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ブラコン魔王の婚活  作者: アネコユサギ
ブラコン魔王の婚活
2/25

 空港の窓から都市部へ目を向ける。

 何時だって変わることの無い都会のビル群が見える。

 イギリスのように、未だに魔法文明に重きを置いているような空飛ぶ箒という危険な乗り物が無い空。

 魔法文明、魔法というのは便利であると同時に個人個人の差が激しい技術。

 有能なものだけ得をする。

 では無能な者は底辺でいるしかないのはまさしく理不尽。

 魔法文明を停滞させ、誰でも使える科学文明に重きを置いたのが僕の住む日本。

 科学の最先端を自負する国だ。


 僕の名前は塩見幸長。

 近代社会の日本に住む、高校生である。

 一応、魔法は授業でも行われているけれど、本人の資質という問題もあるために日本では上手に使える人は少ない。

 良い例えだと英語と魔法はテストでしか使えない日本人とか言われるらしい。


 僕は……まあ普通の高校生よりは使えるかな。

 ブブブ……携帯端末のバイブレーターがメールの着信を伝えている。

 僕は液晶画面を開いて内容を確認する。


『件名 到着』


 シンプルな件名だ。どうやら飛行機が到着したらしい。

 メールの発信者が僕に、両親の葬式が終わり日本に弟が来るから迎えに来いと連絡を寄越したのが数日前の事だ。

 ただ、テレビやネットのニュースでは目にしている。

 だけど僕からするとすごく遠い存在の話でしかなかった。


 両親が亡くなった。


 と、言われても僕にはいまいち実感が無い。

 何せ、殆ど会ったことの無い義理の両親だからだ。


 僕は今日、弟を空港へ迎えに行っていた。


「にいさーん!」


 搭乗ゲートをくぐってやってきたのは金髪で青い目をした美形の少年。

 肌は白く、手を振りながら駆け寄ってくるその姿を空港にいる誰もが振り返って確認する。弟は顔やスタイルが良い。

 僕から見ても何処かのモデルにしか見えない。

 一緒にいて兄弟だと言われて誰が信じるだろうか……信じないだろうな。


「久しぶり」


 シュレイルード=塩見=ヴォレイナス。

 これが僕の義理の弟の名前。

 平凡な日本人の高校生な外見をしている僕とは雲泥の差である。

 愛称はルード。この前会ったのが中学生3年の正月休みだから三カ月ぶりだ。


「ああ、にいさんの肌触り……瑞々しくて本当に癖になるよ」


 会って早々、抱擁してくる弟の頭を掴んで離す。


「変な手つきで触るなよ」

「えー、だってー」

「だっても糞も無い。で、桜花さん達は?」

「ここに」


 いつの間にか僕たちの至近距離に桜花さんが佇んでいた。

 桃宮桜花、ルードに勝るとも劣らない美貌を携えた黒髪が映える和風美人だ。身長は僕と同じくらいの171センチ前後。


 髪の色は艶のある黒、髪型は腰まで伸びるポニーテールだ。

 今日はセーラー服を着用している、とても良く似合う。

 凝視しているのがばれたら日本刀を取りだしかねない。

 年齢は僕達より一つ上の17歳らしい。


「お出迎えご苦労様です。ルード様の不出来なお兄様」


 終始僕の名前を呼ばない。それが桜花さんだ。


「……」


 次に僕を眼中に入れていない失礼極まりない女の子の名前は猪狩誓子。

 赤くカールした髪がトレードマーク。眼鏡を掛ける知的な委員長と言う単語が一番しっくり来る女の子。

 桜花さんと同じようにセーラー服を着ている。同じ学校にいたのかな?

