ニカロ王国竜騎士訓練学校
カグツチ国の運営については、その国に支店を置く商会達とも話し合われる。もちろん、決定権は俺の下についているイスカンダル商会にあるのだが、それほど大きくない商会が単独で全てを決定していては他の大商会の面子が立たない。
それに、封建体制を崩壊させる為にこの様な民主主義のような政治体制を敷いたわけではなく、ただ単に広く意見を求めなければ自分だけでは良い案が浮かばないと思ったからだ。
それに、現段階でいえば封建体制化で大商会とはいえ商人の意見が国政に影響を与えるのだから、結構真面目に考えてくれると思ったからだ。いや、思ったからだというが、実際に上手く動いている。
出し抜こうとする奴が出て来ると思ったが、皆が皆、全ての商会で利益が上がる様に真剣に領を――国を盛り上げて行こうと全力を出しているといっていい。
軍事面での責任者として、竜騎士の場合はフォポールに一任する。地上部隊は、カグツチ国としてはインベート男爵と男爵が指揮するアルトゥーラ傭兵団に任せる。騎馬騎士とのつながりはクラウスが居るが、今回はカグツチ国担当ではないので当てにはできないだろう。
ただ、情報の横流しに期待したいところだ。
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そして、俺は――俺と仲間は留学のためにニカロ王国へと向かった。
移動については、竜騎士は当たり前だがドラゴンになる。しかし、ニカロ王国までの道程は長く、途中でユーングラント王国などの、あまり仲のよろしくないまたはつながりがそれほどない国の近くを飛ばなければいけない。
一応、各国には事前に通達してあり許可を取っているらしいが、こんな世界ではその許可が末端まで通達されているのか不安になる。
こちらの兵力として、クラスメイトや俺の竜騎士部隊の人間以外に、帝国から派遣された聖竜騎士隊が随伴している。
合計で12頭のドラゴンで移動しているのだが、他国の上空を飛んでいるため、ほとんどの竜騎士は緊張している。その緊張がドラゴンにも伝わっているためか、全体的に動きがぎこちなくなってなってしまっていた。
予定よりも大目に休憩をとったほうが良いかもしれない、と思わせる程度には仲間の表情が険しくなっいていた。ドラゴンの為にも。
意外とストレスのかかる空の旅に、レレナを連れて来なくて良かったと思う。初めは、船で長旅をするよりも、ドラゴンで早めにニカロ王国へ入った方が良いと思っていたからだ。
そんな船組の連中は、竜騎士よりも先にイスカンダル商会の船に乗り込み帝国を出発している。
時間はかかるが、どちらかと言えば航路が開拓されている船の方が安全だろう。後は、嵐など外的要因が発生しない様に祈るだけだ。
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途中、ある程度交流のある国でドラゴンと竜騎士を休ませながら飛ぶこと
5日でニカロ王国へ辿り着いた。
ニカロ王国の国境手前付近で、ニカロ王国の竜騎士が護衛に来てくれたのだが、ドラゴン25頭でお出迎えと言うなかなかの歓待を受けた。
そして、すぐに竜騎場へと案内されドラゴンから荷物を下ろすことが出来た。
俺はヴィリアのお蔭で体力の消耗は最小限になっているが、他の竜騎士は――特に聖竜騎士隊は、使命の重大さにとらわれ過ぎているようで、かなり消耗している。
何度も俺とヴィリアが先頭を飛ぶと言っても聞いてくれなかったのだ。
それでも、入国手続きに来たニカロ王国の役人に対し挨拶をし、すぐに役所へと歩いて行った。きついはずなのに、頭が下がる思いだ。
そんな働き者の聖竜騎士隊は余所に、その他大勢の俺達はニカロ王国の兵士に連れられてドラゴンを休ませる厩舎へと案内された。
残りの聖竜騎士隊を先頭に、俺を含む留学生組と我がロベール竜騎士隊の二名が続いて厩舎へ連れて行かれる。
その様子を、兵士や竜騎士だけではなく、訓練学校の生徒たちといった様々な人間が見ている。
大国であるユスベル帝国の留学生がどれほどのものか見ているのだろう。逆の立場であれば、俺だって気になるから見ているだろう。
だから、彼らの期待に応えてやる。
事前に前を歩く聖竜騎士隊の人間には説明済みなのだが、時折こちらを見て、本当に大丈夫なのか確認しながら歩いている。
