征服の手動ポンプ
マシューに戻ってきてから、共同井戸に手動ポンプを取り付けた。
今回は、既存の井戸に取り付けるだけなので先の尖っていない、ただの青銅製の筒を水中まで下げた物だ。
お披露目会には、アムニットにミナはもとより、ガナンとその家族とマシューの顔役がそろっている。
そして、俺がキコキコと取っ手を動かすだけで、ポンプから水が出てくるのを見て目を丸くした。予想以上に驚いてくれて俺も嬉しい限りだ。
「ここ、これをこの町の共同井戸に置いてくれるのですか?」
「そうだ」
「ですが、あの……我々は対価を払う事が――」
「気にする必要はない。俺は、この町が気に入っている。水汲みの時間が減れば、その分を家族や仕事に回すことができるだろ?」
これは本心だ。確かに、ここで恩を売っておいて後で回収しようとは考えているが、仕事も家庭も疎かにしてほしくないと言う気持ちも強い。
「今は、まだ一機しかないが、出来上がり次第順次井戸に設置していくつもりだ」
「こんな素晴らしい物を、各井戸にですか!?」
ファナは、俺が設置しようとしている数を聞いて、やや卒倒しそうになった。
彼女には取り付けの手伝いをしてもらったので、その時に手動ポンプの値段も伝えておいたのだ。一般市民がおいそれと買えるような値段でもないし、もし買うのだとしたら町が購入するところだろう。
「そうだ。ここが楽だからと人が殺到するかもしれないが、ここから水を汲みあげてばかりだと井戸が枯れるから、あとあと一日の使用限度を町の人達に伝えておいてほしい」
近くに川があるので、たとえ井戸が枯れても死ぬことは無い。けど、井戸が枯れれば川から汲んでこなければならなくなるので、時間と体力が大きくそがれてしまう。
それに、再び井戸を探し掘るのにも時間と労力がかかる。
俺の考えには皆賛成の様で、頷き返してくれた。
とりあえず俺の真似をしてファナの妹のレレナが水を出しまくっているので、アイアンクローで動きを封じておこう。
「あの、これは幾らで売り出すつもりですか?」
聡い子のアムニットは、これの人気が出て買いづらくなる前に俺から買おうと画策しているようだ。
「今のところは、一機金貨40枚を予定している」
「金貨40枚!?」
ガナンも顔役も、ギリギリ卒倒しなかったと言う形容がぴったりの状態まで行った。ほぼ逝きかけましたって感じだ。
「もし欲しい場合は早めに言ってくれ。別で用意しておこう。あぁ、ちなみにこの手動ポンプを売り出すのは俺ではなくイスカンダル商会だから、間違っても販売元に俺の名前を出すんじゃないぞ?」
俺が販売したとなれば、実家から何らかの接触があるかも知れない。だって、一機金貨40枚もする道具だ。原価が金貨13枚だから、俺の懐に金貨27枚が入る事になる。
それを見過ごす様な事は絶対にしないはずだし、本物のロベールがこんな道具を思いつくとも思えないから絶対に疑われる。
これを回避するために、俺はイスカンダル商会と言う会社を設立した。ちゃんと、商工ギルドにも登録済みだ。
ストライカー侯爵の名を後ろ盾とすることで、他の鍛冶屋が同じ物を作らないようにさせる牽制の役目をする。
ロベールとしては、後ろ盾をすることでイスカンダル商会からお金を貰っていると言う事にして、侯爵家には小金に目がくらんだ馬鹿者を演じることで追及を回避するのが目的だ。
ちなみに、手動ポンプには地球を掴んでいるドラゴンがあしらわれている。
征服王としてのイスカンダルにあやかり、この商品はこの大陸の隅から隅まで行くって感じでな。
さてさて、これで学校での発表会が楽しみになってきたぜ。
金貨一枚で、4人家族が切り詰めて4ヶ月ほど暮らすことができます。
実際のところ、金貨40枚はかなり暴利と思いますが、新しい物好きであり見栄っ張りの貴族には好まれると見越しての値段設定です。
7月16日 脱字修正しました。
9月20日 リオン→レレナへ変更しました。




