唐黍
雪の時期はマシューへの道は冬季閉鎖してしまうので石鹸の入荷が滞り、一時的ではあったが安価な石鹸が高騰した。
春の開通までは商品の余裕があったはずなのだが、皇帝陛下の誕生日フィーバーで来た他領の商人たちが一斉に買占めに走った事が原因だった。
商人には買占め防止の為に何割か上乗せした料金を支払わせていたのだが、それを今後高騰すると勘違いした皇都の住民もこぞって買占めに走ったのだ。
誕生日フィーバーが終われば皇都も落ち着きを取り戻し、すぐに商人も居なくなることは分かっていた。だから、皇都住民には高騰時に買占めに走らないように周知させていたはずだが、そこにつけ込む悪徳商人も多数存在した。
イスカンダル商会の支店を名乗り、日干し煉瓦を石鹸と偽り販売した商会も多数現れる事態となった。
民間人を取り締まる帝国軍の衛視隊は誕生日護衛に狩り出されており役に立たなかったので、そこは俺自らが指揮を取って取締りに行った。
内容は簡単。傭兵を20人ほど雇い、その内の10人に破城槌を抱えさせ支店を名乗る商会や商人を検分して回った。悪徳商会とは面白い物で、俺が傭兵を連れて検分に回りだすと途端に扉を閉めて休業するのだ。
素直に開ければよし、開けない場合は破城槌を使って強制解放させた。
下調べは事前に済ませていたので、間違えて無関係な商会・商人を取り締まりに行くことはなかった。そして、それら商会と商人に対しては売って儲けた額+αのお金を強制徴収し、足りない時は家財道具一式を売り払って金を作らせた。
皇帝陛下の誕生日前にそんな大がかりな事件を起こせば、誕生日護衛に忙しい衛視隊どころか衛兵もやって来て大事になる。しかし、こちらの言い分が正しく、かつそれらの商会・商人は前々から問題を起こしていたので俺の行動は必要悪として無視された。
最終的には結構な金額が手に入ったが、それでも全体の3割ほどしか回収することが出来なかったのが残念だ。
本当ならその金全てをポケットへとねじ込みたかったが、イスカンダル商会の後ろ盾をしているからとはいえ、さすがに無理やり回収して回った金をポケットに入れるのは外聞が悪かった。
なので、その足で光燐教会へ行き回収した金を全額寄付してきた。ついでに破城槌も。不法投棄じゃないよ?
それだけ市民に圧倒的シェアを持っているイスカンダル製石鹸の製造所に今俺は居る。
★
「凄いな、本当に第二工場まで作ったのか……」
「はい。冬の間は皆で製材して、雪が薄くなると共に建てはじめました。前回、ロベール様がいらした時はまだ土台だけでしたね」
そう説明してくれたのは、この石鹸工場の責任者の女性だ。
彼女には、俺が前回マシューに来た時に「第二工場を作っても良いか?」と申し出をされていた気がする。その時は偽物騒ぎが終息すると共に、カグツチ国を建国するに当たり奔走していたので、「やれるのであればやってくれ」程度の返事をしていた気がする。
全てが人力で動いているこの世界で家事の合間にも暇は無く、また男女関係なく何かしらの仕事に付いているはずなのだが、給金が貰えると言うのと経営者が俺だからだそうだ。
なので、第二工場は有志が集まり暇を見つけてはチョコチョコ建設していったらしい。それは嬉しいのだが、タダ働きが当たり前になってもらっては困るので仕事量に対して給金を出そうと思ったが断られてしまった。
向こうの言い分としては、マシューをさらに発展させるための先行投資だそうだ。文字や計算を半強制的ではあるが習わせるようになってから難しい言葉を使えるようになっていて驚いた。
「住民としてマシューの発展を考えるのは当たり前だろうし、それが作れば作るだけ売れる物なら仕方のない事だろうが、作業員の体調だけには注意してくれ。せっかくいい仕事が見つかっても体を壊しては意味が無いからな」
「はい。前にロベール様が仰られていた「体調チェックシート」や「布マスク」の着用を義務付けています」
良く聞いているな。そう言った福祉に関しての物を充実させなければと思っていたが、言う前に行動してくれたようだ。
「ところで、胃痛メイドの様子はどうだ? 無事か?」
「はい。そのメイドが面倒を見ている子供達も家の子たちと仲良くしているようで、病気や怪我の心配もなく健やかに過ごしていますよ」
