完成の便り
ちょっと遅れてしまいました。
書類作業中に、ドアがノックされた。
「入れ」
入室許可を出すと、ドアからはミナが入ってきた。
「ロベール様、皇都から速達が届きました」
手には刻印された蝋で封印された筒を持っていた。
それを受け取って中を見ると、先週設計図を預けたガンブール鍛冶屋からポンプの試作品が完成したとの報告が書かれていた。
ところどころ、インクが擦れたあとがあるので、完成後急いで書面をしたため、朝一のドラゴンを使った速達便を出してくれたようだ。
「よし。俺は出かけるから、お前たちは引き続き作業をやってくれ」
「はい」
普段と変わらない口調だが、その顔には疲労が色濃く出ていた。
ミナとアムニットには、現在俺がやるつもりだった紙つくりをやってもらっている。
材料は、森に生えている雑草だ。その雑草の種類ごとに紙を漉いてもらい、どの草が一番紙に向いているか探してもらっている。
灰汁と言う名の強アルカリ水もたくさんあるので、材料はかなり大量にある。
一応、保身の為に言っておくと、二人にはちゃんと休めと言ってある。しかし、上司である俺が休んでいないのに、自分達が休むのも体裁が悪いと言う事で――特に奴隷のミナは強くそう感じているようだ――現在、この屋敷は完全にブラック企業の体をなし始めている。
★
――皇都――
ガポン、ガポン、ガポン、と言う音と共に、ポンプから水がたくさん出ている。
機構の動きも滑らかで、上下させるレバーに違和感がない。
設計図を渡してから、一週間もたたずにこのポンプを作り上げるガンブールは、本当にすごいと改めて感心させられた。
「これは、本当にすごい道具ですな。ロベール様の言う通り、桶など目じゃない」
ガンブールの言葉に、周りに居た弟子を抜くガンブール鍛冶屋の面々が神妙な顔つきで頷いている。
弟子は信じているが、何処でこのポンプの事を話すか分からなかいので、作っている所すら見せていないそうで、このお披露目会にもいない。
それは、このポンプが世間を揺るがすと言うほどでもないにしろ、全く新しい考えでできた製品だからだ。
「素晴らしい出来だ。やはり、ここに頼んで良かった」
俺の言葉に、ガンブールはその顔に似合わない照れた様子で鼻を掻いた。
「あと、もう一つの頼まれていた物です」
息子のダンブールに運ばせてきたのは、組み合わせると全長10メートルにもなる、ポンプと同じ青銅製の筒だった。
これにあわせて、先の曲がったストロースプーンの様な物も合わせれば、手掘りの井戸製作キットの完成だ。
井戸掘りは、人員と壁が崩れないように石を組む、石組みの技術も必要なので技術と金がとてもかかる。
しかし、この井戸掘りキットがあれば一人でも井戸が掘れるのだ。
ただ、その土地の保水量の関係もあるので、そうもバカスカ作るわけにもいかないけど……、まあでも結構な値段で売るつもりだからバカスカは立てれんか。
「これと同じものを、手始めに10個作ってくれ」
「分かりました。期限は、どのくらいでしょうか?」
「売り込みはもう少し後から始めるから、2~3週くらいで構わない。その後、また連絡するが週20くらいになる予定だ」
「では、そのように作らせていただきます」
最初の試作品は、型から制作したので金貨50枚(特急料金含む)もかかってしまったが、次からは型に流し込むのと組み立てだけなので、金貨13枚くらいでできるそうだ。
それを、金貨40枚で売り込もうかと思っている。手掘りキット込みだと、金貨43枚だ。
井戸を作るための費用が金貨50枚くらいなので、かなり安い――はずだ。
井戸のふたは、見落としがちですけど重要です。
落ち葉などのゴミが入ると物理的に汚れますし、動物の糞が入れば雑菌が発生します。
常に蓋を閉めておける手動ポンプは、結構重要ではないでしょうか?
7月12日 脱字修正しました。
9月14日 ルビ修正しました。
10月10日 井戸掘りの値段を、金貨5枚→金貨50枚に変更しました。
3月2日 ルビを変更しました。




