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ブラコン魔王の婚活  作者: アネコユサギ
ブラコン魔王の婚活
13/25

12

 誓子は部屋を満たさんとするお湯から自身を守る結界を作り出し、僕に狙いを定めていた。


「ホラホラ逃げなさいアハハハハハ」


 お湯から逃げる僕を見て笑う。

 くそ、どうにかする手段は無いのか。


「あ……」


 天井に引っ付いていた僕だったけど、天井が結露を起こして滑る。

 ドボン。

 ヤバイと思ったのもつかの間、僕はお湯の中に落ちてしまった。

 お湯が僕の境界面を容赦なくあやふやにしていき、徐々に身体が思うとおりに動かなくなってくる。


「……溶けていくスライムというのも気持ちが悪い、ではトドメを刺してあげましょう」


 誓子が魔法で生み出されたクロスボウを強く引く。

 ああ、僕はこのまま殺されてしまうのか……みんなが幸せに生きて欲しいと願ったにも関わらず。


『幸長くん』


 ふと、そこで琴音さんの声が聞こえたような気がした。


『頑張るのだ!』


 直ぐにポッと僕の体の境界面がしっかりする。今の声は麻奈?


『こんな所で死ぬのですか?』


 桜花さんの声まで聞こえてくる。直後、建物を揺らすような地響きと壁に亀裂が生まれ、風が室内を通り過ぎる。


「チッ! ルード様一行が遠慮なく暴れているようで、素材に限界が来ているようですね」

『兄さん!』


 ルードの声まで聞こえてきた気がする。風が懐かしい魔力元素を運んできた。

 そうだ。僕には守らないといけない人たちがいるんだ。こんな所で死ぬわけにはいかない。


『そうです! 幸長くん頑張って!』


 先ほどよりも琴音さんの声が大きく聞こえた。

 一体何処から?

 と、思った直後、僕の身体の温度が急上昇!

 ちなみに……琴音さんが変身して炎のブレスを放ったのと同時刻だったそうな。


「何!?」


 人肌だったお湯が熱湯に変わる。そのお陰で僕は自身の形状を保った。


「う……」


 やば……お腹から何かが上ってくる。

 なんか飲み込んでたっけ? 持ってきた覚えないんだけど?


「汚物の中から閃光が!?」

「ゲホ!」

「させるか!」


 ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 それは……琴音さんが込めた想いが形となって出たのだと、後になって思う。

 エンシェントドラゴンである琴音さんが出来る限りの力を込めて吐き出した炎が僕の口から放たれた。

 この炎、麻奈に正体がばれない為に桜花さんが投げつけた僕の中に琴音さんが吹き込んだモノだった。

 一瞬にして熱湯は気化し、室内は灼熱地獄へと変わる。


「ギャアアアアアアアアアアアアアア!」


 幾ら結界に守られていると言っても誓子はその炎を完全に押さえつける事が出来ず攻撃を加えた。

 僕の攻撃を止める為に魔法を放った直後に受けたカウンターに対処の術が無い。

 そして僕の方もただでは済まなかった。

 誓子の放った王妃殺しの魔法が一瞬で僕に届き、僕の身体は跡形も無く消失した。


   △


「ぐうぅううう……」


 炎に焼かれ、服も杖も焼け落ちた誓子が忌々しげに倒れる。

 意表をつくような灼熱の炎に誓子も重傷を負ってしまっていたのだ。


「はぁ……はぁ……」


 誓子は僕に魔法が命中した事を思い出し笑みを浮かべる。


「やった! やったわ!」


 右手を天に掲げ、勝利の叫びをあげた。


「汚物の癖にとんでもない化け物だった。ああ、頭痛がやっとこれで無くなる! ああもう……存在するだけで頭痛がしてイライラしたのよ!」


 独り言を発している。

 ここで僕は疑問に思う。どうしてこんな客観的に観測できるのだろう。

 死んだら誰もこうしてみる事が出来るのか?

