停学
遅れました。申し訳ないです。
「私は、貴公の行いを残念に思っている」
皇城にある謁見の間。ここは、去年の暮れにカタン砦防衛戦の表彰が行われ、その際に俺が授爵し子爵となった部屋だ。
その部屋の上座には細かな飾りが施された大きな椅子があり、そこには皇帝陛下が深く腰掛けていた。
ここへ入ってきた時に見た皇帝陛下の顔にはやや疲れが見えており、それが俺のやった事の処理の為になったのか、それとも全く関係のない事でなったものが分からないが、顔と同じく声にもやや覇気が無かった。いや、落胆したようなダルそうな声だ。
「皆が皆、手を取り合い仲良くやってゆければ良いとは思うが、それが難しい事も理解している。しかし――しかし、だ。貴公の行った事は道理に反する」
うむ、道理か。どっちの事を言っているんだろうか?
「これについて、何か弁解は在るか?」
「面を上げ、答えよストライカー子爵」
促されて、下を向いていた顔を上げて皇帝陛下を直視した。
さてどうしたものか、と顔を動かすことなく視線だけで周囲を見渡すと、兵士だけではなく俺の処遇の行く末を見に来た一部の高級貴族が心配そうな顔で見ている。
そこには、対ブレイフォクサ公爵の戦闘に参加した貴族は居ない。彼らは、そこまで地位の高い貴族では無いからだ。
一応、前質問のときに、俺に協力した貴族は俺がやっている雫機関に優先的に参加できると言うエサを散らつかせて協力させた、と言うフォローを入れておいた。どこまでそれに意味があるのか分からないが、お蔭でそちらに向く目は大分減ったと思う。
「私は、常々帝国の行く末はどうなるのか、と気に病んでおりました。先の防衛戦では、不届きな輩が間者を招き入れるなどと言う真似すらしています。そして、今回はどうでしょうか。帝国貴族ともあろう者が、私利私欲の為に野盗行為をするなど許されぬ事です。私は、ユスベル帝国の貴族として、皇帝陛下から直接お言葉を頂き授爵させて頂いた者として悪漢を討伐したまでです」
何とか棒読みにならない様に、昨日から考えておいた帝国貴族としての心構えを言う事が出来た。
若いとは素晴らしい事だ。これが、歳の行った貴族が言ったのであれば腹に一物抱えた言葉と捉えられるが、若い――まだ学生の身分の俺が言えば本当に帝国を思って言っているのだと他の連中は捉えてくれる。
現にここに集まって傍聴している貴族の何人かが頷いている。
「確かに、ここ最近の帝国の様子には私も心を痛めている。だがな、貴公の行った行為が肯定されるわけではない。もちろん野盗行為は許されぬ事ではあるが、貴公の行った事もまた許されぬ事ではない」
皇帝陛下は――と言うか、貴族全体に言えるがアレだな。回りくどいな。さっさと結論を言ってくれれば良いのに、俺が何をしでかしたのか俺の口から言わせようとしているのがミエミエだ。
「答えよ、ストライカー子爵」
「!?」
皇帝陛下のありがたいお言葉を右から左へ流していると、先の話が俺への質問だったようで名前を呼ばれて驚いてしまった。
「私は自信をもって、こう答える事ができます」
一呼吸を置き、しっかりと不敬にならない程度に皇帝陛下の目を見て言った。
「私は何一つ間違った事はやっていません。私は自らの資産と、私へついてきてくれる人達の財産を守るために立ち上がったまでです。もし私の行動が間違っていると言うのであれば、私は私の考えや志に嘘を付けない性分であり、また私を認めてくださった皇帝陛下の顔に泥を塗る事も出来ないので、私は爵位を返還したく思います」
爵位を返すと言った瞬間、謁見の間に居る全ての人間が驚愕した。貴族の多くが爵位を持つ貴族から授爵して貴族となったのだが、俺の場合は皇帝陛下から直に授爵してもらったものだ。