「そうか。――分かった。無理をしないように気を付けて作業をしてくれ」
「わかりました」
そう言い残し、第二石鹸工場を後にした。
胃痛メイドとは、ラジュオール子爵の子供達を拉致した時に一緒に付いてきた世話係のメイドだ。初めは怪我をした野生動物の様に周囲に対して敵意を振りまいていたが、状況に慣れると共に大人しくなりマシュー住民に心を開くようになった。
すると、張っていた気が弛緩したのか風邪をひき、様子を見に来た俺が皇都の薬師に薬を買いに行くと言うトンボ帰り事件まで起こった。まぁ、これは必要な事だけどね。
ラジュオール子爵の長男は初めマシューを舐め腐ったような態度だったが、一般家庭ではどれほど自分が役立たずか分からせることで素直に言う事を聞くようになった。次男・三男は幼く素直だったので、マシューの子供達とも仲良く遊べている。
預かっている最中に怪我や死亡事故を起こしてもらっては困るので、城子屋で勉学に励ませていたが長男は罠猟にだけ連れて行くようになったそうだ。
今日、このマシューに来たのは石鹸工場の視察ではなく、この子供達が両親へ送る手紙を取りに来たのだ。
子供達の無事を確認すると共に、こちらの要求を通りやすくするための手紙。人道的な話を前面に押し出し、相手の「子供に早く会いたい」という欲求を増させることを目的としていたのだが、効果としてはかなり高かった。
ただ検閲は必ず行うようにしている。前にメイドがこのマシューに付いて書いていた為だ。
抜け目のないメイドだったが、検閲される事を予想できていなかったのでそこは抜けているのだろう。
「では、俺は行く」
「レレナちゃんには会わないんですか?」
「いや、別に用事は無いしな」
今は城子屋の時間だし、お土産もガナンに渡しておいたから全く問題は無い。
それに、もうすぐ石鹸を取りにマシューへイスカンダル商会の人間が来るはずなので、何かあればそれに書けるようになった手紙を渡すだろうし。
うん、全く問題は無い。工場長が嘆息しているのが気にかかるが。
★
油魚が獲れる湖の畔に、俺の指揮するロベール竜騎士隊が休憩している。
残念ながら、第一親衛隊の名はロベリオン第二皇子の為にはすでに存在しているので使用できなかった。ロベリオン第二皇子を隠れ蓑に自分の親衛隊を作ろうとしたのに駄目になってしまった。
そして、新しくロベール竜騎士隊として選ばれた彼らは、減らされた制限数の為に元居た兵員からさらに選び抜いた竜騎士育成学校の生徒だった者たちだ。
貴族から横やりが入ったのは、前回作戦に参加した兵士・学生は全員知っている。その横やりに対して彼らの反応は「他の貴族が恐れをなしたのだ」と言う者と「他の貴族から嫌われたのだ」と言う二極となった。
前者は元から強いストライカー侯爵の発言がさらに強まる事を恐れて、後者は元々評判が悪くアドゥラン第一皇子と交換留学で来たニカロ王国第六王女のパスティナを蔑ろにしたからだ、と言うのが主な理由だった。
憤ってはいるものの表面上は粛々と指示を受けたので、図らずとも俺に対して肯定派な貴族からの評判は上々となった。
ただし、10人と言うのは竜騎士だけの人数で、歩兵に関しては天駆ける矢の本部所属でロベール竜騎士隊へ貸し出し扱いとして襲撃作戦時の人員を組み込むことが出来た。
この人数の違いは、貴族か平民かだけだ。貴族を多く内包すると、それだけ発言が強くなる可能性が高くなるからな。
「遅くなってすまない」
「いえ、問題はありません。静かで綺麗な湖だったので、ドラゴンを休ませるのにちょうどよい場所ですね」
「もっと北に行けば温泉がある。今度は皆でそっちに行きたいな」
「私は温泉と言う物を知りませんが、ロベール様が仰るのであればさぞ素晴らしい物でしょう」
隊の人間より一歩前に出て受け応えたのは、襲撃作戦の時に雷火隊の先陣を切った竜騎士育成学校の元5年生で、今は俺の指揮するロベール隊の副隊長を務めている。
名前はフォポール・ドゥ・エヴァン。エヴァン伯爵家の長男で、品行方正で背も高くハキハキとした気持ちの良い性格を持つイケメンだ。成績は学業から実技まで優秀で、首席争いに僅差で敗れ次席となった。本来であれば近衛聖騎士団の二軍に入る様な人材だ。