 年齢は何歳だっけ? 教えてくれないので分からない。

 先ほどのシンプルなメールはこの子が送ってきた。

 この子も実力者……らしい。


「はいはい。じゃあ行こうか、塩見家へ」

「いえ、私は別の仕事がありますので」


 誓子さんは僕の案内を拒否してルードの方に顔を向ける。


「それではルード様、諸々の手続きは私が行っておきますので、日本での生活をお楽しみください」

「うん」


 誓子さんは日本で他にする事があるらしく、足早に立ち去ってしまった。

 別れ際にルードの手を強く握っていたのが目に焼きついた。 


「それでは宜しくお願いします。あ、これは荷物です。ちゃんと持つのですよ」

「はいはい」


 僕はこれからの日常に頭を抱えながらタクシーを呼んで弟を家へと連れて行く。

 そういえば、説明がまだだった。

 日本では人種差別は厳格に禁止されている。それは人も魔物も変わらない。

 特定の地以外では満月の夜だけ人でないものに変身できる種族、それが魔物だ。

 もちろん人間と魔物、両者の間に子供だって出来るし、一生自分が魔物だという自覚の無いまま死ぬ人もいる。

 日本は科学の国ってのもあるけど。人間と魔物って満月の日以外じゃ見分けつかない。

 今から千年程前、当時の魔王が人間との友好関係を築こうと世界中の魔物たちに人間になる呪いを掛けたのが始まりだ。

 呪いが唯一解けるのが満月の日。


   △


 世界には寿命が存在する。数百年前、とある魔法学者が打ち出した世界滅亡論証。

 その論証が実証され、世界が滅びへ向かい。第……何十回目だったかの世界危機により人間と魔物の和解の破棄が行われた。

 世界の為に和解を解消するという双方が涙しながら行われた調印式だったという。

 多大な犠牲の末に延命処置が行われたのが120年前、当時は飢饉や疫病で世界人口の四分の三が失われた。


 高度成長期に差し掛かった頃、魔法を廃止しようと様々な国が脱魔法技術を方針にした時代だったらしい。

 言い伝えにある延命の方法を藁にも縋る思いで実行に移し飢饉は無くなった。

 その方法とは勇者と魔王の戦い。


 戦いによって失われた多大な勇者達と魔王の魂を世界に還す。科学文明からしたら些か信じられない要素だったのだが、当時の魔王が絶命すると同時に世界の災害は静まった。

 魔王が飢饉と疫病の黒幕だったんだと主張する国も居るけれど、大体の人が信じている説が戦いの方なのだ。

 お陰で世界の食糧問題や天変地異は無くなり、飢えに苦しむ人や魔物は極僅かとなっている。

 そのため、今でも世界平和の為に勇者と魔王の攻防が行われている。

 それと僕になんの関係があるかというと、僕の義理の父親は……魔王なのだ。

 十年と少し前、魔王城での功績が認められた僕は魔王様の目に留まり、養子として日本にやってきた。

 死んだはずの息子が生きてたとか言われたんだけど実感はない。

 そもそも以降は会ってすらいない。形だけの隠し子って感じだ。


 時々、魔王の実子であるルードが日本にやって来た時に相手をする任務をしている。

 魔王様が支配している地域を人々は魔王領と呼んでいる。その場所は満月の日でなくても魔物が魔物の姿でいられる場所だ。

 そこで魔王様は大きな城で乗り込んでくる勇者勢と戦争していた。

 結果、つい先日、義母の王妃様と共に魔王様は勇者に殺された。

 イギリスの方では魔王討伐による人類勝利放送がひっきりなしに放映されている。


    △


 僕の家は魔王の妻である王妃様の屋敷だ。祖父母は五年前に相次いで亡くなった。


「これからよろしくね」

「はいはい」


 木造の屋敷で、華族の家と想像するのがもっとも手っ取り早いだろう。

 庭には池もあり、四季折々の木々がその四季には彩を咲かせる。

 普段、この屋敷には僕だけで生活している。通いのお手伝いさんが時折掃除に来るけれどそれ以外に人は来ない。

 屋敷面積に比べて非常に未使用の部屋が多い。


「学校はどうするんだ? やっぱり魔物養成マジックキングダム学園に入るのか?」


