部隊の今後――
☆祝100話☆
文字数少なく話数が多い作品ではありますが、ここまで書いてこれたの応援してくださる読者の皆様のお蔭です!
これからもよろしくお願いします<(_ _)>
「んぐ……」
着陸した森を下った場所に、蛮族の住処はあった。
蛮族の家はテントで作られた移動がし易い物がメインだと思っていたが、ほぼ全てがきちんと木が組まれた家だった。
高床式の様に床が高くなっているのは雨が多いからと言う物に、外部から進入する虫を少なくすると言う意味もあるそうだ。
初め待たされた家に居た時、何かムズムズするなと思ったら足をムカデが張っていたのだ。
あの宇宙生物に驚き声を上げてしまった事で、ヴィリアが瞬間最大風速的にキレてしまいなだめるのが大変だった。
その後、高床式の家に移ってから俺とアバスは蛮族から歓迎の酒をふるまってもらっている。
「げふっ……」
「不味い! もう一杯!」何て口が裂けても言えない、独特の発酵臭さのある山羊の乳酒の香りが口いっぱいに広がる。
しかも、それに山羊の血を入れているのだから臭さが二乗倍になっている。前世で飲んだ山羊の乳酒は全然臭みが無かったので油断していた。
隣に座るアバスなんて、ひと舐めしただけでグロッキー状態だ。酒が弱いわけじゃないので、臭みの問題だろう。
「よおロベール、飲んでるか?」
能天気な声をかけてきたのは、蛮族との会話の切っ掛けを作ってくれたミーシャだ。
年齢は俺より一つ上の14歳だった。年齢の根拠はあやふやだが、他の蛮族が「確か季節が14回廻った」と言っていたからだ。
「お代わり飲むか? 友誼を結びに来たんだから、私達は酒をどんどんと飲ませる事もできるぞ!」
「おっ、おう……。余り飲んだことが無いから、今回は様子見でもういいや」
「そうか? 蛮族の癖に遠慮がちだな!」
酒は山羊の乳酒のみだそうで、さっきミーシャが言った「酒をどんどん飲ませる」と言うのは歓迎の表れだそうだ。数の少ない乳酒を飲ませるくらい歓迎しているんだぞ、と言う。
あと血が入っているのは、大切な家畜を俺等の歓迎の為に潰してくれたからだ。これは結構歓迎してくれているとみて間違えないだろう。
「蛮族の客人よ。山羊の血入り乳酒は気に入ってもらえたか?」
ミーシャに続いて部屋に入ってきたのは、40代後半くらいの男性だ。これは私見であって、町ではなく森で過ごしているためもっと若い可能性がある。
「えぇ。独特の風味にクセがありますが、初めて飲む酒で楽しませてもらっています」
「それは良かった。昔、蛮族の貴族に飲ませたところ「こんな腐った物が飲めるか」と言ってコップを投げつけて来たのでな」
「へっ、へぇ~」
貴族が飲んでいるワインも、言ってしまえば腐っているんだけどな。まぁ、人にとって利益がある物を発酵。無い物を腐敗と言うんだから、細かく言えば腐っているとは違うんだけどさ。
「そういった不届きな輩は森の中で再び迷子になってもらったがな」
「なるほど」
助けてもらった恩人に対してその対応。これは、貴族に対してフォローのしようがございませんわ。
「申し遅れたが、私がこのゴナーシャの長である深き森の監視者であり草原を狩る者ダルエナの子ラガックだ。こいつについてはもう知っていると思うから紹介を省かせてもらうが、二人の世話をするように言いつけてある」
紹介長ぇな。ってか、ミーシャの時も深き森の云々と言う前句を言っていたが、自己紹介時には毎回言うのだろうか?
