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展覧会で望まぬ出会い

物語の設定に関する事を、6月30日の活動記事に書いています。

齟齬が発生しないように、読んでいただければ幸いです。

 行きと同じく、帰りも皇都を経由した。初めて見る皇都にお上りさん状態のレレナはおっかなビックリと言った様子で町を歩いていたのだが、余りの人の多さや自分の家よりも大きな家がたくさんあり知恵熱を出してしまった。

 しかし、元来の体の頑丈さがあったからか夜には戻り、次の日の朝にはブレイフォクサ領へと飛んでも問題ないほどに回復した。


 皇都へ寄ったのは休憩と言う意味もあるのだが、レレナの漢前(おとこまえ)仕様の荷物にもう少し(いろどり)を加えようと思ったのだが、小物には興味がないらしく、また着飾るのも汚すから要らない、と言われた。

 必要であればその時その時に買えばいいだろう、と言う事になり今はブレイフォクサ公爵家の前に居る。


(おっ)きいお屋敷だね」

「残念。ここは(おっ)きな豚小屋だ」

「!?」


 紹介された屋敷が豚小屋だと説明されたレレナは目を大きく見開き、俺と屋敷の間を行ったりきたりした。


「ここには二足歩行をするブタさんが住んでいるんだ。豚の悲鳴が聞こえる部屋には近づいちゃいけないぞ?」

「ブタさんも出世したねぇ」


 本気にしているのか、それとも俺のジョークと分かっているのか、しみじみと感想を述べるレレナだった。


「おい、公爵家を豚小屋呼ばわりとは失礼きわまりないぞ」


 玄関前でフラフラしていると、背後から動きやすいスポーツウェアの様な半袖ハーフパンツのマリッタが立っていた。

 今まで走っていたのか肌には玉のような汗を浮かべ、呼吸も上がっていた。


「ごっ、ごめんなさい」


 自分が怒られたと思ったのか、レレナは俺の後ろに隠れてしまった。


「おいおい、あまり人ん()の子を虐めんでもらえますかねぇ?」

「私はお前(ロベール)に言ったんだ。こんなに立派な屋敷を豚小屋呼ばわりするなど……」

(がわ)は立派でも、中に住む人間が悪いんじゃ宝の持ち腐れだよな」

「ノッラ様も変わりつつある。現に運動をするようになってから心穏やかになり、血色も良くなり健やかに過ごしていらっしゃる」


 凄いなスポーツ。疲れれば煩悩を取り去る事も出来、さらには体力も上がる。しかもタダ。

 向こうの方で、メイドに肩を貸されて歩いている死ぬ寸前の様な(ノッラ)はきっと気のせいだろう。


「ところで、そちらの()は?」

「今日からここで働くレレナだ」


 俺の後ろに隠れているレレナを押し出すと、レレナはビクビクとしながら挨拶をした。


「はっ、初めまして。今日からお世話になるレレナです。マシューからきました」

 ふむ、とマリッタは頷いた後、レレナと向き直った。

「マリッタ・ヴィットナーだ。よろしく頼む。しかし、こんなに幼いのに丁稚奉公か。だが、ロベールのそばに居れば色々とためになる事を多く覚えられるだろうからな。無理をしないように頑張れ」

「はい!」


 貴族服を着ていないからか、レレナは必要以上にマリッタに怯えることなく挨拶をすることが出来た。

 後は、この屋敷の執事やメイド達と顔合わせをして、仕事を覚えてもらう事はその後になるだろう。



 磁器の展覧会&即売会まであと数日となった。

 レレナは思いのほかこの屋敷に慣れ、俺の身の回りの世話も問題なく行えるようになった。

 不安だった起床だったが、さすが田舎っ()と言うか、農作業や石鹸工場で働いていたのが功を奏し、夜明けと共に起きてすぐに仕事を始められる一人前になっていた。


 どういう経緯(いきさつ)か分からないが、あの我が儘なブタ――もとい公爵令嬢(ノッラ)とも仲良くなりダイエットの合間に良く話をしている所を目撃されている。

 それと、先ほどのノッラだが、運動とバランスの良い食事。それに合わせて体に植物オイルを塗ったくっての脂肪の絞り出しをしたことによりたったの2週間ちょいで見違えるほどのスリム体型となった。


