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介入

「ひぃっ、ひぃっ、ひぃいひひぃひぃひひひひひひひひ」


 突如現れた黒いドラゴンから馬に乗って逃げている最中、護衛対象であり自分達の総大将であるブレイフォクサ公爵から笑い声が聞こえ、親衛隊の兵士達は訝しげに公爵へ視線を向けた。


「如何なさいましたか?」


 親衛隊の隊長は笑い声をあげるブレイフォクサ公爵の隣に並び顔を覗きこむと、驚きに息を詰まらせた。


「ウッ!?」


 そこには焦点の定まらない瞳を(せわ)しなく周囲に向け、口角から泡を吹きだしている主が居た。

 顔色は土の様な色に染まっており、誰が見ても真面ではない事が分かった。


「公爵様! お気を確かに! まだ仲間が敵を引き付けております! 敵は竜騎士(ドラグーン)ですが、たかだか一頭! 我が公爵軍にとって敵わぬ相手ではありません!」


 そうは言う親衛隊隊長だったが敵の――ロベール率いるドラゴンが一頭だけとは絶対に思わなかった。

 ロベール竜騎士(ドラグーン)隊はロベールを含め11人だ。どのような編成で来るのか分からないが、一頭ではない事は確かだった。


「そうだぁ! その通りだぁ! このような逆境、このブレイフォクサの前では些末なこと! 我が息子と共に幾多の戦地を駆け抜けん!!」

「くっ――!」


 領地運営が傾きだした時から心労が祟り始め、20歳と言う男盛りの歳で長男が流行病で亡くなってからブレイフォクサ公爵は心を病み始めた。

 静かに、深く心を閉ざしていたかと思うと、今度は誰もかれもに当たり散らす様な突拍子もない行動を始めた公爵に対し、家人の誰もが関わりたくないと目を逸らした。


 しかし、心が穏やかな安定した時は昔の様に人当たりの良い優しい人物だった時と同じように行動しているため、幾人かは息子と本当の意味でお別れすることが出来れば元に戻る事ができると信じて公爵領の運営を行っていた。

 そこに最後の一撃を入れたのが、ロベールが行った雫機関での勉強会だった。


 やる、やらないと意見が二分したが、背に腹は代えられないと何より平常心に戻ったブレイフォクサ公爵の言葉により、少ない資産を切り崩してロベールに贈り物をしたが、あろうことかロベールはその贈り物を貰うだけ貰って音沙汰がなくなった。


 その贈り物をするときに資産だけでは足りず、貴族であるにも関わらず商会に頭を下げて金を借りた。

 その時の契約で、ロベール主催の雫機関に参加することが出来れば返済できると言う商人の言葉の元に書かれた契約条件の項に「参加できなければ即日返金せよ」ととあり、お蔭で動産全てが商会に持って行かれる事となった。


 そして、公爵は完全に心を壊した。今の公爵を動かしているのは、心を壊す直前に放った「ロベールは許せない。我が手でくびり殺してくれる」と意志を汲んだ周りの人間が動かしているにすぎない。騎馬騎士長が反対しているのを押し切る形で強硬派が開戦したのだから。


 それでも初めは、ロベールに関わり合いのある商会の荷を奪う事で損失分を補填しようとしたのだが、補填しきる前にロベールに見つかってしまったためこのようになってしまった。

 野盗に扮した兵が磁器技術の書かれた紙を持って帰って来た時はこれで家が持ち直すと歓喜したものだが、相手の方が一枚上手だったのだ。


 多数の貴族と仲が悪く、また国士と呼ばれる立場にあり皇帝陛下にも気にかけられている駆け出しの竜騎士(ドラグーン)が内戦を起こすわけがないと言う希望的観測も大いにあったが、それら全てをひっくるめて甘すぎたとしか言えなかった。