 直後、室内に充満していた魔力元素が集まり、僕を再構成させる。

 この感覚、覚えがあるなぁ……魔王様を庇った際に復活させて貰った時の奴だ。


「な、なんだと」


 ポヨンと着地した僕に誓子は驚愕の目を向ける。


「どうやら……効果は無いみたいだね」


 ルードが放った領域の影響か、僕は死なずに済んだみたいだ。


「化け物め」


 そもそも反撃の手段だって無い。負けはしないが勝てもしないのだから。

 幸い、部屋の壁にはヒビが入っていて其処から逃げ出せそうだ。

 一刻も早くルード達の様子を見に行かなきゃいけない。


「さて、どうする?」

「まだだ、まだ私は負けてなどいない!」


 魔法を練りだす誓子、魔力の感覚から氷系統だと僕は予測する。


「どうやら貴方は強靭な生命力を所持しているようですがさっきの炎は一発限り、攻撃の手段が無い。なら氷漬けにして封印してしまえば死んだも同然」

「ぐ……」


 痛いところを突いてくる。魔王軍に居た頃、一度だけそうやって敵の捕虜になった時があった。そのとき、仲間の助けが無かったら僕は今でも氷漬けだっただろう。

 でも……なんで誓子はその事を知ってるんだ?

 僕の記述って隠されたとか聞いた気がするのだけど。


「食らえ汚物!」


 誓子が氷の魔法を僕に向けて放っ……つ事は無かった。

 いや、魔法自体は完成し、僕に向けて打ち出しはしたのだ。しかし、魔法が形として現れることが無かったのだ。


「な、なぜ!? まだ私の魔力は健在であるはずなのに」

「――それは貴女が浦島琴音の炎を浴びてしまったからよ」


 部屋の扉が開き、シオン部屋に入りながらが告げる。


「何!? 何故あなたがここに、勇者達は何をしているの」

「……あの程度じゃ私を止めるなんて無理」

「魔王様討伐の勇者を五人も当てたというのに!?」

「……ええ」


 勇者を五人も当てた!? シオンの奴、どれだけ強いんだよ。


「へぇ……さすがは魔王殺し、金魚のフンが幾ら集まっても勝てないのかしら?」

「……少しは苦戦した。前の私なら戦いに間に合ったはず」

「どんだけ化け物なのよ勇者って奴は」

「……話の続きだけど、浦島琴音が次期王妃候補に上がっているのには訳がある。彼女の放つ炎には『沈黙』、魔法やオーラを使えなくする効果が付属されている」

「へ!?」


 おいおい、魔法やオーラが使えなくなるなんてどんだけ優秀な力を持ってんだよ琴音さんは。


「く! どうやら今回は私の負けのようね。でも次は負けないわよ」

「……逃がすと思う?」

「させないでしょうけど、今の貴方じゃ無理ね」


 誓子はイヤリングを引きちぎると地面にたたきつける。

 閃光が室内を代に染め上げ、僕は目を瞑った。


「く……」


 視界が戻った時、誓子は既に部屋からいなくなっていた。


「……逃げ足だけはあるみたい。でも、この建物は既に包囲されてるから逃げられない」

「そっか……所で魔王殺しって言うのは」


 僕の問いにシオンはビクッと無表情だった顔が困惑に変わった。


「……私は勇者……魔王を倒した勇者部隊の隊長であり、魔王を殺した張本人」


   △


 シオンの独白が続いていく。

 十年と少し前、魔王に次期勇者の第一候補だった大切な兄を殺されてしまった。幸い、シオンの養育費は何者かに振り込まれていたお陰で不自由な事は無かった。

 魔王退治の任を担う勇者志望は生きて帰れないかもしれない。例え帰ってこれなくても魔王を恨んではならない。

 だが、納得なんて出来るわけも無く、シオンは勇者になるべく鍛錬を重ねた。その最中、僕と知り合い、麻奈と戦友になった。

 僕の祖父母とも仲良く話をしていたし、兄のいない生活にも慣れていった。

 あの事件によって僕は学校を離れる事になったけれど、関係は続いていた。

