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ブラコン魔王の婚活  作者: アネコユサギ
ブラコン魔王達の来歴
16/25

2



 ガラララと家の門を引いて僕は家に入った。


「ふう……」


 さて、今日はこの後どうしようかな。

 今晩、家に居るのは僕だけだし特に予定も無い。

 手始めに……また在庫が無くなった僕の下着をルードの部屋から奪還でもするかな。

 何度注意しても風呂に入るたびに下着が消えていくのだ、間違いなくルードの部屋にあるだろう。

 そういえば一昨日、風呂上りの直後に脱衣所でシオンと鉢合わせしたな。

 遊びに来ていたけれど僕が入浴中だと知らずに脱衣所に入ってしまったとか。

 感情をあまり表に出さないシオンが珍しく目が泳いでいたけど。

 勇者といえど16歳、裸の男を見たら困るんだな。

 あの時も洗濯しようとしていた下着が無くなったっけ。

 ルードがその後、兄さんの下着が無くなったとか自分で盗んでおいて騒いでいたよな。

 琴音さんも驚いて、「探しましょう」と言ってたけど……。

 挙句、ルードは僕が今着ている下着が入浴前と同じ下着なんだと騒いで不潔疑惑を被せてくる始末。

 ま、そんな訳で僕の下着は頻繁に消失する。

 これだけ無くなったら下着の値段だって馬鹿にならないというのに……とまあ、家の掃除をしていると。


「だたいま帰りましたー!」


 琴音さんが帰ってきた。軽い足取りだ。


「あれ? 今日は琴音さんも呼ばれているんじゃなかったっけ?」


 鞄を部屋に置いて着替えた琴音さんに僕は尋ねる。


「待ち合わせの場所でかなり待ったのですけど、何時まで経っても迎えが来ないので帰ってきちゃいました」

「ふーん……」


 前回の事もあり、罠に掛けられたら困るので魔王側が場所を設置し、勇者側と国の政治家を呼ぶので会場が変わる可能性が高いと桜花さんが話していたっけ。

 連絡の不備かな?


「携帯は繋がらないの?」

「さっき電話した時は繋がりませんでした……それで、帰る途中で電話が掛かってきて私は参加しなくても大丈夫ですよって桜花さんが」

「そっか……」


 まあ、琴音さんが参加する必要はあまり無いのも事実。会議に出席しても精々、状況説明をするだけだろう。

 その程度なら桜花さんや麻奈で十分だ。


「幸長くんは今日、何をする予定だったのです?」

「家の掃除が終わったら勉強でもしようかと思ってたけど」


 ピンポーン。

 そんなやり取りをしていると呼び鈴が鳴った。

 玄関に向うとシオンがお菓子を片手に待っている。


「遊びに来た」

「堂々と言うね」


 無表情で遊びに来るとかどんな勇者だよ。

 ん? 勇者?


「シオンは行かなくていいの?」

「どこに?」

「ルードとの会議」

「私は関係者じゃない」


 そういえば……表面上、僕たちは無関係者なのだった。

 僕はあのコロシアムには行っていないし、シオンも秘密裏に行動していた。

 となると会議に出席する必要は無いわけだけど……。


「それに辞退して来た」

「辞退ってお前……」

「何の話ですか?」


 琴音さんが僕を盾にひょいと顔を覗かせる。


「大した話じゃない」

「シオンさんって元々ブレイブハート学園の転校生なんですよね」

「うん」

「麻奈さんと一緒に行かなくて良いのですか? 同じ学園の転校生だからお話があるかと思うのですが……」


 ああ、そういう関係と思ったわけね。


「確か大変な事件に巻き込まれたんだと聞いたけど、私は一般生徒だったし」


 魔王殺しの勇者が大嘘を吹いたものだ。

 かといって自分の正体を明かす必要も無いか。


「でも麻奈さんとはお友達なんですよね」

「一般生徒でも戦闘授業がある。そこで知り合った」


 ペラペラと嘘を並びたてられるなぁ。

 シオンは本国じゃ有名人じゃないのだろうか?

