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三人が落ち着くのを待ってから僕はなるべく冷静に自己紹介を始めた。
「麻奈はルードの事を知っているみたいだね」
「幸長の弟っていうのと魔王の息子というのは知っているのだ」
「そっか、で、彼女は浦島琴音さん。僕の通っている学校の同級生だよ。色々あって同居することになったんだ」
「へー」
「浦島琴音です。よろしくお願いしますね麻奈さん」
空返事をした麻奈は徐に琴音さんに近づく。
むにゅ……突如、琴音さんの胸を揉んだ。
「な――」
「ふわぁ、大きなお胸なのだ。麻奈もこれくらい大きくなりたいのだぁ」
むにょむにょ。
やばい、目のやりどころに困る。
「何をしているんですか!」
桜花さんが声を出した所で麻奈は手を離す。
「ぬー……まあ良いのだ。事情は大体理解したのだ」
そう言うと麻奈は桜花さんに視線で会話をする。
「桜花は視線会話が下手なのだ。幸長のほうが上手なのだ」
「視線会話?」
琴音さんが首を傾げる。
って、コラ!
「ちょっと! やめてよね!」
また怒り出しそうになった桜花さんもこの会話方法に疑問を持った琴音さんに焦りを見せる。
この会話を覚えられて琴音さんに盗み見られると非常に厄介なんだからね。その、ルードと琴音さんをカップルにさせる作戦とかね。
「目と目で通じ合うようなものですよ」
うわぁ……すっごい誤魔化し方。本当は戦場での仲間内で連携するために必要な視線での意見交換技術なんだけど、まあいいや。
「そうなんですかぁ……桜花さんは幸長くんと目と目で会話できるんですね」
「は、はい……一応」
なんか悲しそうな目で見る琴音さんに桜花さんは申し訳無さそうに頭を下げる。
「喧嘩せずに仲良くして欲しいな、麻奈はこれでも強くて頼りになるからさ」
「というわけでこれからよろしくなのだ」
「よろしくお願いします」
「よろしく」
「……フン」
各々が挨拶を終えて自己紹介を終わらせた。
「さて、食後の鍛錬をしますよルード様!」
「えええぇえええええええええ!」
面倒そうな声をルードは出して抗議する。昨日はあんなにしたがっていた訓練なんだけどなぁ。
そういえば昨日の訓練でボロボロになっていたっけルードの奴。報酬のスライムを受け取ってハイテンションになっていたけど、やっぱり嫌だったんだ。
「ルード様は次期魔王になるのですよ、鍛錬は大事です」
「お風呂に入ってくるのだ」
麻奈は勝手に風呂場へ歩いていく、何処までも自由な奴だ。
「別に今日じゃなくても」
「何時、敵が襲い掛かってくるか分からないのですから少しでも早く強くなってもらいます」
会話による説得が不可能と悟ったルードは逃亡を図ろうと桜花さんから背を向ける。
先回りした桜花さんがルードの前方に立って腕を組んでいた。目にも留まらぬ早業だ。
「何処へ行こうというのですルード様? 今夜はお庭で訓練です」
ルードの首根っこを掴んで桜花さんは庭に出る。
「に、兄さん助けてぇえええええええ!」
「助けてって未来の魔王がだらしない事言うなよ……」
「はぁ……」
思わず溜め息が出る。将来は世界中の魔物の期待を背負って君臨する魔王がこれじゃあ不安にもなる。
これじゃあ未来の魔王軍も不安だ。
「あ、私も訓練に参加してよろしいでしょうか?」
琴音さんが右手を上げて進言する。
「は?」
「どういう理由で?」
「この家で生活するには少しでも強くならねば行けないと思いました」
「なんで?」
「昨日、幸長くんがとても強いというのを知りました。そして桜花さんや麻奈さんも……ルードさんは命を狙われているのですよね。この家に厄介になるには最低限、自分の身を守れる強さが欲しいんです」
頼み込む琴音さんに桜花さんはしばし考えた後、邪悪な笑みを一瞬だけ浮かべて頷く。
「私の指導は厳しいですよ。それでも良いですか?」
「はい!」
元気良く答える琴音さん。だけど僕は桜花さんの見せたあの邪悪な笑みに寒気を覚える。
視線を読み取るとそんな会話がただ漏れだ。
フッフッフ、トンデヒニイルナツノムシ。
ルードサマトイッショニクンレンサセレバ、アイモメバエルハズ。
うわ! 凄く打算的な考えをしている。
「幸長さんも訓練に参加しませんか?」
コトワレ! コトワレ!
