プロローグ
辺りは火の海となっている。
虐殺を繰り返す勇者軍。護衛に回っていた魔物達は次々と倒れ、避難中の魔物の子供はまるで玩具のように殺されていく。
「は、所詮、子供はこの程度か、どれも弱い弱い」
「これが将来化け物になるんだ。早めに処分していこう」
自らが行っている行為が国際法違反であり、正義の傘を被ったエゴだというのを理解していない勇者軍の戦士達。
『た、助け――』
ブシュ!
助けを求めて逃げる子供の魔物は凶刃に切り裂かれて息絶える。
『い、いや……』
一人、また一人と倒れていく昨日まで一緒に遊んでいた友人達の亡骸を見ながら、小さな私はか弱く声を絞らせる。
「お、レアモノ発見、ドラゴンの子供だぜ」
「子供とはいえドラゴン、良い武具の材料になるかもしれねぇ」
「見る限り上玉だぜ、いくらで売れるか楽しみだな」
『あ、ああ……』
怖い……どうしてこの人たちはこんな残酷な事が出来るの?
みんな、みんなが何をしたというの?
誰か……誰か助けて。
私は剣を振り上げた戦士に脅えて目を瞑る。
ドンッ!
という音と共に私は突き飛ばされた。
驚いて目を開けると視界は全て半透明の青一色。その先には自分のいた場所が見える。そこには戦士が剣を地面に突き刺していた。
「な、何だ?」
ブヨン!
という変な音と共に青く分厚い膜のようなものが石橋の手すりに跳躍して川へとその身を落とした。
激しい水音が膜を通じて聞こえてくる。
「逃げたぞ!」
「くそ、何処へ逃げやがった! 水に溶けて見えねえ」
膜は川の流れに乗って少しずつ、移動を開始していた。
直後、上空から灼熱の炎が降り注ぐ。
「「「ギャアアアアアアアアアアアア!」」」
川の流れに乗り、膜は森の方へ続く土手に向って進み、水から出たところで弾けて本来の形状に戻る。
「大丈夫?」
青いスライムさんが私の目の前に居た。
「う、うん」
「ごめんね。僕が到着したときにはもう生きている子は君しか居なかったんだ……」
そこで私は自分がこのスライムさんによって助けられたのだと理解し安堵した。
スライムさんに抱きついて声を震わせる。
「怖かったよぅ……」
「もう大丈夫、森まで勇者軍は攻めてこない」
手を掴んでスライムさんは森の方へと行こうと道を指し示した。
「この先に避難所がある。そこまで逃げれば絶対に安全だよ」
「……助けてくれてありがとう」
「当たり前の事だよ」
スライムさんに導かれて私は避難所に到着した。そこには人間の勇者達と魔物が手を取り合って、非戦闘民を守るキャンプが建っていた。
「じゃあ僕はもう行くね」
「あ……うん」
ピョンピョンと跳ねていくスライムさんに私は溢れんばかりの感謝の念を持つ。
「無事だったのね!」
「あ、お母さん!」
空からお母さんが舞い降りた。そこには安堵の表情が刻まれている。
「避難中の子供達が襲撃されたと聞いて急いで向ったのだけど、逃げ切れたようね。良かった、人間以外誰も生きていなかったから殺されてしまったのかと思ったわ」
私は首を横に振る。
「私一人じゃ逃げきれなかったの。青いスライムさんが助けてくれたの」
「スライム? この魔王領で?」
彼等には環境的に得意不得意がある。洞窟などの薄暗い所を得意としていて魔王城近隣の警備には居ないはずだと私は後で知った。
「とにかく、あなたが言うのなら本当なんでしょうね」
「うん!」
これが私の、好きな……あの人と初めての出会いだった。