王子の助言
お久しぶりです。更新が滞って、申し訳ありません。
原因となった、竜騎士から始める国造り2巻は10月28日に無事発売しました!
考える――考えるが、王子が何を思い考えて俺にこの話をしたのか分からない。
「それを私に話して、王子は何を私に対して求めているのでしょうか……?」
考えても分からないときは聞くに限る。その方が手っ取り早いし、間違いも少ない。
しかし、ここまで饒舌だった王子が、言いたいことを言い切ったのか、それとも俺が自分の言ったことを理解しなかったからか分からないが、急に静かになった。
「――そうだ……な。確かに、ヴィリアから話しかけられていないということは、まだその時ではないのかもしれない」
顎に手をやり、独り言を呟きながら考え事をする王子。すでに俺の存在は考えの外に追いやられているのか、疎外感が凄まじい。
「ストライカー子爵――いや、ここは古竜の輩としてロベールと呼ばせてくれ。ロベール、まずはヴィリアと会話できるようになるところから始めてくれ。会話できるようになり、そして、古竜の心の内を知ることができれば、我々はもっと高みに登れるはずだ」
王子の考えが分からないが、ヴィリアと会話できるようにならなければ、王子の考えは理解できないようだ。
どのようなことを考えているのか分からないが、古竜を駆る者同士のコミュニティが作りたいわけではない、ということだけは理解できる。
話はここまでということだろうか、王子は外で待機していた執事を呼ぶと、俺を見送るように申し付けた。
部屋を出る際に、古竜であるヴィリアと会話するコツを色々と教えてくれた。だが、そのほとんどがヴィリアに使えないものだった。
たぶん、このコツというのは、王子の駆るエルドラが好むものだろう。
退室時に、コツを教えてくれたことの感謝を表し、部屋を出た。
★
執事に見送られて王子のために用意された屋敷を後にして、一旦寮にある自室に戻ってからやってきたのは、先ほど壮大な話のタネとなったヴィリアの厩舎だ。
目の前には、ジッとヴィリアを見つめる俺をジッと見つめるヴィリアが居る。
「お前は本当は言葉を発することが出来るのか?」
「…………」
ヴィリアは言葉を発することは無い。
「ヴィリアは古竜種で古い時代から――ユスベル帝国が、マシューを根城とする小国だった時代から生きている種類だとあの王子から聞かされた。それと共に、ヴィリアたちの仲間がどうなったかも」
「…………」
ヴィリアは、それでも言葉を発することは無い。それどころか、煩わしそうに左右の壁に視線を這わせている。
「――ハッ……。ドラゴンが本当に口を利けるわけないよな。王子は、あぁ言ったが、俺にはにわかに信じることができない。だが、俺はヴィリアを信じている」
両腕を広げて、ヴィリアの顔に抱き着いた。ヴィリアはコロコロと機嫌がいい時に発する、軽い唸り声のような音を発した。
「変なことを話して悪かったな。また後で来るよ」
そう言い残し、俺はヴィリアの厩舎から去っていった。
後ろ――ヴィリアの方を振り返ることはせず、怪しまれないようにのんびりとした動作で学校へ向かい歩を進める。
周囲には、ドラゴンの世話をする飼育員しかいない。それもそうだ。今は授業中なのだから。
他にほっつき歩いているとしたら、俺の様に不真面目な生徒か、他には俺とヴィリアが本当に話せないのか確認に来た、王子の所の人間だろう。
あの会話の時に、少なくとも左右に一人ずつ盗み聞きをしていた奴が居る。それは、ヴィリアの視線から分かっている。
出入り口はヴィリアが見張っているので内部の様子は見られていない。もし見られていたら、手のひらに張り付けていた、ヴィリアへのカンペが見られてしまうだろう。
それに、帰宅途中で何らかのトラブルが起きても良いように、カンペはヴィリアに食べてもらった。これで万事オッケーだ。
「ロベール様、大丈夫でしたか?」
授業をサボる不良生徒が俺以外にも居た。
「アシュリーか。どうした?」
「ロベール様が外を歩いている、とアバスが言っていたので」
「授業中だろ?」
「女の子にしか分からない痛みが原因で、外の空気を吸っている最中です」
「なるほど。弱った時こそ敵に付け込まれるからな。そんで、武装してんのか」
女の子の痛みと言っているが、アシュリーの顔色は悪くない。それより、腰に帯剣しているのが気になる。
「同盟国にある竜騎士育成学校の中とはいえ、油断は禁物ですよ。何があるか分かりませんからね」
確かに、俺とヴィリアの会話を盗み聞こうとしている人間がいるのだから注意するに越したことは無い。――が、平時に帯剣が許されているのは、ニカロ王国に許可された人間だけだ。
つまり、俺だけとなる。
「ほら貸せ。アシュリーが帯剣している所を学校の先生に見つかったら、後で何を言われるか分かったもんじゃねぇ」
「ニカロ王国も、ロベール様を呼んだ方の人間なんですから、周りの護衛に帯剣の許可を出したら良いのに」
アシュリーから剣を受け取ると、そのまま俺の腰に付けた。
身長の高いアシュリーに合わせた剣なので、重さは俺の使っている奴よりやや重いくらいだが、長さがだいぶある。俺じゃ扱いにくいだろう。
「色々とあるんだよ」
ため息を吐くように言うが、実際は許可はすでに取っている。
帯剣を許可していないのは、表向きの理由としてはニカロ王国の竜騎士育成学校の警備を信頼している、という形だ。裏の理由としては、護衛代わりの仲間に帯剣をさせないことで、何か事件が起きてくれればと思ってだ。
もちろん、危険に晒されればいい、と思っている訳ではなく、何らかの形で事件が起こり、多少なりとも俺や仲間に被害があれば、それが別の要求を通すときの話のタネになるからだ。
我ながらセコイ考えだと思う。
「それで、王子様とのお話は何だったんですか?」
「ヒミツぅ~」
隙あらば何かと聞いてくるアシュリーなので、俺の護衛のためというより俺と王子が何を話していたのか気になって来たのかは分かっている。
アシュリーが何を考えて、こういった話に首を突っ込もうとしているのか気にならないわけでもないが、今のところ俺以外に聞いて回っている様子もないのでほったらかしにしている。
まぁ、俺のためになることをしようとしている、と信じて。
「それより、さっさと教室に戻るぞ」
「えっ? このまま寮に戻るんじゃないんですか?」
「何言ってんだよ。学生の本分は、勉学だぞ」
「ありゃー……。私は、もう学生じゃないんですけどねー」
心底面倒くさい、といった感じでアシュリーは息を吐いた。成績優秀者だった彼女にとっては、竜騎士後進国のニカロ王国で行われる授業は退屈なのかもしれない。
もしくは、ただ単に面倒くさがっているからかもしれない。
「いやいや言うな。そんなことばっか言ってると、ミーシャの世話係に任命するぞ」
「う~ん、めちゃくちゃ授業を真面目に受けたくなる魔法の言葉ですね」
もうすぐで俺たちよりも先に出たミナやミーシャといった、船組がニカロ王国に到着する。
荷物が到着すれば、行動もしやすくなるだろう。
11月10日 誤字脱字を修正しました。