それを返すと言うのは、そもそもそれこそが皇帝陛下の顔に泥を塗ると言う物だ。
「それは――本気に言っているのか?」
騒ぎはしたが、ここは謁見の間。皇帝陛下が話している最中に大声を出すことが出来る貴族は居なかったようで、この場で俺に何かを言う人間は皇帝陛下以外居なかった。
その唯一声を出すことが出来た皇帝陛下ですら、俺が爵位を返すと言い出すと思っていなかったようでかなり驚いていた。
「はい。私は私の意志を曲げる事はできません。そして、私は皇帝陛下が何に対して許されぬ事をしたと言っているのか理解できません。ならば、私は皇帝陛下の御心を理解できぬ未熟者。その様な者が皇帝陛下から授爵していただいた爵位を持ち続けるなど、それこそ道理に反する事だと私は思います」
子爵位を返すのは惜しいが、返すことで他の貴族から侮られればそれだけ隙を突くことが出来るようになるだろう。
それに、直であまり話したことはないが、この皇帝陛下は激しやすく、相手を簡単に切る様な人ではない。今も俺の言った事を考えているのか、驚きつつも考えを巡らせているのが見て取れる。
少なくとも、貴族席で嘲笑染みた笑みを浮かべている貴族何かよりもよほど考えている。
「――なるほど。貴公が判断したように、まだ未熟者の様だな。しかし、自らの意志と言う名の骨子を持ち、揺らぐことなく進む気概を持っているのも確か。ならば、私はユスベル帝国の皇帝として貴公に決を下す」
「はい」
「子爵位はそのままとし、貴公は自らのしでかした行為について理解し、それを償おうとするまでは登城を禁止する。合わせて、当主を失ったブレイフォクサ公爵領の運営を貴公が行い、残された公爵の家族を養う事」
マジかよ……。9割以上倒産に傾いた、いつ破産してもおかしくない会社の雇われ社長にする気かよ。
とりあえず、立て直す為に公爵の子供を奴隷商に売って日銭を稼ぎ、住民も何人かシベリア送りにすれば何とかなるか……? いやまぁ、冗談だけどさ。
「言っておくが、公爵の家族や領地の住民に害がおよぶことは当然の事ながら禁止とする」
冗談と言ったのに、勘が鋭いぜこの皇帝はよ。
しかし、考えようによっては今現在マフェスト商会にやってもらっている磁器の製造だが、珪石採掘地から結構近いので中継地点として開発すれば案外いけるかもしれない。
それに、アバスの実家であるフレサンジュ家からも近いので、この二つで提携していけば未来が見えるはずだ。
「他に何か意見がある方は居ませんか?」
今回の司会進行役が最後に問いかけると、貴賓席っぽいところから手が上がった。
ユスベル帝国竜騎士育成学校校長だった。
「彼は竜騎士育成学校でも特に稀有な才能を持った逸材です。ですが、此度の事は看過することができず、また他の生徒にも多大なる影響を与えている」
ちなみに、俺は――と言うかミーシャが学校で大問題を起こした。校長はその事を言っているんだろう。
ちなみに、その大問題と言うのはミーシャが間違えて獲ってきた大量の目玉だ。一つしかないパーツを持って来いと言ったはずなのに、よりにもよって見分けのつかない眼球を、敵を倒した証拠として持ってきた。
本来の契約であれば、違うパーツを持ってきた時点で評価されないのだが、騎馬隊の隊長クラスの兵士の目玉がえぐり取られている事から、仕方なしではあるがその分は支払いに応じた。
問題なのはその後で、ミーシャは評価されないと分かった目玉を近くにあったゴミ箱へ捨てたのだ。
そのミーシャが捨てたゴミを、学校の生徒が掘りだし中身を確認してしまった事から更なる問題へ発展した。ただ、俺はここで声を大にして叫びたい。ゴミを漁った変態が大問題だろう、と。
この大量の目玉(生乾き半腐敗)を見てしまった生徒は頭の調子を崩してしまったそうだ。
