ストライカー侯爵家に届いた手紙
「ホッハァ! ついに息子がやったぞエザナー!」
ストライカー侯爵家当主の、モンクレール・シュタイフ・ドゥ・ストライカーは高速のドラゴン便で皇都から届けられた手紙を見て、妻のエザナー夫人に叫ぶように言った。
報せを聞いたエザナー夫人も興味深そうにストライカー侯爵越しに手紙を覗きこみ、そこに押されていた紋章を見て不思議そうに言った。
「あら……この紋章は確か……」
珍しく、また特徴的な紋章に過去の記憶を掘り出そうとするエザナー夫人だったが、普段から届く手紙は知り合いからのみであり、また誰から届いたのかと言うのはメイドが言うのでこの紋章が誰のものだったのか思い出せなかった。
「アガレスト宰相殿の紋章だ。隣国との境界線に建設していた砦の攻防戦の際、私たちの息子ロベールがその手で戦争を終わらせたようだ!」
「まぁっ! 何て素晴らしいのかしら! 昔から腕白だったけど、それがやっと実を結んだのね!」
このエザナー夫人が言う『腕白』と言うのは、竜騎士育成学校で入れ替わった現在のロベールが避けられる理由となっていた蛮行の類だ。
平民と言うのは他っておけばどんどんと増えていく生き物と考える貴族は多く存在し、このストライカー侯爵夫婦もその考えの人物だった。そして、『腕白』の結果の惨劇は数字や兵士の改変させられた事実のみだったので、二人にとって町規模が全滅しない限り『腕白』で済ますことのできる範囲なのだ。
事実、このやり取りが行われている部屋で待機しているメイドの顔色は悪く、明らかにその『腕白』が『腕白』で済まされる範囲を逸脱しているのかを物語っていた。
「でも、ロベールからではなく、なぜアガレスト宰相様からなのかしら?」
「何でも、私を驚かせたかったかららしい。自分の名前で手紙を出すよりもアガレスト宰相殿の名前だった方が驚かせることが出来るから、とロベールがアガレスト宰相殿に頼んだそうだ」
「それで、貴方は驚いたの?」
「これが驚かずにいられるか! まずは、アガレスト宰相殿の名で手紙が送られて来たので一回! 次にロベールがその手で戦争を終結させたと言う知らせで二回! そして、極めつけに、アガレスト宰相殿の前に皇帝陛下の名で手紙を出せないか、とアガレスト宰相殿に聞いたそうだ! これで三回と言いたいところだが、これは驚くとは別の驚きだな! さすが私の息子だと、嬉しさの方が増すわ!」
皇都や関係者が聞けば不敬であると問題になる発言だったが、ここに咎める事ができる人物は一人も存在しておらず、またストライカー侯爵自身の帝国に対する発言力も強いため、ついついこういった発言が出るのだ。
「じゃあ、皇帝陛下から叙勲の話しもあるのかしら?」
「あぁ、あるとも。その事についてもここに書いてある」
「それは素敵ね! 何が与えられるのかしら?」
「そこまでは書いていないが、安定な所として爵位だろうな。侯爵位はそのまま長男であるロベールが継ぐ事になっているから、下位爵位を新しく与えられたところで関係ないからな。あとは、金かちょっとした皇家の品物を与えられるところだろう」
ストライカー侯爵が言う皇家の品物とは、良くある○○御用達と言った言葉の付く物の事だ。
それを渡すことによって「君は皇家が使っている物と同じものを使っても良いんだよ」と言う貴方をこれだけ認めていますという表現をするのだ。
しかしその反面「あっ、でもこれだけしか使っちゃダメだよ」と言った意味合いも含まれる。
つまりはその品物を使えるかどうかで、この人物が皇家にどれだけ貢献したか。またはどれだけ認められているかと言うのが、他の人にも一目で分かるようになっているのだ。
