実家からの手紙
『幕間 サロン』を読むと、なぜ実家から手紙が来たのか分かるので、先に読むことをお勧めします。
「やべぇな……」
竜騎士育成学校の寮で、俺は今日の昼に届いた手紙を見て呻いた。
あて先は、ロベール。送り主は、ロベールの父親だ。
「あの、ロベール様……、大丈夫ですか? 顔色が優れませんが……」
心配そうにおれの顔を覗いてきたのは、訓練場に通う為に連れてきたメイドのミナだ。
普段、マシューで俺の身の回りの世話をしてくれていたのは町長の娘のファナだったが、竜騎士育成学校では、事務作業の無くなったミナが世話をしてくれている。
ただ、元が騎士候補で奴隷として買ってきた後も事務ばかりしていたので、先任のファナよりも多少能力が落ちるのはいなめない。
「実家から、手紙が届いた」
「ご実家――ストライカー家からですか?」
「そうだ」
とうとうこの時が来たか、と言った感じだ。予想よりも大幅に遅かったと言っても良いが、これに対して何の対策もとれていない。
いや、対策としていくつか案は立てていたのだが、その中でも一番良いと思ったのが、戦争が起こることだ。
帝国も周辺国も、話を聞けば火種がコロコロと転がっている。戦争が起きれば、竜騎士候補生も前線には行かないまでも狩り出される。
戦争になったら、ロベールの父親も挙兵しなくてはならなくなり、俺に構っている事も出来なくなるだろう、と予想していたのに。
「では、年越しの連休はご実家に戻られるのですか? で、では、私はロベール様のお父上に認められるよう、剣術の腕を磨いておかないといけませんね」
そして、予想外な人物がここにも居た。ミナが、なぜかワクワクした顔で気合を入れている。
「えっ……? 何で、そんなに気合入れてんの?」
「ロベール様のそば仕えとして、今後も過ごして行けるようにお父上様に私の実力を認めてもらうためです」
ふんす、と鼻息を荒くして同じことを言うミナ。「だから、何でそんなに熱いんだ」と思ったら、ミナは生粋の体育会系だったことを思い出した。
それに合せて、ロベールの父親に認められれば兵士として取り立てられる可能性があるから、メイドとしての地位に不満があるだろうミナにとって、今度の帰郷はある意味返り咲くチャンスと見ているのだろう。
しかし、そうはいかんよ。
「気合を入れているところ申し訳ないが、ミナは俺の奴隷だって事を忘れるなよ? それに、実家には帰らない可能性が高いからな」
やっと使える人材にまで育ったミナを手放すわけにはいかない。ロベールの父親にいくらい良い所を見せようとも、俺の奴隷と言っておけば兵士になることはほぼ無いと言って良い。
「はっ、はい。それは……分かっています……」
出鼻を挫くことに成功し、ミナは声のトーンを下げた。
「分かればいいんだ。まぁ、お前の意向をなるべく聞き入れるようにはするからよ」
「はい、ありがとうございます」
しかし、挫かれた出鼻の傷は深かったのか、フォローを入れたつもりだったがミナの声のトーンは戻らなかった。
ちょっと短いですが、今回はここまでです。
年末までには、何らかのアクションをとらなくてはいけなくなりました。
8月11日 文章を編集しました。




