畑作りと新しい産業
「これより、班編成を行う。1班は昨日に引き続き、開墾した畑の草取りと小石拾い。2班と3班は指定した荷車を使って、森に腐葉土を取りに行く」
ここで、俺の話を聞いていた全員から「腐葉土?」「なんだそれ?」と言った声があがった。
堆肥を知らない時点で、ここら辺は予測済みだ。
「腐葉土とは、落ち葉が腐って土となった物だ。森や山の地面は、黒くてフカフカした土だろ? それが腐葉土だ。あれには作物を育てるための栄養があり、また作物を育ちやすくする土壌改良効果もある。それを二班で協力して取りに行き、取ってきた後は、2班はそのまま腐葉土を取りに行く係、3班は農機具を使って運ばれてくる腐葉土を畑に鋤きこむ作業だ」
俺の言っている事を理解したのかしていないのか、手伝いに来ている全員はポケ~っとした顔で俺を見ている。
言葉では分からない事が多いのは仕方が無いことなので、特に何も言うことなく班編成を始める。
なお、人員は昨日の給金が効いたのか、家で畑作業を手伝っていた体格のいい子供も参加している。
体力に劣る者を畑の草や小石拾いに分け、体格の良い者を腐葉土運搬へ、どちらでもない者を鋤きこみに回し、2班3班を引き連れて森へと入った。
用意できた荷車は2台。一か所から腐葉土を取り過ぎないように注意し、それらを無理のないくらい積み込ませ移動させた。
1台に積み込めるのは、軽く見積もって150キロほどだ。一つの畑(1ha)には、35回分の腐葉土を運びいれなければいけない。
そして、家畜の糞を捨てている所の、自然と堆肥になっている所の土も同じ量を運んでもらう。
多いように見えるが、これでも少なすぎる。化成肥料が無いこの世界で、栄養分は堆肥だけだ。
極端な例だが、牛糞堆肥だけで化成肥料の役割を微量元素まで果たさせようとすると、1aに必要な牛糞堆肥の量は、何と10トンだそうだ。
こんな量を鋤きこむには、人力では無理だろう。それに、鋤きこんだとしても表面はほとんど牛糞化すること請け合いだ。
脱線はこの程度にして、明日は石鹸作りだ。
★
--翌日。
「それでは、ただいまから石鹸作りを行います。それほど重労働ではないので、魚油を搾ってもらった婦人部の皆さんにお願いしたいと思います」
家事の合間をぬってもらい集まってもらった、この町の奥様方に石鹸作りを説明する。
初めは、説明書を作ってあとは任せようと思ったけど、この町の識字率はとても低く全体で4%程度しかいない。何とか……、たぶん……、って人も合わせてだ。
それもそのはず。この町には学校なんて上等な物は無く、動ける人間は畑仕事か家事に勤しんでいる。
おかげで、この婦人部の奥様方は全員もれなく文字が読めない。おかげで、俺が懇切丁寧に教える事となった。
まぁ、石鹸を造れば自分の子供の下った腹が改善されるのだから、皆一様にやる気に満ちていた。
手を動かしながら、口で説明していく。
鍋に水を入れて火にかける。沸騰はさせずに、気泡が少し付き始めたくらいで火からおろす。
そして、もう一つの鍋に粉状にした灰を入れ、棒でかき混ぜながらお湯を注ぎ、十分撹拌できたら冷めるのを待つ。
冷めたら布で濾して、出た灰汁を5分の1になるまで煮詰める。
煮詰めた灰汁と魚油を混ぜて、弱火で焦げないように熱する。いわゆる炊き込み法と呼ばれるやり方だ。
無理やり感が否めないが、何とか鹸化してできた石鹸は、型にはめて冷やし固める。
一連の流れは思い返すと簡単だが、これには2日費やしているので結構疲れた。
出来上がった魚油石鹸は、香りはあまり良くないが洗浄と言う観点から見れば合格点の代物だ。
奥様方も納得の代物。でも、お高いんでしょ? いえいえ、俺が一括管理して値段の吊り上げができないようにしています。
他の住民が真似て作れないように御触れも出して、破った際は打ち首と言う結構な罰も付いてくる。
これによって、漁師が捕まえてきた油魚を婦人部が解体と精油・石鹸作成を行う。そして、彼らにはその働きに応じて給料が支払われる。
アラはぶつ切りにしてコンポストへ捨て、絞りかすは豚や鶏の餌になる。豚や鳥から出た糞は、堆肥化させて畑にまく。素晴らしいサイクルだと思わないかね。
完全有機肥料無農薬栽培は本当に安全か? と言う話もありますね。
私は、オーガニック信者ではないので、適宜化成肥料を使います。その方が、美味しい野菜が作れる気がします。
7月3日 誤字脱字を修正しました。
7月6日 脱字修正しました。