 もしも正体が判明した時、なんて言い逃れするのだろう。

 まあ……気にする必要も無いか……琴音さんに勇者であるのがばれても痛くも痒くも無いという……ん?

 なるほど、下手に警戒されないために普通を装っている訳か。

 そもそもシオンは今回の勇者だっただけで次代の勇者は別の人となるって事だろう。

 ここまで考えて僕は、シオンがみんなと仲良くしようとシオンなりに頑張っているのだと理解した。


「幸長たちは、何をしているの?」

「さっき琴音さんにも話したけど掃除」

「……私の仕事」

「前に断ったでしょ」


 そう、シオンは昔、掃除のアルバイトで僕の家によく来ていた。魔王様の配慮でお手伝いをさせていたんだろうか。

 だからか僕が家の掃除をしようとしているのに不満を述べている。

 ……大事な兄の仇と交流させるって魔王様らしいのかね。

 心が無い意味で……いや、真実を伏せて僕と交流させていたと考えた方が良いのか?

 現に今は友好的な関係を結べている訳だし。


「じゃあ、手伝う」

「わ、私もやります!」


 なにやら琴音さんとシオンが睨み合いをしたかと思うとそれぞれ掃除道具を取り出して掃除をやりだした。

 シオンは雑巾片手に床を拭き、琴音さんは窓拭きをやりだす。

 下着探しが何処かへ行ってしまったけどドタドタとみんなで分担した家の掃除は一時間で終了してしまった。

 元々体力が有り余っている二人には苦痛でも何でも無かったようで家中がピカピカになった。


「幸長くん! どっちが綺麗に出来ましたか?」

「床は私が綺麗にした」

「窓は私がやりました!」

「……キッチン」

「お風呂場!」

「トイレ」

「玄関前!」


 掃除って競うものだっけ?


「えっと、綺麗になったね」

「え?」

「そんな、綺麗になっただなんてお世辞言って……」


 シオンが視線をずらして頬を赤らめる。


「シ、シオンさんが綺麗になったなんて言ってません! 私ですよね」


 僕が何時、琴音さん達を綺麗だと言ったのだろう。


「いや、二人とも綺麗だとは思うけどさ……掃除の結果だよ」

「そんな、綺麗だなんて嬉しい」

「幸長くん……」


 二人とも美少女なんだから綺麗だと言われなれているだろうと思ってたけど、案外言われないのかな?