 マジックキングダム学園というのは魔物の子を魔物として受け入れるエリート校だ。国際的にも有名で卒業生は将来有望、人間も入学したいと思う学校だ。


「違うよ。ボクが入るのは兄さんと同じ熊猫の水高校だよ」


 熊猫の水高校、僕の通っている高校の名前である。

 校章はパンダがコップに入った水を持っているという奇妙なマークをしている。

 それ以外は普通の学校だ。


「え!?」


 とても嫌な予感がした。というよりも僕はすぐに転校したくなった。


「殿下には次代の魔王になってもらわねばなりません。という事は御妃も得るのは必然」

「はぁ……」

「前魔王様もルード様と同年代の時に未来の御妃に顔合わせをしました。で、将来の妃がいる高校に入学する事になったのです。間違っても不出来な兄は無関係です」


 ルードの血統である魔王、世界の為に命を賭ける職業だけに勇者と戦う。

 魔王だって同じ運命を子供に歩ませたくなど無い。だから勇者を返り討ちにするくらい優秀な子孫が欲しい。結果、全世界で厳正な血統審査を試され、その中で一番有能な子孫が生まれる組み合わせで婚姻を結ばれる。

 だけど相手だって選ぶ権利がある。

 強引に婚姻を結ぶと相手を想う人物とかが勇者になる事を決意する人とかでちゃったりするんだって。

 そんな訳で、ルードと相性の良い婚約者と仲良くなるために僕の通う学校にいるらしい。


「さ、これから色々と忙しくなります。不出来な兄、風呂の準備をしてください」

「何、そのゴミを見るような目」

「桜花……見逃してあげたけど、さすがに兄さんを小間使いにするのは許せないよ」


 ゴゴゴ……辺りの空気が震えだす。

 ルードの目が真紅に輝き、桜花さんをにらみつけた。

 まるでヘビに睨まれたカエルの様に桜花さんは顔色を青くする。


「確かに今のボクじゃ、桜花に勝つ能力も強さも無いけど部下を選ぶ権利はある」


 自分で能力が無いとか平然と言う弟に僕は呆れる。

 だけどルードは僕を小間使いにしないために怒っているのだから黙っていよう。


「ね? 桜花。なるべくボクを怒らせないで欲しいんだ」

「は、はい……肝に銘じておきます」


 桜花さんが頷くとルードは笑い。先ほどのプレッシャーが霧散する。


「じゃあこれからみんなで住む家だものね。役割分担しようか、もちろん平等にね」


 こうして僕の家が騒がしくなった。

 平等にとルードが念を押したお陰で家事の負担がぐっと楽になった。

 お風呂に入っているとルードが乱入してくるアクシデントこそあったけれど、平穏に本日を終えようとしていた。


    △


 ルードが風呂に入り、僕はリビングで寛ぎながらテレビを見ている桜花さんに尋ねる。


「これからルード様を立派な魔王に育て上げるため、私はビシバシ教育していくつもりです」


 ルードは弱い。血を見たら顔を青くするし、魔法も下手っぴ。親に甘やかされて育てられた。

 というのも歴代の魔王全員、高校生くらいまでは身体が安定しないのでその年齢になってから修練をする。

 補足なのだけど、ルードは僕の事を本当の兄と誤解している。魔王様と王妃様からそう教わったらしい。

 なぜか訂正は絶対にしないようにと念を押されている。

 懐かれたのは……ルードが親戚の家に、僕共々夏休みに預けられた時だったっけ。

 厳しい人でまあ、かなりハードな訓練を幼いルードに施そうとして僕が助けたのが懐かれた経緯か。


「で、結局ルードの婚約者候補は誰?」

「浦島琴音さんという方です」

「琴音さん……あの子かな?」

「知っている方ですか?」


 浦島琴音。熊猫の水高校の新入生の中でも飛び切り有名人の女の子だ。

 学年首席にして学級委員。

 物凄く可愛らしい美少女で入学してから今まで、ほぼ毎日告白されている。

 髪は絹糸のようなセミロングの紅茶色、顔は全体的に幼い印象を持ち、その幼さを強調している瞳は子猫のように大きくて、可愛らしさを引き立てている。淡雪のように白く、そして瑞々しい弾力がありそうな玉の肌。