「学校として、彼は一定期間停学とする事に決めました。皇帝陛下が仰るように、彼は自らの行いを理解しておらず、またこのままでは再発する可能性がある。学校としても、皇帝陛下の裁と同じくするものとする」
つまりは、「ごめんなさい」するまで停学ね。やったぜ。
★
「ロベール卿、少しよろしいか?」
控室で待機させていた、皇城と言う場所にガチガチに固まっていたミナを回収してから城外へ出ようと歩いていると声をかけられた。
「えぇっと……確か、徴税部の」
1~2度くらいしか顔を合わせていない人物だったので自信が無かったが、どうやら当たったようだ。
「えぇ。ところで、次の雫機関の勉強会はどこで行う予定でしょうか?」
「先ほどの話を聞いていればお分かりの通り、学校は停学となったので勉強会は中止となります」
「それでは困るので、どこかで開くようにしてください」
「はっ?」
「国益を上げるのも貴族として大事な事です。ロベール卿の知識はロベール卿しか持ちえず、持つものは持たぬ者の為に与える義務があります」
「ハッ……」
余りにも勝手な物言いに鼻が鳴ってしまった。持たぬ者である市民に食料を与えたらどうだ、と爆笑してやりたいわ。
しかし、徴税部の人間は本気で言っているのか、俺の言質を取るまでは動かないと言う顔をしている。
「私自身が先ほど持たぬ者になってしまったので、今後どうなるかわかりません。それでは」
「それは些か無責任ではありませんか?」
「持たなくしたのは誰か、と言う事を思い出してください。それに、私には荷物が多くなりすぎました。それを処理する為に瞬き一回分の時間も惜しい」
それは、とまだ何か言おうとしている徴税部の人間の横をすり抜けて歩いて行く。さらに食い下がろうしない様に、俺のすぐ後ろにピタリとミナが張り付いた。
「これからどうしますか?」
歩きながら、背後に張り付いたミナがささやくように聞いてきた。
「まずはブレイフォクサ公爵領の財政がどんな物か把握する。お前は、予定よりも早いがフレサンジュ家に預ける事とする」
「はいっ!」
先の戦闘で、ミナの槍働きが良かったからかフレサンジュ家の当主からミナをメイドのままにしておくのは勿体ないと言う意見を貰った。
初めはマシューで働かせる事務用の奴隷だったが、今ではイスカンダル商会の人間が育ってくれたのでマシューでの事務一般はそちらに丸投げだ。
そこで俺の身の回りの世話兼護衛としてそば仕えをしているが、脳みそたらん娘のミーシャが居れば護衛は問題ない。あとは身の回りの――メイドとしての能力が無いのが問題だが、俺自身、元々自分の尻は自分で拭かなければいけない奴隷だったので問題はない。
なので、フレサンジュ家当主の勧めで騎馬騎士としてミナを仕上げる事となった。
本人も元が兵士学校騎士課程まで行っているので、この勧めには大層喜んでいたので良い騎馬騎士となって帰って来てくれるだろう。
「ロベール様、お忙しいところ申し訳ございませんが、少しお時間をよろしいでしょうか?」
「さっき暇になった」
城の外に出たところで、今度はイスカンダル商会の人間に声をかけられた。
その顔は焦りが見られ、間違いなく悪い話だと言う事が見て取れる。
「ありがとうございます。早速ですが、カグツチ|領では現在病気が蔓延しております」
「どういうことだ?」
「住民の多くが腹を下し、幼子は目が落ち窪むほど憔悴しております。酷い者となりますと、死に至っている者も何名かいるようです」
「急だな。毒か?」
言葉を聞き違えない為に平静を装っているが、心の中ではかなり動揺してしまっている。