「ゴナーシャとは、ダルエナの駆る大鹿の名前だ。我々は昔から森を見つめる部族として生を受け、そして今まで生きてきた。その間、何度も蛮族と戦ってきたがそちらから友誼を結びに来たのは大変喜ばしい事だ」
「そちらについては、私としても歓迎すべき事柄です。あなた方が話の分かる人間で本当に良かった。改めて紹介させていただきます。私の名前はロベール・シュタイフ・ドゥ・ストライカー。ユスベル帝国竜騎士育成学校に所属する貴族です」
胸に手を当てうやうやしくお辞儀する。地べたに座ったままなので、お辞儀と言っても腰から上だけを曲げる簡単な物だが。
「こちらが、同じくユスベル帝国竜騎士育成学校に所属しているアバスです。剣技は学校内でも群を抜いており、騎士にも引けを取らぬ達人です」
ペコリ、と特に何も話すことなくアバスはお辞儀した。やや話を持った紹介だったが、部族長のラガックの興味を持たせることが出来たので良しとするか。
「なるほど。私は学校と言う物を良く知らないが、子供を集める場所だと言うのは分かっている。真面な大人から真面な生き方を教えてもらっているようだな」
「学校とは大人になるために必要な知識を教える所ですからね。ただ世の中の理は曲げることが出来ず、良い奴も居れば悪い奴も居ます」
「フッ……」
俺の言い分に何が面白かったのか、ラガックは馬鹿にするでない感じで鼻を鳴らした。
「大人になるのに、何で誰かから教わらないといけないんだ? 生きる為に必要な事は森が教えてくれるだろ?」
ミーシャが心底不思議そうに聞いてきた。この自然と共に生きる部族ならではの考え方だろう。
「10年かかって覚えるのが1年で済めば、残りの9年で別な事を覚えることができるだろ? 人間の寿命は短い。ならば早く一人前になるに越したことはない」
「う~……。お前の住んでるところは息苦しそうなとこだな~……」
そんなことは無い。今は今で忙しいが、前世に比べたら大分ゆったりとした空気が流れている。それは俺がストライカー家のロベール君と言う意味が強いかもしれないが、それでも空気の悪さを除けば過ごしやすい。
すると何が面白かったのか、俺とミーシャの会話を黙って聞いていたラガックが突然笑い出した。
「ハッハッハッ!! なるほど。ではお前は知識を教えられたから、その歳で我々と友誼を結びに来たと言う事か?」
「その程度の打算で仲良くなるのであれば、部下に適当にお土産を持たせてとっとと帰らせてますよ。こう見えて私は部隊を――兵士を大量に抱える部隊長をしております。私が居なくなれば、頭を失った部隊は立ち行かなくなります。そんな私が、今まで交流の少ない、または無かったあなた方の所まで赴きこうして話をしている。族長である貴方なら、これがどれほどの事か理解できますよね?」
ラガックは俺の言葉を噛み砕くかのように、目を瞑って黙考した。
そして直ぐに怪しすぎる程の満面の笑顔となり俺の前にあった、空になった乳酒を入れていたカップに新しく乳酒を注ぎだした。
「そうだな。確かに、頭がこの様に危険を冒してまで来たんだ。それに我々は堪えねばならん。それと共に、お前が何を思ってここに来たのかも聞かねばならん」
「私の願いは、今回の戦闘中は何もしないでほしいと言うだけです。他国の戦争はここに居る皆さんには関係のない話で、それに伴い騒がしくなりますがそれで出張ってきてもらっては色々と困るので……」
「それだけか?」
「ここへ来た当初の目的としては、これだけです」
背中を討たないでくれ。ただそれだけを言う為に土産物を持って、仲の良くない自分達のところへ来たのかと言いたげな表情から、俺が含みのある言葉を吐くと一転して睨みを効かした凄味のある顔になった。
「場合によっては、持ってきた土産を全て持って帰ってもらう事になるなぁ……」
「皆様には喜んでもらっているようですが、何かお気に召さない品物でもありましたか?」
無理な願いを言ってきた場合は、持ってきたお土産ごと放り出す。そんな事を回りくどく言うラガックに、何を言っているのか分かっていない体で返した。
持ってきた貴金属は、万が一の時の為の軍事資金だ。返してもらわなくても、別に俺は困らない。
「ふん。お前達に突き返す為に他の奴に渡った物を集めさせるなど造作もない。お前たちはそれで我々が分裂でもすると思っているのか? ならばお前は我々を舐めすぎだ。その程度で我々が散り散りになると思うなよ?」
「何を勘違いなさっているのか分かりませんが、渡したお土産を『返せ』など言うはずがありません。あれは皆様への御挨拶と共に、さきほど言った分だけのものとなります」
こいつは何を要求するのだろうか、と訝しむラガックに俺は気難しい相手用の営業スマイルを前面に押し出した。
こういった手合いは自分の仲間を守る事を第一に考えている。そんな相手の所に俺の様な裏の考え事がある様な口調で行っては、怪しまれて断られるのが関の山だ。
ここで重要なのな、ラガックの隣で話に付いて行けずアホ面を晒しているミーシャだ。
ここで決裂したとしても、ミーシャから感染していけば御の字だ。しかし、すでにダメかと言うと、ラガックに断られるとも思わないがな。
「そこで物は相談ですが――」
分かりにくくは無いが、隣で無我の境地へ入りかけているミーシャも興味を持ってもらえるように話しはじめた。
表向きには此度の戦争に勝利するため。しかしその実、俺の私兵を揃える為の布石を。
★
う~ん……。周りからの視線がクッソ痛いな……。
ラガックとの会談の後、大鹿の面々から歓迎会を開いてもらい野趣あふれる料理の数々を食べた。
