町での一服
町の広場に降り立つと、そこに十数名の大人が集まっており、全員が膝をついていた。
平民が貴族に対する最敬礼の様なものだ。
「遠路はるばる、ようこそおいで下さいました。何もないところではありますが、精いっぱいお持て成しをさせていただきます」
ペコー、と全員が腰を折ってお辞儀をした。全員が慣れてい無いようで、動きがバラバラだがそれは仕方のない事だろう。
「お姉ちゃん!?」
大人たちと混ざってお辞儀をしていたのは、ファナとよく似た毛質を持った少女だった。
その素っ頓狂な声に驚いた大人たちはすぐに少女の口を押えたが、少女はなおも何か言いたそうに指をさすと、その先に居た人物に全員が驚いた顔をした。
「あっ、あの……ただいま戻りました……」
ややバツの悪そうにヴィリアの陰から出てきたファナは、膝をついている大人の中でも一番いい服を着ている人物に挨拶をした。
「おっ、お前、ファナ……、何をしているんだ?」
「ロベール様のお慈悲で、私もドラゴン様へ乗せていただける事になって、こうして一緒に町へ来ることができました……」
「あへぇ!?」
変な声を上げて、ファナの父親は俺の方を見た。
「4日も馬車で移動はきつそうだったからな。それに、早く戻れれば、それはそれでいいだろうと思って連れてきたが、何か問題でもあったか?」
そういうと、ファナ父はブンブンと首を大きく横に振った。
「なら良い。厩舎はどこにある?」
「あっ、はい。こちらにどうぞ」
町長の隣に居た若い――と言っても、俺より年上だが――青年の指示に従ってヴィリアを係留場へ連れて行った。
★
「ロベール様。このマシューは何もない辺鄙なところですが、精いっぱいお持て成しをさせていただきますので、どうぞごゆっくりしていってください」
このマシューの町長でもあり、ファナの父でもあるガナンは、ニコニコと人当たりの良さそうな顔で言った。
ならば、先に風呂に入らせてもらおう。
「風呂に案内してほしい。できたら、露天の」
「はい。畏まりました。すぐに、お外で沸かしますので、少しお待ちください」
「ちょっと待ってくれ。何で、温泉があるのにわざわざ沸かすんだ?」
この町に降りてくるときに確認したけど、ちゃんと温泉地の様に所々から湯気が立っていた。
源泉は熱くて入れないだろうけど、下流に行けば温くなっているだろう。
「温泉――とは、何でしょうか?」
「温泉って……そこらじゅうで湯気がでているじゃないか?」
「あれは、地下から出ている毒ガスですよ。侯爵様も、危ないですので近寄らない方がよろしいかと」
なんてこった……。ここら辺は、全部有毒温泉だったのか……。こりゃ早まったかな?
「ささ、お部屋へご案内いたしますので、こちらへどうぞ」
ガナンに案内された先は、町の中でも一際大きな家だ。ってか。ガナン邸だ。
都とは違い、全部が木でできているウェスタン調の屋敷だが、他の家とは違いどっしりとした存在感のある家だ。
「狭いところですが、どうぞお好きに使ってください」
「町長たちと共に過ごすと言う事か?」
「いっ! いえ! 滅相もございません! そんな恐れ多い事! 我々は、近くの別の家に居りますので、いつでもお声をかけてください。メイドとして、ファナを置いていきますので、ご自由にお使いください」
ガナンに案内されて屋敷の中に入ると、中ではメイド服――ではなく、普通の町娘の服を着たファナが待っていた。
「おっ、お待ちしていました。この家で、侯爵様のお世話をさせていただきます、ファナです」
「うん、知ってる」
「どど、どうぞ、お部屋に案内させていただきます」
道中、やっと慣れたと思っていたけど、父親から何か言われたのか、またガチガチになっている。
案内された部屋は、2階の階段に近い部屋だった。精いっぱい見栄えを良くしようとした結果か、部屋に溢れる調度品は統一感が無くチグハグな印象を持たせた。
簡潔に言ってしまえば、めちゃくちゃ派手だ。大阪のおばちゃんが、所狭しと部屋に並んでいる光景を想像してもらえればいいだろう。
「なぁ、もうちょっと静かな部屋は無いのか?」
「しし、静かですか!?」
この部屋はうるさいのか!? と驚いたファナは手をカップの様にして耳にくっつけ、些細な音も聞きもらさないように集中した。
「そういう静かじゃなくて、この部屋は調度品が派手すぎて俺の趣味じゃないんだ」
「あっ、そういう事ですか。では、お休みになられるまでに部屋から運び出しておきます」
残していい物と運んでほしい物を説明し、俺はヴィリアの元へと向かった。
一日遅れの更新です。
改革までもう少々お待ちください(何回目だこれ)
3月2日 ルビを変えました。




