出発式
この度、書籍化する事になりました。
詳しくは、本日(1月15日)の活動記事をご覧ください。
最近は、俺がレレナやミーシャを引きつれて歩く三人連れがデフォだったが、今日は久しぶりに四人になった。
そして、少なからず問題となる。
何が問題かと言うと、ただの野盗討伐と言う話が、周りが何を思ってか大規模な作戦を行うと言う物になっている事である。
その程度であれば俺が「そんな事は知らない」と言うだけだが、俺の片腕的存在のミナが帰って来たことで、さらに周囲は確信めいた何かを確信してしまったようだ。
いわゆる警戒と言う物だが、学校の生徒だけではなく学校その物や軍隊など色々と警戒をさせてしまっているらしい。
ミナもやや変わってしまった雰囲気のせいで「何か物々しいですね」と反応するまでとなった。
我が竜騎士隊の戦旗を掲げて町に入ってきた騎馬隊が居る、と言うのは民衆の間でも話が広まっているらしく、ミナの顔を見ると町の皆から「お帰り」と言われていた。
しかし、不思議な事にミナは騎馬兵の修行をするために送り出したのだが、町の皆からは「見違えるようにメイドらしくなった」とさもメイドの修行に行ってきた様に言われていたのが印象的だった。
ミナもまさかそんな返答を貰うと思っていなかったらしく、若干ながら情けない顔になった。
食事も一通り終わると、後はイスカンダル商会に行ってミナと一緒に来たフレサンジュ家の方々との面会となった。
「御久しぶりです、ロベール様」
「どうもどうも、ロロッカさん。この度は、ミナだけでなく商隊の護衛してくださり、ありがとうございます」
「いえ、とんでもない。ロベール様がフレサンジュ家へもたらしてくれた富を考えると、この程度では草の葉一枚程度の重さも返した事にはなりません」
これは、ブレイフォクサ領の牧草地の貸し出しとその牧草を保存・発酵しておくサイロの建設、さらには去勢法の指導だ。
お蔭で抱えられる馬の数が増えた、とフレサンジュ家も大喜び。そして、俺もマシューで使われている輓馬の様な体格の馬を増やす手伝いをしてくれるようになったので大喜びと言った具合だ。
「それで、ミナから聞いたのですが、フレサンジュ家の皆さんも協力してくださるとか……?」
「はい。本家から言われてやって来ました。微力ではありますが、騎馬兵として機動力を生かした戦いができると思っています」
「なるほど、ありがとうございます。私の動かせる兵が少ないので、フレサンジュ家の申し出はありがたい限りです。長距離を移動してお疲れでしょう。あとで差し入れをさせていただきます」
ロロッカを含むフレサンジュ家の若い騎馬兵達は、俺からの差し入れの話しを聞くと湧いた。
これは、田舎からでてきた若者が、都会にはどのような美味しい物や珍しい物があるのか、と言うお上りさん的な喜びもあるのだろう。ならば、ここは皇都にしかないような美味い物や珍しい物を差し入れるのもありだろう。
「ありがとうございます。戦闘になればうちの若い衆も役に立つでしょう」
礼を言いなさい、とロロッカに促され、フレサンジュ家の若い騎馬兵達は一斉にお礼を言った。このノリが、良い試合をした後に後援会的な人達にご飯を奢ってもらった高校の部活みたいなノリなのが笑える。
「では、またあとで詳しい話を伝えに来ますので」
「えぇ、よろしくお願いします」
ミナの言を疑っていた訳ではないが、これでフレサンジュ家の騎馬兵の力を借りられる運びとなった。
あとは、騎馬騎士本部からどのような人材が送られて来るか――だ。
★
ミナとフレサンジュ家の面々が来てから一週間が過ぎた。
毎日のように最終調整と言う名目でやって来る騎馬騎士本部の人間にうんざりしながらも、ここで手を抜いては相手に好き勝手にやられてしまう、とグレイスに頼みイスカンダル商会から契約を専門に取り扱っている商人を寄越してもらい、その商人を傍らに置いての交渉となった。