外とあまり交流が無いようで、供された料理のほとんどは塩味で後はほんの少し骨や香草から出汁や香りが出ていると言った感じの物がほとんどだった。
外に興味を持ってもらう為に、調味料の一つや二つを持って来れば良かった。これは今後の課題として覚えておかないといけない。
「よーし。大体は集まったな」
「ハッ! 天駆ける矢子爵邸強襲隊全26人中警備6人を除く20人、ロベール様の命により集まりました!」
背筋を伸ばし敬礼しながら報告してくれたのは、ロベリオン第二皇子経由で編入させてもらった騎馬騎士本部所属の兵士だ。
天駆ける矢のコンセプトとしての軍の一元化の為として、竜騎士だけではなく騎馬騎士本部所属の人間も立てないといけないので面倒くさい事この上ない。
「ありがとう。――では集まってもらって早々申し訳ないが、新しく我が部隊に組み込まれる事となった隊員を紹介させてもらう」
そう言い、後ろに控えさせていたミーシャ達、大鹿から連れて来た人員三名を紹介した。
「右から、ミーシャ、ララークル、モーナクだ。彼らは森の民として狭い所でも素早く動くことができ、今回の任務にも必ず良い結果を出してくれると思っている」
大鹿にお辞儀や敬礼の習慣が無いのか、それとも蛮族に対してその様な事をする気が無いのか、全員胸を張って俺からの紹介を受けるだけだった。
おかげで居たかった視線がさらに強くなった気がする。
「隊長、一つ質問をよろしいでしょうか?」
「許可する」
「ありがとうございます。率直に聞きますが、蛮族がなぜ我々の部隊に編入されるのでしょうか?」
「先も言ったように、彼らは狭い場所での戦闘に慣れている。この場に居る選ばれた全員が弱いと言っている訳ではなく、今回の作戦はカタン砦防衛線の要であり絶対に成功させなければいけない作戦の為、絶対を越える成功確率で挑まなければならない。その為の人員補充だ」
答えて直ぐに別の兵士が手を挙げた。
「では、奴らは傭兵の区分になるのでしょうか?」
「『奴ら』ではなく『彼ら』と呼ぶように徹底しろ。この部隊に配属された以上、互いに蛮族と呼称することを禁止する。これは、天駆ける矢だけではなく大鹿も同じである」
いいな? と大鹿のメンツに確認を取ると、男二人は不承不承と言った様子で鼻を鳴らすにとどめた。
それを見た天駆ける矢の学生数名が怒鳴ろうとしたが、直ぐに隣に居た仲間に取り押さえられその場は終結した。
「天駆ける矢の中で、我々が若い騎士・兵士でなぜ構成されているか分かるか?」
その問いに天駆ける矢のメンバーは皆顔を見合わせ答えられなかった。
「今後、我々が行う作戦は特殊性が高く、また秘匿性に関しても高くなる可能性がある。多くの戦術を知っている方が将としては安心だろうが、それでは我々へ下される命令を遂行することはできない。私が目指すのは皇帝陛下から下される命令を、帝国が有する総戦力以上の結果を我々だけで出す事である。その為、若い内から清濁併せ呑む深き度量で作戦に柔軟に対応しなければならない! 我々の存在は時として疎まれる事があるかもしれない! だが、我々が目指すのは帝国の未来である! どれだけ帝国に貢献しようと秘匿性の為に表ざたになることなく、支援した部隊が表彰されるかもしれない! その為に、苛立ち腸が煮えくり返るかもしれない! しかし、これだけは覚えておいてほしい。、最後に帝国を窮地から救いだす事が出来るのは、この部隊の存在意義を理解し、一人一人が部隊の為に貢献できるようになった、今この場に居る全員と言う事を!!」
熱く叫ぶように語った後に一拍呼吸分の間を置き、全員の反応を見た。
多くがが俺の演説に呑まれ顔を紅潮させている。残る一部は話が大きくなりすぎて理解がおよんでいないような状態になっていた。
もっと理解しやすい内容にしよう。
「我々の作戦への貢献度は、皇帝陛下も注目している」
もちろん大勢は気にしているだろうが、こんなポッと出の学生や兵士の部隊なんて話の種になるだろうが、そこまで気にされているはずもない。
この部隊への竜騎士候補生の選抜方法は死ぬ覚悟があるかどうか。両親への遺書をかけるかどうかも基準としてあった。
兵士の方は似たような物だが、若く体力があり家柄関係なく忠誠心が高い人間で、こちらは平民出なので他に行くところが無いので問題は無い。
「そうでなければ、これほどの大役を任せてもらえる訳がない。この作戦が成功した暁には、皇帝陛下から言葉もいただける事になっている」
今度こそ、全員の口から驚きの呻き声があがった。皇帝陛下パワー凄いな。そんな約束してないけど。
「この作戦の鍵を握るのは我々だ! 第一親衛隊の名を帝国史に刻み付けろ!!」
解散! と号令をかけると、先ほどまでのピリピリしていた空気が霧散し、残るのは部隊員の発していた熱だけとなった。
今回の蛮族の件は何とか有耶無耶にできた。今後はちょっとやそっとでは文句を言われないだろう。
あとは――。
「待たせて悪かったな。君たちの今後について、これからきちっと話し合おう」
帝国人ではなくとも、これからどれくらい行動を共にするか分からないので、今後問題を起こさないように大鹿の面々と話を進めておかなければいけない。
俺にとって最良の結果を残してもらわないといけないのだから。
途中の演説が若干臭かったかもしれません……。
主人公は自分の部隊員をどのようにしたいのか。
さりげなく部隊名を告げていますが、誰の部隊なんでしょうか……。
12月13日 誤字修正、文章を編集しました。
7月1日 余分な句読点を削除しました。