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第3話

「な、なぁ・・・そろそろ帰らねーか?」


「・・・」


「だ、大丈夫だって!明日になったらみんな忘れてるって!」


「・・・」


「・・・はぁ」


本日、学校生活二時間目に行われた自己紹介。


クラス全員の注目の視線、期待というスポットライトを全身に浴びながら、見事に完全玉砕した色紙。


結局、彼の砕けた心は、HR中も、その後の佐々木先生を先導に置いた学校内案内の時間にも治らず、


放課後になった今でも、口一つ聞いてもらえないといった状況だ。


既に、クラスメイトが全員教室を出てから三十分は経過しており、教室には俺と、もはや火を通す前の貝と化した色紙しか居ない。


もちろん、色紙を置いて先に帰るという選択肢が無い訳ではない。


むしろ、今すぐにでも帰りたい。


しかし・・・。


俺は、今だ机に頭だけを乗せ、両腕を机の両サイドに「ぶらーん」と垂らしている、色紙を一瞥する。


「・・・はぁ」


俺の口から再びため息が漏れる。


「あの時の俺・・・どうかしてたよな・・・」


「あの時」とは、色紙が自己紹介を始める前の時である。


俺の頭に「あの時」の色紙が言っていた言葉が横切る。


―「行かせてくれっ!俺は絶対戻ってくる!」「大丈夫さ。お前が俺を信じていてくれたらな」―


「うっ・・・」

 

 俺と色紙は、言葉にこそ出してはいないが、目と目で男の友情の契りを交わしたのだ。


 そして、俺自身、彼の披露する「面白い事」に対して、愛想笑いの一ランク上に位置する、同情笑いをしてやろうと、心に決めていた。


 しかし、現実は違った。


 色紙が披露した「面白い事」は「笑える」、「笑えない」以前に理解が出来なかったのだ。


 意味、笑うポイント、何語?、これらの同情笑いをするのに必要な素材が何一つ明確ではなく、リアクション一つ取る事が出来なかった。


 色紙からしたら、友に背中を押され、即興で作り披露した「面白い事」がクラスメイトのリアクションすら誘う事が出来ず、ましてや、その背中を押した友ですら「ぽかーん」としていたのだ。


