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竜騎士から始める国造り  作者: いぬのふぐり
マシュー改革編
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アムニット

「あっ、あの……ロベール様……」


 そこに立っていたのは、少しだけ泣きそうになっているアムニットだった。

 ナニコレ。まるで、風俗通いをしている彼氏を見てしまった彼女みたいな図。俺は、奴隷を買っただけで、別にやましい事はしていないぞ。


「久しいな。元気だったか?」

「はっ、はい。あの……ロベール様は、ココで何を?」

「奴隷商館だ。することは、一つだろう?」

「そう……ですね……」


 うぜぇな、こいつ。言いたいことがあるなら、ハッキリしろよ。


「俺は、忙しいんだ。言いたいことがあるなら、ハッキリしてくれ。無いなら、俺はもう行っていいか?」

「ッ!? わっ、私も、お供してもいいですか?」

「勝手にしろ」


 野菜の種を買う為に、午後の市に行きたいのだ。昼か夕かと聞かれれば、十中八九が夕と答える時間帯に差し掛かっている。

 売れ筋の種であれば常設の店でも売っているが、珍しい遠方の物となれば行商が店を出している市場でしか売っていない。


 案の定、市は半分以上が店じまいしている。周りの商人に聞いて種屋を探すと1件だけまだ商品を広げている所があった。


「まだ時間は大丈夫か?」

「はい。商品もたくさん残っていますので、私も閉めるに閉められないんですよ」


 そうは言いつつも、店じまいの途中だったのか、商人はリュックの中から小袋を外に並べ始めた。

 狙うのは、これから寒くなる時期に育てる秋()きの種だ。


 この行商だけでは数が足りなかったので、仲間の種行商も呼んできてもらって、最終的に購入したのは、カブ・白菜・大根・ソラマメ・小松菜だ。品種の前に『たぶん』ってつくけどな。


 ホウレン草が欲しかったのだが、売り切れらしい。そもそも、ホウレン草は虫食いが激しく、育てるのが大変なので種自体あまり扱わないそうだ。

 小麦、大麦に関しては売れ筋の商品なので、店舗の方で大きな袋で購入した。


「これは、何処で栽培するんですか?」


 種子は全部、種屋の下男に頼んで町はずれの粉ひき小屋に運んで行ってもらった。

 俺とアムニットは手ぶらなのだが、農家にでも転職したのかと思わせるほどの量の種を買ったので不思議に思ったようだ。


「俺が任された町だ。当面の目標は、町人全員がお腹いっぱいにご飯を食べられるようにする」


 そこに合わせて、家畜の解体数を減らしたい。冬は人が食べる物も少なくなるのだから、家畜に食わせる物はもっと少なくなる。

 だから、ベーコンを作るのと同時に、家畜の口減らしもするのだ。


 それらを改善すれば、労働力としての人間も増えて、それらを喰って行かせるための家畜も増やすことができる。


「他の生徒がどれくらいの事をするのか分からないけど、なるべくなら一番を取りたいしな」


 ここまでの行動力の源が、町づくりゲームみたいで面白いと言う理由の他に、他の土地に行った生徒たちが行う改善政策に負けたくないと言うのもある。

 やっぱり、やるなら一番だ。最近、よくある仲良く手をつないでゴールだなんて、バカバカしくて唾棄すべき行為だと思っている。

 競争力無くして国は作れない。追い付け追い越せの精神が無ければ、技術は進歩しないしそもそも人間の成長はまずない。


「あの……、ちょっと言いにくいんですけど……」

「なんだ?」

「普通の竜騎士(ドラグーン)はそこまでしませんよ?」

「でも、新しい技術とかを伝えるんだろ?」


 石鹸の作り方も、腐葉土の使い方に堆肥の作り方も、みなあの町では新しい技術のはずだ。

 この皇都でも、人糞は川へ流している。上流でも流して下流でも流しているんだから、川はめちゃくちゃ汚いんだろうな。


「あっ、いえ、そうなんですけど。普通なら、学校から渡された書面を町の有力者に渡して、竜騎士(ドラグーン)としては、慰問などで終わりのはずですが」


 なるほど、だからミシュベルやアバスのドラゴンが厩舎に居たのか。二週間もたっていない内に帰ってくるなんて、本当に仕事をしたのか?


「だとしても、俺は俺のやり方で仕事をするだけだ」


 他に、塩や調味料やお土産のアクセサリーを購入して学校へ戻る。

 厩舎からヴィリアを出して竜騎場で荷物を乗せていると、飛行服に着替えたアムニットが自分のドラゴンを連れてやってきた。


「私も、一緒に連れて行ってください」

「学校があるだろう? それに、来ても何のもてなしもできん」


 行きつく先は、休みの無いブラック行政だ。畑作りの方は、体の弱い子供や老人なので、長時間働かせていないのでまだ良いが、石鹸工場の方は主婦層が主なので家事と石鹸作りをやると休みが存在しない。


 基本は週休2日で、持ち回りで隔週1日の休みで工場は稼働している。

 特産品の無い町だけど、皇都では存在しない安価な石鹸が名物になれば収入も増えて良いことづくめだ。


「なればこそ、私を連れて行ってください。学校には、すでに連絡しています。それに、人手は多い方が良いと思います」


 知識奴隷を一人買ったはいいけど、それでも人手は足りないのだ。クラスメイトの勉学の邪魔をするのは申し訳ないが、ここはひとつ甘えよう。


「なら、頼めるか? 正直、結構限界だ」

「はい!!」


 ブラック行政へ行くのに何が嬉しいのか、満面の笑顔でアムニットは答えた。

 あとで知った事だが、なぜかアムニットは俺に呼び出されると思っていて、その為の準備をしていたらしい。


 しかし、待てど暮らせど呼び出しもなく、かと言って俺が戻ってくることもなかったので、何度もマシューへ行こうと思い、そして思いとどまったらしい。

 俺は、そんなにも頼りなく見えるのだろうか? まぁ、この年齢の女の子は体も精神の成長も男よりも早いから、ちょっと背伸びしたいのだろう。うざいのは勘弁だが。


 この世界では、種は基本的に自家採取です。また日本の様に種貸しのような物はありません。

 不作で税収が見込めない場合は、国家事業に従事して不足分を払ったうえに、来年分の種も買わないといけません。

 その為に不作が起きると、いつ採ったのか分からない種が市場に溢れます。

 悪い種を引くと、自分の所だけ発芽率が悪くなり、負のスパイラルとなります。


7月9日 誤字修正しました。


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