竜騎士育成学校
竜騎士を育てる学校と言うのだから、日本の学校とどういった事が違うのだろうとワクワクしていたけど、実際は学校なのだからやることはあまり変わらなかった。
違うところと言えば、貴族としてだけではなく竜騎士としての心構えや、戦術についての授業が違うところと言えば違うところだろう。
ハッキリと言って退屈だ。もちろん、俺はがり勉タイプじゃないので、色々な教科を詰め込めば嬉しいと言うわけじゃない。
――無いのだけど、こういった反復教育と言うのか何度も同じことを繰り返し教えることで、洗脳にも似た刷り込みで教えるのはいかがと思う。
★
侯爵効果はバツグンだ! は良いけど、抜群過ぎてクラスメイトが誰一人として寄り付かない。
みんな周りから遠巻きにこちらを窺うだけで、俺が声をかけようものなら育成員と同じような悲鳴を上げて下がって行ってしまう。
侯爵がそれほど偉いのか、それともロベールと言う人物がそれほど悪い奴だったのか、今の俺には見当もつかないけど、これは大人しくしておいた方が良いだろう。
そんな事を考えながら昼飯を食っていると、さっそく声をかけられた。
「あああああ、あのっ、あのあのっ」
ポテトサラダからポテト以外を抜いたような物を食べていると、雨風に曝されている捨て犬のように震えた女の子に声をかけられた。
「なに?」
「ひっ!? あっ、あの、ここで、ご飯食べても……ひぃです……か?」
何だこの子? と思って周りを見てみると、明らかにいじめっ子集団と言うか、お嬢様タイプの子がこちらを見てニヤニヤと笑っている。
俺に話しかけてきたことは、タレ目の大人しそうな、言ってしまえば鈍くさそうな子なので、たぶんイジメか何かだろう。
本物のロベールだったら、彼女にどう対応するのか分からないけど、他の人たちの気の毒そうな顔を見れば、ロベールがどういった対応をするか見て取れた。
「別にいいけど。えっと、君の名前は――」
アンナでもない、アンコでもないとクラスメイトの名前を思い出していると、慌てた様子で彼女が自己紹介を始めた。
「ああ、アムニット・マフェストで……す。お父さんが……名誉士爵で……その……ごめんなさい」
「アアアムニットさん、立っていると他の人の邪魔になるから、座った方がいいよ?」
「ごめんなさい……」
消え入りそうな声で答え、アムニットは俺の対面に座った。アイドルと言うか、ジュニアモデルに居そうな雰囲気の子なのにイジメに合うのだから、人の心は分からない物だ。
彼女は目立ちそうだからな。特におっぱいとかおっぱいとか。まだ12歳なのに、けしからん胸だ。腰は、あんなに細いのに。
アムニットはもそもそとゆっくりと言うか、あまり美味しくなさそうにご飯を食べている。
まぁ、目の前に侯爵家の長男が居れば、名誉士爵の子供としては息が詰まる思いだろう。それこそ、俺の胸先三寸でアムニットの親を干すこともできるのだから。
でも、家に連絡できない、と言うか連絡した瞬間、俺がロベールではない事がばれるのでやろうとも思わないけど。
「アムニットさんも大変だね」
「えっ?」
「これ、何かの罰ゲーム?」
「いっ、いえ……」
タレ目をさらに下げて涙目になるアムニット。その様子を遠巻きに見ていたお嬢様方から、失笑と言う名の嘲笑が漏れ出ている。
こちらの会話は聞こえてないはずなので、アムニットの様子を見て笑っているのだろう。
「君も大変だな」
「ごめんなさい……」
「(会話にならねぇ……)」
そんな事を思いながら昼食時は過ぎて行った。
★
「ロベール様、ちょっとよろしいでしょうか?」
落ち着いているが、どこか高圧的な声色で話してきたのは、あのアニムットをけしかけてきたいじめっ子集団のリーダーだった。
金髪クルクルヘアーの、いかにもイジメます! と言った容姿をしているので、忘れようとしても忘れられない存在だ。
「君は、ミシュベル――さんだったね。なにか用?」
「今日のお昼は、私のルームメイトであるアニムットがご迷惑をおかけしてしまったようで。あとできつく言っておきますので、どうかご容赦を」
「別に、一緒に飯を食っただけで迷惑をかけられたつもりはないよ? それとも、もしかして迷惑をかけるように言ったの?」
俺の言葉にミシュベルの顔色は、サッと青くなった。
ミシュベル・ドゥ・ベルツノズは、ベルツノズ男爵の娘で確か次女かなんかだったはず。
「いっ、いえ、そのような事は……」
「そう? 良かった。俺は、君とも仲良くしたかったしね」
「えっ? あっ、はい。ありがとうございます」
笑いかけると、途端にミシュベルの頬が赤くなった。青くなったり赤くなったり忙しい子だ。
ポテトサラダから、ポテト以外を抜いたようなものは、材料にジャガイモはありません。
どちらかと言うと、タロイモのようなでんぷん質なものです。
7月3日 脱字修正しました。
12月19日 ルビを書き換えました。