この間おこなわれたロベリオン第二皇子主催の天駆ける矢の本お披露目式では、隊長の俺など目に入っていないかのように女性陣からフォポールへの黄色い声援が飛び交った。羨ましくは無いが、悔しいのはなぜだろうか。
「それじゃあ、泊りがけになるがラジュオール子爵邸へ向かって飛ぶから全員準備してくれ」
「「「はいっ!!」」」
全員が元気よく答えると、物の数分で飛び立つ準備が整った。
★
ラジュオール子爵邸までの道のりは遠く、何度か休憩を挟みながら飛んで暗くなったら野営を行い、あくる日に到着と言う形をとった。
今回は三回目の来訪だが、一回目よりも大分雰囲気が良い意味で緩くなった。一回目にラジュオール子爵に子供達の手紙を届ける時も、このロベール竜騎士隊のメンツで行ったのだが、その時はボロ負けの撤退戦でもやっているのかと言うくらい周囲に対して必死に目を配らせていた。
戦時の高揚感と平時の敵国だった場所への来訪は勝手が違うのか、戦時は頼もしかった仲間が薄い紙の様な存在に見えた物だ。今は先ほども言った通りそのような事は無く、全員が良い方向に育っている。
「そろそろ到着します。ご準備を」
「分かっている」
やや後方を飛んでいた女性竜騎士がラジュオール子爵邸に近づいた事を知らせた。
「これから、ラジュオール子爵領へ入る! 三度目なので言わずとも分かっているだろうが、勝手な行動は控えるように!」
「「「了解!!」」」
今日はある品物の提出期限だ。それがあれば食糧事情が一気に改善される。
★
ラジュオール子爵軍の竜騎場にドラゴンを着け、子爵軍の兵士に警護されながらいつも通り屋敷へ案内される。
子爵邸襲撃から半年近く経っているので、当時、焼けた部分は綺麗に修復されている。
しかし、あの日怪我をした兵士や死んだ兵士の家族は俺に対して悪感情が強く、一回目に屋敷を訪れた帰りに襲撃まがいの事件に発展した。
その時はアバスや他の隊員からラジュオール子爵軍の兵士まで俺を庇って戦った。こちらの人員には全く損害は無かったが、子爵軍の方には数人の怪我人が発生した。
相手側家族の言い分としては、戦場に立っていなかった息子or夫がなぜ死ななければいけなかったのかと言う物だったが、そんな物は戦争だから仕方が無いとしか言いようが無かった。
息子を人質にとられているラジュオール子爵としては彼らを罰しなくてはならず、連座はできないが襲撃した者たちを縛り首にしようと提案されたが、ここで縛り首にしては今後の関係が悪化するので止めさせた。
ではなぜそんな危険を冒してまで俺自らが赴いているのかと言うと、ロベール竜騎士隊のメンツは、ドラゴンの扱いには慣れているがこういった交渉事には慣れていないからだった。
かと言って商人を後ろに乗せる訳にもいかず、また馬では時間がかかり過ぎるので遠征訓練と言う名の元に仲間に付いてきてもらっている。後は、俺自身が自分の目で見て触らないと気が済まないと言うのも割合として大きい。
「こんにちは、ロベール様」
悲壮な面持ちでやって来たラジュオール子爵夫人は、俺の前へ息を切らしながら小走りでやって来た。
「御久しぶりです、夫人。本日はお日柄も良く――」
「息子たちの、子供の手紙はありますか? あの子たちは大丈夫なんですか?」
「おい――!」
挨拶もそこそこに子供からの手紙を必死で聞く夫人に、ラジュオール子爵は礼に失すると声を荒げようとした。だが、すぐに子爵を宥めると共に手紙を取り出すと、必死な形相だった夫人の顔つきが幾分か和らいだ。
まだ幼い子供が敵国で人質生活を送っていると言うのだから、母親としては気が気じゃないだろう。
「いつも同じことを聞くが、子供達は本当に無事なんだろうな?」
「いつも同じことを言いますが、その手紙を読んで判断してください。身代金を払い終えた末にはキチンとお返しします。別紙に書かれているように、食事や教育に関して細かく書かせていただいているので、この家で過ごして居た時よりは多少なりとも成長していると思いますよ」
食事は肉も野菜もまんべんなく食べさせており、勉強についても下の二人は十分にやらせている。長男はマシューでは対応できない所までやっていたので、やや肥満体型を直す為に運動を大目にやらせている。