 奴には常識が通用しないのだ。

 そして、ついに現れた。頭上を通過する巨大な影が現れた次の瞬間には、目の前に巨大なドラゴンが降りたったのだ――。



「止まれ! 止まれぇぇぇぇぇ!!!!」


 俺の怒鳴り声に呼応するように、ヴィリアもひと鳴きしながら長槍を半円描く様に振った。

 槍の動きに人は驚き、馬はヴィリアの鳴き声に驚き止まった。

 親衛隊の兵士はすぐに馬を宥めると、ブレイフォクサ公爵を守るように取り囲み出し、俺へ向けて武器をかまえた。


「賊将ブレイフォクサ公爵を引き渡せば、お前たちの命までは取らないと約束する!」


 睨みつける敵の様子からこの交渉は早くも決裂。敵軍は最後の一兵になってもブレイフォクサ公爵を守る気概のようだ。

 犬同士の睨み合いの様に、誰かが一言でも声を上げた瞬間に決闘(殺し合い)が始まる様な雰囲気の中、場をかき乱す存在が現れた。


「グギャギャ!」


 俺達より二足か三足ほど遅れて戦旗を持たせたドラゴンが来た。そのドラゴンは地上に降り立つとヴィリアの隣に並び立ち、血で真っ赤に染まり兵士が突き刺さったままの戦旗を教えた通り高々と持ち上げた。


「何で戦旗持ち(あいつ)が来てんだよ。戦場(あっち)はもういいって事か?」

「戦旗は常にロベールの隣に掲げろと言っているから、その言いつけを守るために着いてきたんだろう。それに、あの風向きなら3頭だけで十分だ」


 「すでにあの戦場は決しているしな」と静かに付け加えた。

 本陣の親衛隊は壊滅。中央で戦っていた兵士達が戻ってきたとしてもすでに遅く、もし戻ってこようとすれば背中を討たれる形となるだろう。

 戦旗に刺さっている兵士はまだ息があるようで、ドラゴンが戦旗を揺らすたびに掠れた呻き声が聞こえた。


「ひぃッ!?」


 その地獄絵図に、ブレイフォクサ公爵の親衛隊の一人が小さく悲鳴を上げた。


「ドラゴンめッ!! その醜い姿を我が前に晒すなど、恥を知れ! 我が(つるぎ)の錆にしてくれる! さぁ行くぞ、息子よ!」


 両目をどっちつかずな方向に向け泡を吹きながら剣を抜き放つ公爵を見て、俺は戦旗に突き刺さった仲間を見た親衛隊と同じような悲鳴を上げた。


「真面じゃねぇ……」

「狂ったな。人間とは弱いものよ――」


 自分や仲間の容姿を馬鹿にされても、ヴィリアはキレることも無く哀れ者を見るような瞳で公爵を見ていた。すでに勝敗は決しており、覆ることの無い側の将がいう事など聞く気も起きないと言った様子だった。