本音がただ漏れで桜花さんは僕に尋ねる。
「せ、折角だけど遠慮しておくよ」
「兄さんは訓練の意味が無いんだっけ?」
「まあ……そうなるかな」
僕は努力してもこれ以上、肉体能力の向上は無い。
もちろん、経験による最適化は可能であるが幼少時に特別な環境にいたので軽い稽古では効果が無い。勘を取り戻すとか出来そうだけど断らなきゃ何されるか。
「だから頑張る琴音さんを見させてもらうよ」
「はい!」
ボウ!
なんか琴音さんの目から火が浮かび上がっているような気がするけど、気にするのを止めた。
△
桜花さん達は庭で訓練を始める事に。
庭で桜花さんは腰に手を当てて視線をルードに向ける。
「さて、肩慣らしをしましょう。ルード様は魔王、琴音さんは魔物です。ならば魔物としての能力を伸ばすのが最も効率的、且つ簡単に強くなる方法です」
「はい!」
「はーい」
桜花さんは二人とも話を聞いて頷くのを確認する。
「そのためにはまず、ルード様が魔王の領域という魔法を発動させるのが最も手っ取り早いのです」
「魔王の領域……ですか?」
「ええ、魔王の系譜なら誰でも使う事の出来る基本の魔法にして魔物を人化の呪縛から解放する奇跡」
「そうなんですか?」
と、言いつつ琴音さんは僕に視線を送る。
なんですかその期待に満ちた目?
「あ、幸長さんは使えませんよ」
「え!?」
桜花さんは琴音さんが何を考えているのか察したようで答える。
「うん。僕は魔王じゃ無いからね」
「ここに居る方の中で使えるのはルード様だけなのです」
「とはいっても満月光で代わりが利くんだけどね」
「何を言っているのですかルード様、満月光のような無理やり魔物を変身させるような代物と魔王の領域を一緒にされては困ります!」
あー……桜花さんの神経を逆なでしちゃったよ。
「魔王の領域は魔物が自由意志で変身する事の出来る聖域を生み出す魔法なのですよ。辺りの魔法要素も活性化するので魔法の発動も楽になります。我等魔物には良い事尽くめです」
言うまでも無いけれど魔法因子の少ない地域である日本やアメリカでは魔法というのは本当に使いにくい。そのため日本で魔法を使うには満月光によって擬似的に魔法を使いやすい環境にしてから行う必要がある。
もちろん、満月光の使用は厳重に管理されているために安易に使って良いものではない。
一部の能力の高い魔物は日本でも魔物化したまま活動できるとか聞く、体内に魔素を蓄えて活動しているとかなんとか。
少なくともただのスライムである僕には無理な芸当だ。
「人間の姿でも戦う術は必要ですが、ルード様が居るのなら魔物としての戦い方を覚えるのが一番です。ささ、ルード様、準備を」
「使い方を知らないけど?」
ルードは面倒そうに頭をボリボリと掻いている。
やる気が無いなぁ。
「いえ、ルード様は知っているはずです。使える年頃になった魔王の系譜は無意識に覚える力なのですから」
ああ、黒の法衣と同じ原理なんだ。これは僕も始めて知ったよ。
「先代の魔王様から使い方を教わっております。まずは自ら意識する力を回りに解放するイメージをしつつ指を空に――」
言われるままルードは人差し指を上に向けて目を瞑り、振り下ろした。
バァアアアアア!
ルードの指先から見えない何かが飛び出す。
一瞬で辺りに魔法要素が活性化し、魔物化が可能になった事を僕は悟る。
ドクン!