 落ち込む気持ちも分からなくはない。


「おーい、色紙ー?」


「・・・」


 俺が、色紙を待っているのは、最後までコイツの味方でいていられなかったという、「軽い裏切り」からくる、罪悪感のその他ない。


 まぁ、宇宙並みの大きさと言われる人の心だ。


 もっとよく探索すれば、俺が色紙を待っている他の理由が見つかるかもしれない。


だが、今は罪悪感という、非常に使い勝手がよい言葉に縋っておくことにした。


「おい・・・いつまで、そうしているつもりだ?」


「・・・もう、ほっといてくれよ」


 久方ぶりに聞いた色紙の声。


 しかし、ずっと開くのを待っていた彼の口から、出た言葉が突き放しの言葉なんてのは、なかなかに胸糞が悪い。


「ほっとけねーからココに居んだよ。ほら、さっさと帰るぞ!」


 少し、小っ恥ずかしいセリフを吐きながら、俺は無理やり色紙を立たせ、力の入ってない無気力な腕にカバンを持たせる。


 それでも、色紙のウジウジモードは続いていた。


「だって・・・あんなスベり方したんだぜ・・・もう・・・行けない・・・」


「行けない?どこに?」


「もう・・・お嫁にいけない・・・」


「元々いけねーよ!さっさと歩けっ!肉食系男子!」


 俺は、そう言いながら色紙の手を掴み、引きずるように、教室から出ることに成功した。


 廊下には、文字通り人っ子一人居らず、他の教室も既に、空き教室となっているようで、俺達の歩く音だけが地面に広がる床材を鳴らしていた。


 しかし、俺の耳に届くBGMは足音だけではなく、


「オロロロロ・・・」


 という色紙の泣き言もずっと聞こえ続けていた。


 しかし、俺は「もう、知った事か」というように歩を進める。


「オロロロロ・・・」


 今だ尚聞こえる、色紙の古臭いニュアンスの泣き言。


 ・・・それでも、俺は「勝手に泣いてろ」というように歩を進める。


「オロロロロ・・・」


 ・・・俺は、


「オロロロロ・・・」


「だぁーっ!もう、うるせぇ!」


俺は、後ろを振り向き、約半歩の距離を保ち歩いていた色紙に詰め寄り、怒鳴った。


「いい加減機嫌直せっ!ネチネチネチネチ、どこのネチネチ系男子だ!」


 俺のその言葉を聞き認識したであろう瞬間、色紙は、ずっと無色無感だった瞳に光を宿し、その瞳の上で、気だるそうに項垂れていた眉毛の尻尾を「キリッ」と持ち上げ、やたらと真面目な表情に戻った。


 そして、その表情のまま、高低強弱の一切無い機械の様な口調で俺にツッコミを入れてきた。


「いや、ネチネチはしてないです。納豆じゃあるまいし。僕の肌はどちらかというとモチモチ系です。」


「そういう意味じゃねーよっ!!!お前の態度に対する比喩的なアレだよっ!!!何で真面目に返してくるのっ!?てゆーか、お前の肌の触り心地なんてどうでもいいんだよっ!!!誰も聞いてねぇんだよっ!!!」


 ずっと待たされていたイライラによって、溜まっていたストレスを焼却するかのように、俺は、瞬間的に思いつく限りの言いたい事を言いきった。


「ぜぇー・・・ぜぇー・・・」


 あまりに言いたかった言葉が、ゴールドラッシュの如く我れ先に我れ先に殺到してきたため、息継ぎ無しのツッコミをしてしまった。


 そのせいで、乱れていた呼吸を、俺は呻声混じりの酸素吸収で必死に整えていた。


 一回、二回と手当たり次第に体の中の空気を入れ替える。


 三回目・・・。


 そう。


 まさに、そろそろまともな呼吸が出来始めるであろう時、俺は先程から覚えていた謎の違和感を体が、頭が完全に認知したのを感じた。


 あれ・・・?


 さっき・・・?


 会話・・・


 出来てたんじゃね・・・?


「会話出来てたんじゃねーーーっっ!?」


 俺は思わず手に拳を作り、胸にかざし、天空見上げ叫んでいた。


 ずっと、会話が出来ないに等しい状況に陥っていた人間にきっかけを与え、そして、その人間と会話出来たことは、歓喜の言葉を叫んでも罰は当たらない程度の武功は立てているだろう。


 そんな、俺の声はおそらく校舎中を駆け抜け、空を駆け上がり、雲の上にあるかもしれない城にまで届いているのではないだろうか。


 まあ、さすがにそれは冗談だが。それだけ嬉しかったという事だ。


「い、いきなり、どうしたんだ・・・?」


 そんな傍から見れば、いきなり奇声をあげ、新手のガッツポーズのような体勢をとっている俺に対して、色紙はやや控えめな口調で聞いてきた。


「いやいや・・・どうした?じゃねーよ!何普通に会話できちゃってんの!?てゆーか、何だこの温度差。何で俺が変な人で、それを宥めるお前、みたいな状況出来上がっちゃってんだよっ!?」


 今だ余韻が残っていたゴールドラッシュが息吹を取り戻したかのように、俺は、色紙に対して疑問混じりの罵声を浴びせる。


「まぁまぁ。落ち着いて、落ち着いて。どうどう」


 俺のそんな言葉に対し、色紙は両手を前屈みにさせながら、いかにも常識人っぽく俺を宥めてきた。


「だからなんでっ!?こんな、猛牛とそれを操る闘牛士みたいな関係になってんだ!大体、いつからお前、立ち直ってたんだよ!?」


「学校内案内の途中から」


「普通に立ち直り早ぇーじゃねーか!俺の放課後の三十分間返せ!!!」


「どうどう」


「猛牛らしくお前の真っ赤な制服に突っ込んでやろうか!」


 気付けば、俺と色紙は先程と比べて同一人物とは思えないほど、活発に、棘のある会話をしていた。


 そんな中、俺はあることを思った。


 俺って少しSっ気があるのではなかろうか。


 コイツと、色紙と話していると、どうしても声が荒くなったり、口調が汚くなったりする。


 それは、言葉を鋭細にし、相手に言葉を突き差すという事でもある。


 もちろん相手を傷つけない程度にだ。


 しかし、それでもそんな風に、思った事を少し磨いて鋭利な言葉にして口に出した方が、当たり障りのない言葉を選び、相手の顔色を伺ったりする話し方より、楽しいと感じれる。


