ドラゴンを貰う
ドラゴンを選ぶこと30分。とはいっても、位置を動かず双眼鏡で見ているだけなので、これと言って変化がなかったのだ。
理由は、ドラゴンを動かすとダウンウォッシュで砂埃が舞い、あとの学校の掃除が大変だからだそうだ。まず気に入るドラゴンを双眼鏡で見つけてくれとのこと。
「私の勧めといたしましては、あの山の頂上に陣取っている黒色のドラゴンですな。山の頂上から仲間を見下ろせる位置に居るのは、その群れの長の証。歳も10歳と若く、まだまだ現役です」
「あれは、火吹きですか?」
「はい。帝国騎士に払い下げられる予定でしたが、その騎士が事故で乗れなくなってしまい今はここに居ます」
ドラゴンの寿命は、火吹きドラゴンで25歳。火を噴かないドラゴンで50歳と2倍ばかりの差が出る。
これは、火吹きドラゴンは火を出せるように改造されたドラゴンだからだ。
しかし、火吹きは腹の中に火炎燃料を詰め込まなければいけないので、自体重より重くなり飛行が遅くなるから駄目だ。
火のリーチは魅力的だが、火を噴いている間はドラゴンが息を吐き続けなければいけないので、呼吸が上がる原因にもなる。
「あそこの中腹に居るドラゴンは、火吹きですか?」
「え~と……。あぁ、あれは辞めといたほうがいいですよ。あいつは、私がここで育成員を始めた頃から居る古参でして、普段からあまり動かないし皮膚もボロボロで、到底戦で使える様な奴じゃありません」
そうは言うものの、俺は双眼鏡越しにそのドラゴンから目を離せなくなっていた。
中腹に居るのは、その群れのナンバー2の証だ。だが、山の頂上よりも中腹の方に広場があり、寝て過ごすにはちょうどいい位置だ。
帝国と敵対している国の竜騎士に教えてもらったことだが、そういった寝るのにいい場所が中腹にある場合、ナンバー1とナンバー2の位置が逆転する事もあるそうだ。
そして、体つきが他のドラゴンよりも2~3回りほどデカい。巨体と言っても差し支えない。
それに、先ほどからドラゴンの瞳が俺を見つめている。その油断のない視線が、俺にはどうもこいつがナンバー2だとは思わせない要因だった。
「ちょっと行ってきます」
「あぁ! 危ないですよ!」
★
駆け足で10分ほどで、件のドラゴンの所までやってきた。
俺が来たことで他のドラゴンは餌が貰えると思って喜んでいるが、このドラゴンだけは喜ぶどころか動くこともせずに、ただ俺を睨み続けている。
歳を取り過ぎているのか、と思ったがそうじゃなかった。ボロボロになった鱗の下には新しい鱗が形成されており、このドラゴンがまだ現役であることを物語っている。
鼻腔の湿りも十分。瞳の濁りも腫れも確認できない。舌の色も申し分ない。虫歯があるが、これは抜けば生えてくるだろう。
「これは――」
これは、素晴らしいドラゴンだ。落ち着き、物おじせずに、油断なく相手を見つめるこのドラゴンは、いわゆる掘り出し物と言った類のドラゴンだ。
「ひいっ、ひいっ、ひいっ。ロベール様、ここは危ないですからお戻りを」
運動不足の育成員が俺に遅れること数分で、やっとここまで追い付いてきた。
丁度いい。
「このドラゴンが欲しい」
「こっ、こんな老ドラゴンをですか!?」
「あぁ、このドラゴンが俺は欲しい」
「でっ、ですが、他にもたくさん良いドラゴンが居りますよ? わざわざ、そんな――」
「聞こえなかった? 俺は、このドラゴンが欲しいって言ったんだ」
「ひっ、ヒィィィィ!? もっ、申し訳ありません! すぐに、ご用意を!!」
ジャンピング土下座に近い恰好で震える育成員。なんだか悪い事をしてしまった、
こうして、俺はドラゴンを手に入れることができた。初めての、俺のドラゴンだ。
他人の為ではなく、これから俺の為に用意されたドラゴンの世話ができる。
登場人物
偽ロベール
転生者。本名不明。
手先が器用で無駄な知識が多いが、結果今後役に立つことになる。
ロベールと入れ替わる前は、ある貴族のドラゴンの世話係をやっており、その時に戦勝奴隷として同じところで働いていた敵国の竜騎士にさまざまなことを教わる。
12月19日 ルビを書き換えました。