「ウ……」
僕の造詣が崩れて即座にスライムとなりポテっと着地。下には先ほどまで着ていた服が散乱している。
「え、え?」
ルードは自分の指と僕を交互に視線を移しながら力が使えた事に驚いている。
「やれば出来るじゃないですか、では始めますよ」
「がんばれー」
応援しつつ、僕は変身への抵抗力が無い己を呪った。
△
訓練が終わったら僕は全裸になるというのが確定している変な所を見られるわけにも行かないけれど、部屋に帰ろうとするとルードと琴音さんに呼び止められるので戻れない。
仕方なく服を折りたたんでから居間でテレビを見ていた。
魔王の姿に変身できないルードは魔法書を片手に魔法の練習をしている。桜花さんがレクチャーして弱い火の魔法を維持している。
琴音さんはまず人間の姿でどの程度の強さがあるのかと桜花さんが聞いた。
すると剣道を嗜んでいると琴音さんは答えたので、竹刀を持って桜花さんと打ち合いをしていた。
横目で見る限り結構な腕前だ。もちろん、実戦では約に立つ領域では無いけれど昨日の勇者候補生くらいなら十分に相手できる程。
「ハァ……ハァ……でりゃああああ!」
息を切らして竹刀を振るっていた琴音さんに桜花さんは大きく下がって手を前に出す。
「やめ!」
桜花さんは息を切らす事無く相手をしていた。
「……どれくらいの強さか分かりました。最低限、身を守る位には技術があるようですね」
構えを解き、汗を拭いてから尋ねる。
「では魔物としての能力はどうなのですか?」
「ハァ……ハァ……」
「魔物に変身しても良いのですよ」
「いえ、ここで私が変身したら庭に入りきれません。それに……なんとなく変身するのに魔力要素が足りない気がします」
「そうなのですか、では――」
「大丈夫です。半人形態でも能力は使えます」
桜花さんが言い終わる前に琴音さんは変身していく、蝙蝠のような羽を背中から生やした。
「前に火の吐き方をお母さんから教わっているので見せますね」
「ええ、よろしくお願いします」
琴音さんは姿勢を整えると大きく深呼吸しだした。
「スゥウウウウ――」
結構長く息を吸っている。
吐き出すまでに時間が掛かるらしい。
……この速度は実戦で使うには厳しいかな。完全魔物姿なら時間は掛からないんだろうけど。
桜花さんは休憩にと居間に戻ってきて僕の隣に座る。
「そういえば気になったのですが」
「ん?」
「平賀麻奈が倒さなければいけない相手とは何者なのでしょうか?」
「あ、知らなかったんだ?」
「あなたは知っているのですか?」
「うん。アイツの家は代々竜殺しの家系でね」
ピクっと桜花さんの眉が跳ねる。
「エンシェントドラゴンっていう魔物を殺して持ち帰らないと実家へ帰るのを禁止されているらしいんだ」
厳密に言えば麻奈の職業は勇者ではなく竜殺し。別名ドラゴンスレイヤー。
ドラゴンを専門に倒す職業でそのために様々な技術を叩き込まれている。何でも人間化の呪いさえ跳ね除け、無理やりドラゴンにさせる秘術があるという話だ。
魔王軍でも特別な地位を得ているドラゴンとはこの世界においてもやはり変わっていて、この魔素の少ない日本でも山奥では魔物の姿でいるような者もいるとか。
「「――!?」」
桜花さんと琴音さんの表情に緊張が走った。一体どうしたというのだろう?
「あ、もう直ぐ琴音さんの能力が見られるかな?」
琴音さんの口から火の粉が溢れて行くのが見える。
「幸長さん。貴方という人は――」
「ん?」
桜花さんが鬼の形相で睨みつけている。
え? 僕何か悪い事した?
「フー、良いお湯だったのだ」
麻奈がタオルで汗を拭いつつ居間に入ってきた。
バッと桜花さんは琴音さんに視線を送る。
ギュウ! ブン!
「え?」
桜花さんは僕を鷲掴みにして琴音さんに向けて投げつけた。
「漏れないように吹き付けなさい!」
バシっと僕を受け取った琴音さんは唇を僕に埋めた……。
へ?
柔らかな唇の感触。永遠のような一瞬のような不思議な時の流れを感じた。
心臓の鼓動が強くなったような錯覚を覚える。
僕、もしかして……女の子にキスをされているの?
初めての感触に戸惑いを覚えていると。
ボォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
琴音さんの口から炎があふれ出して僕の中へ流れ込んでいく。
身体に業火が流し込まれ、体温が急上昇!