 この脂肪の絞り出しだが、俺が昔見たテレビでやっていたのと同じ事――うろ覚えなので正解かどうかは分からない――をし、初めこそ女性竜騎士(ドラグーン)やメイドは信じなかったが日に日にスリムになっていくノッラを見て俺への評価を180°変えた。


 今日(こんにち)のユスベルでの美容法では、一応油を塗って保湿し肌の調子を整えると言う物もある。しかし、人の手で強制的に脂肪を動かして痩せさせると言う方法は存在せず、俺が言ってやって見せる事で美容新時代の幕を開けた。

 何が言いたいかと言うと、竜騎士(ドラグーン)の一人がこの方法を使いたいと言ってきたのだ。


 きちんと竜騎士(ドラグーン)としての職務を全うすることを条件として許可をだした。

実家の仕事は様々で、他の竜騎士(ドラグーン)の家はそう言った商売が得意ではないのか「俺も、私も」と言った言葉は聞こえなかった。

 話しは逸れたが、ノッラだ。何とか痩せる事ができ、展覧会(パーティー)に間に合わせる為にマフェスト商会で急いで作ってもらっていたドレスもつい先日届き、当時は5段を残して締める事ができなかったコルセットも装着することができたので、ドレスも問題なく着る事ができた。


 ドラゴンに乗る事ができる俺やフォポールは皇都へ飛んでいくことが出来る。しかし、ノッラはそう言った能力が無いので、前のりしてもらう為にこの屋敷にはもう居ない。

 同じく展覧会へ出席するマリッタだが、こちらはフォポールのドラゴンに相乗りするので実家へ連絡し服や小物だけ皇都へ先に送ってあるらしい。

 今回の件に関して、フォポールの父親でありエヴァン家の当主のセルマン・ドゥ・エヴァンから謝状が届いた。


 エヴァン家としてヴィットナー家のマリッタと婚姻を結ばせたいが、それには今まで以上の立場が必要になる。

 立場が要ると言われているが家同士の仲が良く、また本人同士も仲が良いので婚姻まで間近と言われているが、この世の中どう転ぶか分からない。

 そこに婚姻まで何手か飛ばせる荒業である、第一皇子の主催する展覧会へマリッタをフォポールにエスコートさせると言う話はセルマンにとって渡りに船だった。


 あれほど上級貴族のお遊びだのなんだの言っていたにも関わらず、自分に益のある話になってはすぐに乗っかってくる現金さにフォポールは呆れていたが、一方でそれも仕方のない事だと理解していた。

 またヴィットナー家にも俺自ら連絡を入れてある。マリッタが来た時に、お付きの執事からなんやかんやと書かれた手紙を貰ったのだが、その時は返信しないでおいた。


 そしてこの度、上司としてフォポールとマリッタの仲を取り持つ為に特別に雫機関への参加を認めた。今まで途中参加を認めてこなかった俺主催の雫機関に、特別と言う名目で参加権を与えたところ、来年からの参加だと思っていた先方も大層驚いていたそうだ。


 今まで途中参加や贈り物を受け取って来なかったのは、高潔や平等と言った名目ではなく周りの貴族の地位や動きが理解できていなかったからだ。

 竜騎士(ドラグーン)育成学校に通いだし、なおかつ貴族として活動するようになり、やっと最近、周囲の動きが分かるようになってきたのだ。

 これからは少しだけお代官様になってみようかと思う。



「本当に素敵な装飾ですわね」

「ミシュベルの好みが分からなかったからこっちで全部選んだけど、喜んでもらえたか?」

「それはもちろん! ギドーナ馬車なうえ、馬の種類も指定されているようですわね。とても高かったのでは?」

「皇子主催の展覧会だからな。俺一人なら構わず学校の制服で行っていただろうけど、ミシュベルに恥をかかせるわけにはいかないからな」


 そう言うと、ミシュベルは頬を染めながらはにかんだ。

 今着ている服は、冠婚葬祭なんでもござれな竜騎士(ドラグーン)育成学校の制服ではなく、新しくオーダーメイドした詰襟の制服だ。

 この世界でも詰襟に近いウィングカラーの服は在るのだが、俺のは学ランのそれだ。ただ、詰襟と言っても学ランと言った風情は無く、どちらかと言えば派手な軍服と言った方がしっくりくる。