 言葉のキャッチボールとやらがスムーズにいく。


 現に、今、俺は色紙との会話を楽しんでいる。


 俺は、色紙にそこそこ鋭い罵声を浴びせながら、そんなことを考えていた。


 そして、俺は、まさか自分がこんな事について考える日が来るとは思わなかったという、不思議な思いと、目の前の男に対する正体不明の感情を込めて、少しだけ頬を緩ませた。


「なに笑ってんだ?お前?」


 俺の目の前の男は、その頬笑みがまさか自分に向けられているとは思うはずもなく、ただ、疑問の言葉を口にするだけだった。


「何でもねーよ。帰ろうぜ。」


 そう言い、俺は廊下の奥にある、光をこちら側へ反射させているガラス戸へ足を運びだした。


「・・・?。変なやつ・・・」


 またも、半歩の距離を保ちながら、色紙が俺の後に続き歩きだす。


 ガラス戸を抜けると、そこには俺も朝通った校門や、そこから続く大きい桜の木が特徴的な中庭と呼ばれる場所が、二階の高さから一望できる渡り廊下と呼ばれる場所がある。





 「私立FEL学園」が学校を挙げて最も重んじている事。


 それは「美への意識」である。


 この学校の創設者でもあり、名付け親、フランシス E レスターが残した「外面の美しさは内面から。内面の美しさも外面から」という言葉からも分かるよう、この学校の創設者は相当なナルシストだ。


 故に、学校そのものが「美」を追求する忠実な化粧箱の様な存在となっている。


 教会の様な色鮮やかなステンドグラス輝く校舎、見栄えの良い真っ赤な制服。


 これら全ての、外観、内観が学校の「美」を演出しており、象徴している。


 そして、中庭に咲く桜の木もその象徴の一つである。


 校門からの見上げる形の桜の木は、花々の間から差し込む太陽の光によって幹から枝にかけての色の変化がある。まさに「彩り」と言うべき美しさだ。


 逆に、上から桜の木を眺めた時は、桜の素直な桃色が人間の五覚そのものに直接染み込んでくるような「神々しい美しさ」を感じさせてくる。





 俺は、そんな桜の木を見下ろしながら、いつの間にか隣に並び歩いている色紙に問いかける。


「そういえばさー」


「うん?」


「お前、学校案内の時には、立ち直ったんだったよな?」


 先程、色紙が自供していた言葉。


「あぁ。それが、どうした?」

 

 最早、昔の話だといった態度で色紙は返事をする。


「じゃあ、何で放課後もずっとオロロ~とか言ってたんだ?」


「あーそれはなーお前をからかうのが面白くてだな~・・・って・・・あ・・・ヤベッ!」


「・・・」


 俺の激烈な表情の変化に気付いたのか、色紙は途中から言葉を濁らせた。


 しかし、奴の言葉をしっかりと聞いていた俺は、前に向かっていた足を止め、横にいる男に向けゆっくりと歩み寄る。


「・・・」


「ち、違うんだ!誤解だ!ここは二階だけどねー・・・なんちって・・・」


「・・・」


「ほ、ほら、見てみろよ!海老が空を飛んでる!やべー、本物の海老反りだー。すげー。見ろよ、あの反り。どんだけ反ってんだって話だよな。あれがホントの海老フライだなーつってねー・・・あ、あはは・・・あいむ反―りー・・・つってな・・・あはは・・・」


