野盗問題2
大変お待たせして、申し訳ありませんでした<(_ _)>
ビュウビュウ、と寒風吹き荒れる皇都のとある塀の上で、横に居るアバスへ視線を向けた。
彼は軽装歩兵用の鎧を身にまとい、俺は風の子元気な子と言わんばかりに平然と立っている。
かわって、俺はと言うと竜騎士用の鎧にローブをまとい寒さに震えている。うん、真逆だな。
その風の子アバスは難しい顔をしている。
「難しいな……」
「えっ? マジで……?」
まさか断られるとは思わなかった。このことに多少のショックを覚えてしまう。
「フレサンジュ家に色々としてもらっている手前、断るのは本当に申し訳ないが俺達は傭兵じゃない。やっている事は野良仕事と変わらず、貴族の連中にはあぁだこうだと言われているが、フレサンジュ家は騎馬騎士と言う貴族の末席に居る。騎士位を与えてくれた主家はすでに居らず、今は国へ忠誠を誓っている。金に忠誠を誓う事はできないし、してしまっては今まで家が築き上げてきた信頼を損なう」
なるほど、そうか。フレサンジュ家は強固な一枚岩で、血のつながりも怪しいフレサンジュさんも含めて騎馬騎士をしている。
そのお蔭もあり、何かと問題の起こりやすい辺境砦などの警備も国から任されている。
国からの信頼もあっての仕事なのだが、貴族連中からはやっかみや出自などから何かと悪口を言われている可哀想な一族だ。
「とりあえず、人手が居るならインベートの親父さんに頼んだらどうだ? あそこは、元は傭兵一家だ。今は傭兵をやっていないだろうけど、伝手があるだろう」
インベート準男爵は、カグツチ国の近くにある領地を運営しているブロッサム先生の父親だ。
カグツチ建国後、インベート準男爵の治めるバルシュピット領の住人は、よくカグツチ国まで買い出しに来るようになった。
今のところ、バルシュピット領の人間に対して通行税などの課税を行っていないが、今回はその税の代わり的な事を言って紹介してもらえば良いだろう。
「でも、遠いな……」
皇都からバルシュピット領は遠い。もちろん、カグツチ国よりも近いのだが、それでもどんぐりの背比べ並の距離である。
そして何より寒いのだ。ヴィリアの背中は湯たんぽ並に温かく、全体的に暖かな膜につつまれているような感じがするのだが、一定の寒さはある。
「なら、インベートに言えばいいだろ? アルトゥーラ傭兵団なら帝都にも居るだろうし、インベートに頼んでおけばいいのを連れて来てくれるだろう」
「なるほど。ブロッサム先生を生贄に捧げて傭兵団の召喚か。良いな」
俺の不穏な物言いに、アバスは顔をしかめた。
「今から行くのか?」
「あぁ。善は急げってな。後は頼んだ」
なぜ俺達が塀の上に居るかと言うと、その原因は町の喧騒のせいだ。
今は皇帝陛下の誕生日月。警備が足りないと言う事で、竜騎士育成学校の3年生以上から希望者が募られ、町の各部署に配属されるのだ。
アバスもその一人で、バイト代とあるのか分からんけど内申点の為に今もこんな寒風吹きずさむ塀に立っているのだ。
俺はアバスを探しに来ただけなのでアルバイトはやっていない。借金が金貨5000枚分あるのでバイトでも何でしなければいけないのだが、この間、ストライカー侯爵に言ったら緊急支援で金貨3000枚が支給された。
行方不明の息子に加え、身元不明の賢者の弟子(仮)と言う存在が出て来たせいで色々と文句を言っているようだが、約束通りお金だけは払ってくれるらしい。
これで借金は金貨2000枚になったのだが、それでも多い事には変わりない。
そんな事は置いておいて、まずは野盗対策だ。すでに我が竜騎士隊の仲間達は実家から戻ってきているので、彼等に傭兵の指揮を執ってもらうのも良い。