 装飾はちょっとばかし派手だが、服の構造としては既存の近い物があるので、それほど奇異な目で見られることはないだろう。

 ――前にロベリオン第二皇子から貰った、あの気色の悪い服は学校の寮のベッドの奥深くに封印してある。あれは人の世に出してはいけない物なのだ。


「しかし、良い物を――と選んだのは良いが、ちょっと成金趣味に走り過ぎてしまったかもしれないな」

「ロベール様は、ユスベル帝国でも随一の注目の的ですから、このくらいやったほうが逆に()いと思いますわ。変にへりくだっては、他の者に示しがつかないでしょうし」


 俺の事をそれほど評価してくれているミシュベルには申し訳ないが、実はこの箱馬車の業者から馬の種類まで、全てはノッラが注文してきた物だ。

 そんな物は飲めない、とノッラには一般的な箱馬車を用意した。しかし、折角用意してくれた注文書なので俺が有効活用したのだが、どうやらノッラはそれなりにセンスが良かったようだ。


 コトコト、と揺れていた馬車の速度が緩くなり、今回の展覧会会場に到着した。このギナード馬車の良い所は、その質の良さから皇族や上級貴族の身内が使用しているため誰何される事が無い。つまり、スルーパスで玄関まで乗り込むことが出来るのだ。

 そして、玄関のすぐ近くまで寄せてもらえる。他の貴族や大商人も玄関には近いは近いが、それでも真ん前と言う訳ではないからな。


「っと――」


 遠くから玄関(こちら)へ向かってくるのはノッラだ。俺の乗ってきた馬車を見てどんな文句を言ってくるかと身構えが、エスコート役として来てもらったノッラの叔父さんと楽しそうに――いや、完全に皇都へ来た時のレレナと同じ、おのぼりさんの様な表情で煌びやかな展覧会会場を見つめながら歩いているので俺へは全く目もくれていない。


「さぁ、ロベール様。後が支えているので歩きませんと」

「そうだな。悪い悪い」


 中へ入ると、すでに異様な熱気に包まれていた。

 着飾った貴族や磁器を卸す商人――これは、ほぼ全てマフェスト商会かイスカンダル商会だが――に交じり、ニカロ王国の第六王女のパスティナや大使も居た。

 すでに誇るように並べられているニカロ王国製の磁器や、新しく生み出されたユスベル帝国製の磁器の前にはすでに人だかりができている。


 それに対抗するように並べられているマフェスト商会の磁器だが、他の物に比べて若干普通過ぎる物が災いして人はそれなりだった。うん、それでいい。

 しかし、一番げせんのは遮光器土偶の良さを分かる人間が一人も居ない事だ。俺の手自らあの細やかな細工を掘り上げるのはかなり辛かったんだぞ。せっかく、来場記念にミニ遮光器土偶を粗品としてプレゼントしようと思っていたのに。


「御久しぶりです、ストライカー子爵様。学校で会えなくなってしまい、とても寂しく思います。それに、ベルツノズ様もこんばんは」


 俺がやって来た事を目ざとく見つけたニカロ王国第六王女のパスティナは、お供の大使を引きつれて俺の元へやって来た。

 その呼ばれた名に引き寄せられてか、周囲の貴族達がどよめいた。


「御久しぶりです、パスティナ様。どうぞ、私への呼び方はロベール(・・・・)とお呼びください」

「ふふっ、ありがとうございます。改めて――ロベール様、この度はニカロ王国へ展覧会だけではなく即売会と言う新しい見せ方を提案していただき、大変ありがとうございます。新しい商品を紹介するだけではなく、その場で売る事により購入者に広めてもらうと言う新しい宣伝法に感服いたします」

「その場の思いつきだった事に対して可能性を見出したのは、そちらに居らせられる大使様とアドゥラン第一皇子様です。私はお二人の考えに乗っかったにすぎません」


 まぁ、このくらい持ち上げておけば大丈夫だろう。変にへりくだる必要はないが、あまり大きな態度を取って隠し玉を悟られてはいかんだろうしな。


「ストライカー子爵様。お久しぶりでございます。あの日見せて頂いた品とは比べ物にならない磁器が勢ぞろいしており、感服しております」


 分かり易い反応を。人が群がっているのはニカロ王国とユスベル帝国の磁器だ。うちにはチラホラとしか来ていない。

しかし、それでいい。今並べてあるのは、前とは違い流行に乗ってはいるが若干外した製品だ。最初からフルスロットルでは飽きられてしまうからな。


「しかし、他の物には今だ布がかけられていますが、あちらは?」

「展覧会が始まってからの面白い物でございます」


 そう、あの布がかけられたテーブルと壁に掛けられた大皿こそが本命である。この大皿には布がかけられておらず、一見ただのお皿にしか見えない。もちろん誰も興味を示していない。