「とりあえずシオンも夕食、食べていくよね」


 最近は頻繁に遊びに来るシオンだ。麻奈と喧嘩しに来ているような気もするが、今晩、麻奈やルード達は帰りが遅い。

 これ幸いにゆっくりしに来たのだろう。


「うん。お泊り」

「麻奈みたいに平然と泊まりに来るのやめてよね」


 シオンが来た所為で桜花さんは常時不機嫌なんだからさ。

 というか僕が安心できない。


「大丈夫」

「何が?」

「いずれ麻奈は追い出す」

「大丈夫だと思えるところが無いです!」

「はぁ……」


 なんとも騒がしくなって来た。


 △


「おや?」


 公園で子供たちが家路に着いた後の事。


「あーん! お母さーん!」


 子供が道で泣いている声を聞きつけウサギは近寄って屈んでのぞき込む。


「どうしたんだい?」

「うう……迷子になっちゃったの」

「そっかー」

「大きなウサギさん……うう……あああああああ」

「はーい。いないないばー」


 顔を隠してパッと広げて幼い子供を宥めるウサギ。

 やがてウサギが宥めるのを受けて子供はどうにか泣き止む。

 で、徐にウサギは子供を肩車して周囲を見渡し、子供の家族を探し始める。


「お母さんは何処に居たのー?」

「えっとねー……お店が沢山ある所を歩いてたらいつの間にかどこか行っちゃったの」

「うーん……」


 ノシノシと子供を背負ったままウサギが当てもなく歩いて行く。

 そんな所で商店街に差し掛かったが、ウサギは商店街を通り過ぎてしまう。


「迷子はお巡りさんの所に行くと良いんだよー」


 と、子供が泣きながら歌い始める。


「交番だね。わかったよー」


 ウサギは耳をピクピクとさせながら交番を見つけて入る。


「すいませーん。迷子をお届けに来ました」

「な、なんだお前は!?」


 満月の日でもないのに魔物の姿で顔を出すウサギに警官は最大限警戒を示す。


「そんな事より迷子だそうだよ~」

「おまわりさーん! お母さんどこか行っちゃったの。ウサギさんが連れてってくれたの」

「はい」


 と、ウサギは椅子に子供を座らせた。

 しばらくして……交番に迷子の親がやって来て事なきを得た。


「ウサギさんありがとー」

「もうお母さんとはぐれちゃダメだよ~絶対に……お母さんから目を離しちゃ……ダメだからね~」


 手を振る迷子にウサギは手を振り返して見送った。


「さて……おまわりさん」

「なんだ?」

「ここに行くにはどうしたら良いか教えて欲しいな~」

「あ?」


 と、ウサギはメモを警官へと見せるのだった。



 △


 それから僕達は夕食を作り、入浴を済ませて居間でくつろぐ。シオンと琴音さんが争いあうようにお風呂に入っていった。


「さてと」


 他は宿題と予習だ。

 僕は部屋に戻って宿題に取り掛かろうとしていると部屋の扉を叩く音が響く。


「はい?」

「お邪魔して良いですか?」

「うん。良いよ」


 僕は扉を開ける。

 すると琴音さんが扉の先にいた。

 風呂上りでほのかにパジャマから湯気が出ていて艶のある髪が色っぽい。


「どうしたの?」

「特に用事がある訳では無いのですけど、お邪魔してはいけませんか?」

「別に良いけど……シオンは?」

「まだお風呂にいます」


 ドタンドタンとお風呂場から音が響く。

 人の家の風呂で何を暴れているのだあの勇者は。


「そっか、まあ入って」

「はい。お邪魔します」


 琴音さんは僕が勉強しようと机にノートを広げているのに目を向ける。


「あ、勉強中でしたか」

「まあね」

「なら一緒に勉強しましょうよ」

「あ、うん……」


 琴音さんは一度部屋を出て勉強道具を取ってきた。


「ここじゃ狭いから居間でやろうか」

「え……」


 ドタンバタンと響く音の方へ視線を向けた琴音さんは数秒考えてから振り向く。


「はい」


 僕の部屋の机じゃ二人で勉強するには狭いので居間に移る。


「幸長くんはどの辺りまで進んでいるんですか?」


 教科書を広げて琴音さんは尋ねる。


「あんまり進んでないよ。遅れ気味かな」


 これでもマメに勉強しているけれど、授業についていくだけで精一杯だ。

 ルードや琴音さんは毎晩、桜花さんと訓練をしているけれど、それでも成績がトップだというのが凄い。

 ちなみにシオンの成績は良いらしい。


「今はこの辺りをやっている所だよ」


 それは今日の授業でやっていたページを僕は開いた。


「殆ど学校の授業と同じという所ですね」

「でも分からない所も多くて……」

「人に教えるほど私も頭が良くありませんが幸長くんに教えてよろしいでしょうか?」


 学級委員をしていて成績もトップなんだから謙遜しなくても良いのでは?

 と、思うのだけど琴音さんは控えめなんだなぁ。


「ここは二ページ前の数式との応用問題なんですよ。ですから――」


 僕の隣で肩を寄せ合うように琴音さんは教えてくれる。


「幸長くんどうしました?」

「え? あ」


 ボーっとしていたのか琴音さんが心配そうに僕を見ている。


「いやぁ、琴音さんは教えるのが上手だよね」


 ぼんやりしていたのに琴音さんが教えてくれた内容が頭に入っている。

 やっぱり琴音さんは教えるのも上手だ。


「そんな……褒めすぎですよ」


 頬を染めて可愛く照れている琴音さん。こんな子が婚約者だなんてルードがちょっと羨ましい。

 ドタドタドタ!


「はぁ……はぁ……はぁ……」

「どうしたんだシオン!?」


 半裸にバスタオルを巻いたシオンが居間に駆けて来た。


「やられた……」

「何を?」

「……」


 なんか琴音さんの方をみてるけど一体何が起こったんだ?