ここでドラゴンの説明になるが、ドラゴンで飛んでいる最中に居眠りをしてしまうと、ドラゴンは方向を見失って好き勝手に飛んで行ってしまう。
これは、地面を歩いている時も同じだ。誰かが手綱を引いて道を示してやらないと、ドラゴンは好き勝手に何処かへ行ってしまう。
それに、気に入らないドラゴンが居れば喧嘩を売りに行くこともある。
そんな自由奔放なドラゴンだが、俺達を見ている全員が驚きの目でドラゴンを見ている。
俺を先頭に全員が手ぶらだ。胸を張り、偉そうに先頭を歩く俺の後ろにはヴィリアではなく、他の皆がついてきている。その皆も手ぶらでだ。
ドラゴンは、というと、ヴィリアを先頭に一列になってお行儀よく後を付いて歩いている。
竜騎場には他にもドラゴンが居るのだが、そっちには目もくれず前を歩くヴィリアの背を追って歩いていた。
「ろっ、ロベール様ぁ~……。ちょっとこれはやり過ぎではぁ~?」
隣――というか、すぐ左後ろ歩くアシュリーが小さな声で言ってきた。
ミナが居ないので、今はアシュリーが護衛としてそば仕えをしている。ルーシーは最後尾で、三人を守る位置についていた。
「前を向いて歩け。ドラゴンは絶対に暴れないし、俺達は堂々と歩いていればいい」
「でっ、ですが、やはり他国で万が一と言うこともありますし……」
「万が一は、現時点ではない。ユスベル帝国ではなく、俺達は他の奴らとは次元が違うと言うことを見せつけなければいけない。ってか、アシュリーは俺のことを信じてくれていないのか?」
「そそそっ、そんな!? まさか!? おっかしなことを聞きますね、ロベール様は!? 私、ビックリしちゃって鼻でパン食べちゃうくらいですよ!」
キョドりながら、小声で強く反論するアシュリー。ここへ辿り着く前の休憩時に、これを提案した時はそこに居た誰よりも乗り気だったのに、こいつはいざことになるとビビるな。
しかし、周囲の視線が気持ち良い。どうやっているんだ、という視線から、事故が起こるぞ、という諌める様な視線まで様々だ。
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「こちらが、ストライカー子爵様の所有するドラゴン、ヴィリアの厩舎となります」
厩舎でドラゴンの世話をしている飼育員は、大きな厩舎を指して言った。
他の皆と違い、俺だけ少し離れた所に案内されるな、と思ったら、ヴィリア用の大きな厩舎があったようだ。
新しい木の香りが強いので、もしかしたら俺が留学する事を決めてから建てられた物かも知れない。
「良かったな、ヴィリア。新築だぞ」
新築の匂いって、なぜか分からないけど尿意を催すよね。今もちょっとブルッと来ている。
ヴィリアは出入口から頭だけを突っ込んで厩舎内をグルリと見渡し、ゆっくりとした動作で中へ入って行った。
「お気に召していただけたでしょうか?」
「えぇ。新しさと大きさから、わざわざ建てて頂いた様で――」
「ストライカー子爵様の駆るドラゴン、ヴィリアは大柄なことはニカロ王国でも有名ですからね。それを駆るストライカー子爵様は、竜騎士としてだけではなく、文化人や学者としても秀でた方だとも」
「ははっ。それは、褒めすぎですよ。私はただの竜騎士の候補生に過ぎません。色々な物を作り出せたのも、商人や職人など様々な人と交流があってこそ、です」
飼育員は話の種として言っただけの様で、俺の謙遜を聞いても特に何も返すことなく厩舎の出入口を丸太でふさいだ。
「ユスベル帝国とニカロ王国では、ドラゴンの扱いにそう大した差は無いと事前に聞いていますが、食べさせる物は国の位置的に海産物が多くなりますが、こちらのドラゴンも大丈夫でしょうか?」
「はい、問題ありません。肉も魚も好き嫌い無く食べる良い子なので」
「分かりました。では、後で食事内容の予定を書いた物をお持ちします」
「よろしくお願いします」
さすが、招かれただけあって貴賓の様な扱いだ。
皆と合流する為にヴィリアに別れを告げると、ヴィリアは頑張ってこい、と言わんばかりに口端を釣り上げた。
登場人物
アシュリー&ルーシー=ロベール竜騎士隊の竜騎士。ルーシーの両親は、カグツチ国に住んでいる。
6月18日誤字脱字、文章を修正しました。