11
一斉に打ち出された魔法に私は怯えまいと目を見開いていました。そこに黒い影が現れ、魔法の障壁を生み出して私たちに飛んできた魔法を散らせました。
「待たせたね!」
「ルード様!?」
「ルードさん!」
「やあ、三人共無事かい?」
「ええ、一応無事、ですが……」
突如バキンと手錠が壊れました。
無事着地した私たちは勇者志望の連中を睨みつけます。
「話は大体聞かせてもらったよ。兄さんも言わなきゃ分からないよ。まったく」
遠い目をするルード様に私は声を掛けるのを躊躇いました。私達の所為でルード様にご迷惑を掛けるとは……どのように償えばよいでしょう。
「やつらも何を血迷ったのかボクを敵の本拠地に連れて行かずにぐるぐると同じ所を回っていたしね。気づかないと思ったのか……一暴れして場所を吐かせたのさ」
しかし、私の罪悪感を吹き飛ばすような事をルード様はしました。
なんと私たちに頭を下げたのです。
「ごめんね……本当はみんなを見捨てて兄さんと一緒に逃げようとしたんだ。だけど兄さんに怒られちゃった。だから一人でみんなを助けようとしようとした兄さんを縛っておいてきちゃった」
「そんな……」
「なのだ……」
「頭をお挙げください。私たちの命よりルード様の命のほうが重いのです。逃げることは悪くなどありません」
私の言葉にルード様は首を振りました。
「違うよ桜花、魔王は魔物の代表でなくてはいけないんだ。自分の命が惜しくて逃げるような真似をしては魔王である資格は無い。兄さんはそれを教えてくれたんだ。だから、僕はみんなに許してもらうためにここに来た」
ルード様……なんと立派になって、感激で涙があふれてきます。
「大丈夫なのだ。麻奈も琴音も気にしないのだ」
「はい!」
「桜花は気にしてるのだ?」
事もあろうに私を挑発するとは、麻奈に張り合うように私は前に出ます。
「結果こそ全てなのです。ルード様、良くぞ決心なさいました!」
あの情けなかったルード様も成長なさったものです。
「ありがとう、みんな」
「まあ、飛んで火にいる夏の虫。準備していたのですから来てくださらねば面白くありませんわ」
ラーフレアの後ろから一際強い気配を立ち上らせた勇者志望が前に出てくる。
いや、あれは勇者志望では無い。
「勇者ともあろうものが役目を放棄するとはどういう了見で?」
そう、その三人には見覚えがありました。魔王様を殺した勇者一行のメンバーです。
一人目は麻奈がいつも担いでいるような大剣を構えている屈強な猛者。30代前後の男性で全身が筋肉で出来ているのではないかと思うような面持ち。
二人目は人間の作り出した魔法石が収まった杖を所持するローブを着用した40代の男性。王妃に決定的な致命傷を与えたのは奴でした。
三人目は大きな十字架を背中に構えている20代の女性です。光の魔法を駆使し、魔王様の魔法を妨害しつつ、仲間の援護を行っていました。
とはいえ……本命の隊長がそこに居なかったのは幸いでしょう。
隊長は麻奈を越えるかもしれない程の化け物。
あれがこの場に居ないのは……やはり正しき本物の勇者はこんな事をしないという事でしょうか。
奴らは本物の腰巾着でしかありません。
本物の勇者まで居たら厳しかったかもしれない。映像では全身甲冑で姿は素顔はわかりませんでしたが、ここには居ないですね。
居たら……私の手に余った相手なのは間違いない。魔王様の四天王最強の者が居て欲しい状況です。
……あの決戦時、魔王軍最強の四天王が城の警備に居てくれれば結果は違ったと言われていましたが、奴はここには居ない。
いえ、私たちの方が今は強いと思うほかない。
「何が悲しくて魔王の息子を守ってやらなきゃならんのだ」
「そうだ。それよりも不吉な予言を駆逐するのが俺たち勇者の役目だろ」
「ええ、神は人間にこそ微笑むのです。世界は人間のために在るのですよ」
世迷言を!