 それから、パスティナ達とは数言話すだけに留めて次の人物の所へ向かった。


「こんばんは、マリッタ様。ご機嫌は如何でしょうか?」


 ニッコリ、と笑顔を浮かべながらフォポールと共に他貴族に挨拶をしているマリッタへ声をかけた。

 普段は呼び捨てで呼び合っている仲だが、こういった(おおやけ)の場ではどうすれば良いのか分からないので様付けで呼んでみた。

 しかし、マリッタは一瞬ギョッ、とした顔をした後、取り繕うように小さく笑った。


「こんばんは、ロベール様。この度は、お誘いいただきありがとうございます。可愛らしい淑女を連れられて、とても様になっていますよ」


 ヴィットナー侯爵家の人間に褒められたミシュベルは小さく笑いながら会釈した。

 竜騎士(ドラグーン)隊では上司部下の関係にあるフォポールにも、印象が悪くならない程度に挨拶をした。


「ロベール様。ご紹介させて頂いてよろしいでしょうか?」


 誰を? とは言わない。目の前に居る、先ほどまでフォポールとマリッタが挨拶をしていた貴族だ。


「頼む」

「はい。こちらはオーマス・ブルトン子爵様です。雫機関では最後まで選考に残っておられた方です」


 うん。覚えていない。最終選考は俺が関わっているのだが、これと言って印象に残っていないと言う事はそれほど作文が凄くなかったと言う事だろうか。

 しかし、フォポールがなぜ紹介するのか分からない。


「初めまして、ストライカー子爵様。いつも、当家のドラゴン高速便を使用していただき、ありがとうございます」


 あっ、めっちゃ近しい人だったわ。料金は高いが、確実だし早いしで良く使っている。

 だって、いつも高速便としか呼んでいないし、必要なときは支店の人間に言うだけだから社長(とうしゅ)が誰か何て気にした事なかったしね。


「これは、これは。いつもお世話になっております」

「いやいや、ストライカー子爵に使っていただき、お蔭で当家のドラゴン高速便の評判もドラゴンの急上昇並みに上がっております」


 ホクホクした顔を見れば、どれだけ儲かっているか分かると言う物。


「ブルトン子爵様は、ヴィットナー家とも懇意にしており、父上とはよく当て石(ゲーム)をする仲なんだ」

「いやぁ、お恥ずかしい限りですがトール様とはゲーム仲間でして、普段から良く腕を競い合っています」


 と、テレテレ話していたブルトン子爵だったが、次の瞬間には急に真剣な顔になり耳打ちするように言ってきた。


「このような時にお話しするのもアレなのですが、雫機関を凍結されていると言うお話ですが……」


 やはり、参加したい者としては気になるのか、ブルトン子爵は確かにこんな所で話す事ではない事を話しはじめた。

 ここはフォポールに華を持たせておくか。面白い話も最近聞いたからな。


「そうですね。聞き及んでいるとは思いますが、色々とありまして手が付けられない状況となっています。――が、最近、フォポールから再講してはどうかと言われておりまして」


 ハハハ、と軽く笑う俺に対し、言った覚えのない話をされたフォポールは他の人にばれないくらい小さく目を見開いた。


「徴税部のお話も蹴ったと言う事でしたが、エヴァン(フォポール)様は大変信頼されているのですね」

「我が竜騎士(ドラグーン)隊は、若者の集まりですからね。年長者の言う事は、なるべく聞くようにしています」


 そう答える俺に、ブルトン子爵は「なるほど、そういう事か」と納得した。

 農業技術を教える雫機関は、元を辿ればフォポールが勧めてきた物だ。またロベール竜騎士(ドラグーン)隊の副隊長と言う立場もあり、好き勝手に振舞う俺に唯一いう事を聞かせられる人物として巷で話題となっていた。

