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竜騎士から始める国造り  作者: いぬのふぐり
西方領域攻防編
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試合う

 ミナが作った板切れの様な木剣ではバランスが悪いので、近所のおじさんに言って木剣を借りてきた。

 このおじさんは、息子の為とかではなく木剣を作るのは趣味の様で、80cm位のロングソードから短剣、それ以外にも細身の突剣など様々な物を作っている。

 どこにでもいる様な、趣味が高じてと言った人だった。


 俺が持っている剣は、長さ70cm、幅3cmという細身の俗に言う貴族剣と呼ばれる、鎧を着用した敵を想定していない護身用の剣だ。

 対するミナは、長さ80cm、幅5cmのごく一般的なロングソードを両手持ちしている。


「よーし。んじゃあ、始めるぞ」


 どこから話が漏れたのか(どう考えても、木剣を貰ったおっさんからです)、俺とミナの試合を聞きつけた人たちが観客として取り囲んでいる。

 娯楽の少ないこの町では、子供がやるチャンバラですら見世物になる。そこに、現役の竜騎士(ドラグーン)育成学校の生徒と元兵士学校騎士課程まで行った人間の試合ともなれば、なかなか見られる物では無いと話題性に富んだ物となっているからだ。


「ただの勝ち負けじゃ面白くないし、ミナも本気を出しにくいと思うから、俺に勝ったら何でも好きな物をやろう」


 ミナは奴隷で、俺はご主人様だ。彼女の性格上、俺に遠慮をして本気を出さない可能性が高いから、名目上の商品を提示しておく。


「何でも、ですか?」

「訂正する。俺にできること以内で、お前自身は除外する。お前は、俺の者だからな」


 何でもするって言ったよね、回避。ミナは高かったし、事務方の能力もめっぽう強くなっているので手放したくはないんだよ。

 その言葉に周囲が色めき立ち、女性陣はキャーキャーと姦しく騒いでいる。

 何でそこで? と思ったけど、よくよく考えたら今の宣言は愛の告白に近い物があるな。


「ありがとうございます。手を抜くつもりは毛の先ほどもありませんでしたが、今のでやる気がさらに上がりました」


 やる気が上がってくれたようで何よりだ。


「ルールは、一般試合と同じ半寸止めの二本先取だ」


 半寸止めとは、相手の体に軽く当てた状態で切り抜くことを意味する。寸止めの様に、当たるか当たらないかの位置で止めたりはしない。


「分かりました。型には決まりはありますか?」


 そのミナが聞いた型の決まりとは、審判が有効打かどうか判断しやすいように、剣の流派を統一するかどうかと言う意味だ。

 ユスベル帝国の公式試合では、審判も動体視力に優れ過ぎた(・・・・・)人間を呼び寄せるので型の決まりはないが、その他の大会ではほとんどが型を統一している。


「自分が最も得意とする型で良い。全力で試合う事が出来る型で、な」

「分かりました」

「よし、では始めよう」


 俺とミナが距離を取ると、直ぐに構えた。

 ミナは八相の様な構え。対して俺は、体をミナに対して横に向け剣を突き出すように構えている。


「ハナリエ流の構えですか」


 ハナリエ流宮廷剣。始まりは、ハナリエと言う剣術士がそれまで大ぶりだった剣筋を、最低限の動きで行えるようにしたのが始まりだった。

 その後、コンパクトになった剣筋をさらに室内で行えるようにコンパクトにしたのがハナリエ流宮廷剣だ。なぜそこに宮廷と言う言葉が付くのかと言うと、初めは皇室の護身用としての剣術だったからだ。


 しかし、その小さくも流れるような流麗な動きが貴族に好まれ、次第に貴族の嗜みとなっていく。

 だが、そう言った考えの剣術と言うのは、どこにでも存在しているのだ。


「フッ!!」

「!?」


 先に跳びかかったのは俺だ。走る事はせずに、一気に相手の間合いまで跳び(・・)こむ。

 ミナは突き出された俺の剣を払い落とす為に手首を狙ってくるが、そのハナリエ流に対してのベタな一手だ。


「あうっ!?」


 ミナの打った一撃は、俺の手首に当たることなく空を切り、代わりに自身の内ふとももを切り付けられることで終わりを迎えた。


「まずは一本」


 軽装兵は正面に防具をつけているが、横から背後にかけて防御は薄くなる。それは、今ミナが切り付けられた内ふとももも同じで、そこを切られれば歩行は困難となり、動脈も切られて出血死する。


「ハナリエ流かと思いましたが、ユーングラントのパンネシアでしたか」

「よ、よく知ってるな……」


 まさかバレるとは思わなかった。

 俺が使っている剣術の流派(パンネシア)は、ややオリジナルが入っているが、隣国でありこの間まで小競り合いをしていたユーングラント王国の物だ。


 師匠はもちろん、戦勝奴隷として俺と同じところで労働していた敵国の竜騎士(ドラグーン)だ。

 ハナリエ流ほど動きがコンパクトになっていないが、その代わり合理的な有効打を与えることに重きを置いた剣術だ。そこに、俺の知っている剣道の技術を加えた、半オリジナルの剣術だ。

 しかし、バレるとはな……。


「次です」


 その瞬間、ミナの纏う空気が変わった。初めに纏っていた空気とは、全くと言って良いほど違う。


「来い」


 言い終える刹那、今度は意趣返しと言わんばかりに、ミナが俺の間合いに跳びこんできた。


「クッ!」


 腹を狙って突き出された木剣の軌道を逸らそうとすると、ミナの木剣はまるで豆腐を切るかのようにスルスルと俺の意志通りに逸れた。


 その抵抗の無さに、それが誘い(フェイント)だと気付いた時には、ミナの剣筋は大きくそれており、代わりに反対方向からひねりの加わった回し蹴りが俺の手首を打った。


「うぐっ!」


 カコン、と軽い音を立てて俺の木剣は地面を転がり、態勢を立て直したミナの木剣は俺の首筋を触っていた。


「一本です」


 静かに言うミナ。

 俺は蹴り飛ばされて痺れる手首を擦りながら、何も言葉を出すことなく木剣を拾い上げた。


「(怖えぇぇぇぇえ!!)」


 えっ? 何、あの蹴り? フェイントまでは良しとするけど、試合とは言え実戦を想定しているはずなのに、普通蹴るか?

 そもそも、あんなに高速で蹴りを繰り出せるとは思わなかった。さすが、兵士学校の騎士課程まで行った奴は一味違うと言う事か。


 よしよし、俺も本気を出すとするか。今までも本気だったけど、今からもっと本気だすし。言ってしまえば、100%が120%になるくらいの勢いで。


「よし、次が最後だな」

「はい。よろしくお願いします」


 互いに距離を取って構え直す。

 相手(ミナ)の動きのさらに先を見る。瞳の動き、手足のコンマの動きからいつ動くか感じ取る。さらに感覚を研ぎ澄ませば、相手の視線はおろかその体すら乗っ取ったかのように、自分の思うがままに相手を動かすことができる。


 そう。人はそれを剣仙と呼ぶ。


「行きます!」


 周囲を包んでいた緊張と言う糸を爆散させ、ミナと俺は跳んだ――。


前回までのあらすじで、5分くらい使うアニメの様な終わり方になってしまったw


8月3日 文章修正しました。

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