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竜騎士から始める国造り  作者: いぬのふぐり
西国境建領編
103/174

襲撃――

 上空2000メートル付近。

 日付が変わった所でインベート辺境伯領地を飛び立ち、現時刻は午前3時。遠くに町の明かりが見えてきたので、到着まであと十数分と言ったところだ。


 初めはなんやかんやと強気に会話していた強襲部隊の面々だが、時間が過ぎ去り子爵邸が近づいてくることで次第に静かになり、最終的には沈黙が辺りを包んだ。

 それにしても寒い。空気が冷たすぎる。


 一人につき一本。それもコップ一杯程度ではあるが、ミシュベル印の蒸留酒を渡してある。

 上空に上がって、体が冷えてきたころに飲めと言っているが皆飲んだだろうか?

 あとは、鉄粉と塩水を合わせた簡易カイロを持たせてある。

 張るタイプではないので使いにくいかもしれないが、体が強張らないように手足などの末端を集中的に温めるように指示している。


 町の光が輪郭を帯び始めた。そろそろか……。


「ミナ! 後方へ発光信号を送れ!」

「はいッ!」


 ヴィリアの尻尾の付け根の辺りに座っているミナは返事をし、取り付けてあるランタンを持ち上げた。

 これは先の空輸作戦時に方向を見失った竜騎士(ドラグーン)が落伍すると言った教訓を元に付けた物で、光を強くするために拡散させるのではなく発光部分を銀箔で覆い一定方向のみに光を出すように改造したものだ。おかげで遠くから視認できるようになった。


 そのランタンの発光部分を木の板で数度塞ぐと、チカチカとした光を確認した強襲部隊を乗せた竜騎士(ドラグーン)達は、現在のヴィリアを目標とする移動用の陣形から強襲用の陣形を組み直した。

 雷火隊は速度を上げるとグングンと本体から距離を取り、次第に見えなくなった。


「後方には何騎居るか分かるか!?」

「12騎確認! 落伍ありません!」


 よし。ここまでは順調だ。

町の中の一際明るい――とは言っても松明が焚かれているくらいだが――屋敷の全体が確認できるようになると、それに合わせるかのように屋敷の周囲に火の手が上がった。

 綺麗にラジュオール子爵邸を囲むように上がった火により、あるていど見えてきた屋敷がさらにくっきりと見えるようになった。


「全軍突撃!!」

「「「オォ!!」」」


 ヴィリアに乗っている仲間だけではなく、他のドラゴンに跨る兵士達からも威勢の良い声が届いた。

 その(とき)の声に合わせてヴィリアが滑空を始めた。かなりキツイ角度での侵入に内蔵が裏返る様な、あるいはタマヒュン状態に入った。


 ヴィリアはグングンと近づいてくる屋敷に臆することなく滑空し、地面に激突する寸での所で体を持ち上げ強制的に水平飛行に移行し、そのままラジュオール子爵邸の南側二階部分へ衝突(・・)した。

 話に聞いていた通り、一階は石積みだったが二階は漆喰塗りで突っ込んだヴィリアが顔を左右に振るだけで窓ガラスだけではなく壁も簡単に崩れた。


「行け、行け、行け、行けぇぇぇぇ!!!!」


 飛んでくる破片をものともせず号令と共に右手で剣を抜き掲げ、左手にはミナが使っていたのと同じ改造を施したランタンを持ち、ヴィリアが開いてくれた侵入路へ跳び込んだ。


 廊下は暗く灯りが無く、基本的には夜警と言うか見回りのメイド達が持つランプの明かりの身を光源とする普通の廊下だ。重畳。

 ラジュオール子爵邸へ侵入後、二手に分かれる。俺をリーダーにしたミナと兵士二人。アバスをリーダーとしたミーシャと兵士2人だ。


 目的とする部屋まで20メートルほど。その長い廊下を全力で駆け抜ける。

 俺のすぐ後ろでは、ミナがU字に曲げられた鉄の棒を目的の部屋までの2部屋のドアに引っかけていく。これにより、内開きのドアは引っかけられた棒によって開かなくなり、無用な戦闘を回避できるのだ。

