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ブラコン魔王の婚活  作者: アネコユサギ
ブラコン魔王の婚活
11/25

10

 私はとある人物に殺意が芽生える。

 あのスライムゥウウウウ! 私達を売るとはどういう了見ですか!

 大方、昨日の事を根に持っての所業なのでしょうがこれは断罪するに匹敵します。

 事も在ろうに勇者志望の連中に捕まってしまった。

 気がつけば琴音さんと麻奈と共に訳の分からない建物の中で手錠を掛けられていた。

 それぞれ似たような理由で罠に掛けられて捕まるとは何たる事か。腕に付けられた手錠には魔力を放散させてしまう類の機具が使われて魔法はおろか力すらも出ない。魔力根絶器の縮小版だ。

 麻奈とてそれは同じ様子であり、絶体絶命。

 宙吊りにされた私達、室内は大きく、まるでコロシアムのような場所。

 そこにはたくさんの勇者候補が私達を取り囲んで、今か今かと待ちわびている。

 コロシアム内のスピーカーから声が響きます。


「さて、そろそろ人質を処分しなさい」


 何を勝手な事を……やはりこの手の連中の思考は理解できません。


「だから幸長を狙ったのだ?」


 麻奈が勝手にスピーカーの相手に話しかけました。


「ええ、当たり前じゃないですか」


 ふと、スピーカーの声の主が勇者候補生の輪を割って出てきました。


「やはりお前だったのだ。よくその面を麻奈の前に出す事が出来たのだ」


 麻奈から放たれる殺気で室内の温度が下がったように感じます。


「どうとでも言うがいいわ! お前に抉られた右目の恨み、ここで晴らしてもらう」

「幸長にした事に比べればまだマシなのだ」


 ビキン!

 手錠に渾身の力を込めているのが伝わってきます。一体どんな因縁があるというのでしょう。


「桜花、こいつがいるという事は絶対に幸長は犯人じゃないのだ」


 ふと、琴音さんも麻奈と同じ空気を纏いながら相手をにらみつけました。


「麻奈さん。この方が幸長くんに何をしたんですか? 前日も幸長くんを狙っていたようなのですが」

「こいつの名前はラーフレア。麻奈と幸長が9歳の時……幸長がスライムだからという理由だけで拷問をしたのだ」


 幸長さんは人間化の手術を受けるためにブレイブハート学園に入学していたのは私も知っています。

 結果は失敗に終わりましたがそれ以上の事を知りません。


「拷問?」

「そうなのだ……学年全員で弱い魔物のスライムだからと寄ってたかって袋叩きにして、最後には……」


 その、麻奈が言った台詞に私は耳を疑いました。


「磔にした後、両目両耳をくり貫いて手足を切り飛ばし、生かさず殺さず槍で突いたり刃物で切りつけて一日中苦しめたのだ」


 りょ、両目……? さらに拷問?


