新年と新入生
一つ目の★までは編集前と同じですが、それ以降は全部書き直しました。
年が明けてからは、皇都では皇帝陛下の誕生日が近いためか早い内から露店が多く乱立し始め、ちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。
とは言う物の、竜騎士育成学校の行事は変更される事無く行われるので、入学式も滞りなくいつも通りに行われるそうだ。
俺がこの学校に入って来たのは一月の終わりくらいだったので、入学式はおろか皇帝陛下の誕生日も終わった静かな時期にしかしらないためこの騒ぎには驚かされた。
今年もいつも通りに誕生日のもっと前の日からこのように露店が多く立ち並び、誕生日が終わると共に一瞬と言って良いほどの時間で居なくなるそうだ。
まさに誕生日特需とでも言うのか、ここで品物を売りさばき、誕生日が終了次第その仕入れた物を次の場所で売るためにすぐに出て行くらしいのだが、商人のバイタリティには驚かされる。
そんな町の様子を見ている俺は言うと、年末年始は友人宅を泊まり歩いていた。まるでダメな大学生の様に。
なんたってこっちの世界には家族と呼べる存在が居らず、またストライカー侯爵家にも行くわけにはいかないので寮で過ごそうと思っていたのだが、年末は一斉清掃の為に強制退去だそうで追い出されてしまったのだ。
ミナとどこかに宿でもとるかと話をしていると、アムニットから二人まとめて実家に来ないかと誘われた。それからアバスの実家へ行ったり、ミシュベル――と言うか、ベルツノズ家の皇都にある別邸を渡り歩いた。
ブロッサム先生からも誘いがあったのだが、ブロッサム先生の実家は遠いし、そもそも冬に他人に分けるほどの食糧があるとも思えなかったので丁重にお断りした。
そして今現在、竜騎士育成学校の入学式に参加する新入生を見ているのだが、これがなかなか華々しく、緊張の面持ちで馬車や自らのドラゴンで学校へ来る新入生は見ていて飽きない。
こう、何と言うか、新入生はフレッシュな感じが良い。ちょっと背伸びをしたような、これからの未来を憧れているような感じがな。ただし、新社会人はダメだ。就活を一年以上前から行っており、入社した時点ではすでに燃え尽きたと言うかやりきったような全くフレッシュ感の無い奴らばかりだった。
食品売り場だったら、クレームが速攻で入ってくるくらいのフレッシュ感の無さだ。
しかし、中にはいささか緊張メーターが振り切り過ぎているのか、通りの端っこに立っている俺に敬礼をして挨拶してくる新入生も居る。
やっぱり先輩が居ると後輩は緊張してしまうのかもしれない。折角の晴れ舞台に水を差すわけにも行けないので、俺はそろそろこの辺りで退散しよう。
★
自室――とは言う物の、一年生の時とは違う別の二年生用の棟に変わった部屋に戻ってくると、たくさんの荷物をと睨めっこしているミナが居た。
その姿にいつか見た誰かの姿がブレたように見える、既視感の様な物を感じつつ問うた。
「何やってんだ?」
「…………あっ!?」
ドアが開く音も聞こえないくらい集中していたのか、声をかけてきたのが俺だと理解するのに数秒かかり、理解するとビョコーンと直立した。
「おっ、お帰りなさいませ。あのっ、こちらは先ほど新入生の身内の方々が持ってきた物でして、今は選別をしているんですけど量が多くて……」
俺が天駆ける矢の幹部になると言う話が出た時に、上級生から新軍に入れてくれと言う名目の元にたくさんのプレゼントが届いたことがあった。
「返してきなさい」
「えっ?」
「面倒くさいので返してきなさい」
上級生のプレゼントを捌くだけでも疲れるのに、こんな見ず知らずの新入生の身内を名乗る者からのプレゼントまで貰っていたらキリが無い。いや、上級生のプレゼントもある程度は返したり、何か別な物でお礼返しをして終了したけどさ。
「わかりました」
ミナは頷くと適当にプレゼントを掴んで、今まで睨めっこしていたリストを片手に部屋を出て行った。
量は多いがキチンと名簿を作っているのですぐに返すことが出来るだろう。
★
大小様々なプレゼントが時間と共に消えていき、ある程度部屋に風が流れるようになったくらいでベッドに転がった。