ゆらりとルード様から黒い魔力が立ち上っていました。
「……うん。君達の言い分は良く分かったよ。父さんと母さんの仇……恨むなと言われているから憎しみは捨てているよ。だけど、今回の事は許さない。正々堂々、定められたルールを守らずにこんな卑怯な事をする奴を、断じてボクは許さない!」
辺りを支配する魔力の濃度が上がっていく噴出する力に私は気圧されます。
「ふん、所詮は未熟な魔王、ここで引導を渡してくれる!」
勇者が剣を振りかぶるのを筆頭に、他の勇者志望も飛び掛ってきました。
「ルード様!」
キイン!
甲高い音と共にルード様は勇者志望の一人が振るった剣の刀身を指で掴みました。
「君達はボクがどんな存在であるか全然理解していないようだね」
ゆらりとルード様を中心に黒の法衣が立ち上ります。
「ボクの母さんは金属の特性を持ったスライム種、そして父さんは代々魔物の王様を担っている血族だよ?」
ルード様の声を無視して勇者志望達は群がるように各々の武器と魔法で攻めます。
ピキン!
それぞれ武器の折れる音と魔法の炸裂音が木霊し、土煙が上がる。
「いわばサラブレット。オーラを纏えていない未熟者相手に傷なんて負わせられる訳ないじゃないか」
「ば、馬鹿な……」
「傷一つ付いていないなんて!?」
勇者志望の連中が絶句する。
「なら」
「オーラが纏えれば」
「倒せる!」
「それも大きな間違いだよ。確かにこの国に来た直後のボクなら勝てたかもしれないけど、皆と共に訓練していたんだ」
袈裟切りに出る勇者志望の攻撃を完全に見切ったルード様は返す手つきで剣を奪い、逆に切り付ける。
「グハ!?」
オーラが纏えるというだけで勝てると思っていた勇者志望は自分が斬られたというのを理解するや腰が引けています。
そう、ルード様は次期魔王。生まれ持っての天才であり、スライムの幸長さんのような限界がありません。
少しの訓練で人並み以上に実力を身に付けるだけの能力があるのです。
「あんまり舐めないで貰おうかな」
「ほう……少しは楽しめそうだな」
勇者達が前に出てきました。
△
ピリリリリリリリリリ!
誓子の携帯電話に着信が入る。
「私よ」
魔法を僕に飛ばしながら誓子は電話に出た。
片手間で相手にするような相手に何本気になってんだと言いたいがそれ所ではない。
「なんですって!」
電話相手に怒鳴り散らしている。
……どうやら奴にも不利な状況になってきているようだ。ありそうな状況と言えば。
「大方ルードがここに来てしまったとかそんな所か?」
僕の問いに誓子は苦虫を噛み潰したような顔で睨みつける。
「……もう少し遊んであげようかと思ったけど、こちらもやらねばならないものが増えました。予定を早めましょうか」
先ほどまで雨のように飛んできた魔法をやめて誓子は魔法を作り出し始めた。
火と水の二つを同時に唱え、合成させる。
更に風と土の二つが更に合わさり大きな球体が生成され、僕に狙いを定めたのだ。
「勇者共が考えた極大魔法……王妃様を殺した魔法よ。これを受ければ如何に汚物といえど死ぬはず」
「な、なんて魔法を……」
当たった物質を消滅させる類の高位合成魔法。こんな魔法を喰らったら絶対に死ぬ!
「念には念を入れる性分でね。やりなさい!」
誓子は携帯電話の相手に指示を出す。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……室内に地響きが轟く。何が起こるのかとキョロキョロと見渡す僕に誓子は笑う。
「くっ――弱点も聞いている。あくまで君の動きを最大限封じる手段でしかないけどね」
頭痛に苦しむ様に誓子は続けた。
バシャアアアアアアアアアアアアアアアア!