 有名な人形師が一生を賭けて作る事が出来るか出来ないかの名作ですらも劣るこの世の奇跡だ。


 と、クラスの男子が褒め称えている。

 僕も美少女かなと認識している。小学校から同じ学校に通っている子で顔見知りだ。


「友達、という訳じゃないけど同じクラスには何回かなったことがある」

「チッ!」

「何その態度!? 頼まれたら紹介くらいはするよ」

「では頼みます。さっさとルード様をとりもってください」

「はいはい。可愛い弟の為に頑張るよ」

「次代の魔王様の為に尽力するのが魔物の勤めなのですよ」


 はぁ……まあ、兄が弟の為に女の子を紹介するという事を考えて情けなくなる。

 何処までヘタレなんだよ。


「にいさぁぁああああああああん!」

「ルード様!?」


 また弟のしょうもない声が風呂場から聞こえてきた。


「どうして兄さんの下着が無くなっているの!?」

「いや、余計に持ってきたかと思って仕舞ったんだが」

「ダメだよ! ボクは下着が足りないから今日は兄さんのを着用する予定だったのに」


 ルードの下着が足りないのではないかと桜花さんと相談し、入れ替えていた。


「勝手に変な予定を組むんじゃない!」


 僕の下着を着用したいだなんて何処まで変態なんだこの弟は。


「不出来な兄がお困りですルード様。お戯れはほどほどにしてください」

「……ちぇ」


 本当にコイツが次代の魔王になるのか?