「こんな事をどうしてする? って理由を尋ねる幸長の姿をカメラに収めながら笑ってたのだ」


 貴方がスライムだからに決まってるじゃないですか。


「「そんな……」」


 琴音さんは青い顔をしてパクパクと口を上下しながら幸長さんの過去のトラウマを聞いていました。


「じゃ、じゃあ幸長くんがスライムに劣等感を持っている理由って」

「これが原因なのだ。麻奈は犯行が露見して押収された証拠映像に、正義とは何なんだと疑いを持ったのだ」


 麻奈の瞳は戦場を経験した私でさえも寒気がする、人がここまで相手を憎む事の出来るのかと驚く程の目をしていました。


「でも別に死にはしなかったし、五体満足で動き回ってるじゃないの」

「あれが幸長じゃなかったら死んでいるのだ!」

「まさかその程度で私の目を抉った訳じゃないわよね?」

「麻奈はしらないのだー、跳弾した破片が当たっただけで僻まれても困るのだ」


 間違いなく意図した行動なのはわかりますね。

 目には目を歯には歯をで、目を抉った報復に片目を失明するように誘導したという事でしょう。

 よくやりましたね。

 邪悪な所は魔物としての部分として納得し、称賛します。


「キー! 絶対許さない!」

「それはこっちの台詞なのだ!」

「い、いや。どうしてそんな非人道的な犯罪行為をして許されているのです?」


 考えてみればそのような非人道的行いを許されるはずも無い。事が公になればマスコミが格好の餌食にするはずの特ダネであるはず。


「……だから麻奈は幸長の両親を詰問しに行ったのだ」

「「「!?」」」


 ここで麻奈が魔王の間まで乗り込んでおきながら帰った理由が判明しました。


「幸長のおじいちゃんは訴えると言ってたのだ。なのに幸長の両親が権力を使って揉み消したのだ」


 麻奈の出す殺気に私は震えているのを感じました。馬鹿な、私とて将来の四天王。この程度で脅えてはいけないのに。


「幸長の生まれをこの時初めて知ったのだ。親に捨てられ、あんな目にあっても封殺されるなんて絶対に許さないのだ」


 幸長さんは事件の所為でブレイブハート学園から転校し、琴音さんと同じ学校に通うようになった。

 麻奈は憎しみを糧に鍛錬を繰り返して学園でもトップなった。

 全ては魔王様の前に行くために。

 麻奈はフッと殺気を霧散させて計画実行日の事を話し出す。


「麻奈は魔王城に乗り込んだのだ。次に幸長に迷惑を掛けたら殺すと暗に伝える為に」

「な……」

「幸長くん。そんな事があったなんて一言も教えてくれませんでした」


 そんな事、一言も父上や魔王様はお教えくださらなかった。

 幸長さんの立場は魔王様たちの隠し子だと言うのは知っていました。

 そういえば魔王城での幸長さんの資料が所々おかしいと今では思えます。

 あの能力が低いスライムを思えば確かに疑問に思うでしょう。

 上層部の耳に入る頃にはデマと思われても不思議ではない。

 ですがなぜでしょうね。

 あのスライムはグチグチと不満を述べはするけれどどこかケロっとしている所があると言いますか。

 そういう所はルード様に非常に似ていて兄弟だと言われても不思議に思えません。


「長話はこれくらいにしてくださるかしら?」


 ピシッ!

 ラーフレアが胸を張って言い放つ。

 私は……私はあの方に謝罪をせねばいけない。

 あなたをずいぶんと侮ってしまっていたと。


「どちらにしろ幸長は捕まえて惨たらしく殺して差し上げますわ。あの時のように苦しめてから」


 ホホホと笑うラーフレアに私は殺意を覚えました。

 そして、同時に隣でつるされている琴音さんから発せられる殺気を感じます。


「あの時、幸長くんの制止を聞き入れなければ良かった……私の本能が怒りを上げています」


 勇者志望の連中が各々の武器を握り締め、魔法を詠唱しながら私達に目掛けて攻撃を開始しました!


   △


 僕達は施設内を捜索して桜花さん達を拘束している魔力抑制リングの制御装置のある部屋を発見した。


「……部屋に入るには管理室とは別にあるスイッチを押さなきゃダメみたい」

「そうか、じゃあ僕がここで待っていようか?」

「……お願い」


 そう言われて僕は廊下のダクトに隠れて部屋の入り口を見張ること十分。

 ガコン。という音と共に部屋のロックが解除されたのを確認した。

 部屋に入り、装置の電源ケーブルを火の魔法で焼ききって停止させる。

 ブウゥウウン……。


「ふう……」


 これで上手く行ったかは確認しないと分からない。


「しかし」


 僕は室内を見渡す。

 桜花さんたちが捕まっているコロシアムとは比べる必要が無いけどそれなりに大きい部屋だ。

 四方10メートルの正方形、壁はむき出しのコンクリートに囲まれていて、ドアは重厚な金属製。

 制御装置だけがポツンと部屋の真ん中にある。

 これはまるで仕組まれた代物のようだけど……。


 パチパチパチ。


 拍手する音に僕は振り返る。すると其処には見覚えのある女の子が拍手していた。


「やっぱり来ると思っていたわ」

「な……」


 なんで君がここに居るんだと思った所でパズルのピースが合うように不自然な事情が説明されていく。

 まず、魔王の息子の所在については秘匿されているはずなのに勇者志望の連中はピンポイントで襲ってきた。

 次に警護に周ってもらっている魔王軍の警備の網の目を掻い潜って敵が来る。ここもおかしいと思った。

 更にはブレイブハート学園だけでは観察機関が処分しきれない現状だ。あの学園は規律に厳しい所もある。にも関わらず、ワラワラと犯罪に手を染めているのはルードの所在がリークされているからだ。

 極めつけは僕の弱点と入浴タイミングの悪さ。あれは意図的に行っていたのだろう。

 その後は僕を狙った部隊が僕を連れ去って殺す算段だったのだが、琴音さんに妨害された。


「どうして……」


 何故、貴女が裏切り者なのですか?