「ゲ!?」
排気ダクトだと思っていた場所からお湯が濁流のように流れ出し、室内を充満していく。
「弱点を知るのは簡単だったわ」
僕が自身の弱点を知ったのは物心ついてすぐ。
僕を保護した隊長と風呂に入ったときだ。
湯船に浸かると同時に僕はとろけてしまったのだ。
周りのみんなはそれはもう驚いた。やがて湯船が冷めると形状を取り戻してのぼせた僕が浮かび上がってきた。
人間の姿なら問題なく浸かれるが今はスライム。問答無用で蕩けてしまう。
壁に吸着して少しでもお湯に触れないように天井へ逃げる。
△
ルード様と勇者達との戦いは始まったばかりです。
鍛錬の成果でしょう。私たちは勇者の攻撃を往なして戦えています。ルード様の成長に私は感激すら覚えていました。
「ハッ!」
奪った剣を振るって、私は勇者志望の連中を屠ります。
琴音さんは翼を生やし、私と背中合わせで勇者志望をなぎ倒している。
魔力要素が足りないご様子で、力があまり出ないと嘆いています。
ルード様の放った魔王の領域でさえ琴音さんの本来の力を出すには至らないとは……お驚きの域です。
「桜花は本性を現さないのだ?」
ルード様と共に勇者の相手をしている麻奈が私に聞いてきました。
確かに本当の姿に変身すれば少し戦いは楽になるでしょうが……。
「こんな所で変身なんてしたら格好の的になるではありませんか」
口惜しいですが本来の姿に変身するには時間が必要となります。人間化の呪いを解除するのは幸長さん程簡単ではないのです。
満月の日や魔王領にいるような状況とは異なります。
「分かったのだ。じゃあ麻奈が本気を出すのだ。幸長の弟、少し時間を稼いで欲しいのだ」
「うん。まあ、どうにかなるかな」
ルード様は勇者達の攻撃を無効化し、障壁の魔法を発動させました。
「何をするつもりだ!」
剣の一撃を阻まれた勇者が叫ぶ。
「お前らのような金魚のフンが一生かかっても出来ないようなオーラの使い方を見せてやるのだ」
麻奈は折れた剣を捨てる。そして呼吸を整えて目を瞑りました。
すると麻奈が纏っていたオーラの輝きが両手に集まりだしました。
私はその光景に唖然とします。今日まで様々なオーラを見てきましたがオーラを収束するなんて事をする者を見たことがありません。
それは周りの勇者志望も同様で驚きのまま呆然としています。
「させるかぁ!」
剣を持った勇者が麻奈に向けて剣技を放ちました。オーラの纏わり付いた稲妻を帯びた一撃が麻奈に向けて飛んでいく。
「させない!」
ルード様がその延長線上に立ち、黒の法衣と防御体質を駆使して斜線を剣でずらします。
必殺の一撃を持った勇者の攻撃は天井に吊るされていた大型テレビを打ち砕くのに十分な威力を兼ね備えていました。
「馬鹿な……ガキの魔王に俺の必殺技が通じないだと!?」
「時代遅れもはだはだしいのだ」
次の瞬間、麻奈の両手には煌く大剣が握り締められていました。
「精々これくらい出来ないと、これからの魔王に傷すら負わせるのは不可能なのだ」
柄と鍔には竜を思わせる装飾が施され、柄頭には紅い布が風を受けてはためくいている。
刀身は吸い込まれる程白く、淡い輝きを宿しています。
オーラが武器化する!?
麻奈は軽く一振りすると 勇者達に向けて宣言しました。
「さあ、本気でこないと死人が出るのだ」
「く……舐めるなぁ!」
勇者達が各々の必殺技を放った。それに触発されて勇者志望達も負けじとそれぞれの最強の攻撃を出しました。
「ぬ!?」
麻奈はルード様の襟を掴んで跳躍すると同時に大きく剣を振るう。
勇者の放った必殺技と麻奈の振るった剣から飛び出した剣閃がぶつかった。
「……伝説の武器だったとは気づかなかったのだ」
そう、勇者の持っていた武器がそれぞれヒビが入り、本来の姿を見せました。
見覚えのある武器ばかりです。
天剣ジャッジメント
魔杖アポカリプス
聖十字ガブリエル
どれも神器に数えられる伝説の魔王殺しの武具。
奴らは魔王様の命を奪った際にそんな武器は持っていなかったはず!
「はっはっは! 魔王を殺そうとする俺たちが持っていないとでも思ったか!」
「権力って凄いよなぁ! 魔王を倒した勇者には笑顔で支給してくれるんだからよ」
ただの魔物では一撃を受けるだけで跡形も残らないような必殺の武器ばかり、些か私たちには荷が重過ぎる相手であります。
「く……」
ここは撤退を検討に入れねばいけないかもしれません。
ルード様は発展途上、さすがに勇者を殺すほどの実力を持っているとは希望的観測でも思えないのです。
「……その、伝説の武器がこの世から消える日が今日、なのだ」
ルード様を降ろした麻奈がそう言い放つと、消えました。
次に麻奈が姿を現した時、麻奈は勇者達の後ろに立って、剣に付いたゴミを振り払うように一振り。
バッキン!
