俺たてる
予約更新です。
二人を待つ間、俺はヴィリアに取り付けた竜具を取り外した。もともと、ドラゴンの世話をしていたので竜具を付けるのは慣れていたが、この学校に来てさらに早くなった気がする。
ただ2時間と言う時間を過ごすには、娯楽の無いこの世界では本当に長い。日本の学生時代には友人らと適当に話していれば過ぎる時間だが、こちらでは友人が居ない。
普段は、やっと慣れてくれたアムニットが何かと世話を焼いてくれていたのが、その肝心のアムニットも居ないので暇だ。
余りにも暇だったんで、布で作ったオセロをヴィリアとやってるんですけどね。
「ここで、黒を4枚――と」
「じゃぁ、ここに白を置いて斜めどり、3枚貰い」
「むっ……。では、こ――」
ここで、と言おうとしたところで、ヴィリアが顔を上げた。
俺もつられてそちらをみると、遠くから大きな荷物を持ったファナと付添人のアムニットが駆けてくるところだった。
「ヴィリア、この勝負はお預けだ」
「しかたがないな。最終的には、私が勝つ予定だったが、時間に助けられたな」
「どう考えても、お前の負けだろ」
盤面は、7割ほど白の駒で埋め尽くされている。ここから挽回できる奴は、そうそういないだろう。
「申し訳ございません。お待たせしました」
息を切らせながら帰ってきた二人だが、時間にして1時間と少ししか経っていない。
女性の買い物は長いと言うのは分かっていたので、長めに時間をとったんだけどこれでは厚意も無駄だったようだ。
「買い物は済んだか?」
「はい。お時間を頂けたことで、妹たちの為にお土産を選ぶことができました。これも、ロベール様が私なんかの為にお時間を割いていただいたおかげです」
「それは良かった。なら、早速ドラゴンに乗ってくれ」
昼食は道中でとる予定なので、昼の仕込みで忙しいのは承知の上で、行きつけのレストランに昼食の弁当を作ってもらったのだ。
贔屓にしているため、急な弁当の注文ではあったが快く受け入れてもらえた。
荷物はネットに包み込み竜具に縛り付け、ファナの腰に安全帯を取り付けた。この安全帯は、俺が鍛冶屋に言って作らせたワンオフ品で、使用しているのは俺以外ではアムニットだけだ。
今までドラゴンからの落下で死亡事故が起きているのに、こういったアイテムが造られなかったのは不思議でしょうがなかった。高所作業は、ヘルメットと安全帯着用が当たり前だろう。
「では、行ってくる」
「ロベール様、くれぐれもお体にお気をつけて。決して、無理をなさらずに、何かあればすぐに飛んでいきますので」
お前は俺の母ちゃんか、と言いたくなるアムニットのコメントに、俺は苦笑しながら手を振った。
竜騎場には、滑走路と言う物が存在しない。でも俺が騎乗しているヴィリアは巨体のために垂直離陸ができず、足で加速しなければいけないので、臨時の滑走路的な道が造られている。
その姿に、初めの内は分からないように失笑する奴らが居たが、キレたヴィリアが大岩を尻尾で投げつけ、それに巻き込まれたドラゴンが複雑骨折をおこし、安楽死させられる事件が起きてから笑うどころか見る奴もいなくなった。
口は災いの元、と言う分かりやすい結果だった。
「よし。進路は北へ。行くぞ!」
トン、とヴィリアの首筋を軽く蹴ると、大きな翼を広げて地面を駆けた。50メートルほど加速すると一気にジャンプし、大空へと飛び立った。
「きゃあぁぁぁぁぁあ!?」
馬以上に歩行時の上下運動が激しいドラゴンの動きにも耐えていたファナだが、さすがに飛び上がった時の浮遊感までは我慢できなかったのか、悲鳴を上げて俺の腰に回している腕に力がこもった。
「安心しろ。絶対に落ちん!」
「ひぃ!?」
「下を見るな! 前を見ろ!」
それから少しの間、悲鳴の連続が続いた。悲鳴の原因? わざとヴィリアの動きを大きくして、背中にファナのおっぱいがくっつくように仕向けていただけさ。
★
途中で一度だけ昼食を取るために地上に降りただけで、後はずっと空の人となった。
また、風を上手く掴むことができたので、予定していた時間より30分近く早く着くことができた。
「空から自分の住む町を見下ろした気分はどうだ?」
「とっても素晴らしいです! でも、住んでる町ってあんなに小さかったんですね」
「そんなものさ。さぁ、降りよう」
最初は怖がっていたファナだが、乗っている時間が長くなればなるほど恐怖感は消えて行ったようで、今は下に広がる自分が住む町を見下ろすこともできるくらいになっている。
普段であれば、降りると決めたら急降下が当たり前だけど、今回はファナも乗っているので旋回しながらゆっくりと降りることにした。
途中から、俺がわざと荒く操作しているのが、うすうすではあるがバレたっぽいしな。おっぱいは、また今度にでも……。
飛行前の安全帯点検――。
「安全帯着用!」
「はいっ!」
「引っ張り確認!」
「引っ張り確認!」
互いの安全帯を引っ張り、緩みが無いか確認する。
「緩みなし!」
「ゆっ、緩みなし!」
「フック確認!」
「フック確認!」
自身のフックに致命傷となるキズや、ロープの解れが無いか確認する。
「フック良し!」
「フック良し!」
「これより、高所作業に入ります!」
「高所作業始めます!」
今日も一日、ご安全に!
7月3日 誤字・脱字を修正しました。