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竜騎士から始める国造り  作者: いぬのふぐり
ニカロ王国留学編
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巨竜現る

 長旅の疲れを癒すように、とニカロ王国竜騎士(ドラグーン)育成学校の寮にある入浴施設――とは言うものの、実際はサウナ――をわざわざ開けてくれた。

 湯を張った方の風呂は無い、と事前に説明してくれたので、俺が風呂好きなのはニカロ王国側も理解しているのだろう。さすがに、風呂を作ってくれはしないようだ。


 江戸時代の様なサウナ施設であれば、薄暗く悪巧み――いやいや、秘密の内緒話をするのに持って来いだった。しかし、さすがニカロ王国と言うべきか、天井の一部に天窓が付いていて、自然光が室内に入り部屋全体が明るくなっている。


 つまり、隣に居る奴の顔だけではなく、隅から隅まで座っている人間の顔が良く見える。俺の隣には、目を閉じ口を一文字にしているアバスが座っている。他の聖竜騎士(ドラグーン)隊の面々は、俺達の反対側の隅っこに陣取っていた。

 女性用のサウナもあるので、アムニット達はそちらの方だ。


「何とか無事に辿りつけたな」


 人心地着いた、とアバスは濡れた短い髪を撫で付けるようにして言った。その声には疲労の色がにじみ出ていた。

 正規兵の聖竜騎士(ドラグーン)隊の人間も疲れているのだ。女の子達も結構ヤバかったのかもしれない。


「途中で何らかのアクシデントがあると思ったが、こう何もないと拍子抜けで、逆に何かあるんじゃないかって思っちまうな」

「今ここが中継地点であればその可能性もあるけど、さすがにニカロ王国(目的地)についてから何かあることは無いだろう……」

「まぁ、ここで何かあったらニカロ王国の責任だからな。事前に聞いた話によれば、周辺国も不穏な空気は無く、アンネスリート王国との仲も良い、と来たもんだ。大丈夫だろう」


 それに、留学は半年程度の短いものだ。ニカロ王国だけではなく、できればアンネスリート王国の王子様とやらから色々と技術情報を引き出していきたいと思っている。


「ロベールがやりたがっていることは、俺も理解しているつもりだ。行動しやすいように、俺もできる限りのことはする。だが、何事も限界があると言うことを忘れるな。無理に動いて足元をすくわれない様に注意してくれ」

「あぁ、もちろんだ。さすがに地元じゃないから迂闊な事はできんよ」


 俺の返答に満足したアバスは、一文字だった口の端を少しだけ上げて笑った。


「そろそろ出るぞ。疲れている時に、長時間のサウナはよろしくない」

「分かった。俺もさすがに限界だ」


 出る前に頭から水を被って、のぼせ気味の頭を冷やした。後は、飯を食って寝るだけだ。



 無難な自己紹介を終えると、ニカロ王国の竜騎士(ドラグーン)学校での生活が始まった。

 しかし、入国時の予想よりも俺達のことは話題にならなかった。いやいや、話題にはなっており、今もチラチラとこちらを見ている生徒が何人も居る。

 でも、手が離れた状態でもドラゴンを支配下に置くという、他の竜騎士(ドラグーン)ではできないことをやってのけたのだ。にも関わらず、そのことがそれほど話題に昇っていない。


 ニカロ王国は竜騎士(ドラグーン)に関しては後進国だから、それがどれほど凄いのか理解していない可能性がある。それでも同じクラスで護衛兼生徒として過ごしているアシュリーの方が話題になっているのはいただけない。

 部隊内では人の尻を触るなどセクハラをしてくるが、ニカロ王国の育成学校ではそのようなことはしてこなかった。顔の作りから静かにしていると冷たい印象を受けるが、男女分け隔てなく優しく接しているので、そのギャップもあって近づき難くはあるが、人気者になっていた。


 ユスベル帝国の竜騎士(ドラグーン)育成学校では、ドラゴンの扱いが上手い者が人気者になる傾向がある――顔や性格が良ければなお良し――のだが、ニカロ王国の育成学校は、そういった土壌ができていないのもあるはずだ。


「アンネスリート王国の王子様、とやらが中々姿を現せないけど、一体どこに居るもんかね?」


 ニカロ王国に留学したもう一つの理由である、アンネスリート王国の王子の姿が見えなかった。どこを見渡しても王族の留学生らしき人物が居ないのだ。

 アドゥラン第一皇子の情報収集ミスで、実は他の学年かとも思ったけどそういった人物は居なかった。

 探そうにも留学して早々に探りを入れたりすると、、よろしくない噂が立ってしまう。


 しかし、情報の入手方法は多々ある。竜騎士(ドラグーン)育成学校入学の時とは違い、前評判が良くないからという理由で避けられている訳ではなく、留学生で他国だがそれなりの地位があるという理由でクラスで遠巻きに見られているだけなので、その壁さえ崩せば多少踏み込んだ話も聞いてくれるだろう。

 現に、隣の席に座っているクラスメイトとはある程度話せるようになっている。


「それ以前に、ヴィリアの姿を見てもそれほど驚いていないのが気になりますわね。それに、何かと比べられている――というのも……」


 顎に手をやり、神妙な顔でミシュベルが言った。


「何だそりゃ?」

「いえ……何か、と言われたら困りますけど、声に出さないだけでロベール様が比べられているような気がして……」


 卑屈ではなく気位が高いため他人の視線に敏感なミシュベルが言うのだから、クラスで俺が何か(・・)と比べられているは間違いないだろう。

 その何か(・・)と言うのは、俺の様にドラゴンを操れる竜騎士(ドラグーン)なのかもしれない。


「まだ留学してから何日も経っていないんだ。ゆっくりと行こうや」


 焦りは禁物である、と皆に達し、まずはクラスに溶け込む事を優先した。



 そして、件の人が現れた。

 アンネスリート王国の王子である。その登場は派手な物で、他国の空だと言うのにアンネスリート王国の国旗を掲げた竜騎士(ドラグーン)を数頭飛ばし、俺達が来る時よりも多くの竜騎士(ドラグーン)を侍らしながら飛んでいる。


