血濡れの木剣
「何だコレ?」
千歯扱きのお蔭で作業量が大幅に削減されたマシューでは、大人から子供まで手の空き始めた順に俺の畑を耕しにやってくる。
自分達の所は良いのか、と聞くと刈り取った小麦の根の部分をクワで掘り返すだけで良いとのこと。堆肥は知らずとも、気温が高いうちに根ごと土をかき混ぜた方が良いと言うのは、昔から何となくではあるけど分かっているようだ。
そんな中、朝早くから子供たちを引き連れて来た、納屋に置いてあった物を見て俺は首を傾げた。
「木剣……ですね」
答えたのは、俺が引き連れている子供の中で一番体格の良い、来年で15歳になるビスと言う名の少年だった。
三男であるため畑が継げず、郊外を新しく開墾しようとしたところで俺が新しく畑を作りだしたため、これ幸いとビスの父親が俺の所へ寄越したのだ。
リーダー気質とまではいかないまでも面倒見がよく、アレやコレやと指示した俺の内容をかいつまんで子供にも分かりやすく説明する、いわば直轄の部下の様な状態となっている。
「これが?」
しかし、ビスは木剣と言ったけど、何処をどう見ても歪んだ木の板にしか見えなかった。
「ほら、ココの握り手がところどころ黒いじゃないですか?」
「あぁ、そうだな」
「これ、マメが潰れて血が出た跡ですよ」
「汚ねぇな……」
柄の部分にある筆で擦ったような跡は、ビス曰くマメが潰れた出血跡だそうだ。
それを聞くと、何だか自分が持っている物が呪われた装備品に思えてくる。
「それで、この木剣(仮)は誰の物だ?」
フラフラと木剣(仮)をビスと、その後ろに居るレレナと同い年くらいの子供達に見せるが全員首を横に振った。
どうやら、この場には居ないようだ。そうも、都合よくはいかんな。
「木剣は、父親が息子に10歳の誕生日に作ってプレゼントする物です。よっぽどの事が無い限り、自分の寝るベッド以外に置いておくことは無いはずですけどね」
軍隊の存在しないこのマシューでは、なにか問題が起きた時には青年団で構成される自警団が出張ってくる。
大人になると同時に強制参加となるが、その前に練習用として父親から木剣が渡される。
その木剣を使って自主練を行い、13歳から町で一番腕が立つ人物から皆手ほどきを受けるらしい。
そのプレゼントとして贈られる木剣は、親から渡される数少ない品として、また大人として認められた品としてとても大切にされるそうだ。
現に、ビスの話では彼の祖父が作った木剣を父親は今も大事に持っているんだそう。
「なら、こんな所に置いておく不届きな奴はだれだ?」
「う~ん……。貰えなかった子……例えば、女の子だった場合は、父親に作ってもらえないので自分で作ったりするときもありますけどね」
この納屋に出入りする女の子は結構多いからな。その中の子が、親に見つからないように納屋に隠した可能性があるな。
探し出す――その前に……。
「でやあぁぁぁぁ!!」
ずぱぁ、と木剣で隣に立っていたビスを切り付けた。
「ぐふっ!? なっなぜ……。これが……これが、今まで貴方に従い続けていた者に対しての仕打ちですかあぁぁぁぁああ!!」
ドサ、とノリ良く切られたビスは地面に倒れた。
そこへ2人の子供が乗る。それには耐えたけど、3人、4人と増えると苦しくなったのか、ビスは咳き込みながら子供にどくように指示した。
「ゲホッゲホッ……。まぁ、誰か分かりませんけど、邪魔なら俺が探しておきましょうか?」
「いや、いい。これは、俺は預かっておくよ。ここは納屋であって、秘密基地じゃないからな」
秘密基地と言う概念が存在しないのか、ビスも含めて全員が首を傾げた。
それは置いておいて、この納屋は夜間施錠するし、それほど広くないとは言え農機具がたくさん置いてあるので事故に繋がる可能性が高い。
これを隠した子には申し訳ないが、木剣の移動をお願いしよう。
「もし誰かがこの木剣を探している様だったら、俺の家まで来るように伝えておいてくれ」
分かりました、と言うビスの言質をとり、俺は家へ戻った。
京都に修学旅行に行った時に、友人が木刀を買いましたw
その友人は、修学旅行でディズニーに行ったときは、マスケット銃を買ってましたw
前者は分かるけど、後者はワケガワカラナイヨ。
7月31日 文章を編集しました。