 ドアの前に張り付き、視線でミナに指示する。


『開けます』

『頼む』


 ガン! と勢いよく開かれたドアに外套だけを投げ込み、一瞬の間を持たせずに突入した。


「なっ、何だ貴様らは!?」


 天蓋付きの豪奢なベッドの上には、30代後半くらいの頭に白髪の交じり出した茶髪のオッサンが、上半身だけを起き上がらせた状態でこちらを誰何(すいか)してきた。

 ランタンの光を向けられたオッサン――ラジュオール子爵は暗い部屋で目が慣れており眩しかったのか、ランタンの灯りから目を逸らした。


「何だと聞いているんだ! 私をゴベハァ!?」


 目を逸らした瞬間に跳びかかり、全力で黄金の右足を子爵の顔面へ叩き込んだ。


「確保!!」


 子爵の隣で悲鳴を上げベッドから転がり落ちる若い女を無視し、俺は仲間へ子爵を拘束するように命令した。

 すぐさま反応した兵士が肩にかけていたロープでぐったりとした子爵を縛り上げ、ついでと言わんばかりにシーツを引きちぎると目隠しまでした。


「ラジュオール様、ご無事ギッ――」


 子爵の部屋に雪崩れ込んでくる警備兵だったが、ドアの近くに潜んでいたミナともう一人の兵士に次々と切られていった。


「おら、立て」

「ギッ……ギサマ等……こんな事をしてタダで――!?」

「うるさいって」


 右肘で子爵のみぞおちを突くと、子爵は苦しそうに咳き込みながら静かになった。


「とっとと歩け。言っておくが、妙な気を起こすなよ?」


 ドン、と強く押すと今度は大人しく歩き出した。

 暗い、光源が俺の持つランタンしかない部屋と違い、徐々に煩くなりだした廊下は明るさを強めて行った。


「今から子爵が出る。間違えて切るんじゃないぞ!」


 半開きのドアを仲間の兵士に開かせ、子爵を先頭に廊下へ出た。そこには所せましと子爵の屋敷を守る警備兵が剣を片手に立っていた。


「ラジュオール様!?」


 内一人、逞しい口髭を生やした警備兵の隊長らしき男が縛られ目隠しをされた子爵を見て驚きの声を上げた。


「貴様等ァッ! 無事に屋敷から出られると思うなよ!」

「ならば、子爵は道連れだが良いのか? 分かったのであれば道を開けろ! それと同時に、俺達の仲間への攻撃を即刻中止しろ! 仲間が一人でも死んでいれば、子爵の手足をもいでいくぞ! とっとと伝令に走れッ!!」


 背後から子爵の下あごに突きつけた剣が動き、剣先が肉に食い込み血が流れると慌てた様子で部下に指示を出し、指示を受けた兵士は急いで走って行った。


「よろしい。では、視界が煩いのでそこの隊長らしきヒゲの人を残して、そちらの部屋に入っていただけますか?」


 指示したのは子爵の部屋へ突入する時に、ミナがU字の鉄棒をはめたドアの部屋だが今は開いている。

 ここへ兵士が集まる時についでに外したんだろうけど、こちらとしても丁度いいのでその部屋に入ってもらう事にした。


「言う通りにしないと子爵のアゴが(ケツ)アゴになりますよ? あぁっと残念、時間切れだ!」


 ピッ、と子爵の下あごに突きつけていた剣を軽く振ると、子爵の顎がパックリと切れた。


「アグッ!? おっ、お前達、今は(・・)言う通りにしろ!」

「今だけじゃなくて、ずっとでも良いですよ!」


 ケタケタ、と愉快そうに笑うと「こいつは危ない」と判断してくれたのか、警備兵はヒゲの人を残して大人しく部屋へ入って行った。


「歩け。ミナは鍵をかけておけ」


 ヒゲの人を先頭に来た時の窓を抜けずに悠々と廊下を歩く。


「窓から抜けて強襲なんて考えるなよ! 全部見えているんだからな!」


 ミナがU字ロックを付けるとき、中の兵士に向かって怒鳴った。

 ここは二階なので窓から飛び降りても下手な落ち方をしない限り無傷だ。裏から回られて強襲されたらたまったもんじゃない。


 しかしその後は特筆する問題も無く、子爵が人質になっているのを見た兵士が歯噛みしているのを眺めながら、強襲した俺達は悠々とホールまでやって来た。

 その途中でアバス隊と出会い、彼らの手には3人の子供が縛られた縄があった。子爵の子供だ。


「なぁなぁスッゲーだろ? こいつら隠れてたけど、私が見つけたんだぜ?」


 と、ミーシャは誇らしげに子供を突き出してきた。その子供は声は出していない――いや、恐怖で声すら出ない状態になっているのか、「フー、フー」と荒く息を吐きながら涙を流すだけだ。