カグツチ国では石鹸での手洗いとうがいを奨励している。それに、生水を飲まない様に必ず煮沸してから飲むように達しているので、守らなかった奴は出てきても多くはおかしくなることはないはずだった。
それに、あまり多くの人が入る事は出来ないがサウナも作り、水浴びだけでは落とせない垢も綺麗に落とす様にし、皮膚の健康にも気を使うように言っている。
「いえ、体調を悪くしているのは前からです」
「なんで早く言わなかったんだ!」
「申し訳ありません! ですが、ロベール様は先の戦に注力しなければならず、またカグツチ領の民も今は忙しいロベール様の手を煩わせたくないと申し出が相次ぎ、ご報告しようにもできない状態でした」
自分達で処理できない事を貯め込んでも仕方が無いだろう、と怒鳴りつけてやりたかったが、ここは皇城の近くだ。問題を起こしてはいけない。
それに、自分達で処理できないと言うのは俺も一緒だった。俺は医者じゃないから病状や効く薬草を知らないから、俺がいったところで変わらないだろう。
「対処はしているか?」
「薬師に依頼し、腹下し止めを作ってもらい随時運ばせています。他には感染症を考慮して隔離している状況です」
「止まったか?」
「止まったと言うか、発生源に振り分けがされているように腹を下しているグループとそうでないグループがしっかりと別れている状況です」
どういう事だろうか?
話だけ聞けば毒を撒かれたようにも取れるが、それにしては余りにもゆるい。食料は、畑からとれるようになった作物以外は皇都やその周辺から船で運ばせているため、そこに毒が入っていれば不特定多数の住民が病気になるはずだ。
そうすれば井戸に毒が投げ込まれたと考えるが、手動ポンプを地面にぶっさしているタイプの井戸なので毒を投げ込みようがないのだ。
「…………よし。とにかく薬に関しては多少苦しくても送り続けろ。あと、今日中にカグツチ領へ向かって飛ぶから、それまでに砂糖と塩を用意しておいてくれ」
「砂糖と塩ですか……? 塩は何とかなりますが、砂糖は少々難しいかと」
「何とかしろ。腹を下している人間は脱水症状を起こしている可能性がある。それさえ乗り切れば、薬を使わずに何とかなるかもしれない」
抗生物質の無いこの世界では、薬と言えば漢方の様な体の調子を整える物が一般的だ。その為に即効性は無く、そもそも薬と言うよりも栄養剤の側面が強い。
だから基本は本人の治癒力次第なのだ。それの補助として、俺は経口補水液を作る事を考えた。
「最低でも砂糖は塩の倍要る。無茶は慣れているだろう?」
イスカンダル商会は結構無茶な経営をしている。少しずつ大きくしていくはずの商会だが、去年できたばかりだと言うのに一年足らずで中規模の商会へと成り上がった。
手動ポンプまでは良かったが、石鹸や紙は安価である程度の質を確保した物を多く出しているので、それに伴い敵も出てきた。しかも、似た商品や誤解を生むような紋章・文句で売り出している商会や商人を武力で潰してきた。
商品を揃えるのと敵を倒すのは違うが、それでも簡単に「難しい」などイスカンダル商会に所属していれば言えないはずだ。まさにブラック的思考回路。
目の前のイスカンダル商会の人間も半笑いだ。
「分かったなら行け。時間との勝負だ。このままだとマフェスト商会に負けるぞ」
今の所、手を取り合っていると言っても商売敵だ。イスカンダル商会の能力と言うか、規模が小さいために対応できなかった磁器に関しての仕事がマフェスト商会に割り振られてしまった事に少なからず反感を抱いている者も多く居るらしい。
だからと言って割り振られたとしても対応できないのが分かっているため、イスカンダル商会の人間はそのどうしようもない怒りに似た感情を飲み込むのに必死だと聞いた。
あまり良くない発破のかけ方だと理解しているが、今は緊急事態なので仕方が無い。