「あっ、おい、無暗に近づくなバカ」


 膠着状態が続くと思われたこの場で初めに動いたのは戦旗持ちのドラゴンだった。

 異様な雰囲気を纏ったドラゴンに親衛隊は引き気味になるが、狂い引くことを忘れたブレイフォクサ公爵を守るためにも一定の距離から下がる事が出来なかった。

 ドラゴンは戦旗から一人抜き取ると鎧を剥がし、ブレイフォクサ公爵の前へ投げ転がした。

 そして、まだ戦旗に刺さっている方の兵士も抜き取ると同じく鎧を外し、今度は自分で食べたのだった。


「あいつは何をやっているんだ?」

「施しでもやっているんだろう。公爵(やつ)我々(ドラゴン)から見ても常軌を逸している」

「なるほど。最後の晩餐か」


 優しくも人から見て狂気に満ちた最後の晩餐だったが、それを喜ぶのはドラゴン意外にもう一人(・・)居た。


「おぉ! 良い心がけだ!」


 戦旗に刺さっている時は息があった兵士だが、今はすでに息を引き取っており冷たくなっていた。

 そんな死体を見ても親衛隊の兵士は誰も近寄ることなく見ているだけだったが、ブレイフォクサ公爵だけは、その死体をドラゴンからの貢物として見た。

 これは心の余裕から出たジョークではなく、手に負えないほど病んだ事から出た本音だった。


「お止め下さい公爵様!」


 気色の悪い笑い声を上げながら公爵は死体に近づいて行き、それを止めようと親衛隊隊長も同じく下馬して公爵を引き留めた。

 そんな公爵を見て親衛隊全員はすでに戦意を喪失しており、俺もその狂気にドン引きしてしまい戦う――公爵を殺す気も失せてしまった。


竜騎士(ドラグーン)が降りてきたぞ」

竜騎士(ドラグーン)?」


 死体に飛びつこうとする公爵に、それを止めようとする親衛隊隊長。そして、そのやり取りを見ている俺と親衛隊の兵士達。

 こんな阿鼻叫喚の現場に来る物好きは誰なのか、と周囲を見渡すと空に竜騎士(ドラグーン)の影が見えた。


「傭兵の竜騎士(ドラグーン)か?」

「まさか? あのドラゴンは我々の宿営地からずっとついてきていたぞ?」

「マジかよ……」


 こちらへ飛んできている竜騎士(ドラグーン)の駆るドラゴンには豪奢な鎧が付けられており、一目でロベール竜騎士(ドラグーン)隊のメンバーではない事が分かる。

 では誰か、と言う話になるのだが、ヴィリアの言によればフレサンジュ家の領地からずっとついてきていたようだ。

 数は2頭と少なかったが、明らかに普通ではないいでたちに警戒した。


「何で教えてくれなかったんだよ」

「お前の仲間かと思ったんだよ。すまんな」

「――あぁ、俺の方こそ悪い。お前が俺に対して不利になる事をするはずないよな。相談不足だった。すまん」


 今回の作戦は秘匿性が高い訳ではない。しかし、ヴィリアに対して必要事項だけ申し渡しするだけで他の事に対して――作戦に参加する人数などは言っていなかった。

 そうであるにも関わらず報告しろと言う方が無理である。

 しかし、ヴィリアは気にするなと言った感じに軽く笑うにとどめた。


「我々の真ん中に降りるつもりだな」

「距離をとるぞ」

「引く――と言うのか?」

「怪我をしたくないし、ヴィリアにもしてほしくない。相手が誰か分からないし、相手の技量も分からない。それに、こんな状況で突っ込んでくるのだから、まず普通の竜騎士(ドラグーン)ではないだろう」

「なるほど、それもそうだ」


 ヴィリアは俺の言う通り前を向いたまま静かに後退した。それに合わせて、戦旗を持ったドラゴンも後ろへ下がった。

 それを待っていたわけではないだろうが、上空を旋回していた竜騎士(ドラグーン)達は俺とブレイフォクサ公爵との間に降り立った。


「我々はユスベル帝国近衛聖騎士団である! 双方、剣を収めよ!」


 一頭は俺の方へ、もう一頭はブレイフォクサ公爵達へ顔を向け自らの所属を名乗った。

 豪華な鎧を着けている事から良い所の竜騎士(ドラグーン)であることは間違いなかったが、まさか近衛聖騎士団だとは思わなかった。

 その突然の来訪者に、ブレイフォクサ公爵の親衛隊も驚いていた。


「そちらに居るのは、竜騎士(ドラグーン)育成学校所属のロベール・シュタイフ・ドゥ・ストライカーでよろしいか?」

「えぇ、そうです。それで、貴方がたのご用件は?」


 あくまでも落ち着いて、こちらには何ら非難される云われは無いのだから、と自らに言い聞かせながら近衛聖騎士団と話をする。


「内戦を始めたストライカー子爵(・・)を止めるように、と皇帝陛下からの勅命です。従わない場合は、全兵力を以って止めよとの命令も受けております」


 逆らう事は許されない、と言う事か。これは本格的に介入をしてきているな。


「主戦場は向こうですが、そちらにも?」

「えぇ、すでに仲間が行っています」

「こちらへ来るのはずいぶんと時間がかかったようですが?」

「ストライカー子爵とブレイフォクサ公爵が一触即発の状態となっていると言う報告が上がり、皇帝陛下直々に止めるように命令が下されました。これでも急いできたくらいです」