 可哀想だが、この子たちも人質になってもらおう。


「被害状況は?」


 強襲部隊は警備兵が睨む中ホールで集合する形となり、その被害状況を確認する為に各部隊のリーダーに問うた。


「うちは一人やられました」「こちらは居ません」「今は一人ですが、ヤバいのが一人です」などなど、決して少なくない被害報告を受けた。


「よし。撤退だ」


 強襲部隊全員が居る事を確認すると、正面玄関から外へ出た。ホールを囲っている警備兵も、玄関外で消火活動に当たっていた警備兵も、皆が皆俺達へ殺気だった視線を向けている。


「そちらが我々の安全を保障してくれる限り、我々もまた子爵とそのご子息の安全を保障しましょう」

「まっ、待て! ラジュオール様達をどこに連れて行くつもりだ?」

「カタン砦前の戦場へ連れて行きます。そちらで今回の戦の終了宣言を行うと共に、捕虜の解放を行います」


 そう言い残し、ミナとアバスに左右を固められながら玄関を出ると、俺の存在に気付いたヴィリアは嘶き上空を飛んでいる仲間の竜騎士(ドラグーン)に合図を送った。

 そのヴィリアの足元には挽肉になった元兵士達が散らばり、今一番酷い有様になっている。

 数分もしない内にヴィリアの合図を聞いた仲間が中庭に降りてきた。


「大丈夫か、ヴィリア?」


 返り血なのか出血なのか分からない状況に問いかけると、心配無用と言った様子で笑った。


「全員、ドラゴンに乗れ!」


 号令で降りてきたドラゴンに分乗していく。子爵はヴィリアではなく別のドラゴンに乗せ、その子供達も同じだ。

 途中、歳がいったメイドが温かそうな外套を手に飛び出してきたが、その中に武器が隠されていると勘違いしたヴィリアがメイドを握りつぶそうと掴んだが、直ぐに止めたので大事には至らなかった。

 

そのメイドは豪胆なのか何なのか、ヴィリアに握られても悲鳴を上げるどころか「ドラゴンの癖に何をビビッているんだ!」と喝を入れる始末だった。

 続いて、子供達にも毛布を持ってくると一人の若いメイドにこちらへ来るように命令した。


「その子たちの世話をしているメイドです。短期間であれど慣れない捕虜生活でお心を壊してしまう可能性があります。そうならないためにも、このメイドを連れて行ってもらえないでしょうか」


 そうして寝間着姿のままのメイドは青天の霹靂と言った様子で、歳のいったメイドと俺の間を視線で行ったり来たりした。


「構わん。だが、時間をかける事は出来ない。乗れ」


 これ以上時間をかけて――いや、これも時間稼ぎの一環である可能性が否定できない状況なので急いでメイドをドラゴンに乗せた。

 メイドは子守のはずなのにそれほど良い待遇を受けていないのか、空へ上がるにも関わらず薄い布を渡されただけだった。


「そちらは、空が明け始めてから飛べ。守られなかった場合は先の言った通りになることを覚えておけ」


 悔しそうに歯噛みする警備兵から視線を外し、再び空へ上がった。

 一時(いっとき)、本当に一時(いっとき)と言う短い時間で作戦通りラジュオール子爵を確保することに成功した。


 これでカタン砦の戦争も終結するだろう。

 矢が届かないほど空へ上がった所で一息ついた。俺が一息ついた事で他の、ミーシャを除くヴィリアに乗る仲間も安全だと分かったようで長い息を吐いた。


 主人公側も被害を出しながらも、子爵邸襲撃に成功しました。

 襲撃場所の資料が少なく行き当たりばったりな感も強かったですが、屋敷の主は一番いい部屋を陣取っているので大体の見当は付きます。

 他の仲間たちは、万が一の時に備えてほかの部屋を見回らせていましたが、兵士が早く来る一階の被害が多かった状況ですね。

 また、子爵の隣に寝ていたのは奥さんではありません(意味のない情報ですがw)


12月28日 脱字修正しました。

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