学校が始まるまで数日。その間に色々と貰った領地でやりたい事があったのだが、皇帝陛下の誕生日に向けての特需が凄まじく、農耕器具を作ってもらおうにも暇がないと断られてしまった。
ガンブール鍛冶屋にお願いしても、今俺が作ってもらっている商品だけで手一杯なようで、先月から一日も休まずに仕事をしているらしい。
昔は忙しい事は良いことだと言っていたが、今は忙し過ぎて死にそうだと、俺には言わなかったがイスカンダル商会の人間にはぼやいていたそうなので今の期間は発注量を調整した。
皇帝陛下と言うか国からの人材の提供も誕生日の準備が忙しいらしく、こちらに何の話も無いまま滞っている状態だ。
人材の提供は退役する兵士なので、このまま立ち消えとなる事は絶対に無いだろうが受け入れの準備の為に今後の予定位は入れておいてほしい。
「あ~……ダルダル」
侯爵との話し合いを切り抜けてすぐに年末年始の冬休みに入り、その冬休み中も友人宅を渡り歩き上げ膳据え膳と言う自堕落な生活をしていた為に休み呆けが激しかった。
やる事はあるのだが、そのやる気が出ない。そんな風にベッドでゴロゴロしていると、ドアをノックされた。
「どうぞ~」
「失礼」
新入生の整理をしていたアバスがやって来たのだろうと気の抜けた返事をしたのだが、入って来たのは畏まった服を着た男性だった。
「おっと、これは失礼しました」
相手がどこの誰だか知らないが、こういった公の行事が催される時期にはそれなりの人が来るので油断ができない。
ベッドの上でゴロゴロしながら対応した事を詫びつつベッドから立ち上がった。
「あぁと……どういったご用件で?」
服装はユスベル帝国の官僚服とよく似ているが、ところどころ装いが違っている。どこかで見たことがある気がしたが、それがどこでなのか思い出せなかった。
「はい。私はアドゥラン第一皇子のそば仕えをしておりますアネットと申します」
「どうも、初めまして。ロベール・シュタイフ・ドゥ・ストライカーです。よろしければ談話室でお話を伺いますが?」
ロベリオン第二皇子の兄にあたるアドゥラン第一皇子にそば仕えさんだそうだ。これはまた面倒くさい人が来た。
まだプレゼントが多く転がっている部屋で対応するのも失礼だろう、と談話室を勧めたが首を振られた。
「いえ、それには及びません。本日は主からロベール様に言伝を預かり来ているだけですので」
「ちょっと見てみたいから来てくれと言う話でしょうか?」
その言伝の内容を言い当ててみると、アネットは一瞬キョトンとした顔になったがすぐに笑顔に戻り話を続けた。
「お話が早くて助かります。えぇ、確かにロベール様の言う通り今帝国で話題の竜騎士とお話がしてみたいと言う希望がありまして」
「まだ候補生ですけどね」
軍として作戦に参加していても、区別としては学生で竜騎士候補生なので訂正しておいた。
「そんなご謙遜を。そこで、もしロベール様にお時間がございましたら、本日の夕食にアドゥラン様がご招待したいと言っておられまして。今日がダメでも時間がある日を知らせてもらえればそこを空けるので、良かったら友人とも話してほしいとの事で」
皇族が一介の貴族とはいえ、息子で学生の為にわざわざ時間を空けると言うのは怪しい。ってか、これで断ったりしたら後が怖い。
そもそも、今日も暇なので断るつもりはないが、早めに回答する。
「いえ、今日でも大丈夫です」
「それは良かった。では、本日の4時にお迎えに上がりますので」
「はい。よろしくお願いします」
アネットは約束を取り付けたからなのか、それとも他の理由からか分からない笑みを浮かべて部屋を出て行った。
今夜はアドゥラン第一皇子と夕食会になった。
アバス・フレサンジュ=主人公のクラスメイト。ラジュオール子爵邸襲撃作戦に従事する。
ミナ=主人公の奴隷。元騎士学校生。現在はメイドだったり兵士だったり多忙な日々を過ごす。
ロベリオン第二皇子=天駆ける矢の創設者。
竜騎士育成学校の入学式は一月です。
雪深い地方の出身者は、雪が降る前に前のりで皇都に来ているので主人公の功績を知っている人が多いです。
また、前のりするほど資金面に余裕が無い場合は、ドラゴンに乗り一人だけで学校へ来たりします。
本物のロベールの場合は、父親が戦後処理に忙しく対応ができなかったと思われます。
2月11日 本文を大幅に書き換えました。