「それにしては、ずっと我々に張り付いていたようですが? 空からここへ降りてくるのは、それほど時間がかかるものなのですか?」


 気づいているとは思っていなかったようで、近衛聖騎士団の騎士はピクリと頬を引きつらせた。

 しかし、皇帝陛下直轄の近衛兵であり祭典にも狩り出される兵士だからか、それ以上の顔の動きは無くすぐにすまし顔になった。


「確かに、こちらへ到着できた(・・・)のは十数分前です。しかし、それは状況を確かめる為のもの。状況が分からないまま戦場へ飛び込むなどやってはならない愚行です」

「なるほど、確かに。宿営地(・・・)も戦場と呼べなくはないので、確かに降りる事は愚行ですね」


 私はそうは思えませんが、と軽く笑いながら続けると、近衛聖騎士団の竜騎士(ドラグーン)は再びすまし顔が崩れた。

 先ほどは自分達が降りてくる少し前から戦場の様子を(うかが)っていたから、今はそれ以上前から張り付いていた事にすら気づいていた事に対しての驚きだ。


 もちろんヴィリアが居なければ近衛聖騎士団の言を信じていただろうし、それに対して急いで対策を考えなければいけなかった。

 後手後手に回る事だけは避ける事が出来たようだ。


「それで、どうしますか? 貴方はブレイフォクサ公爵様に対して言い分があるのでしょうが、皇帝陛下はそれをお許しにならない。それでも(つるぎ)を収めないのであれば、それ相応の対処をしなければなりません」


 近衛聖騎士団の竜騎士(ドラグーン)は、手に持つ長槍を少しだけ持ちかえた。それに呼応するように、駆っているドラゴンが唸り声を上げ始めた。威嚇である。

 若くは無いが年老い過ぎてもいない。一番ドラゴンとして体力的にも経験的にも良い時期だ。


 それに対し、ヴィリアは牙を見せながら唸り始めた。地響きのような唸り声に、普通のドラゴンならほんの少しだけでも威圧され下がるものだが、近衛聖騎士団のドラゴンは一味違うようで引き下がるどころかさらに唸り声を強めた。


「大丈夫だ。相手にするまでもない」


 近衛聖騎士団の竜騎士(ドラグーン)に聞こえない様に頭を撫でながら囁くと、やや憮然とした態度ではあるが唸り声を止めた。


「抵抗の意志は無い、と言う事でよろしいですか?」

「国に対して喧嘩を売るつもりは在りません。私の敵は野盗です」

「そこも含めて、全てこちらで対応させていただきます。貴方は我々と来てください」

ブレイフォクサ公爵(あっち)はどうなるんですか? 野盗をわざわざ見過ごすなど私にはできません」

「それを含めて調査します。此度の戦いはこれで終わりとなります」


 とり付く島もないとはこのことか。有無を言わせぬ物言いにイラッとはするが、今の俺の戦力で帝国に対抗することはできないので大人しく従うしかない。

 それに、俺の方についてくれた貴族たちの事もあるので、そこも含めて個人的な感情でこれ以上動くことはよろしくない。


 ブレイフォクサ公爵を討てなかったのは痛いが、すでに人として機能していないのでまぁ良しとしよう。しかし問題なのが、ドラゴンが人を食っている所を近衛聖騎士団の人間に見られたことだ。

 戦闘中に人を(かじ)る程度や身内が見たくらいなら何とでもなったが、戦旗に刺してお弁当感覚で持ち歩かれたのを止めさせればよかった。

 とにかく、今は従うしかなかった。



 竜騎士(ドラグーン)育成学校にあるサロンの一角に陣取っているのは、とある人物を中心として集まる事はあるが、このパターンは珍しいと注目を集める人物だった。

 ミシュベル・アムニット・アバスの三人だ。


 ミシュベルとアムニットは戦争に参加していなかったので、その顛末を知るためにアバスを捕まえてここへ連れて来たのだ。

 アバスもあの戦争の後、極度の疲労から丸一日眠ってしまい、また帝国から少しの間自宅待機をするようにと言うお達しがあったので学校に来ることができず、それもミシュベルの機嫌を損ねる理由の一つとなった。


「そうでしたのね。それでロベール様が」


 やり過ぎた感は否めないが、それでも売られた喧嘩は買わなければいけない貴族としてただしい行動をしているとミシュベルは評価した。

 ただロベールはその存在が大きく、また影響力があったので目を付けられていたのが問題だったのだ。


「では、ロベール様はどうなってしまうのでしょう……」


 心配そうに視線を下げるアムニットに対し、ミシュベルはフンッと鼻を吹いた。


「どうにもなりませんわ。ロベール様がこの程度の事でどうにかなるのでしたら、そもそもあれほどの事はしませんわよ」

「そうだな。現にロベール擁護の為に貴族が動いていると言う話を聞く。商人もロベールが後ろ盾をしているイスカンダル商会と変わらぬ取引をしている所を見ると、今日明日どうこうなる訳じゃないだろう」