風船のように僕の身体は膨張して行く。
「おわぁあああああああああああああああああああああ!?」
単純な大きさで言えば六メートルは膨れ上がった。
「ムーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「ぬおぉおお……炎が透明な風船の中で踊っているのだぁ。とても綺麗な曲芸なのだ」
「に、兄さん。どうしてそんな身体を張った芸をしているんだい?」
派手な明かりに魔法書片手に練習していたルードは気がついて尋ねてくる。
知らないよ。いきなりこんな事態になったんだ。
琴音さん。文字通り君の唇は灼熱の味がしたよ。
△
そんな訳で流し込まれた灼熱の業火をどうにか飲み下した僕は口から煙を立ち上らせつつ、一体なんでこんな目に遭わなければいけないのかと視線を送る。
「お風呂が空いたのだ。誰か入ると良いのだ」
「そ、そうですか。所で聞きたいのですが」
「にゅ? 何なのだ?」
「先ほど、幸長さんからアナタがエンシェントドラゴンを倒すのが目的で魔王城に来たと聞いたのですか本当ですか?」
「そうなのだ。麻奈は竜殺しなのだ」
桜花さんの問いに麻奈は頷く。
「麻奈の家は伝統に五月蝿いのだ。エンシェントドラゴンを殺して頭を持ち帰らないと家に帰れないのだ」
カタカタと琴音さんが震えて僕を抱きしめてくる。
一体どうしたというのだ。
「用はそれだけなのだ?」
「え、ええ」
冷や汗を流しつつ桜花さんは頷いた。麻奈は首を傾げつつ、部屋に戻っていった。
桜花さんが怒った顔で腕を組み、僕を座らせる。
まあスライムの姿なので座るも何も無いのだけど。
「一体どういう事なのですか?」
「何が?」
そもそもどうしてこんな目に遭わなければいけないわけ?
体の中に業火を流し込まれるわ、訳の分からない説教にも遭うし。
ルードも疑問符を頭に上げてその様子を傍観している。
「アイツの目的ですよ」
「麻奈の事? エンシェントドラゴンなんて珍しい魔物がそうそう居るはずも無いじゃないか」
聞いた話だけどとんでもなく珍しい古のドラゴンで並みのドラゴンよりも遥かに強いそうだ。
魔王領に行けば確かに居そうだし、麻奈が魔王様をそれじゃないかと間違えるのも納得が行くよ。
「そりゃあ魔王軍にならいるかもしれないけどさ、ここは日本だよ?」
「はい……」
琴音さんが弱々しく手を上げた。
「エンシェントドラゴンです」
「はい?」
「だから、私はエンシェントドラゴンという種なんです」
「え?」
なんかの冗談だよね?
桜花さんに視線を向けると悩むように肯定する。
……偶然って、凄いね。
通りでこれまでに受けたことの無いくらい強力な炎だった訳か。黒の法衣がなければ間違いなく蒸発して跡形も残らなかった。
「高威力のブレスは吐くのを我慢すると使用者の内臓に多大な負担が掛かります。ですから幸長さんの中に出して隠したのです」
竜殺しは相手のドラゴンが使った能力でどんな種類なのかを推測できる。
もしもあそこで琴音さんがブレスを吐いたら命を刈り取られていたかもしれないのだ。
「えーーーーっと、じゃあどうしようか?」
つまりは自分を殺そうとしてくる相手との同居というわけだよね。
まだ勘づかれてないけど非常に危険なのは僕でも分かる。
麻奈は家を出て行かないと思うなぁ。出てけと言っても居座るし、自ら出て行く以外で前例が無い。
ポン! ルードが魔法を解いたので時間経過と共に魔物化が切れた。
「キャアアアアアア!?」
脅えていた琴音さんが全裸になった僕を見て驚きの声をあげる。
顔を手で覆っているけど、時々チラッと覗き見るのを止めてください。
閑話休題。服を着て話を続ける。
「しょうがありません。琴音さん、命の危険が伴うので我が家での生活を中断しますか?」
半ば諦めたように肩をすくめて桜花さんが琴音さんに提案する。
すると琴音さんは麻奈の歩いていった方向に視線を向け、首を横に振った。
「この程度で逃げては自分が嫌になります」
「ですが……」
「それよりも幸長くんの家に桜花さんと平賀さんがいる方が危険です」
「ねえ! 本当にそれってどういう意味!?」
僕を汚らわしい生物か何かと本気で勘違いしてるよね琴音さん!