初めは何だかんだと文句を言っていたが、言えば言うだけ食事をする時間が遅れると知ってから文句も言わずに授業を受けるようになった。
「それで、頼んでおいた物は用意できましたか?」
「あっ、あぁ、外に商人を待たせている」
俺が急かすと、ラジュオール子爵は部屋の外で待たせていると言う商人を呼びつけた。
商人は、なぜ敵国の貴族が子爵の屋敷に居るのか理解できない顔をしたが、柔らかく笑いかけると余り突っ込んだ事を聞かない方が良いと判断したらしく、すぐに取り繕い挨拶を返してきた。
「初めまして。この度は無理なお願いをしてしまったようで申し訳ありません」
「いえいえ、ラジュオール子爵様には日頃から良くしていただいていますので、そのご紹介の方であればこの程度の事、苦労には全く含まれませんよ」
「それは良かった。では、物を見せて頂いてもよろしいですか?」
「はい。こちらが本日お持ちした商品の一つでございます」
そう言って商人が取り出したのは、前の世界では見慣れたトウモロコシだった。前の世界では黄色で甘いトウモロコシが主流だが、この世界ではと言うか目の前に出されたトウモロコシはやや赤みがかっていた。
「前に頂いた絵や特長が全く同じ作物です。現地では良く育つ作物だそうで、前金全てを唐黍に変えたのですが、本当によろしかったのでしょうか?」
「問題ない。これは、人が可食できる物なんだろ?」
「はい。かなり南方まで下り見つけてきた品ですが、本当にあるとは思いませんでした」
ラジュオール子爵領のある王国は横に長いため、亜熱帯地方まで存在しているそうだ。
身代金の減額と言う名目で数種類の作物をラジュオール子爵経由で調べさせたところ、商会の一つがトウモロコシの種を見たことがあると言ったので、別途支払いで買ってきてもらったのだ。
トウモロコシは育てる事が簡単で、台風など強風に吹かれない限り失敗する事は少ない。それに、実はそのまま火を入れれば食べる事が出来るし、粉にして小麦粉に混ぜれば嵩増しパンも焼けるし油もとれる。そして何より、茎はサイレージに出来るので無駄が全くない植物だ。
ただし水分調整が難しいので半地下式サイロ向きではなく、単体の――樽などに詰める方法が良いと思われる。
このトウモロコシの捜索で、子爵は俺に対して支払う子供達の身代金250枚分の金貨と相殺する事となる。子供達を返すまでに、あと1000枚の金貨が必要なので先の長い話だ。
「では、唐黍はこのままドラゴンで持ち帰るので、料金は後で子爵から受け取ってくれ」
「はっ、はい。ですが、ドラゴンで持って帰ると言っても、かなりの量がありますが大丈夫ですか?」
「ん?」
子爵邸を出ると共にトウモロコシの量を確認したのだが、その量を舐めていた。
遠くから持って来たそうなので、麻袋で10袋くらいあれば良いと思っていたけど、実際は荷馬車5台分だった。中には麻袋に詰められたトウモロコシがギチギチに詰まっている。
種だけ持ってきてくれれば良かったのに、ご丁寧に芯付きだった。いや……丁寧じゃないから芯付きか……。
芯から種を取り除いてからカグツチ国に運んでもらうように頼んだら、案の定と言うか別途料金を請求された。
一台の荷馬車に付き馬2頭を使用しており、それが5台あるので計10頭の馬がこのトウモロコシを運ぶのに必要となる。
そうすると、馬に食わせる為の飼葉や水。それらを世話する為も荷夫も必要となってくるので、ここで種取りをしてもらってから運ばせた方が結果的に安く済むと言う結論に至った。
しかたが無いので、この商人に頼んで種を取った後にカグツチ国に運んでもらえるように手配した。他の竜騎士には申し訳ないが、一騎に付き2袋のトウモロコシを積んでもらう事になった。
「この唐黍と言うのは、いったいどこで作られている物ですか? 初めて見る物で、この様な作物が存在していること自体、私は知りませんでした」
「たくさん実がついているように見えて、その中身は芯の様ですから食べられる部分が少なく見えます。この作物は、本当に帝国で作る事が可能なのでしょうか?」
カグツチ国までの帰り道、我が隊の竜騎士達の話題は初めて見るトウモロコシで持ちきりだった。
「ロベール様は、どちらでこの作物をお知りになられたのですか?」