このストライカー侯爵家も古くから皇家に仕えているので様々な品物を受け取っているのだが、その中でも4代前の皇帝から受け取った宝剣が今のところ一番良い物と言える。
「この戦争を終わらせたことで皇帝陛下から表彰があるそうだ。そこで、私にもそこへ出席してほしいと書いてある」
「それは素敵ね! 何を着て行こうかしら」
息子の晴れ舞台に恥ずかしい恰好はしていけないと言った様子でエザナー夫人は今からドレスを仕立て屋に頼んだとしていつごろ仕上がるだろうか、と指折り数えはじめた。
そんな楽しそうに指折り数えるエザナー夫人を見て、ストライカー侯爵は残念そうに顔をしかめた。
「すまないがエザナー、君を連れて行くことは叶わないようだ……」
「まぁっ!? それはなぜ!」
息子の晴れ舞台に連れていけないと言われ、エザナー夫人はこの世の終わりかと言わんばかりに顔色を悪くした。
この家を出てから一年近く、手紙は送れば代筆ではあるが返してくる。しかし、それ以上の事は何も連絡することも無く、家では全ての事をメイドにやらせていたのにも関わらず、学校の寮で一人暮らしができているのかと常々心配していた。
一度、心配にななり過ぎて家の者に調べさせたが、丁度その時には準統治領で出かけており直接見る事は出来なかったが、メイドが居ない代わりに名誉士爵の娘をそば仕えにして置いていると言うのは知っていた。
そのお蔭で身の回りの世話はその名誉士爵の娘がやっていると報告を受けたエザナー夫人は安心したが、それでも何かと心配になるのが親と言う物だ。
だから、ストライカー侯爵が連れていけないと言った瞬間にこの世の終わりの様な顔になってしまったのだ。
「本当にすまない。だが、ロベールが表彰されるのは今日から4日後なのだ。君はドラゴンに乗れないから必然的に馬車になってしまう。ここから急いだとしても、馬車であれば一週間かかってしまうから、今回の表彰式には間に合わない。だから、今回の所は諦めてくれ……」
息子に会えない寂しさから足元をフラ着かせるエザナー夫人。そんな夫人を割れ物の様に抱きとめるストライカー侯爵。
いくらドラゴンを産出し、自前の竜騎士を持っているストライカー侯爵家の夫人であっても、騎竜の訓練をしていないとドラゴンには乗れない。
今回の表彰式にはストライカー侯爵の出席は想定されておらず、その為日にちが近くなってしまったのだ。
「本当にすまない。年末年始の学校の長期休暇だが、学校にとりあって早めに休暇をとれるようにしてもらいロベールを連れて帰る。それまで待っていてくれないか?」
「えぇ、えぇ、そうね。息子が一人で頑張っていると言うのに、母親である私がこんなことで挫けていてはいけないわね」
服の袖でメイクが落ちないように目尻に溜まった涙を拭きつつエザナー夫人は言った。
そんな健気に強がる夫人を見てストライカー侯爵はニッコリと笑うが、同じ部屋で待機しているメイドはその臭いやり合いを見て疲れた顔をした。
「息子の晴れ姿を見る為に、今ある仕事を急いで終わらせないといけないな」
ストライカー侯爵は気合を入れ、今溜まっている仕事を少しでも多く終わらせる為に気合を入れた。
それでも仕事は終わることなく、皇都行けたのは表彰式の前日だった。
「なるべく早く来てほしい」とアガレスト宰相の手紙には、ロベールがそう言っていると書き添えてもらっていた。だが、そうは言っても貴族には色々と準備が要るのだ。
そのせいで、現ロベールの計画が少しずれこみ、落ち着いて本当のロベールについて内密に話すことが困難になった。
モンクレール・シュタイフ・ドゥ・ストライカー=侯爵でロベールの父親。ドラゴンが大好き
エザナー夫人=ストライカー侯爵の奥さん。優しいと言われる人物だが、世間を知らない為と言うのが大きい。