甲高い音と共に伝説の武器達の先端があっけなく落ちました。
「な……」
絶句して何もいえません。
ですが私は一つ、大きな思い違いをしていたことに気が付いたのです。
魔王様が亡くなった時の大戦で、勇者達は大群を率いて魔王の間にまで来ました。
しかし、平賀麻奈という少女はその行程をたった一人で来たという事を。
「さすがに全部破壊するのは無理だったのだ。でも、次は……」
圧倒的な強さを見せ付けてくれます。魔王様の観察眼……確かなものでした。この者がルード様の婚約者候補に上がっている理由、頷けます。
「くぅううううう……おのれ、さすがにこの手だけは使いたくなかったが……ヤレ!」
ブウウウウウウウウン……鈍い音が遠くから聞こえてきました。
すると辺りの魔力要素が根絶していくのを感じます。
「お前の武器はオーラで作られている。ならば辺りにある魔力を根絶すれば素手も同然となるんじゃないか。俺たちの武器はその点、殺傷力に変わりはない」
「そうです、私たちの加護を舐めないで!」
勇者達は魔杖アポカリプスと聖十字ガブリエルを掲げる。すると周りの勇者志望を含めた私たちの敵全員に光の幕に覆われて行く。
「……知恵だけは回るようなのだ」
麻奈の持っている大剣の形が揺らいでいきます。
「自らの敵に有利な魔力要素だけを根絶し、自分達の魔力要素は使い放題にさせるつもりなのだな」
……勝機が見えたと思ったのに。
「じゃあ、麻奈も奥の手を使うしかないのだ」
麻奈は私たちの方に顔を向けて駆け出してきます。
「琴音! 力を貸すのだ」
「へ?」
驚いたのは私たちです。麻奈が何故琴音さんを指名したのか私には皆目検討が付きません。
麻奈は琴音さんの目の前まで来ると突如胸の谷間に手を沈めました。
「おや……」
ルード様が困った顔をしながら視線を別の方向へ向けました。
「な、何をしているのですか!」
私が注意するのとほぼ同時。
ベリ!
麻奈が琴音さんから何かを剥ぎ取る音が聞こえました。
ニヤリと笑う麻奈の顔が強く印象に残ります。
「あ……あ……」
わなわなと震えだす琴音さん。私は麻奈が何を琴音さんから剥ぎ取ったのか、手を見て理解しました。
逆鱗、ドラゴンの血族が必ず持っている触れられるだけで怒り狂う鱗。それは人間の時でも変わらず体のどこかにあるというものです。
「な、なんて事を!」
うずくまった体勢の琴音さんは周りの魔力要素を吸収しながら本来の姿へと変身しようと試みます。ですがこの場にある魔力要素では完全に琴音さんを変身させるに至らないはずです。
「頑張るのだ! 麻奈が力を貸すのだ!」
ズブンと麻奈は地面に剣を突き刺しました。
「平賀流、大地噴出陣!」
カッと地面に魔法陣が形作られ、地面から力が噴出しました。それはルード様の出した魔王の領域と合わさり、膨大な魔力が辺りを支配しました。
地脈……そうでした。魔王領が何故魔物を本来の姿にさせていられるか、それは地脈が活性化し、魔王の領域の力を何千倍にもしてくれるのです。
日本ではこの地脈の力が弱いという点があります。ですが、麻奈はその問題を自らが生み出した剣を地面に刺すことで解決させた。
剣がスー……っと地面に消え、代わりに魔力が生み出され、その生み出された魔力が見る見る琴音さんに吸い込まれていく。
「麻奈のオーラと魔力を全て吸い込むのだ!」
バキバキと音を立てて琴音さんは本来の姿であるドラゴンに変身していきます。
「何をしているのだ。早く琴音の背中に乗らないと大変なのだ」
「え、あ、はい」
「うわぁ、すごいね琴音さん」
琴音さんは私たちが乗っても何の影響も無いくらいに巨大化していきました。
「させるか!」
勇者達は各々の必殺技、魔法を放つ。
「うわ! さすがにあれだけの攻撃の雨を防ぐのは無理!」
「……耐えるのだ琴音、変身さえ終えれば勝てるのだ」