フォポールは、トウモロコシを片手で弄びながら聞いてきた。
「珍しい物を扱う御用商人が、話の種に持ってきた事があったんだ。粉ひきすれば使い道も広がるし、長期保存も可能。素晴らしい植物だよ」
「かなり南方の物だそうですが、帝国でも育てる事は可能なんですか?」
「カグツチ領では全く問題ない。たぶん、余り北ではない限り夏であれば問題なく育つ」
「エヴァン家の領地でも育てる事は可能でしょうか?」
「エヴァン家がどのあたりにあるか分からんが、夏が熱ければ問題ない」
「山が近くにありますが、夏は皇都並みに暑くなります。これならば、問題ありませんよね?」
「それなら、問題ないだろう。何だ、育てたいのか?」
「もしよろしければ、ロベール様のお手伝いをしたいと思っています」
「なら残念だったな。苦労して手に入れた種を簡単に外に出そうとは思わない。皆の事は信頼しているが、我が領地には怪しい奴が少しずつ増えているからな。俺の優位性は保っていたいんだ」
そう返すと、フォポールは驚いたように目を見開いた。周りの竜騎士達からも驚きの声が小さく上がった。
「まさか、ロベール様に何かしようなど不埒な輩が居るのですか?」
「嫉妬した奴なのか、それとも新しい事を平気で始めるのが気に入らない奴なのか、それとも使者を使わず足しげく隣国の子爵家へ足を運ぶ俺を危険視している奴なのか分からないが、何人かは調べている」
その中で最も顕著なのが、ストライカー侯爵家から来た人間だけどな。亜人農奴とかじゃなくて、俺の監視を名目としてやって来た人間だ。
他にもユスベル帝国軍の退役軍人なんだが、他の退役軍人の奴らとは明らかに質の違う人間が混ざっていたので、そいつも要注意人物だ。どうにも、そいつらが帝国軍ではなく貴族軍出身の様な気がしてならない。
「5年生ではない者が駐屯した方がよろしいのではないのでしょうか?」
「申し出は嬉しいが、あそこは最果ての地だ。やる事と言えば開拓事業ばかりで、屯田兵として雇う事もできるが、そうすると竜騎士にも開拓者にもならない中途半端な人間になるから駄目だ」
アバスを含めて、このロベール竜騎士隊は技術はもとより信用第一で決めている。フォポールと一部以外、次男・三男・長女・次女が占めているが、その親はストライカー侯爵派ではなく、皇帝陛下に忠誠を誓いその切れ端を俺に向けている貴族の子供だ。
格好良く言えば国家所属派。悪く言えばどこにもつけない影響力のない小さな貴族だ。ただし、エヴァン家を除く。
「それに、娯楽が無いから行ったは良いが一日で飽きるぞ」
「マフェスト商会が、商会として先陣を切り支店を建てたそうなので、その内娯楽も広がると思ったのですが?」
「それでも、2ヵ月に一度の演劇だろ? 結構キツイぞ」
商業組合の話をしてから、マフェスト商会はすぐに行動を開始した。
何もない土地なので区画を守れば建築様式は問わないと言ったところ、凄まじい勢いで建設が始まった。
道具も材料も人も全て川で遡上できるギリギリの大きさの船を使って大量輸送を行い、これでもかと言うほど大工を投入して建設をしているのだ。
半年かけて役所の半分が完成したと言うのに、役所よりもさらに大きなマフェスト商会の建物はひと月半で外観が完成した。それも、役所と同じ石造りなうえ意匠も細かく。
周りに建物が無いため大工もその隣に住むことができ、通勤時間が全くないのが早さの理由とか言っていたが、それは商会の財力がある事が大前提だろうと突っ込まざるを得なかった。
ここで働いている大工や荷夫は、俺の考えに賛同しているマフェスト商会の息がかかっている人間ばかりなので、間者の心配はしなくていいそうだ。
ここまで膨れ上がるとさすがに俺でも把握できなくなるので、イスカンダル商会から出向しているベイリースに戸籍表を早く作るように言わなければいけない。
それよりも、今はできた畑にトウモロコシを蒔くことが先決だろう。
レレナ=マシュー町長の娘(次女)好奇心旺盛で、主人公をお兄ちゃんと呼んでいる。
ラジュオール子爵の息子達=身代金がまだ支払われていないので、マシューで人質生活をしている。
ベイリース=イスカンダル商会からカグツチ国開拓を任された人物。
3月9日 誤字脱字修正をしました。あと、文章を一部変更しました。