「分かりました。すぐに掻き集めてきます」
カグツチ国にイスカンダル商会よりも早く大きな商会の建物を作られてしまった事が悔しいのか、今回に限っては奮起してくれたようだ。
商人は俺に挨拶すると、すぐに商会へ向かい走り出した。
「ミナ」
「はい。私も行きましょうか?」
「いや、いい。ミナには予定通りフレサンジュ家へ行ってもらう。俺が送る予定だったが、アバスを頼ってくれ」
「分かりました。御武運をお祈りしています」
戦いに行くものを見守るように、ミナは真剣な顔で言った。まぁ、病気と闘いに行くと言う点では同じだろうか。
★
夕暮れを過ぎ、ほとんど暗くなってしまった竜騎場にヴィリアが待機している。
その背には短時間ではあるが、イスカンダル商会の商人達が必死に集めた塩と砂糖が乗っている。他には船便で送るはずだった薬草も乗っている。
ヴィリアの背に乗っている品だけで、一体どれほどの価値があるのか考えるのも恐ろしいくらいだ。
「それでは、よろしくお願いします」
安全帯のチェックを行っていると、荷物を積み終えたグレイスが声をかけてきた。
忙しい商会長代理だが、この一大事に時間を縫って来てくれたようだ。
「任せておけ。一応、今回と同じ量の塩と砂糖は確保しておいて、次の船便で送る手配をしておいてくれ」
「分かりました。次の船便までには倍は手に入れられるようにしておきます」
「頼んだ」
今回の一件のせいで、皇都で販売している砂糖が一気に高騰した。元々、量も少なく希少価値の高い物だったので、市民には何の影響もないのだが俺の懐にはダイレクトアタックだ。
国から支払われているカグツチ国への給付金だが、そこから出しているとはいえ凄まじい勢いで金貨が減って行くのを見ると恐ろしさ以外ない。
「ミシュベルもありがとう」
「いいえ、構いません! ロベール様のお役に立てるのであれば!」
蒸留酒――つまり、消毒用アルコールもわざわざ作ってもらいミシュベルに持ってきてもらったのだ。
急だったので余り量を作る事が出来なかったが、随時作ってイスカンダル商会の船便に乗せて送ってもらうので今はこれだけでいいだろう。
「それじゃあ、後は頼んだ」
見送りに来てくれた皆に挨拶をしてヴィリアに跨った。
「夜通し飛ぶことになるが、頼んだぞ」
「グアッグアッ」
人語なしのドラゴンモードでヴィリアは答えると、滑走路を一気に駆けて空に飛びあがった。
★
「あれで本当に良かったのだな……?」
「はい。問題ありません」
皇城の東にある皇帝陛下の住む一室で、息子のロベリオン第二皇子は父である皇帝と静かに会話をしていた。
「彼とは知己の間柄であり、互いに限界と言う物を理解しています」
「そうか……」
ロベリオン第二皇子の話には余り興味がないのか、皇帝は静かに受け応えるとワインを静かに飲んだ。
その動きにはいささか精彩さを欠き、やや疲れが見えていた。
「私は前々から、アドゥランとお前のどちらに皇位を継いだものかと考えていた。アドゥランは金による国の強化を、お前は私と同じ武による国の強化を目指していた。私には金儲けと言う考えが余り良くわからないが、お前のこの度の話は失敗すれば諸侯の反感を買う――いや、すでに買っている行為であると理解しているな?」
「はい。重々理解しています。ですが、彼なら必ずやってくれると信じています」
今度は答えることなく、皇帝は再び静かにワインを飲んだ。
若い頃は軍を率いて先陣を切り、日々を戦場で生き抜いているような生活を送っていたが、歳をとるとともに体が重くなり、次第に動く事すら億劫となっていた。
