した。
「もちろん、皇帝陛下への弁明は育成学校でも文を出させていただきます。内容は、当たり障りのない『共同演習時の事故』でよろしいですか?」
騎馬騎士本部側が圧倒的に不利な話だったにもかかわらず、竜騎士育成学校側が引いたことにより、本部側三人は呆気にとられた。
静寂が流れる会議室に、聞こえてくるのは外で行進の練習をしている騎馬騎士の号令と馬の嘶きだけだ。
その静寂の原因――それは、竜騎士育成学校側の真意を測りかねている以外ないだろう。向こうとしては、引く理由が無いからだ。
「それは、どういった意図があっての弁明かね?」
アゴ髭が眉間にシワを寄せて問いただした。
「意図も何も、こちらにも落ち度があるので、先ほどの提案が落としどころとして一番良いかと」
「ふむ……」
三人は上げってきた報告書の内容と、今弁論人が話した落としどころの内容を天秤にかけ、静かに――目の前に居る俺にも聞こえないくらい小さな声で相談すると喉を鳴らした。
「分かった。では、皇帝陛下への弁明の文は『演習時の事故』とし、賠償金に着いては金額が算出され次第、追って通達する」
押されていた時の顔が嘘のように、三人とも厳めしい顔つきでこちらを睨むように言った。
「ご配慮いただき感謝します」
弁論人が静かに頭を垂れることで、この場での話し合いは終了した。
皇帝陛下へと送る文については俺のあずかり知らぬこととなり、その後、調子に乗った騎馬騎士本部の人間からヴァンデスが行うはずだった任務についての説明があったが、面倒くさかったのでとっとと引き受けた。毒を食らわば皿まで、だ。
この瞬間を以って、俺とヴァンデスの間に起きた演習時の事故の話し合いは終了となった。
味方だと思っていた弁論人、まさかの裏切り。
主人公の受けた任務については、後々説明が入ります(ちょっと後です……)
4月12日 本文中間部の、主人公に対する弁論人の行動を書き換えました。