 それに拍車をかけたのが、今回の展覧会への出席だろう。本来であれば呼ばれるはずのない貴族であり、もし呼ばれたとしても当主である父親のセルマン伯爵の方だ。


 それに、フォポールを婚約者候補としているヴィットナー家のマリッタを引きつれてやって来たと言う事は、俺がフォポールの為に骨を折ったと言う事になる。

 つまり、皆の目から見ればフォポールは俺にとっての大切な存在となる訳だ、怪しい響きこの上ない。


「来年からは受講者の枠を増やそうかと思っています。しかし、他の方々から推薦があれば特別枠としてお話させていただきます」


 チラリ、とフォポールに目配らせをすると、すぐに俺の言いたいことを察したフォポールは口を開けた。


「こちらのブルトン子爵様は、大変義に厚く信頼できるお方です。ロベール様と必ずお話が合うと思います。雫機関へ参加できた暁には、必ず良き道へ共に進めると思います」

「そうですね。良く父とゲームをやっておりますが、常に朗らかとしておりロベール様には、色々と見習える人柄と思いますよ」


 あれ? マリッタは俺をディスってるのかな? まぁいいや。


「むっ……おかしな人間は入れられないと思い他の貴族からの評価で選ぶつもりでしたが、フォポールだけではなくマリッタ様からも勧められるとは……」


 まさかこの場で自分を勧められると思っていなかったのか、ブルトン子爵は表情こと変えなかったが、目が「頼む、頼む」と全力で言っていた。


フォポール(・・・・・)はこう言っておりますが、ブルトン子爵様は雫機関へ参加なさいますか?」

「はい、ぜひとも!」

「分かりました。では、名簿の一番に名前を書いておきますね」

「あぁ……ありがとうございます! マリッタ様、フォポール様、ありがとうございます」


 よほど雫機関へ参加したかったのか、ブルトン子爵は二人にお礼を言いまくっている。

 これでフォポールは俺に意見をできる人間として名を上げるだろう。貴族間で評価が上がればヴィットナー家――と言うか、マリッタとも問題なく結婚できるだろう。


 適当にその場から離れ、様々な貴族と挨拶をして回る。パーフェクト貴族フェイスのミシュベルはニコニコと愛想を振りまき、常に俺の隣で相手が誰なのかと説明をしてくれる。


「ふぅ……疲れた」

「お疲れ様です、ロベール様」

「しかし、ミシュベルは凄いな。誰がどこの誰々さんとかよく分かるよな」


 写真がある訳でもなく、毎日会っている訳でもない。会うとしたらこういった夜会だろうが、こんなに人が多い中で、よく顔が覚えていられるものだ。


「喉が渇いたな」


 すでに品は並べられているが、本格的な展覧会まであと少しだ。しかし話し過ぎて、展覧会前にすでに疲れてしまった。


「あっ、それじゃあ果実水を貰ってきますわね」

「悪い。俺が動くと皆が寄って来るからな」


 今はマフェスト商会の展示品へ目を向けて黙考しているふりをしている。話しかけるなオーラを振りまきつつ。

 そうしないと、俺の動きに合わせて先ほどブルトン子爵とのやり取りを遠巻きに見ていた貴族が寄って来るのだ。

 パタパタ、と胸もとを掴んで空気を送り込んでクールダウンしていると、後ろから声をかけられた。


シア(・・)……だよな?」

「ッ!?」


 昔から(・・・)聞き慣れた(・・・・・)名前を呼ばれ、驚き振り向いた。


「おぉっ!? やっぱり、シア(・・)じゃないか! そんなお洒落着をして、どこかの貴族に仕えているのかい?」


 そこに居たのは少し横着そうな少年の様な表情をした長身の貴族が立っていた。




 シア(・・)とは、俺の奴隷の時の名前だ。

 そして、目の前に居る貴族は、俺を奴隷として飼っていた伯爵家の息子だった。


レレナ=マシュー町長のガナンの娘であり、ファナの妹。ロベールの身の回りの世話をするために町へ降りてきた。


フォポール=ロベール竜騎士(ドラグーン)隊副隊長。マリッタと婚姻を結べるかの瀬戸際。


マリッタ=ヴィットナー侯爵家の令嬢。フォポールにエスコートされて、展覧会へ出席。


ノッラ=ブレイフォクサ公爵の娘。わがままであったが、マリッタと運動する事により心穏やかになったらしい。


セルマン・ドゥ・エヴァン=フォポールの父親。ロベール竜騎士(ドラグーン)隊を上級貴族の御遊びと言っていた。


オーマス・ブルトン子爵=ロベールが良く利用するドラゴン高速便を運営する、ブルトン家の当主。


トール・ヴィットナー=マリッタの父親。武より金を選んだため、父(マリッタから見れば祖父)に家督を譲られずにいる。


7月6日 誤字脱字修正しました。

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