それでも周辺諸国に火種がある内は国を守らなくては、と言う一心で動いてきたが、そろそろ体が動かなくなってきているので、2人の子供のどちらかに皇位を継がせようと考えている。
その内の一人であるロベリオン第二皇子が擁すロベール・シュタイフ・ドゥ・ストライカーと言う竜騎士育成学校に所属している生徒は、自分が若い時に居てくれればどれほど心強く、またどれだけの負け戦を減らせたかと思わせるほどの活躍ぶりだった。
そんな国士たるロベールに爵位を与え、更なる活躍を願っていたのだがそれもついこの間裏切られたのだ。
もとはブレイフォクサ公爵が手を出したと言う話だったが、ロベール程の手腕があればいきなり戦争をすることなく場を治める事ができたはずだ、と皇帝は考えた。
ロベリオン第二皇子も兵を貸し出す際に「野盗討伐の為」とだけ言われ、ブレイフォクサ公爵と戦争をするとは聞いていなかったそうだ。
戦争が始まってから、それを止める為にロベリオン第二皇子は事後承諾と言う形で、皇帝の名を使って近衛聖騎士団竜騎士部隊を派兵していた。その動きの速さは十分評価でき、事後承諾であっても問題はなかった。
だが、問題はそこからで野盗行為を行ったと言われるブレイフォクサ公爵に抗議ではなく、その初段階を全て取っ払って戦争まで行ったのがいけなかった。そこで帝国を通して抗議していればまだやりようがあったのにも関わらず。
それに、野盗行為をやったと言われているが、その証言はロベール竜騎士隊の人間のみで、証拠品は押収できなかった。そもそも、ロベール竜騎士隊のメンバー自体、副隊長を筆頭にややロベールを神格化している節があるので、言葉による訴えは信憑性に欠ける。
さらに問題なのは、ブレイフォクサ公爵は生き残る事ができたが、まともな会話は期待できないほど憔悴――と言うか、狂ってしまった。元から上手くいっていない領が、当主が居なくなってしまえば最早考えなくても分かってしまう結末以外ない。
そこでロベリオン第二皇子は皇帝にこう勧めた。
「ならば、問題を起こした本人に面倒を見させれば良いのです。彼には私からも言っておくので、悪いようには絶対にしないでしょう」――と。
旧皇都をただの寒村から一気に好転させた知識と腕が在るのなら間違いはないだろうが、それでは他の貴族からの批判が大きくなってしまう。
先ほどは証拠が見つからないと言ったが、それでもサロンなどの噂の流れは手を先に出したのはブレイフォクサ公爵であると言うのが一般的だった。
だと言うのに、傾いた公爵領地の面倒を見させては嫌がらせや罰以外の何物でもなかった。
それでも全てを任せてほしい、と言うロベリオン第二皇子の言葉の通りロベールに公爵領地の面倒を見るように言ったのだが、話は通っていたようで粛々と命令を受諾した。
公爵領再建の為の金はどこから出るのかと言う話で、ロベリオン第二皇子はロベールと懇意にしている商会を交えての相談を行ったと言う話を本人から聞いていたが、ロベリオン第二皇子から自分へ金についての話が来ていないところを見ると上手く言ったようだ、と皇帝は国庫を開かなくても良い事にやや安堵した。
竜騎士育成学校については、メインは学校の事を考えずに動きやすくするためだが、彼の残虐行為と護衛が起こした問題の鎮静化の意図もあったようだ。
徴税部からは「雫機関の勉強会を早期開講するように命じてほしい」と要望が上がってきたが、それもロベリオン第二皇子は問題ないと引き受けた。
自分に似ている、と今まで評価していたロベリオン第二皇子だったが、いつの間にか武だけではなく知も手に入れ頼もしくなったものだと皇帝は心の中で呟いた。
4月28日 誤字脱字修正しました。
ロベールがカグツチ領へ飛び立った後に、もう一つ話を追加しました。
4月29日 文章の一部を書き換えました。