「……本当によろしいのですか?」
「はい!」
「サラッと話を続けないでくれないかな?」
「楽しくなってきたね兄さん」
これ以上騒ぎを起こして欲しくない。僕はそれだけしか頭に無かった。
「じゃあ……」
琴音さんは僕に視線を向けた後、紅くなって涙目で視線を外す。
理由が思い至った。
多分、僕と結果的にキスをしてしまった事に気がついたのだ。あれは悲しみの涙だ。
好きでもない相手とのキス、女の子の心には深い傷を負ってしまったに違いない。
「えっと、あれだよね。ごめん……」
「それは大丈夫です。気にしないでください。お風呂、先に入りますね」
琴音さんはそそくさと風呂場の方へ小走りで行ってしまった。
優しい人だ。スライムを何か勘違いしてるけど……。
ムッとした表情の桜花さんはルードの肩を叩いて庭へ行くように指示する。
竹刀を持たせて構える。
「では琴音さんが入浴を終えるまで訓練再開です! 人間形態でも戦えるように素振り千回!」
「そ、そんなぁあああ!」
ルードの悲痛な叫びが木霊する。
さすがに見ているのも飽きたし、僕は部屋に戻り勉強をするのだった。
その後は特に問題なく夜が過ぎて行った。
△
ズザ、ズズズズズザ……。
朝、目が覚めたら簀巻きにされて引きずられていたら君はどうする?
ああ、空が青くて綺麗だな。
……折角の日曜日の朝に何事だ!
「ぬ? 幸長、目が覚めたのだ?」
「一応ね。所でどうして僕は簀巻きにされて麻奈に引きずられているのかな?」
「暇だから一緒に買い物へ行こうと思ったのだ」
「本人の了承無く連れて行くのはやめて欲しいんだけど」
麻奈の奇行には慣れているけど最近は色々と問題が浮上する。
平和ボケしている自覚はあるけどこんな事されるのはどうなんだ?
気を張ってると疲れるから意図的に感覚遮断してたけどそろそろスイッチオンにして過ごすか?
でもオンして過ごしてたら周囲に心配されてしまったからなぁ……。
「ルードとか、桜花さんとか……桜花さんとか!」
『持ち場を離れて貴方は何をしていたのですか! たるんでいる証拠です!』
うわぁあああああああ!
今にも聞こえそうだ。あの人こういうのうるさいんだよなぁ。
「桜花なら琴音と幸長の弟と一緒に朝早く出かけていったのだ」
「へ?」
そうだったのか? いや、僕に無断で行くとかありえるのか?
「言付けのメールを送っておいたとか言ってたのだ」
「え、本当なの?」
仲間外れって酷くない?
「とりあえずさ、僕を解放してくれないか」
「分かったのだ」
自由になった僕はポケットに入っていた携帯電話に送られたメールの内容を確認する。
『件名 本日の日程』
書いたのは誓子さんかな? 相変わらずシンプルなメールだ。
内容を確認する。
『平賀麻奈の存在が障害となったため鍛錬を下記の魔物限定のジムで行うことになりました。つきまして護衛は必要ありませんので本日は自由行動とします』
だからって何も言わずに行かなくても……その下には住所が記載されている。
『追伸、事情を聞きました。平賀麻奈とのデートをお楽しみください。色情の権化by桜花 最低下劣男by誓子』
「なんだとコラ!」
まったく、勘違いも甚だしいって言うんだよ。
麻奈が勝手に彼女気取りでいるだけで僕は別に何も感じていないっていうの。
コイツは家事もロクに出来ない我が家の寄生虫だ。僕を使用人か何かと思っていてそれを彼女とか勘違いしている。
「今日は麻奈の日本用の武器修理が終わるのだ」
「あっそ」
はぁ……まあ、ルードたちが来る事が無かったら暇な日はこうして麻奈と買い物に行く事もあった。
「じゃあ、麻奈が得物をとりに行っている間、ルード達の様子を僕が覗いて来るよ。帰りに買出しでもして帰るか」
「了解なのだ!」