 日本では普通の女の子の生活、海外では次期勇者になるために鍛錬を惜しまなかったとシオンは強調する。


「魔王を倒すことの意味をシオンは分かっているのだ?」


 麻奈の問いにシオンは耳を傾け無い。麻奈とシオンは共に高めあう程のライバルだ。だが、魔王軍との戦い方においては真っ向から対立していた。

 麻奈は魔物といえど今は人間と同じ、定められた領地でのみ殺し合いが許されているが好んで争うものではないと主張し、シオンは魔物であれば断罪して良いと考えていた。

 やがて二人は才能を認められ、勇者候補となった。

 しかし麻奈は魔王討伐を辞退し、シオンは魔王討伐隊の隊長となった。

 魔王の間に至るまでの道のりは、無能な部下を引き連れる苦痛であった。

 その気になれば先行して魔王の首を落とせると思うほど。

 やがて魔王との戦いに至り、魔王にトドメを指すことに成功した。

 四天王の一人とは戦わず仕舞いに終わった。

 勇者の仕事は次期魔王の養育、正直な話でいえば嫌だった。だけど、これは兄が行おうとした仕事なのだ。だからシオンは死ぬ間際の魔王夫妻の話に耳を傾けていた。


「やっぱり……私たちに引導を渡すのは貴方でしたねシオン」

「……分かっていたの?」

「ええ、そのために、俺たちは援助していたのですから」

「!?」


 何もかも初耳だった。魔王が自分の養育費を払う義務なんて何処から来るのか。


「貴方のお兄さんが来た時、私たちは死を覚悟した。予言がありましてね」


 予言、人間も魔物も両者とも信じている魔王が何時まで存命するかあの予言だ。

 その予言の日に合わせて人間は勇者を育成し、大々的に魔王討伐を編成する。

 だが、予言が外れたのが兄の時であった。それから人類は十年間、魔王勝利のまま過ごしている。


「じゃあ……何故貴方達は勝ったの?」


 もし、予言が当たっていたのならシオンは大切な兄を失うことは無かったはずなのだ。


「それは……死んだはずだった息子……シュレイリルが私たちを庇ってしまったから……」


 魔王と兄、両者が放った必殺の一撃、その一撃を魔王軍所属の一匹のスライムが前に出て庇った。

 そして、魔王の一撃が兄に命中し、勝敗は決着した。


「私たちは予言を、運命に背いてしまった。自分の身に余る猛攻に耐え続けねばいけない運命を課せられてしまった」


 その日から魔王領の戦いは苛烈さを増して行った。

 日に日に強くなる勇者勢。元々魔王軍自体、長期的な戦いを目的として組まれていない。

 争いはそれだけ人員も金銭も掛かる。

 魔王の死によって行われる安定と平和はそれだけ尊きものであったはずなのだ。

 それが長期的な戦いにまで至ってしまった。

 だから安息期法が存在する。人間も魔物も争わなくて済む期間が存在するのだから。


「身勝手でも……大切な子供たちとの生活を堪能させてもらった事を神に感謝しなくてはいけません。ですから私たちはせめてもの罪滅ぼしに貴方の生活を援助しました」

「勝手な事言わないで! 私の兄さんは……帰ってこないのよ。私がどれだけ、どれだけ家族の温かみを欲しかったのか分かってるの!!」


 魔王と王妃の横暴にシオンは激怒した。このまま一族郎党皆殺しにしてやりたいと思うほどに。


「俺が……その気持ちを分からないと思っているのですか?」


 問いにシオンは魔王を睨みつける。

 そして……理解してしまった。

 魔王とは世界の生贄、魔王の父とて魔王なのだ。つまり、目の前の魔王は大切な親を勇者に殺されている。

 勇者が後見人として魔王の子供の警護をする意味を理解できた気がした。

 自分もいずれ、魔王の息子に同じ事を言われるのを示唆している。ならば勇者が少しでも恨まれず、殺されない方法としての後見人。魔王の息子の身近にいる事を進めてくれているのだ。


