幕間 サロン
本日、2度目の更新です。
前話にご注意してください。
「おぉ! これは、これは、モンクレール侯爵殿、ご無沙汰しております」
「久しぶりだな、ビヴルフ伯爵。元気……いや、その様子なら聞くのは無粋だな」
ストライカー家当主、モンクレール・シュタイフ・ドゥ・ストライカーは、話しかけてきたビヴルフ・ドゥ・ムッフーメ伯爵の体中から溢れる生気に当てられたように言葉を区切った。
ストライカー侯爵とムッフーメ伯爵は、今では当主と言う立場から前線を引いているが、昔は竜騎士育成学校で腕を競い合った仲だ。
だからこそ、今でも爵位の差が無いようにこうして話すことができている。
「最近は、ユーングラント王国との小競り合いでできた損失分も補填できて、家は今後も安泰だ」
「お前の所は、良いドラゴンが揃っているからな。皇太子様のドラゴンも、ムッフーメ産と言う話を聞いたが本当か?」
「さすが耳が早いな。皇国全土から選りすぐられたドラゴンから、今回の選定ではムッフーメのドラゴンが選ばれたよ。これで、産竜の箔がついて我が領地も安定して運営できると言う物だ」
その景気の良い話に、ストライカー侯爵は笑うように顔をしかめた。互いに、良いドラゴンを自領地で産出すると言う夢があったが、今回の選定によって圧倒的とも言える差ができてしまった。
それを抜いても、ストライカー侯爵の長男であるロベールが駆るドラゴンもストライカー産ではなく、ムッフーメ産なので悲しいと言った所だ。
「領地運営として勝ってはいるが、ドラゴンの産出にはまだまだお前の足元にも及ばんな」
「お前も、ドラゴン馬鹿と呼ばれるほどになれば、きっと俺を抜かせるさ。ドラゴンの産出では勝ったが、税収は芳しくないからな」
今年の実りは例年よりも多いだろう、とストライカー侯爵家の徴税官から報告が上がっている。
それでも芳しくないと言っているのだから、領地運営よりもどれほどドラゴンに感けているのが良くわかる話だった。
「それにしても、お前ん所は手動ポンプ――だったか? かなり稼いでいるようだな?」
ムッフーメ伯爵から出た言葉に、ストライカー侯爵は今度こそ顔をしかめた。
手動ポンプとは、最近突然湧いて出た水を汲みあげる為の道具で、その道具の複製品が作られないようにストライカー侯爵家が後ろに付いていると言う話が流れているのだ。
侯爵自身は知らぬ話だったので、販売している商会に問い合わせてみると、そこで見せられた証明書にはストライカー侯爵家ではあるが、息子のロベールの名前が書いてあったのだ。
大方、小金を見せられて後ろ盾になったのだろう、とストライカー侯爵は当たりを付けた。
ただそれだけならば良かったのだが、余りにも人気で品薄なのか、よくストライカー侯爵家に手動ポンプを融通してくれと文が届くのだ。
それほど人気な物なのだから偽物が出るのは当たり前なのだが、今のところ偽物を販売した商会は何れも物理的に潰れていた。
ポッと出の商会がそんなことをしようものなら、方々で恨みを買い紛争に発展しそうなのだが、この商品を売っているイスカンダル商会はストライカー侯爵だけではなく、この国で一番の勢力を誇っている光燐教会の姿が背後に見え隠れするらしく、そこまで大きな事件に発展しないようだった。
サロンでは、イスカンダル商会の販売する本物の手動ポンプを領地内にどれだけ置けているか、と言うのが密かなステータスとなっているようだった。
「あれは、息子が勝手にやっていることだ。私の所に融通してくれと言った所で無駄だぞ」
すでに何回も聞かれた内容に答えるが、ムッフーメ伯爵は小さく肩をすくめるだけだった。
「確かに、凄い人気だからな。馬鹿な農奴とは違い商人とは利に聡い。よくもまあ、あんな不思議な道具を思いつくものだ」
「そうだな。そんな道具を思いつく暇があるのなら、農奴共をもっと働かせる道具や魔法を作ればいい物を」
農業を含む産業は、その土地の財力だ。産出量が多ければ多いほど、やりたいことがやれて、好きな物を好きなだけ買う事が出来る。
先の戦争で帝国から恩給が支払われた事で、侯爵領地は更なる飛躍を遂げることは約束されているが、それでも金は多いに越したことはない。
「まぁ、そんな農奴の事は放っておいて……だ。少し耳に挟んだ事があるんだがな」
今までの会話が全て前置きだと言わんばかりの表情で、ムッフーメ伯爵は声を潜めて言った。
「サロンでの話だが、竜騎士育成学校に居るお前の所の倅が、全くの別人だと聞いたがそれは本当か?」
噂好きの貴族の間で最近聞こえ出した、竜騎士育成学校に居るストライカー侯爵の息子が偽物であると言う話は、父である侯爵の耳にも届いていた。
実家では侯爵の名を使って好き放題をやっていたが、ドラゴン好きは父親譲りなのか、ドラゴンに関しては素直で教師役からも太鼓判を押されたので入れた竜騎士育成学校だ。
好きな事を好きなだけできる学校であるのだから、人が変わったと言われても仕方が無いだろう、とストライカー侯爵は考えていた。
「息子も、俺譲りかドラゴンが好きでな。侯爵の跡取りとしての重圧が無い環境でのびのびと生活しているのだろう」
「そんな物か?」
侯爵領地でのロベールの蛮行を知っているムッフーメ伯爵は、ストライカー侯爵の言葉が信じられなかった。
確かに、ドラゴン好きにとってあの学校は天国とも言える場所ではあるが、それでも人間と言うのはすぐに変わることは無い。
「それでも、噂が大きすぎるからな。学校へ行ってからあまり大きな問題は起こしていないので気にしていなかったが、年越しの連休はこちらへ帰ってくるように手紙を出そう」
「そうした方が良い。まぁ、帰ってきたらどれだけ腕を上げたのか我々で確かめてみようではないか」
そう言い、少年の様に笑うムッフーメ伯爵につられるように、ストライカー侯爵も笑った。
本物のロベールの実家方面でのお話です。
商会のステマによって、手動ポンプが順調に売れ始めた頃の話です。農機具を作る少し前の話でもあります。
ロベールが偽物ではないのか? と言うのは、竜騎士育成学校に通う子供たちの親から出てきています。
ムッフーメ伯爵が思った通り、蛮行を行っていると言う噂とロベール(偽)の印象が合わないからです。
でも、イスカンダル商会が意外と武闘派だったので、「あぁ、やっぱり同じか?」と言う噂も流れています。
次話より、新章に入ります。新キャラが出てきて、ロベールはチクチクやられ始めます。
次回更新は、7月31日になります。
7月31日 誤字修正しました。