 ミシュベルとアバスはそれぞれ違う方向に信じる根拠があるようで、二人とも問題ないと答えた。

 この二人が言うように、貴族達の間でも話が大きくなっている割にはそれほど問題視されている様には見えなかった。


 それは、皇都に連れてこられたブレイフォクサ公爵を少しでも見てしまった人間から漏れた話と、雫機関で放出されている技術がそれら全てを黙らせているからである。

 自分の利益だけは何としても守ろうと言う、商人とは違うベクトルの利己主義によって守られている部分も大きい。

 それに合わせて、ロベールの知識は帝国に対しても非常に有益であるため、知識を有しそれを払い出して続けている間はこの程度の問題は問題ないと捉えている。


「ですが、もし見限られてしまったら……」


 それでも心配なのか、アムニットはポツリと呟いた。


「あのねぇ、アムニット。貴方のお父様は今一番何に力を入れていらっしゃいますの?」

「えっと……それは……」


 モゴモゴと入れ歯のとれたお年寄りの様に口を動かすだけで言葉の出ないアムニットに、ミシュベルは溜め息を吐きながら続けた。


(わたくし)の家にロベール様が「ニカロ王国の磁器を見せてほしい」と来た時がありますわ。どう考えてもアドゥラン第一皇子が考えている、ニカロ王国との技術交換に手を出そうとしているんじゃありませんの」


 商売の事を話すことはできないのだろうと察したミシュベルは、すでにマフェスト商会が何に向けて動き出しているのか当てて見せた。


「予想ですが、すでにロベール様はニカロ王国からこちらへ渡されるであろう技術を予想し、それにお金がかかるものだから貴女のお父様に声をかけたのではなくて?」

「そっ、そうです。余り詳しくは話せないけど、父はこのことに関して新規部門を立ち上げて今は人材育成に注力しています」


 ヒントはあったのだから当てる事も可能だった。しかし、それはロベールと言う人物を知っているからこそできた予想でもある。


「しかし、まさかロベールが停学と登城禁止になるなんてな」

「加えて監視つきだそうですわよ。本当に馬鹿みたい」


 面白くなさそうに鼻を鳴らすミシュベルに、アバスは眉をピクリと動かした。


「それはどういう意味だ?」

「きっとこれ以上技術を餌に貴族を呼び寄せ発言力が大きく成らない様にとの考えで停学にし、城仕えの人間とも接触できない様に登城禁止にしたんでしょうけど、その程度で止まる方ではありませんわ。停学になったことを、これ幸いと今迄以上に大きく動き出しますわ。それに、下手したら監視何て物ともせずに動きますわ」

「さすがに……」


 それは無いだろう、とアバスも言い切れなかった。

 ロベールがどれほどの知識を持っているのか分からないが、本当に知識拡散を抑制したいのであれば学校に通わせて忙殺するのが一番手っ取り早く監視の目も多く良いはずだ。

 それをしないと言う事は、また別の理由によるものなのか。それを判断するには、まだ判断材料が足りなかった。


「ところでアムニット。磁器技術に関して、ロベール様はニカロ王国にどれだけ近づくことが出来そうなんですの?」


 無理に答える必要はありませんことよ、と言うが、すでにミシュベルはロベールの行動を理解していたので言っても問題ないと判断したアムニットは口を開いた。


「個人の技量についてはまだまだ不安要素が多く残るけど、技術に関してはすでにニカロ王国は凌駕(・・)しているみたい……」


 個人の技量とはつまり経験だ。それ以外の磁器技術がロベールの伝えた内容なのだろうが。予想以上の答えが返ってきたため二人は絶句した。

 ある程度は磁器の本場であるニカロ王国に近づくことが出来ているのだろうと思っていたが、すでに凌駕しているとは思っていなかったのだ。

 帝国が恐れる訳だ、と三人で天井を見上げた。


4月12日 誤字・脱字修正しました。

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