「仕事です……次期魔王の警護を……します」


 そうだ。復讐は終わった。ならば次の仕事が待っている。


「私たちの死は今までとは異なり多大な犠牲者が出ています。安定期はこれまで以上に長くなるはずです」

「……次期魔王、シュレイルードには十分な護衛がいます……それよりも出来れば守って欲しい子が私たちにはいます」

「……」


 そんなの知ったことではない。仕事として次期魔王を守れさえすれば良い。と、シオンは思った。


「死んでしまったはずの子、シュレイリル……を守って欲しいのです」


 兄の本当の仇を守れといわれてシオンは首を横に振った。それだけは嫌だ。次期魔王ではないらしいがそれだけは守りたくない。


「あなたも知っている……人ですよ」

「お願いします……どうか、シュレイリル……塩見、幸長を守ってあげてください」

「……え……」


 シオンは耳を疑った。塩見幸長、シオンの友人の中で一、二を争うほどに気楽に話が出来る友人……だった。

 兄を無くした悲しみを埋めるように、一緒に居て仲良くなった年が近いはずなのに頼りになる……スライムが正体の友達。


「あの子は……我が家の闇に葬り去られてしまったはずの子……生き延びて魔王軍に所属し、不幸にも俺たちを守ってしまったんだ」


 家系を重んじる魔王の系譜において能力のないものは生まれて直ぐに淘汰される。

 あのスライムが魔王の系譜に生まれてしまったのなら頷くことが出来る。


「……本当に、塩見幸長という子が貴方達の実子なのですね」


 信じたくない。その思いがシオンの頭を巡っていた。


「最初は……妻の思い込みかと疑った。だから検査もさせた……母子の絆とは恐ろしい。あの子は書類上だけだと思っているんだ。養子だと……」

「シュ、レイ、リル……愛してあげたかった……」


 王妃は虚ろに手を上に伸ばしていた。やがてゆっくりと目を瞑り……息を引き取った。


「どうか、シュレイリルを守ってあげてください。それだけが俺たちの……心残りなんです。あなたの友人として……」

「……」

「お願いします……どうか……どうか……」


 魔王は最後に残された生命力を振り絞るかのようにずっと……シオンの手を握り締めて頼んだ。

 シオンは頷くことが出来なかった事と、大切な親友の親を殺したという罪の意識に苛まれた。

 ……幸長はただ仕事で魔王を命がけで庇った。

 親子の情も無く……その所為で兄が死んで、それを知らずに仲良くなった。

 親に捨てられた子供が親を知らずに助け、それでも捨てられ……自分と仲良くして……。

 同じことを自分はした?

 魔王の子供に恨まれる覚悟はあったはずなのに……それ以上の痛みが胸を締め付けた。

 仇に同じことをしてやった……と恨みが晴れるはずなのに、取り返しがつかない事をしたという感情が噴出してくる。


『魔王を倒すことの意味をシオンは分かっているのだ?』


 麻奈の言葉の意味を、シオンは初めて理解した。例え相手が魔王であっても、殺せば人殺しと同じなのだ。

 それを勇者だという栄光で塗りたくり、罪悪感を消し去る。

 兄を殺されたという復讐者でいる方が楽だった。人殺しの烙印である勇者の称号を得る意味をシオンは何も知らずにいた。

 勇者になるのを頑張ってねと見送ったあの日、兄が見せたあの顔の意味を知ってしまったのだ。

 そして……幸長に見送られ、魔王を倒した事を誇って報告をする……つもりだった?


「わ、私は……」


 取り返しの付かない罪を犯してしまった。


   △


「だから……幸長、貴方は魔王の第一子。シュレイリル=塩見=ヴォレイナスその人にして不死のスライム」

「はぁ……」


 シオンが魔王を倒した勇者だっていうのは分かった。そして魔王を倒す意味についても。

 だけど、やっぱり僕は……現実感がない。

 養子と思ってたら実の子だったと言われても……。


「分からなくても良い……だけど、魔王夫妻の遺言だけは守らせて」

「ああ……うん……」

「……良かった」


 普段は無表情のシオンが優しい月のような笑みを浮かべていた。

 僕の所為でいろんな人に迷惑をかけてしまったという事しか、今の僕はわからなかった。


「……守る仕事、最初は複雑な気持ちで幸長に顔を合わせられないと思って麻奈に譲ったの」

「へぇ……」


 だから家に入り浸ってたのかあの、なのだ娘は。


「だけどこうして話が出来るようになったからには私も頑張る」

「えっとー……僕の命を狙う意味で?」

「違う。友達……ううん。もっと近くに」


 これは一悶着ありそうな予感がするぞ。

 シオンは僕を抱えて出口に向かって建物内を歩き出した。


「この建物にいた関係者は全員、私の部下が捕まえた。シュレイルード達は建物から飛び出していったみたい」

「そ、そうなんだ」

「うん」


 黒焦げになったコロシアムに連れて行かれた。上を見ると綺麗な円形状の穴が建物を貫通している。


「これ、ルード達がやったの?」


 コクリとシオンが頷く。

 やべぇ……怒らせたら僕なんて消し炭にされちゃう。

 所々で勇者志望の連中が連行されていく。

 ふと、捕まえている人と目が会うと、敬礼された。


「早く帰らないとここにいたのがばれる」


 シオンの言葉に僕はハッとなった。

 そうだ。一応、僕はルードに縛られて家に転がっている事になっているのだ。


「いまなら、まだ間に合う」


 そして穴からヘリコプターが降りてくる。


「あ、ありがとう」


 なんか、拍子抜けするなぁ……シオンは僕を強く抱える。


「何?」

「……絶対に守るから」

「ああ、うん。守られる程、弱いかな? 僕」

「例え、貴方が不死であっても」

「ねえさっきから不死って言ってるけど何?」


 僕のことを不死身の化け物みたいな言い方をする人がいるけど何なの?