 仲良くなったクラスメイトの話では、家の方で何か用事があって学校を一時的に離れていたようだ。まぁ、王族だから家の事を優先するのは当たり前だし、その身の重要性を考えれば、あの大名行列の様な人数も理解できる。

 それよりも問題があった。豪奢な鎧を着けた、一目でアンネスリート王国の王子だと分かる奴が駆っているドラゴンが、ヴィリア並の大きさなのだ。


 王子が駆るドラゴンが大きいのはクラスメイトが言っていたので分かっては居たのだが、ヴィリアの方が大きいと聞いていたので、通常のドラゴンよりも多少大きい程度に思っていた。

 ところが、実物はどうだろうか?

 ヴィリアより小さいなんてことはない。まさに巨竜だ。ヴィリアと同じ体格を持つドラゴンを前にして、皆口をあんぐりと開けている。


「あっ、あの、ロベール様。ロベール様の駆るドラゴンは、ゴナーシャ以外に仲間とか居るんでしょうか?」


 空を見上げながら、アムニットが焦り気味に聞いてくる。巨竜は全て俺が所有しているとでも思ったのか。


「さぁ、どうだろうな? でも、ゴナーシャが居るし、世界は広い。あのサイズが二頭だけではないだろう」


 目の前にその例が居るしな。ヴィリアと同じ種族だと思うが……。だとしたら、あいつも人語を話すんだろうな。


「何人かで、あのドラゴンを見に行ってくれ。怪しまれない程度に、事細かに。あのドラゴンは鼻が利くし、耳が良い。決して口を開くことなく、見るに留めろ」


 ドラゴンに対して何の意味が? と言いたげな顔をしたが、全員、俺の言うことなのだから何か意味があるのだろう、とすぐに顔を引き締めた。


「じゃあ頼んだ」

「わっ、私もご一緒します!」


 そう言い駆けだそうとすると、アムニットも付いて来ようとした。


「こっちは大丈夫だ。誰も来なくていい。それより、さっき言った事を頼むぞ」


 アムニットや、同じくこちらへ付いて来ようとした皆を押しとどめ、俺はヴィリアの元へ駆けた。



 ヴィリアが居る新築の大型厩舎へ向かうと、ヴィリアの厩舎の前で飼育員が何人か中を覗いていた。


「どうかしましたか?」


 飼育員は後ろめたいことが無い様で、後ろから声をかけても特に驚くことなく振り返り説明してくれた。


「先ほど、ストライカー様のヴィリアが自分で柵を外して外へ出ていたもので……」

「それはご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません」

「いっ、いえいえ、そのようなことは。それに、空を見上げた後に大人しく中へ入り、自分で柵も戻したので我々は何も……」

「そうですか。良く言っておくので、どうぞ皆様はお仕事へ戻られて下さい」


 人間から見れば脱走をしようとしたが、一頭のドラゴンに対して割く時間がない様ですぐに作業へと戻って行った。

 周囲を見渡しても、飼育員は居るが話し声が聞こえるくらい近くには居ない。


「ヴィリア、分かっているみたいだな」


 厩舎の中へ入ると、ヴィリアは入って来た俺の方を見ていた。


「あぁ、分かっている」

「率直に聞くけど、あれはヴィリアの仲間か?」

「元を辿れば同じだろうが、仲間ではない。向こうが覚えているか分からないが、私は忘れた」


 親戚のおじさんみたいな扱いだな。


「ヴィリアと向こうのドラゴンは、どちらがカリスマ性があるんだ?」

「カリスマ性が何なのか分からないが、仲間(ドラゴン)を従える能力の有無で言えばどうだろうな。さっきも言ったように、覚えていない。ただ言えることは、ロベールが連れている者たちのドラゴンは私の下に付いている」

「なら良かった」


 ここで、皆のドラゴンの主導権が向こうのドラゴンにとられた何てことになったら大変なことになる。考えただけで恐ろしい。


「なら、向こうの力量とかも分からないな。どんな奴かも」

「すまないが、そういったことは分からないな」


 当たりを付けてもらうのも良いかも知れないが、それをすることで目が曇ってしまう可能性があったので止めておいた。

 人語を話すことが分かり、ヴィリアと近縁のドラゴンであると分かっただけ重畳だ。ドラゴンや、駆っている王子様。それに従う竜騎士(ドラグーン)たちを前に迂闊なことを言わない様に最大限の注意をさせなければいけない。


「ヴィリアは、竜騎士(ドラグーン)育成学校でたまたま俺のドラゴンになった。言葉を話せることを俺には言っていない、という体で頼む」

「それはなぜだ?」

「手の内を晒したくない」

「そうか。分かった。そういうことにしておこう」


 巨竜同士、主が居ない状態で近づく――近づけることは無いと思うが、こういった口裏を合わせる行動は早めにしておいて損は無い。

 向こうのドラゴンは人語を理解していることは確実なので、相手は遅かれ早かれ接触をしてくるだろう。

 どのような接触になるか、楽しみ半分怖さ半分といった感じだ。


7月2日 訓練学校→育成学校に変更しました。

     誤字脱字・文章表記のおかしなところを修正しました。

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