 とにかく、彼女を紹介するとしよう。うまく行くかは知らないけれど。


   △


 翌日、学校の教室。


「塩見幸長の弟のシュレイルード=塩見=ヴォレイナスです。ルードと呼んでください」

「海外に留学していた塩見の弟さんだそうだ。みんな、仲良くするんだぞ」


 ルードは留学していた高校から日本の高校に転校したという説明を先生はしてくれた。

 よりによって僕と同じクラスになったのは作為的なものを感じる。

 おそらく、この辺りの裏工作は誓子さんが担当しているのではないだろうか。

 そういえば彼女は学校に来ないらしい……桜花さんは転校してきたのに。

 ルードは僕の方へ視線を向けつつ、自己紹介を続ける。


「双子でも義理でもありません。兄が4月生まれでボクが3月なので同じ学年なのです」


 女子勢からはキャーという奇声が聞こえる。男子勢からは嫉妬と羨望の目が見え隠れしていた。


「どうかよろしくお願いします」


 さっそくの質問コーナーが展開される。


「お兄さんとは、なんていうか顔の作りが非常に違いますが何かあるのですか?」


 おいおい、いくらなんでも直球すぎる。失礼にも程があるだろ。

 女子勢が両親の不倫の末に生まれた異母兄弟とか囁き合っている。昼ドラの見過ぎだとか声を高らかに宣言したいけれど非難されるだろうからグッと我慢しよう。

 ルードは僕が兄であるというのを周知の事実にしたいのだと強情に主張した。


「両親は同じです。兄は日本人の血を濃く受け継いだだけで」

「へー幸長ってハーフだったんだ」

「今まで同じクラスだったけど、知らなかった」


 昔からの顔馴染みが驚きの声を上げる。

 そりゃあ僕は純日本人風で小市民な顔つきそのものだけどさ、驚愕する程じゃないでしょ。

 と、僕も言えない。

 僕もね……出身とかを思うと日本人な姿に我ながらびっくりしてもいるんだから。

 もう少し外人でもよくない? って。

 僕の本当の親は絶対日本人だろうとは思う。


「皆さん言うのですよね。ボク達兄弟ってそんなに似ていませんか?」

「「「似てません!」」」


 僕も思いまーす。血の繋がりを感じません。


「目元とか似てると思うのですけど……」


 ポツリと呟くルードの声が嫌に僕の耳に入った。なんとなく寂しい気持ちになる。


    △


 昼休みになるとルードはクラスの女子勢に囲まれて質問攻めに会っていた。


「シュレイルードくんって何処から転校してきたの?」

「アメリカです。その前はイギリスに居ました」

「へーバイリンガルなんだ。日本語がとても上手ですね」

「親が忙しい職種だったので……様々な国を回っていたのですよ。日本語は兄さんに教えてもらいました」


 ちなみに僕が使える言葉は日本語と意思言語……魔王領で使われる言語しか知らない。

 相手が魔物であるのなら言葉が通じる。魔物専用の言語だ。


「なあ幸長」

「何?」


 クラスメートの中林くんが僕に尋ねてくる。


「あれって本当にお前の弟? 次元が違わないか?」

「僕もそう思うよ」


 一方は町に歩けば間違いなくタレントにスカウトされかねない程の超絶美形、方やいるのかいないのかすら怪しい平凡な高校生。

 勉強だって平均より少し上の僕と上位のルードじゃ器が違う。


「ともかくさ、これから一緒に生活するんだ。よろしく頼むよ」

「出来れば断りたいがなぁ……学校の女子勢が総なめで取られちゃいそうじゃないか」

「そこは注意しておくよ。あいつ、あんまり恋愛に興味無いらしいから」

「頼むぜ」


 男一人に女一人の計算を中林くんはしているけれど、上手くカップリング出来る訳じゃないでしょ。

 ふと、そう思いながら廊下の方に視線を向けると桜花さんがキョロキョロと定期的に覗き込んで僕に目で指令を送る。


 サッサト、ターゲットト、コンタクトヲトレ。


 はいはい。

 重い腰を上げて、僕は琴音さんに近付く。

 琴音さんは質問タイムになっている集団から外れて、日誌を書いている。


「ちょっと良い?」

「あ、幸長くん!?」


 物凄く可愛らしい琴音さんは僕が話しかけると声がうわずっていた。


「そんなに驚かなくても……」

「い、いえ! そんなつもりじゃなかったんです、なんですか?」


 琴音さんは傷つけたと思ったのか心配そうな顔をしている。


「放課後、ちょっと三階の音楽室に来てくれないかな?」

「え……」

「あ、もしかして委員会の用事とかあった?」

「あ、ありません! 大丈夫です。音楽室ですね分かりました」


 琴音さんは早口で頷いてくれた。

 昔からだけど琴音さんは頑張り屋なのだ。僕が話しかけると何時もそう。


「ありがとう」

「どういたしまして!」


     △


 約束も取り付けたし、後は困り顔で僕に助けを求める弟を救済に行くか。


「ほらほら、ルードが困っているだろ。一人ずつ順番に質問すれば良い」

「何よ。ルード様の兄(笑)じゃないの」


 今、(笑)という奇妙なイントネーションが入ったよね? どうやってやるのそれ。


「そうよそうよ。みんなルード様と話がしたいの」

「君たち、それはボクも困るのだけど……」


 女子たちに注意しているが、その眼には明らかに不快感を携えている。

 僕が馬鹿にされるのが我慢ならないらしい。なるべく怒らないようにと目で訴えているからこそ怒りを抑えている。


「一人一人、話をした方が良いと思うよ? その他ではなく自分を見てもらえるのだから」


 僕の返答に女子たちの目が丸くなる。


「そういえばそうよね。なんで気付かなかったのかしら」

「ちょっと腹立たしいけど、そっちの方が素敵よね」

「まあ喧嘩にならないようにくじ引きにでもしておけば?」

「そうしましょう。名案ね私達」


 僕の案を自分たちの手柄にした女子たちはさっそく、くじを作って順番を決めていた。

 放課後も時間が設けられているらしいと聞いたのは後になってからだ。

 ルードが売られる子牛の目で僕を見ていたけれど、これ以上の助け船は出せそうにない。

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