私たちは琴音さんを守るように各々の力で迎撃を行いました。しかし、防ぎきれない必殺技や魔法がこちらに飛んでくる。
「ルード様に琴音さん!」
私は少しでも盾になるべく、ルード様と琴音さんに覆いかぶさりました。
『……大丈夫?』
フッと、幸長さんの声が聞こえました。
「あれ?」
振り返ると雨のように降り注ぐ魔法や必殺技が弾けて魔力要素に分解されていきました。
「これは……」
私を始め琴音さんに麻奈まで、微かに黒の法衣が展開されています。
「幸長なのだ! 幸長の魔力を感じるのだ!」
「ユキ……ナガ……クン……」
琴音さんは分解された魔力要素を吸い込み変身を加速させていきます。
疑問と共に昨夜の出来事が思い出されました。私たちは幸長さんが溶けていた風呂に入浴しました。つまりは全身に幸長さんが付着しているような状態。
敵はルード様の耐性面を考慮し、黒の法衣を消し去る道具を使うのを放棄した。
その結果、私たちは幸長さんが所持している黒の法衣によって怪我をせずに済んだのでしょう。
これは元々吹き飛んでますが……幸長さんを怒れませんね。
ここに居らずとも皆様を守ってくださったのですから。
ただ、褒めるのは負けたような気もします。
「ギャおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
琴音さんが正体を現しました。乗っている私たちでも直視する事の出来ない魔法の光で覆われたドラゴンです。
「ひ、ひるむな! やれ!」
琴音さんの羽ばたきは勇者の攻撃を物ともしません。
尻尾を振るうだけで吹き飛ぶ勇者志望達、爪を横に凪ぐだけで同様の効果がありました。
やがて、口の中から火の粉が漏れ出していきます。
「麻奈さん。琴音さんの正体を知って居たの!?」
ルード様の指摘です。
そうでした。何故麻奈が琴音さんの正体を知っているのでしょう!?
「どうしたのだ?」
「何故琴音さんの正体を知っているのですか?」
「琴音がエンシェントドラゴンだって言うのは会う前から知っているのだ」
「はぁ? では何故琴音さんを狩らないのですか」
私の問いに麻奈は真顔で首を傾げています。
「……それは無意味な人殺しなのだ。桜花は麻奈を何だと思っているのだ?」
「……」
至って真面目な回答に私は声を失いました。
じゃあ何ですか? 琴音さんの苦労は意味が無かったという事でしょうか?
「ははは、琴音さんもそれを知ったら胃に穴が空くような心配をしなくても良くなるよ」
気楽な様子のルード様、さすがは次期魔王です。何事にも動じません。
「こりゃあ楽チンだね~」
「幸長の弟は魔王の領域の維持を継続するのだ。じゃないと何時効果切れするか分からないのだ」
「はいはい。凄いね麻奈さん。ボクじゃまだここまで琴音さんを変身させられないなぁ……」
一方的な展開に私も驚きを隠せません。伝説の武器を所持した勇者達がまるで赤子の手を捻るように簡単に……。
「ガアアア!」
琴音さんはコロシアム内で羽ばたき、中に浮く、そして……琴音さんは光の洗礼かと思わんばかりの強力な炎をその顎から放った。
コロシアム内が火の海となり、勇者達は炎に飲まれていきました。
「「「「ギャあああああああああああああああああああああああああああああああ」」」」
「ギャオオオオオオオオオオ!」
琴音さんは炎の向きを上に変えます。すると天井を貫き、炎は建物をつっきり太陽のある空に向けて飛んでいきました。
「グルゥ……」
「さあ琴音、幸長のいる家に帰るのだ」
「グルゥ」
麻奈の言葉に頷くように琴音さんは穿たれた穴を抜けて飛んでいきます。
私は燃え尽きたコロシアムに視線を向けた。
そこには辛うじて生きている黒こげの勇者達が私たちに向けて弱弱しく手を伸ばしている姿が見えているのでした。
絶対的な勝利……ルード様達の成長に私は魔王軍の繁栄を期待せざるを得ません。