やはりと言うか、書面に起こしてもらった内容を確認すると、カグツチ国に常駐している際の食事の支援については100%俺持ちだったり、その他武器に関しての修理や融通に関してもかなりの比重がこちらに傾いていた。
そんな馬鹿な話は無いと言いつつも、多少の比重調整を行った後に了承しておいた。
何たってカタン砦に食料を卸しているのは、イスカンダル商会を始めとするカグツチ国で商業国家を築こうとしている大商会達なのだ。
この一件で食料が少なくなり値上げをする事を伝え、向こう何ヶ月かはこちらの損失が賄え、かつ利益が出るまで高く設定しておく。カタン砦としては、カグツチ国に食糧を依存しているので交渉は行う事は出来るが、高ければ食料を含む物資は要らないとは言えないので、最終的にはウチから買う事になる。
これに関しては、どの商会にも通達しておくので一つの商会が安売りするような事は無い。
独占禁止法なんてないこんな世界だからできる荒業だ。恨むなら良くわからん理屈をこねくり回してきた、騎馬騎士本部の連中に言ってくれ。
他に上げるとなれば、商隊の護衛だろう。最近、カグツチ国にも港に限りなく近い何かが完成し落成式が行われた。お蔭で大型の船も来ることが出来るようになった。
しかし、カグツチ国は意外と海から離れているので、川を遡上できる小~中型の船も好まれている。これは運ぶ物にもよると思うが。
それで、なぜ商隊の護衛につながるのかと言うと、海路の開拓は問題なく終える事ができたが、陸路についてはこの様な大きな話になる原因ともなった野盗の問題がある。
海路を使用できない商人は必然的に陸路を歩くことになり、その街道の途中にある村々で休むなり食料を買ったりする。
その村々が無くなってしまうと行商が来なくなり、そうなってしまうと陸路としての街道が消滅してしまう。
そうならない為にもカグツチ国として、イスカンダル商会として色々と面倒を見ているのだが、今回は大規模な騎馬騎士と一緒なので、ここいらで本気のテコ入れをしようかと考えたのだ。
大規模になればなるほどそれらを護衛するお金がかかるので、面倒くさい申し出ではあったが、このことに関しては感謝しないでもない。
「それで、このチンドン屋の理由を聞こうか、ロベール」
登城禁止になったはずなのに、今回だけは特別だと言わんばかりに偉そうな奴に連れられてきた皇城の中庭の一角。そこで、俺はヴィリアから頭をグリグリと撫でられながら、酔っ払いに絡まれたような気分でヴィリアと話している。
「突然、話が転がって来たので」
何でも、出発式と言うのが行われるらしい。しかも、騎馬騎士本部主導の為、俺やその他の竜騎士はお供と言った形になっている。
確かにそう言った話を前面に出している訳ではないが、これを見た人に聞けばそうなるだろう。
俺としても寝耳に水状態だ。余りにも失礼な配置と、出発式などと言う戦争に行くときにしかやらないような行事をしては周辺国に要らぬ不信感を与える、と抗議したのだが騎馬騎士本部と竜騎士本部のお偉方から窘められる形で終了してしまった。
クラスメイトの竜騎士候補生達は初めてくる皇城に意気揚々と、まるでお上りさんの様になってしまっており、アバスを除いて自分達が失礼な扱いをされているなど夢にも思っていない様だ。
「話が急に来たとしても、それを捌くのが人間であるロベールの仕事であろう。まぁ、どちらにしてもやり込められる可能性は高いが」
どうやら、ヴィリアの中で俺の株が下がってしまったようだ。
「完璧に不利ですわ、これ。食料がどうとか、金はどちらが多く支払うとか交渉して、ほくそえんでる場合じゃなかった」
もう言っても仕様が無い話だ。抗議しても無駄だと言う事も理解したので、後はどう挽回するかにかかっている。
その挽回方法もかなり制限されており、戦旗持ちのドラゴンを始め、俺の代名詞でもある無騎手のドラゴンと連れだって出発式に出ようと思ったのだが、町中では危険であると言う事でNGがかかってしまった。