考え事をしながら人ごみの多い通りを抜け、歓楽街を抜け、いくつかのドブ川のボロ橋を渡るとブロッサム先生が受け持っている地域に出た。
平民街だがほんの少しだけスラムに片足を突っ込んだような土地。スラムと言っても帝都のゴミ捨て場が近く不人気と言うだけで、そこまで治安は悪くない。
貴族関係者であればまず選ぶ事は無い警備地区だが、ブロッサム先生は準男爵の娘として下に見られており、ほぼ強制的に決められたそうだ。
俺が抗議に行こうとしたところ「あはは~、大丈夫ですよぉ」とスライム顔負けの軟体系返答をしてきたのだ。本人がそう言うのであれば俺が何かを言えるはずもなく、とりあえずブロッサム先生の鼻を抓むことで溜飲を下げた。
時刻は昼過ぎなので、金額の高い夜明け前から昼までの警備をしているブロッサム先生は丁度アルバイトの終わりくらいの時刻のはずだ。
――と、そんなスライムブロッサムを探しながら歩いていると、目的の人物はすぐに見つかった。
兵士詰所で日払い給料を貰ったからか、きんちゃく袋を覗きながらホクホクした笑顔で歩いていた。
「よぉ姉ちゃん。良い物持ってるじゃねぇか」
ガシッ、とブロッサム先生の肩に腕を回すと、それとほぼ同時にブロッサム先生は「ひぐっ!?」小さな悲鳴を上げて、持っていたきんちゃく袋をパンツの中に隠した。
「何だ、何だぁ? 今隠した物を見せろよ」
「なななななな、何の事ですかぁ? 私、何も持って無いですよぉ?」
ほらほら、と手のひらを前に出しでグーパーグーパーを始めた。何も持っていないアピールだ。
それを見せると役目は終わったと言わんばかりに歩きはじめようとするが、今もなお俺が肩を組んでいるので、体格で大きく劣るブロッサム先生は歩いているにも関わらずその場で足踏みをするだけになっている。
「なら跳んでみろよ。何も持っていなかったら、何の音もしないはずだろ?」
「えぇっ!? わわっ、分かりましたよぉ」
えいっ、えいっ、とパンツの中に隠したきんちゃく袋が動かないように内またで跳んでいるので不格好な上に怪しい事この上ない。
「ほら、これで分かっていただけましたね? それでは!」
再び、自分の役目は終わったと言わんばかりに歩き出そうとしたブロッサム先生の肩を強く抱いて進行を阻んだ。
本気を出したブロッサム先生の進行を止めるには、結構力を入れないといけないのだ。こんな小さな体のどこにそんな力があるのか不思議だが、親が親だけに素質があるのかもしれない。
「いやいや、君の役目はそれだけではないのだよ、ブロッサム先生」
名を呼ぶと、ブロッサム先生はチラリとこちらを見上げ、息を吐いた。
「なんだぁ~……。ロベール様じゃないですかぁ~」
ホッとした様子で無い胸をなでおろし、今まで胸前で組んでいた腕を解くと、今度は俺の腰に回してきた。
「おいおい、白々しいな。初めから気付いていたんだろ?」
「まさか、まさか? もう、恐い人に絡まれたのかと思って戦々恐々としていましたよぉ。今日は久しぶりに美味しい物が食べられると思っていただけに、それはもうどうやったらこの場から逃げられるのかと、頭の中でぐるぐるぐるぐると考えていたんですぅ」
嘘吐け、とは声に出して言うまい。代わりに、肩に回していた手をブロッサム先生の頭に回して締めつけた。
こう見えて、先も言った通り体は小さいが力は滅茶苦茶強い。肩を組んだだけであれば、ブロッサム先生にかかれば一秒ももたない。
その後はすぐに俺の所に来て、「どこどこで、こういった輩に絡まれた」と言うのだ。俺はその証言を頼りに話し合いに行くのだ。
