表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜騎士から始める国造り  作者: いぬのふぐり
西方領域攻防編
47/174

人それぞれの正義 2

「ロンくん、ヴァンデスと前に会ったんですか?」


 俺とヴァンデスの間に漂う雰囲気を察したミナは、自らへ注意を引くために問いかけた。

 俺が殴りかかるとでも思っているのか、俺の腕を掴んで、だ。


「ちょっと前にな。まさか、お前の知り合いだとは思わなかった」


 素直に思った事を言うと、ヴァンデスは合点がいったと言った様子で頷いた。


「そうか! お前――君は、ミナヌュスの弟君だったのか!」


 「なるほど、であれば、あの頭の回転も頷ける」と、口の中で呟くようにあの時の話を口にしていた。


「前に聞いた話では、ミナヌュスの弟君はもう少し幼かったようだったが、やはり実物を見ると印象が変わってくるな」


 会話のネタとしてミナの家族の話をしたことがある。その時に聞いた年齢は十に満たないくらいだったので、その話を聞いていれば俺と本当のミナの弟と間違えるのも頷ける。


ロン君(・・・)――で良いのかな? あの日はすまなかったね。私は、ロン君(・・・)のお姉さんを探している途中だったんだよ。友人からロン君(・・・)のお姉さんをこの界隈で見たと言う話を聞いて、私は他の仕事よりも優先してロン君(・・・)のお姉さんを探した。こんな掃き溜めの様な場所は危険だからな」


 その掃き溜めの様な場所にも人が住んでいるにも関わらず、ヴァンデスは気にした様子もなく話を続ける。

 それに、何でか知らんけど俺の名前を連呼している。ってか、仕事を放っぽり出すなよ。下が困るだろ。


「だがなミナヌュス、君も君だ。ロン君をこのような所で遊ばせておくのは良くないな。彼は、娼婦遊びをしようとしていたんだ。ミナヌュス、君も騎士を目指すのであれば、弟にそういった事はすべきではないと教えてやらなければいけない。騎士とは高潔であり、人々の進むべき道を指し示す明かりでなければいけないんだから」


 途中、やってもいないし考えてもいなかった事を混ぜこんで話すヴァンデスにイラつきを覚えたが、ここで言い返しては彼からご高説が溢れだしかねない。

 ヴァンデスは言いたいことを言い終えたのか、清々しくとても満足そうな顔でミナと俺を交互に見た。


 たぶん、彼は今とても良いことを言ったつもりなんだろう。俺は途中の、足の小指が云々の(くだり)から聞いていなかったので、どこに良いことがあったのか分からないけど。


 坊主の説法であれば聞く価値もあるかもしれんけど、若い騎士の勘違いご高説を聞くのはたまらん。


「なあなあ、もう帰ろーぜー。不味くなったわー」


 店の雰囲気は最悪。向かいに座っているミルクちゃんも、そこはかとなく不機嫌そうな雰囲気を出している。

 こんな状態では、どれだけ美味い酒や飯を食っても不味く感じてしまう。

 ミナも、俺の言いたいことを察してすぐに頷いた。


「そっ、そうですね。すみませんが、私はもう行きますので」


 コップに入った飲みかけのエールをピッチャーに戻し、二席離れた所に座っている酔っ払いのおっさんに向けて滑らせた。

 おっさんは、こちらを向いていないにも関わらずノールックでキャッチすると、手をヒラヒラさせてお礼を言った。他の意味としては「酒はありがたく頂くけど、関わらないでくれ」と言ったところだろう。


「そうか。ではロン君、すまないが先に帰っていてもらえるか? 私は、君のお姉さんと大事な話があるんだ。もちろん、兵士を付けるから帰り道は安全だ」


 手で兵士を指すと、兵士はガッと鎧を鳴らして背筋を伸ばした。俺はこの間、片方に唾を引っかけられたんだけど、もう忘れたんかな?


「ミルクちゃん! (ほん)()ぉ~に、ごめん。この埋め合わせは絶対にするから」

「ふふっ、いいわよ。でも、ちゃんとしてもらうからね」


 おどけて言う俺に合わせるように、ミルクちゃんもにこやかに対応してくれた。

 それを見届けると、俺はアゴで出口を示し、ミナについてくるように促した。


「では、ロン君は先に帰っていてくれ。私()は、大事な話があるからね」


 今、俺とミナの間に流れる雰囲気を察しようともせず、ヴァンデスは自分がしたい事だけを優先しようとミナを呼び止めた。


「俺は、帰るって言ったんだよ。聞こえなかった? それとも、下々の声など聞く気にもなりませんか、お貴族様?」

「私の何が君をそんな風にさせているのか分からないが、そうやって斜に構えて人と話すのはよくない。改めたまえ。それと、君はもう(とお)を越えているだろう? そろそろ、姉離れをしなさい」

「女性を無理矢理誘うのが騎士の流儀ですか? それとも、女性の誘い方を知らないんですか? 少なくとも、彼女(・・)は貴方と共に行く気は無いですよ」


 それでは、と俺はヴァンデスの脇を通り抜けた。続いてミナも通り過ぎようとしたが、ヴァンデスに腕を掴まれて通り過ぎることができなかった。


「きゃっ!?」


 小さな悲鳴を上げて、ミナは腕を掴まれた拍子にバランスを崩してテーブルにぶつかった。


 ミナは近衛にはなれなかったけど、兵士学校での成績はかなり上位です。

 それに、整った顔立ちが合わさると、それはそれは人気だったのでしょう(意味深)

 そして、ミナに固執するヴァンデス。一体、何が目的なのか……。


8月23日 誤字修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