その5『ふたり』
『理央へ
お久しぶりです。元気にしてますか?
とか言ったらそんなわけないだろう、って怒られちゃうかな。きっと理央は私が急にいなくなって事でショックを受けて元気がないんだろうな、って思います。自惚れだとは思わないよ。私達はそのくらいは分かり合ってたと思うから。私が同じ事をされたら絶対ショックだもの。
理央が私の友達たちに片っ端から電話をかけまくって私の居場所を聞こうとしてるって聞いたよ。うん、でも、誰も教えなかったでしょう?ごめんね、私、今理央に捜し当てられちゃったらきっと決心が鈍っちゃうから。だから、絶対に見つからないようにみんなに口止めしておいたの。
理央はきっといま、とても途方に暮れていると思います。いままでずっと壁越しに寄り添って生きていた私が突然いなくなって、居場所はどうやっても知れなくて、連絡の1つも寄越さずに、って。
でも、理央。私達はあのままじゃ絶対だめなんだよ。
私は理央しか見えなくて、理央は私しかみなくて、そうして二人だけの世界に閉じこもっているだけじゃ、きっとダメなんだよ。外の世界は美しいのに、家の中で寄り添って生きているのは、もう止めにしよう。
そういえば、こっちで荷物を運ぶのを叔父さんが手伝いに来てくれたんだけどね、その時叔父さんからお母さんの話を聞いたんだ。お母さんが私達の仲の良さをあそこまで恐れたのって、お母さんがずっと若い頃に叔父さんと恋におちてたからなんだって。当然、二人は結ばれる事もなく、叔父さんは今はおばさんと結婚して幸せに暮らしているけど、お母さんはお父さんと結婚したものの、結局叔父さんの事を忘れられなくてお父さんと離婚する破目になって……。叔父さん、辛そうに話してたよ。あの家での私と理央の部屋はお母さんと叔父さんの部屋だったんだって。
その話を聞いて、お母さんの事を可哀想だと思ったけど、それでもちょっと恨んじゃったな。もし、お母さんが私と理央の仲を勘繰ったりしないで、普通に暮らしていたら、もしかしたら私と理央がこんな想いを抱く事もなかったんじゃないかな、ってやっぱり思うもの。そうしたら、普通に家族として、あんなへんなギスギスした家でじゃなくて、もっと仲良く暮らせたかもって。
それとも、違うのかな?
もし、家族としてずっと一緒に暮らしていても、私は理央の事を好きになってしまったかな?
うーん、こんな事を考えていても不毛だからやめよう。とにかく、今の私達の事。
この手紙も、今まで書いた手紙と同じで出すつもりが無いから、きっと理央は私の真意が分からずに今も悩んでいるんだよね。もしかしたら、家の雰囲気は益々悪くなって、お母さんとは口をきかない、なんて事になっているかも。
でも、理央、しばらくはそうやってめい一杯落ち込んでも、それから外に目を向けてみて。今まで理央は私を全て基準に考えて、私だけを見てきたけど、そうじゃなくて外に目を向けてみて。外は広くて、辛い事も痛い事も沢山あると思うけど、それでもあそこで閉じこもって生活しているだけじゃ見えてこないようなものがたくさんあります。私達はそれを知らなければいけないと思う。それを知って、たくさんの人を知って、その中にいる自分を知って。いくらお互いが大切でも、二人だけで生きていけるって事は絶対無いよ。
そうやって外に目を向けて、それでももし、まだお互いの事が……。
やめよう!『もし』なんて話は。
とにかく、私が今理央に願う事は理央が一刻も早く立ち直って外に目を向けてくれる事です。ちょっとでもその手助けになればと思ってお土産も残してきたんだけど、気づいてくれるといいな。
それでは、そろそろ夕食を作るのでこの辺にしておきます。
PS.いつか2人でこの手紙を読んで笑えるようになれたらいいな、と思います。
未央』