これはただ単に慈善事業と言う訳ではなく、俺と言う存在のアピールに他ならない。最近は、世の為、人の為と動いているにも関わらず俺への評判が良くないらしいのだ。
だから、治安維持活動の様な事もやっている。お蔭で半傭兵半私兵の様な輩を町に配置していてもある程度、御目こぼしを頂けるようになったのだ。
「まぁ、今はブロッサム先生が男の臭いを嗅ぎ分けられるようになった話は置いといて、だ」
「酷い!」
酷いとは言っても、逃げていないのは俺だと言う事が分かって居たからだ。
「我がカグツチ領近辺では、野盗が非常に問題になっています」
「酷い!」
「なので、傭兵を雇おうと思っています。そこで、ブロッサム先生の伝手を使わせていただきたいと」
「なるほど、そうですかぁ」
ふむふむ、と俺の話を聞いたブロッサム先生は悩むフリををしたあと、思いついた様に言った。
「それなら、とても良い方法がありますよぉ」
「そりゃ、なんだ?」
「現在、学校では15歳を迎えた竜騎士を対象として、野盗の討伐作戦を行おうとしているんですよ」
「そんな話は知らんのですが……」
さっきアバスと話した時もそんな話にはならなかったし、アムニットやミシュベルからも話は無かった。
後者の二人は最近会っていないので仕方のない事だが、アバスから話が無かったのはどうしてだろう?
「それは、ロベール様はすでに統治領持ちどころか部隊指揮もしていますからぁ。私のような普通の竜騎士は、普段の授業ですらヒーヒーですからぁ、そんな生徒の為に竜騎士に実戦を積ませるための措置ですぅ」
「それなら、アバスは? あいつは、一年二年の時は準統治領を持っていたけど今年は何もやっていないだろ?」
「それわぁ、アバスさんがすでに騎馬兵として野盗討伐をしているからですねぇ。あまり学校へ来られないロベール様は知らないかもしれませんがぁ、アバスさんは兵士学校にも良く出入りしていて、兄弟のせいもありますが向こうでもちょっとは名の知られた騎馬兵なんですよぉ」
まさかの、アバス騎馬騎士疑惑浮上!
竜騎士だけには飽き足らず、兵士学校にも出入りしているとはその2!
前々から白湯を好んで年寄り見たいだの武士みたいだの思っていたけど、最近の奴の生き様は少々ストイック過ぎて引きますわ。
「それで、先生にクラスメイトを野盗討伐に使いたいって言えば良いのか?」
「そうですぅ。それなら余計なお金を使うことなく、野盗退治ができますよぉ~」
と、そこまでニコニコと笑っていたブロッサム先生の目が薄らと開かれ、怪しい光をまといだした。
あれは良くない事を考えている時の目だ。
「それでですねぇ。その討伐の時の竜騎士に私も加えてもらいたくてぇ」
薄らと開かれた目からは想像もつかなかった、極ごく当たり前の要求に拍子抜けした。
「そりゃ構わんけど、ブロッサム先生だからって贔屓はせんぞ?」
「いえいぇ~。名前だけの貴族の私じゃ、いくら選んでもらおうにも後回しになりますからね~。討伐隊に組んでもらえるだけで大丈夫ですよぉ~」
むふふ、と笑うブロッサム先生だが、一部を除いて本当にそれ以上の事は思っていないようだ。
「分かった。なら、ブロッサム先生も選ばれるように手を打っておく。なるべく、インベート準男爵領に近い所になるようにも考えておこう」
「ロベール様は、そうやって末端の人間の事も考えてくれるところが素敵ですぅ~」
肩に組んでいた俺の腕からスルリと抜け出したブロッサム先生は、そのまま俺と腕を組んだ。やっぱり、コイツは距離が近すぎるわ。
登場人物
ブロッサム・インベート=カグツチ国近くにあるバルシュピット領を管理する準男爵の娘。
同じクラスに双子の弟もいる。
12月1日 誤字修正しました。
12月9日 誤字修正しました。