「どうしました?」

「やり手」

「何のことです?」


 バチバチと何か攻防が繰り広げられているようなのは気のせいか?


「一歩間違えれば私が同じ立場だったんです。手段を選びませんね」

「出し抜かれるとは思わなかった」


 一体、この二人は風呂場で何をしていたのだろう。

 着替えを終えたシオンは勉強に参加を表明、頭の良い二人に教えられたお陰でずいぶんと捗った。

 数学、国語を終え、次は世界史に差し掛かった所で琴音さんは僕をジッと見つめた。


「な、何?」

「世界史ですかぁ……」


 パラパラとページを捲りながら琴音さんが呟く。

 ちなみに世界史はわりと授業についていけている教科だ。世界情勢を見ていると歴史にも興味を持って面白かったお陰だ。


「魔王の戦いっていうのも世界史に載っていましたよね」

「……」

「そうだね」


 魔王、歴史の中で幾たびもの戦いの火種をばら撒いた悪の化身。というのは人間側の主張であり、大々的な戦争が起こった時、本当の原因は様々だ。

 ただの正義感から始まり、人種差別、恨みや妬み、果てはビジネス等、世界史では様々な理由が書かれている。

 魔王と勇者の戦いにあるのは世界の延命だけでしかない。

 そこに理由を見つけるというのは死者への冒涜に他ならない。というのが両者での決まり事であった。

 ま、それ以外でも利権とかで人間同士、魔物同士で争う事もある。

 ある意味……人も魔物もどうしようもない。


「世界延命法……魔物と人間が争わねばならない法律」


 シオンが淡々と呟き続ける。


「最も被害が多かったのは百二十年前……だけど六十年前にも起こった。人と魔物が争わなくても良いのではないかと言う議論によって発生した飢饉と疫病」


 ペラペラとページを捲りつつ、シオンは琴音さんと僕に悲しげな視線を向けていく。


「仲良くできるけれど争わねば世界に飢饉、疫病、災害が起こり、命の火は消え、争いの火種が燃え上がる……」


 救いの無い世界だと嘆くようにシオンは首を振る。

 そうだ。この世界は……勇者と魔王の戦いを繰り返すことによって延命を続けている。

 仲良しでは滅んでしまう悲しき世界。

 そんな中でも仲良く過ごせるのは栄光を求める無数の勇者と撃退して最後は贄として死ぬ魔王のお陰で成り立っている。


「……」


 琴音さんも僕やルードの事を考えているのだろう。物悲しい顔をしている。

 ……戦いか。

 考えてみればこの前の戦いも勇者と魔王の戦いが関わっているのだ。


「千年前の魔王は何を考えて魔物に人間化の呪いを施したのだろう」

「よく言われる議論だね」

「うん……」

「答えは当時の魔王にしか出せないと思うよ」

「……幸長は」

「ん?」


 シオンが悲しげな瞳で僕を見つめてくる。


「幸長くんはどう思いますか?」


 シオンの言葉を汲み取り、琴音さんが続ける。


「そうだなぁ……」


 魔物が人間と殆ど同じになって、起こった弊害と、利益。

 考えてみれば、人間同士でさえ争う世の中だ。この世の中に魔物という異分子になれる人間がいる。

 迫害の原因になりうるこんな状況を作った魔王が何を思ってこんな事をしたのか。

 僕はシオンと琴音さんに目を向ける。

 僕の答えを聞き逃さないと言わんばかりに二人とも透明な瞳で僕を見つめていた。

 なんとなく、笑みが零れる。

 たぶん、当時の魔王も同じ気持ちだったのだろうと願いたい。


「そんな深く考えて人間化の呪いを世界に施したとは思えないよ」

「う~……ん?」

「んー……」


 二人とも首を傾げている。 


「僕はさ……ただ人間と魔物が仲良く出来ないかなと、魔王様は思ったんじゃないかと信じたい」


 何時終わるか知れない種族の命運を掛けた戦いでは疲れてしまう。

 だから当時の魔王様は、相手と話し合い仲良く出来ないかと可能性を模索したのだと思う。

 人間は少しでも自分と違うと拒絶する生き物だ。だから魔物は相手に合わせる為に自身を変える呪いを施した。

