報告会
時間が合わないので、予約更新です。
「――と言う事で、興行者達に命令して巡業路を変更してもらい、私が担当する町にも来るようにしましたわ」
言い終わったあと、満足げなドヤ顔をしてミシュベルは俺へ視線を向けてきた。
アムニットの言っていたことは本当の様で、みな当たり障りのない慰問をしてきたと言う報告で終わる中、ミシュベルだけが違う事をやっていた。
ただし内容は酷い物で、地方巡業を生業としている興行者に無理やり命令し、実入りの少なそうなミシュベルの担当している町へ行かせたそうだ。なんと可愛そうな……。
俺がド田舎に行くと言った後に、教師陣から止めろと言われたのに、自らも似たような――俺よりは断然都会に近い――場所へ行っているのだが、やった事がこれじゃあ町の人が可哀想だ。
いや、可哀想なのは興行者達で、町の人達は娯楽が来てくれることは大歓迎か。
その金額を払えるかどうかは別にして。
「で、では、次はロベール様の番です」
司会役の教師に促されて、最後に回してもらった俺の番が来た。
「それでは、マシュー再興プロジェクトの第一回目の報告を始めます」
手元に束ねた紙を見ながら報告を始めたが、俺の付けたプロジェクトネームがあまりよろしくないのか、周囲の反応は薄い。
おかしいな。学校にくる前日まで、アムニットやミナと共に考え抜いたのに。
最終的には、分かりやすいと言う至極真っ当かつ、面白くないネーミングになってしまったのがいけなかったのか?
「今回のコンセプトは、ズバリ健康な懐です」
懐とは、衣服で言う胸辺りの事を言う。合わせて金銭のことだ。
懐を腹と称して、腹を下している人が多いマシューで石鹸を広めて衛生概念を植えつけ、かつ石鹸製造を産業として確立することで町人の就業場所を作る。
両方を合わせて懐の健康だ。あと、健康の中に四輪農業も含まれる。
「マシューでは、10歳以下の子供52人中、当時49人が。50歳以上の老人63人中、当時62人が腹を下していました。
そこで私は、マシューにある湖に生息する油魚に注目し、その油魚から抽出される魚油を使い石鹸を作ることに成功しました。現在は、マシューの産業として確立するために工程の改善に取り組んでいます。
そして、町では石鹸が安価に手に入るようになり、町長から手洗いとうがいの奨励によって腹を下す人は減少傾向にあります。
そして、これはまだ手探りの段階――とは言っても、成功するのはほぼ確定ですが、新しい農法によって農作物が1.5倍から2倍になると考えています。
確実に回して行けるのは2年から3年後の話なので、レポートがまとまり次第、今後この場を使い報告していきます。
最後に、石鹸と同じく産業の分野ですが、こちらをご覧ください」
教師に一枚。生徒2~3人につき、マシュー産の紙を渡した。
「私達が作った紙です。現在、紙は1枚銀貨1枚で販売されています。ですが、このマシュー産の紙は、この品質を保った状態で銀貨1枚あればかなり買える値段で販売できます」
その価格に、紙を見ていた全員がざわついた。
値段を明言しなかったのは、まだ正確な原価が出ていないからだ。ここで確約すると面倒臭い――と言うか、調子に乗って言ってしまったが、紙の事はまだ黙っておいた方が良かったかもしれない。
まさかここまでザワザワするとは思わなかった。こうなったら、宣伝目的で言っておくか。
「まぁ、これは元々俺がどうこうしたわけじゃなく、町に根付いていた物を利用しただけだけどな」
とりあえずイスカンダル商会を通すつもりなので、俺が考えたことではないと周囲に軽く漏らしておく。
「そして、既存の紙と差別化を図るために、紙に色を付けたり、また押し花を紙に漉き込むことによって、実用的な部分と共に見目にも楽しめる仕様とします」
押し花に反応した女子生徒が、紙に漉き込まれた花を見て絵ではない事に気づき、にわかに騒ぎ出した。
「今回、この一ヶ月で私が行った事は、衛生概念を広く一般に知ってもらう事。そして、産業の少ない町で、新たな産業を確立することです」
途中で、報告と言うより商品説明になってしまったが、まあ良しとしよう。
こうして、一回目の発表会は終わった。折れ線グラフと円グラフを使った資料を教師に渡したのだが、そう言った表し方が無いようで良くわかっていなかった。
ただ、生徒の中の数人はその見やすい資料を食い入るように見ていた。とりあえず、その数人の顔と名前は覚えておこう。
名産や産業の無い町は貧乏です。町が貧乏だと、領主は大変です。
竜騎士候補生たちに与えられる管理領地は、その土地を管理している領主から借りている物ですが、引っ掻き回されても大丈夫な町を紹介しています。
つまり、生贄と言う物です。
9月16日 誤字修正しました。