「誓子さん」


 ルードの事を慕い、常に裏で手を回していた貴女がどうしてルードを裏切るような事をしている?


「ふふふ……私が裏切るなんて思っていなかったって顔ね」

「……ああ。魔王軍の幹部がこんな事をするなんて思いもしない」


 誓子さんは不愉快に思うような馬鹿馬鹿しい笑みを浮かべたかと思うと、真顔になる。


「別に私はルード様を裏切ってなんていませんよ?」

「何をいまさら、この状況で裏切っていないなんて嘘だろ」

「嘘じゃありませんよ」


 すーっと誓子さんは息を吸う。


「こんな不愉快極まりない魔王様を崇めず魔法を駆逐して世界の心理を理解したかのような顔で科学こそ正義とか戯けた事をほざきつつ差別はいけないとか言いながら人と魔物で区別を繰り返す愚かな国の空気がシュレイルード閣下の御身に良くないといってんだよ! あっはっは! それよりも不愉快なのはてめぇだてめぇ! 血も繋がらないくせに魔王様の寵愛を受けてルード様の心さえ独占するてめぇとその周りで不快な思いをしない連中が生きているのが我慢ならないんだよ!」


 息もつかせぬ言葉を浴びせかけられた!?


「ルード様は、こんな屑のような国で平和ごっこをするために存在するわけじゃありません。予言の通りいずれ世界を支配する方なのです。身の程を知って死になさい」


 つまり、これまでの襲撃は全て僕の命を狙った犯行だったわけか。つじつまは合う。

 だけど、根本的に誓子さんは勘違いをしている。


「……言いたいことはそれだけ?」


 ルードの事を考えているようで何にも考えていない。

 あいつは今、家族を失った悲しみを癒すために僕のそばにいるんだ。いずれ僕ではなく琴音さんが僕の役目を引き継ぐ。それまでの間は僕がルードの兄でなくてはいけないのだ。

 血が繋がらなくても。


「君が全ての元凶だという事はルードはここに来ないね」

「ええ、車に乗ってもらった時に目隠しをするように指示を出しておきました。後はそれとなく走り続けさせれば気づきもしません」

「で、事が全て片付いた後、当然のような顔をして君が命からがら情報を伝達する……そんなとこ?」

「良くお分かりで、他に知りたいことはありませんか? 一応、汚物であっても何も知らないまま死ぬのはお嫌でしょ?」

「……どうやってブレイブハート学園の連中を手駒に出来た?」

「ああ、それなら簡単ですよ。魔王を倒した勇者様を招集して囁いたんです」


 もっと名声が欲しくはありませんか?


「いやはや、人間の業は深いもので吐き気がしますね。今頃、桜花たちを殺すのに躍起になっていますよ。装置が壊れたのですからね。ルード様の到着するまでの余興で大損害を生み出すのですから、挙句ルード様には逃げられ勇者の資格は剥奪、無様ですね。魔王様を殺した連中にふさわしい末路です」

