エピローグ
翌日、本当に事件が収束した。
どうも魔王軍はこっちの事情を全然理解していなかった。特に異常もなく平穏無事な生活をしていると思っていたらしい。
魔王軍は誓子の権力を凍結。
騒ぎは沈静に向かいつつあるのだが、勇者の志を継ぐんだと表面下の攻防が繰り広げられているのだと後でシオンが教えてくれた。
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家に帰り、晩御飯の準備を急いでする。
「今日は何にするかな……ごちそうも悪くない」
ルード達が元気良く帰ってくるのだ。お祝いしてやろう。
と、思ったらキッチンに調理中の料理が置いてあった。
置手紙がある。
アリバイ工作をしておいた。シオン。
どこまで手が込んでるんだ!
「兄さんただいま!」
「ただいま帰りました幸長くん!」
「弟から話は聞いたのだ。幸長は簀巻きにされていたらしいな!」
ルードと琴音さん、麻奈が帰るなりキッチンに居る僕の所に来る。
「ね、兄さん。みんなを連れて帰ったよ。褒めて褒めて」
「ああ、良く頑張ったな。出来れば僕を簀巻きにせずにいけばもっと良かったぞ」
「やだなぁ……兄さんを危険な場所に連れて行けるわけ無いじゃないか」
「ルードさん。私達に謝ったんですよ。見捨てようとしたって」
「でもちゃんと来たから許してあげたのだ」
「うん。本人達に許してもらわないと兄さんは根に持ちそうだからね」
「ええ」
「ん~?」
麻奈は腕を組んで悩みだす。
ぐきゅうぅううううううううううううううう……。
と、間抜けな音が麻奈から響いた。
「お腹空いたのだ!」
麻奈に考えるのを期待した僕が馬鹿だったよ。
「じゃあ頑張ったみんなに僕から精一杯の手料理を披露するね」
「わぁ……楽しみなのだ」
「ええ」
「そうだね。今日は夜遅くまで楽しもう!」
「はい!」
「うん」
「勇者志望の連中の本拠地を潰したのと仲直りの記念パーティーだぁ!」
ルードが高らかに叫んだ。今夜は遅くまで騒ぎそうだ。
「あ……」
そっか、シオンがなんで泣いてしまったのかの意味が分かったような気がする。
僕にとってそれはルードや琴音さんや麻奈と桜花さんとの思い起こせば楽しい日々の事を言っているのだ。この日常を守るためにならどんな事でもする。
僕が戦って傷つけてしまった人にもこのような守るべき場所があったのかもしれない。
それでも僕は何を犠牲にしても……取り返しの付かない過ちを犯しても守らねばいけないことなのだ。
こんな風に僕の日常は……騒がしくも平和になるはずだった。
△
で、なんで?
「今日は転校生を紹介する」
ルードに続いて二人目の転校生が我が校のよりによって僕のクラスに転校してきた。
先生はニヤケ顔で転校生の名前を黒板に書き込む。
そりゃあそうだ。それほどの可愛らしい美少女だったからだ。
クラスの男子はルードが転校してきた時に見せた女子達と同じような反応をしている。
「シオン=エーターフィーさんだ」
我が高指定の制服を来た勇者様が当然のように転校生としてやってきたのだった。
「よろしく」
一言。ただそれだけ。
どんだけクール系なんだよ。
「くーカッコイイ! クール系女子! アレって桜花先輩とは別ベクトルでカッコイイな!」
「またこの学校が華やかになるな」
「質問質問!」
中林君がさっそく手を上げて尋ねる。
「好きなタイプはなんですか?」
「……スライム」
え? 何故か視線が僕に偏る。そりゃあみんな噂してるけどさ。
ルードがガタっと立ち上がる。
「兄さんはボクのモノだ!」
何故か琴音さんも張り合うように言い放つ。
「いえ、幸長くんは幸長くんのモノです!」
「……」
シオンは制服の胸ポケットから黒い本の表紙を取り出し、ルードと琴音さんに見せる。
そしてその本を胸ポケットに戻す。
「「「グッ!!」」」
何故か三人共親指を立てている。
「それなら仕方がありません」
「なんで其処で納得!?」
「そうだとも、資格は十分だ! 何時でも相手になろう」
「だからその本は何なの!?」
「大変なのだー!」
ガッシャーン!
教室の窓を突き破って麻奈が突入した。
辺りは騒然となる。
「シオンが幸長の学校へ転校したのだ!」
「ぬあ! 美少女!」
中林君が麻奈を美少女と認定した!! ヤバイ、あいつはとにかくヤバイ。
「麻奈は騒がしい」
「騒がない訳には行かないのだ。幸長を守るのは麻奈の役目なのだ」
「私も参加する。昨日の騒ぎを忘れない」
「話が違うのだ!」
「大変ですルード様!」
ガララっと桜花さんがタイミング悪く教室に入ってくる。
シオンと桜花の視線がバチバチとぶつかる。
「責任は取る」
「貴方に責任とって貰う必要はありません!」
ルードは何を争っているのだろうと首を傾げている。
空気が重く感じる。
目の前の親の敵がいるとは雰囲気的に言いにくい。
頼むから平穏を脅かさないでくれよ!
「なんか楽しそうな人が転校してきたね」
「気楽そうだなお前」
親の仇だぞ。
「大丈夫、兄さんを好きな人に悪人は居ないよ!」
元気良く答えるルードに僕は深い溜め息を漏らすのだった。
―――これは次期魔王様とその身近にいる人々の始まりの物語―――
一応ライトノベル的に表現するなら一巻の終わりです。
続きは出来上がりしだい更新予定。