それでも、騎馬騎士本部の方で俺の事を信頼していないとかえって不味いのでは、との意見が上がったのか戦旗持ちだけは出しても良いことになった。ただし、騎手は乗せるように、と。
これではただの竜騎士になってしまうわ。
腹が立ったので、近くの絵画の商会へ駆け込み、コスプレ用の子供用甲冑とドレスも借りて、それらをレレナに着せて戦旗持ちに乗せた。
ドレスと甲冑は同時に着用する事など考えて作られていないので、微妙に着ぶくれしてしまった居るが、レレナの体は小さいので丁度見栄えが良くなった感じだ。
ミーシャも着たそうにしていたが、さすがにミーシャの分まで借りてくる時間は無かったし、そもそも竜騎士は一人乗りが基本なので、今回の俺の考えには合わないと諦めてもらった。
そして出発である。
町中を練り歩き門まで行くのだが、騎馬騎士達の勇壮な姿を見て民衆が歓喜を上げ、その後に続く竜騎士候補生達を見て歓声を上げる――その先頭には戦旗持ちに跨るレレナが居る。
恥ずかしいと言う理由から俺の黄色のマフラーを着用しているが、ドレス甲冑を纏った異色の竜騎士は、華やかであり可愛らしいらしく一気に歓声が大きくなった。
ドラゴンを駆る竜騎士は騎馬騎士以上に民衆との接点が少なく、見栄えとしては大変良いのだが人気としては騎馬騎士に劣る。
今回の件も騎馬騎士本部にしてやられた感があった物の、レレナの存在のお蔭でギリギリの所で持ち直した感じだ。
無意味に背負っていた肩の荷も下りて、民衆の中から手を振っているミルクちゃんなど娼婦の皆を見つけて手を振り返す余裕もできた。
しかし、その周辺に居る一般の若いお姉様方は、俺の後ろを歩いているフォポールへ向かって黄色い声援を上げている。フォポールもマリッタとの婚約が決まった事で気分が楽になっているから、爽やかな笑顔で手を振り返しているのが印象的だった。
町を抜け門と言うか関所を抜けると一旦解散となった。騎馬騎士はこのままカグツチ国へと向かい、竜騎士は足の速さから数日後に発つ事となる。
「ロベール」
「どうかしたか?」
竜騎士候補生達が各々帰っていく中、ヴィリアに小声で呼ばれた。
「まぁ、なんだ。良い予感がしない」
「同感だな。俺もだ」
何を企んでいるか分からないが、騎馬騎士本部は何かをしようとしている。
クラウスも色々と調べてくれているようだが、高潔派と呼ばれる俺に接触してきた騎馬騎士はなかなか手ごわいらしく何をしようとしているのか分からないようだ。
「余り気は進まないが、友――あぁ、友を呼ぼうと思う」
友達と言いにくい間柄なのか、ヴィリアは余り自信が無いような声で言った。
「ヴィリアの友達……?」
「いつも失礼だな、お前は。私にも友くらいいる」
「いや、それは前にも聞いたけど……」
アレはいつの頃だったろうか。確か、引きこもりの友達が居るとの事だったが……。
「もしかして、ヴィリアと同じ言葉を話せるドラゴンの事か!?」
「あぁ。さすがに、増え続ける言葉の利けない奴らの面倒を見るのは辛い。何かあった時にロベールを守れないのが一番つらい」
リットーリオが来るまでに、野良や野生のドラゴンを竜騎士が乗れるように調教しているのだが、それの基礎訓練はヴィリアにやってもらっている。
なるべく負担にならない様に気を付けていたのだが、やはり考えが甘かったようだ。
それについて謝罪すると、何を馬鹿な事をと言いたげに返され、ヴィリアの健気さに泣けてきてしまった。
「そんな事はどうでも良い。しかし、手数が大いに越した事は無い。だから、他の奴らより先んじてここを出て、私の友を呼び出したいと思う」
「俺も付いてって良いか?」
「当たり前だろう。お前が居ないと何も始まらない」
こうして、ヴィリアの友達を迎えに行く事が決まった。
登場人物
ミルクちゃん=ロンに化けている時に仲良くなった娼婦。娼婦とは思えない語彙と会話能力を持つ。
高潔派=騎馬騎士の皇帝陛下最高と考える派閥
ヴィリアの友達=ひきこもりらしい
1月16日 誤字修正をしました。