「そうか……」


 この様子だとシオンも足止めされていて駆けつけるのは無理だろう。


「さて、大体の事は話したでしょうか? では死んでください汚物」


 誓子さんはピッと指を僕に向ける。

 幼少時の経験が僕に回避を命じた。

 直後、僕のいた場所に炎の柱が噴出した。


「何を――」

「おっと、これを避けるとは。ポーカーフェイスは軍人としての性? 感情を表に出してはいないが魔力の揺らぎが少しだけ見えるわ」


 カッと一瞬にして室内に高圧縮された爆裂魔法が炸裂する。

 ズブウウ……黒の法衣が辛うじて無効化してくれたが炸裂時に停止させた装置の破片が僕に突き刺さった。

 ずるりと破片を身体から取り除き、室内に舞った風塵に隠れて隙を窺う。


「隠れても無駄よ!」


 僕が生きているのを感知するとは……大半の勇者軍はここで死んだと確信するにも関わらず。

 所詮は最弱のスライム。その油断が命取りとなるのに目の前の敵は油断が無い。

 第二射、爆炎の魔法が室内を焼き尽くす。金属片が一瞬にして気化する程の高熱量が僕に襲い掛かる。

 幾ら、魔法を包み込んで跳ね返す事が出来る僕であってもここまで強力な魔法を跳ね返すのはタイミングが要る。

 誓子は魔法の使い手なので僕が跳ね返せそうなタイミングを見せない。


「く……」


 よくよく考えれば相手にする時間は無い。目的はみんなの救出。

 しかし、ここから出る為の排気ダクトも封じられ、出口の扉も誓子が邪魔をして出られない。

 次期魔王の側近である四天王と戦えって一介のスライムには荷が重過ぎる。今のところ負けはしないが勝つ手段だって無い。

 第三射、氷結の魔法が室内に吹雪を産み出し、僕に巨大な氷柱が突き刺さる。

 物理攻撃は全て意味を成さないので痛みは余り無いが遠慮の無い連続魔法に僕は驚きを隠せない。

 第四射、真空の魔法が室内に放たれる。室内は誓子の周りを除いて真空状態になり、見えない刃が僕を切り裂く。

 おいおい、これって風の最上級の魔法じゃないか。

 密閉された室内でこの魔法を受けて生き残れるのは同様に風の魔法が使えないといけないとか言う魔法だぞ。

 ま……真空でも僕は黒の法衣のお陰なのか生きてるのだけどね。

 スライムは酸素を必要としないって感じで。

 いやー……任意でスライム姿に成れるとわかって助かる。

 人の姿だとさすがに痛覚が多少あるし関節の関係で戦いづらい所はあったからさ。

 昔の勘が徐々に戻って来るのを感じる。


『ここまでやっても無傷とは……』


 真空状態では声が伝わらないのを察して誓子は魔法で言語を飛ばしてくる。


『一方的に攻めているのに並の魔法使いでは勝てないでしょうね。貴方と戦ったら』


 負けもしないと思うけどな。

 一瞬で風の魔法は消え去り、室内に酸素が戻ってくる。

 僕はその隙を狙って誓子の懐まで接近、至近距離から火の魔法を放つ。


「おっと」


 誓子の魔法の壁が僕の魔法を散らす。

 くそ……。


「ま、こっちも切り札を使わせていただきましょう」


 直後、誓子は僕にこれでもかとう程様々な魔法を撃ち放った。

 火、風、水、土、爆裂、氷結、重力、病原、マグマ。ありとあらゆる魔法が僕の身体に命中する。黒の法衣と言えど万能ではない。防ぎきれる限界や苦手な魔法は存在する。

 ゼリーを叩き潰したような音と共に僕の身体は千切れ、尚執拗に魔法が降り注いだ。


「……」


 誓子は室内に飛び散る僕の破片に目を向ける。


「死んだ振りは効きませんよ」

「チッ!」


 僕は破片を集めて自分を再構成させた。


「――くっ! やはり生きていましたか!」


 今、驚かなかったか? なんか誓子が頭に手を当てている。

 幾重にも放った魔法の反動で頭痛でも発生したか?

 いや、それよりもどうにかしてここを潜り抜けなきゃいけない。耐性面以外、僕はただのスライムも同然。誓子が放つ障壁を貫ける魔法を見繕って反撃する事もできない。


 どうする?


 手段が無い訳では無い。

 相手のスタミナ切れを狙う。

 だけど何時終わるか知れない魔法を受け続けるというのとほぼ同意義。


 昔、部隊の戦友に拷問を受けたときは痛がってはならないと注意された。

 痛がらないと過激化するから痛がったら喜ばれて……まあ、加減されたんだけど過激さはエスカレートしたっけなー。

 アイツら、何が面白かったのかね?

 目や手足を跳ね飛ばされても別に何とも思わなかった。

 魔物化したら再生出来たから……まあ、こんな体質の所為で完全人間化手術は失敗したんだけど。

 このまま耐え切れなくは無いだろう……。

 だが、それは琴音さんや麻奈達がどんどん不利になっていくのと同じだ。


 次に誓子が増援を呼ぶのを狙い、相手が部屋に入ってくる隙を狙う。

 問題は誓子が増援を呼ぶかどうか。些か希望的観測でしかないのとスタミナ切れを狙うのと並列するだけで十分な所だろう。

 で、先ほどから行っている作業が一つ、実はある。


「残念ですがここの壁を私の魔法で破壊しようと考えているのでしょうが無理ですよ」

「クッ!」


 そう、先ほどから飛んでくる魔法を壁にぶつかるようにして受けていた。

 だけどこの壁、魔法耐性が強い素材で作られているらしく、ヒビ一つ付かない。

 使われている材質は魔王城に使われている物と同等と見た。

 うーん……昔の癖で体の中に物を隠して持ってくればよかった。

 僕、平和ボケしてるなやっぱり……。

 ここから抜け出したら体の中に色々と隠して置こう。


「後は魔力元素切れを狙っているようですがそんな不備を私が犯すとでも?」

「ないだろうな」


 こうなると手立てが無いに等しい。

 どうする?

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