 一部の魔物には人間を同族に引き込む事が出来るらしいけど、人間を魔物にするでは魔物が世界を制したようなものだ。

 人間のお姫様を誘拐した魔王がお姫様に恋をして、長い話し合いの末に行われた世界平和への一歩だと言う伝承もある。

 その結果が、世界人口が大きく減るものとなったとしても当時の人と魔物に推し量る術は無い。


「行動の結果、悲しい世界の真実が明らかになってしまっただけで、何もわからなかったんだから仲良くしたかったんだよ」


 人と魔物が手を取り合った黄金時代があったのかもしれないが、今は……戦う事にも仲良くするにも悩む時代だ。


「そう、ですね」

「そっか……」


 二人とも各々、気が楽になったように笑みを浮かべてくる。

 美少女二人にそんな顔をされては僕も照れてしまうというものだ。


「シオンはどうして僕に聞いたの?」


 考えてみればシオンが尋ねる理由が気になる。

 シオンにとって僕は兄の仇でもあるのだ。だけどシオンは僕の事を憎いとは言わない。

 仲の良い友人として付き合ってくれているし、両親である魔王夫妻を討った事を後悔しているようだった。


「幸長は小さい頃から戦場に居たって聞いた。だから、そんな幸長はどう思っているのか知りたくなった」


 シオンの返事に琴音さんも頷いた。


「どう思い。戦っていたの?」

「私も気になります。出来れば幸長くんの小さい頃の話とかして欲しいです」

「どうしたの琴音さんも、いきなり」

「いえ……」


 シオンは分からなくもないけど、妙に真面目な視線で琴音さんは僕に尋ねるなぁ……。


「この前の誘拐事件のとき、幸長さんのお知り合いの方が敵として混じっていて……どんな風に幸長さんは育ったのか気になってしまいまして」


 それは……あのビキニアーマーの……なんだっけ? あの、アレ。名前が出てこないや。


「5歳まで軍経験があるって、ルードさんが言ってましたけど、物心はいつからなのですか?」

「……幸長はそのあたりが変」

「変って……」

「私も物心ついたのは早かった方ですけど」


 シオンが琴音さんの方を向く。


「琴音は何歳からある?」

「2歳です」

「……早い。やっぱりそのあたりは人間と違う。魔王領出身は早いと聞くけど」

「なんかその辺りの話を聞いたことあるなぁ」


 魔王領の魔物は同じ年の人間よりも数年は精神的に年上だなんて話。

 ただ、ルードは物心つくのは随分と遅かった。

 最初に会った時は……完全に子供としか感じられなかったかな。

 お前なんて兄だなんて思わないからな! べー! って二人っきりになった時に舌出されて馬鹿にされたのを覚えてる。

 それがどうしたらあんな僕の下着を盗むイケメンになってしまったのか。

 何か懐かれるような事をしたかなぁ? 何度目か経験した辺りで甘えるようになってきたんだ。

 あ、木の上に秘密基地とか作ってあげたっけ、大興奮だったのを覚えてる。

 軍で潜伏用の樹上生活をする際に作った経験を生かして作ったんだ。

 エレベーターも組み立ててさ。子供程度ならそんな難しくなく上下できる。


「魔王領以外の魔物の方は人間と殆どかわらないそうなのです。私は早かっただけ、ですが幸長くんはどうなのかなと」

「うー……ん」


 実は僕の実年齢は分かっていない。シオンやルードは僕が魔王の実子とだと言うが、その計算だと、生まれたその日が自我の芽生えた日になってしまう。

 と、居間から見える月を見ながら僕は昔を思い出す……。


 僕の覚えている最初の記憶と言うと満月の夜、魔物の姿でとても高い所から落ちていた所だ。

 今でも忘れない。

 そう……あれは――。



 △



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― 新着の感想 ―
[一言] ビキニアーマーの人はラーなんとかさんだよ! えぇと、ラー……ラーハルト?
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