「……言葉の通り、貴方は魔王の息子としてのポテンシャルを全て使って不死を得てしまった」

「いやいやいや、幾らなんでも死なないなんてありえないでしょ」

「……0歳児が5歳まで魔王軍に所属して死なないと、本気で思ってるの?」

「それは僕がスライムだからで」

「本当のスライムにそんな不死性はないわ。弾けたら終わり、蒸発しても再生なんてしない」


 断言されちゃったよ。


「……勇者をしていた私が言うのよ? スライムだって飛び掛かってきたら返り討ちにしたから知ってる」


 魔王軍でも最弱スライムで現存しているのは僕だけなので他の仲間がどうなのかを知らない。だけど……うーん。


「……浦島琴音が次期王妃としてシュレイルードと仲良くするのには訳があるように、貴方にもまだ沢山の隠された問題があるの、覚えていて」

「琴音さんにも?」

「浦島琴音は……今の段階でドラゴン界隈で次期最強のドラゴンの称号を得てる。むしろシュレイルードの方がおまけ。次期竜魔王。魔王領じゃなくドラゴン領の魔王候補」

「へ?」


 え? いやいやいや、シオンは冗談を言うのが上手いなぁ。


「沈黙の炎を吐くドラゴン相手に、並みの勇者は勝てるのかしら?」


 えっと息するみたいに魔法とオーラを封じる炎が使えるドラゴンを相手に勝つ方法?


「そのドラゴンの炎を内包して平気な貴方を殺せる勇者がいると思う?」


 うわぁ……痛い、その指摘凄く痛いし弁解できない。

 と、話をしていると連行されていく勇者志望の声が耳に入る。


「放しなさいよ! くそ!」


 そこには全身ボロボロになった隻眼の女の子が縛られて今まさに連行されていく姿が見えた。


「あら? そこにいるのは幸長じゃなくて?」


 僕を見つけた女の子は挑発的な口調で僕に話しかける。

 どこかで会った覚えがあるのだけどいまいち名前が思い出せない。


「また手足を跳ね飛ばしてやろうと思ったのに、残念ね」

「あー……確かラーフレアだっけ、名前をすっかり忘れてた」

「なんですって! あんだけ苦しめたのに覚えていないって言うの!?」

「あの程度の拷問、耐えられない程じゃないよ」

「くっ! でも私を倒したからって安心しない事よ。私達と志を同じにした勇者は絶対に諦めない」


 僕がどうもあんまり覚えていなかった事に怒ったのかラーフレアは怒り心頭のご様子で喚き出す。

 戦場じゃアレくらいは日常茶飯事だったしねぇ。


「ホラ! さっさと歩け!」


 戦士がラーフレアを連行していく。


「これでお前も家族も刑務所行きだ。行き過ぎた正義の末路をその身に刻むんだな」

「ふざけるんじゃないわよ! 私は勇者ラーフレア=ラグラッツよ! こんな事をして許されると――」


 徐々に声が小さくなっていく、どのような罰が待ち構えているのか僕は知らないけれど、騒がしい奴が居なくなってホッとする。

 ヘリが降りてくるのを見ている最中、シオンは僕に囁いた。


「少しだけ……アプローチして良い?」

「何を?」

「貴方の警護、シュレイルードも守るわ」


 現役の勇者に守ってもらえれば勇者志望の襲撃も止むかな?


「まあ……」


 平和的に解決するならそれが一番だ。


「分かった。多分、明日には片付いてるから安心して」

「シオンの保障なら安心できそうだ」


 後はヘリに乗ってルード達よりも先に家に帰るだけ。

 なんか微妙な気持ちになる。


「……じゃあね」


 ヘリに乗る僕にシオンは微笑んで手を振る。


「うん。じゃあね」

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