学の価値 2
再び時間が合わないので予約更新
「では、次にメニフィレスさんにやってもらいます」
すでにメニフィレスとはどういった内容にするのか話し合っていたので、俺と役を交代すると壇上へと上がった。
「あなたが、ベナレスさんですね?」
「はい。そうですが?」
「こちらは、あなたが書いたもので間違いありませんか?」
そう言ってベナレスの眼の前に突きつけるように出したのは、先ほど俺が書いた小麦買い取り証書(仮)だ。
ついさっき書いたばかりなので覚えているのは当たり前で、ベナレスもすぐに頷いた。
「では、この書面内容にしたがい、あなたの娘を貰い受ける」
「えぇ!?」
突如放たれたメニフィレスの言葉に、契約をしたベナレスだけではなく他の生徒候補や親たちも驚愕している。
「前に来い、シュルフェ」
俺に名前を呼ばれた、ベナレスの娘のシュルフェはおっかなびっくりと言った様子で俺のそばに来た。
「この契約書には、契約者の子供を売り払う内容が書かれています。書類に名前と拇印が押してあり、なおかつ本人も書いたと認めました」
追い打ちをかけるように、メニフィレスはたたみかけた。
ベナレスの表情はやや青ざめており、俺に引き寄せられるように立っているシュルフェと書類を行ったり来たりしている。
「そっ、そんな! 俺は、小麦の買い取りって言ったから!」
茶番と言っていたはずだけど、さすがに娘を奴隷として持って行かれそうになると熱くなりはじめた。
このままヒートアップしては危険なので、ここら辺が潮時だろう。
「分かったか? 文字が読めないだけで、こんな事になる可能性があるんだ」
熱くなっているベナレスの耳にも届くように、腹に力を入れてやや大声で言った。
それが功を奏したのか、ベナレスは体をビクリと震わせて、すぐに落ち着きを取り戻した。
「でも、このような無法をして領主様が黙ってみている事は無いと思いますが?」
すぐに反応したのは、ファナだった。この通学候補生の中では、町長の娘と言う事もあり読み書きができ簡易計算もできる。
「領主に話が行く前に逃げ切る事を前提としている。実際にやろうと思えば、商隊護衛を率いて逆らう人間が居れば契約を振りかざして不履行を理由に殺すこともできる」
もちろん、こんな話は暴論であることは重々承知だ。
しかし、彼らに何もできない事も事実である。たとえ領主に助けを求めに行ったとしても、その間に逃げ切ることができる。
ただ問題なのは、そんな危険を冒してまでこんな田舎から奴隷を獲ってくる事に意味があるのかと言う話だが、それは茶番として気にしないでくれ。
「と、まあ、こんな事になるって話だ。文字が読めれば契約書を読むことも起こすこともできるし、計算ができれば数をごまかされる事は無い」
まずは実益について話しておく。続いては、娯楽についても説明だ。
「それと、今後の事になるが町の一角に掲示板を設置する」
なぜ掲示板? と言った反応が多く、誰一人として掲示板の掲示物について質問しなかったが、話を続けた。
「その掲示板には、マシューでの出来事をメイン記事にして、皇都で起きたことも書いていく。他にも行事や緊急連絡も掲示していくつもりだ」
「あの、口頭ではいけないのですか?」
「口頭でも、それが最後まで正確に伝われば問題ないが、途中で個人の感情や思い込みが入る事によって最後まで正確には絶対に伝わらない! 一人二人を通すくらいなら口頭でも構わないが、なるべく自分の目で確かめるようにして貰いたい」
仕事をする上で大切なのは、それが本当なのか自分の目で確認することだ。
人の記憶は都合の良いように改ざんされたり、前後の記憶とごっちゃになってしまう時がある。正確な仕事をするためには、必ず事前に確認をするのだ。
「そこで、みんなの先生になってくれるのが、今回この町に徴税官としてお越しになられたメニフィレスさんだ。彼女は、徴税官としての仕事を全うするためにこの町に来たが、フィルドー男爵の御好意によってこの町で教育をしてくださることとなった」
好きに扱っても良いというのだから、これも好きの内に入るだろう。
マシューの住人に、フィルドー男爵への悪感情は無いようで、みな「おぉ~」と言う驚きの声を上げた。
あとは、どれだけ継続的に来てもらえるかが、学校運営の鍵になるだろう。
まぁ、そこら辺はもう少し文字が理解し始めてから始動するとしよう。
仕事をする前に、説明書や仕様書に変更点が無いか、必ず確認しましょう(迫真)
人の記憶は、とても曖昧です。大切な情報は、必ず紙に記載しておきましょう……。
7月27日 文章を編集しました。
 