「・・・」


「あ、あの・・・、新帝君?もしかして・・・怒ってる?」


その問いに対し、俺は返事はせず、顔の上下運動だけで色紙に現在の心模様を伝える。


「あ、あはは・・・ズ、ズバリ!今の怒りを電池で例えると・・・?」


 色紙はテレビのワイドショーの司会のようなノリで、訳のわからない質問をぶつけてきた。


 しかし、俺の心の中ではその質問に答えるという選択肢はなく、無表情で色紙に近づくことで、その質問を強制終了させた。


「ひっ、ひぃ~」


 俺は、この男に制裁を加えようと右拳を高らかに上げて、咄嗟に身構える色紙を見下ろす。


 そして、その右腕を振りおろそうとした時、


「ありゃ~?そこにいるのは新帝の旦那じゃありませんか~?」


 と、背の方向から少々間の抜けた女子の声が聞こえた。


 俺は、右腕に入っていた力を抜き、声のした方へ体を向ける。


 天原だ・・・。


「何してんのさ~?こんな時間まで~。え?私?私はどちらかというとダンゴムシ派かな?」


 怒りやらストレスやらで熟していた俺の中の衝動が治まっていくのを感じた。


 興が冷めた、という方が正しいのかもしれない。


「はぁ・・・」


 俺は、今だ防御の体勢をとっている色紙を再度見下ろし、小さくため息をした後、ようやく天原の質問に答えることにした。


「色紙のお遊びに付き合ってま・し・たっ」


 色紙に対する皮肉の念を込め、やたら語尾を強調し、流し目で答えた。ちなみに、ダンゴムシの件はスルーした。


「お遊び~?色紙~?」


 天原は、そう言い、腕を組み体の軸を斜めかせながら、俺の横で防御態勢をとっている色紙に目を向けた。


「うん?」


 色紙と目が合った瞬間何かを思い出したように、眼と眉を近づける天原。そして、その数秒後、瞬間的にパッと目を見開いた。


「あ~っ!思い出した~っ!めちゃくちゃ面白くない人だ~っ!」


 言葉選択がストレートすぎるっ!!!


 天原のそんな言葉に、色紙は「ぐはっ」と呻き声をあげる。


 しかし、天原はそんな色紙に止めでも刺すかのように、距離を縮めながら言葉を畳みかける。


「あれ、相当面白くなかったよ~。逆に何であんなの披露しようと思ったの~?ねぇ~ねぇ~、今、どんな気持ち~?」


 最初は、今の色紙に対して、同情の念などこれっぽっちも持ち合わせて無かったため、天原を野放しにしていたが、少しやり過ぎ感を感じた俺は、一応天原に攻撃終了の交渉を試みた。


「お、おい・・・その辺で・・・」


 しかし、天原はそんな俺の制止を振り払うでも、突破するでもなく、スルーという行動をとり、人差し指を色紙に「ドンッ」と向け、


「自己紹介をなめないでくれたまえっ!生半可な気持ちでやられたら困るんだよ!」


 と見事にキメた。


 俺はすかさずツッコむ


「え?なに?お前誰なの?自己紹介推奨団体の会長さんか何かですか!?」


「オロロロロ・・・」


 再び面倒くさいモードに入る色紙。


「てめぇは勝手に泣いてろ!オロロ星人!」


 そんな、俺のツッコミに乗っかかるように天原は色紙に問いかける。


「ズバリ!今の気持ちを電池で例えると~?」


「オロロロロ・・・単二型アルカリマンガン乾電池・・・」


「答えられるんかい!?」


「それはそれは・・・そんなに辛いのですか・・・色紙殿、心中ご察しします」


「なんで理解できてんだよ!どういう解釈したの!?てか、何でお前ら同じ質問してんの!?頭ん中のネットワーク接続でもしてんのか!?」


 すると、天原がポケットからゴソゴソと何かを探りだすように取り出し、俺に言ってきた。


「ねぇねぇ、そんなことより、新帝君。メアド教えてよ」


「何でこのタイミング!?どう考えてもそういう流れじゃなかったじゃん!」


「私、受身サイドね」


「なんで受信を表現するのにその言葉チョイスした!?」


 とか言いつつも、天原が「ホレホレ」と揺らめかせているケータイ電話に、俺は自分のアドレスを送信するためケータイ電話を取り出した。


「うん、君のアンドレス・・・登録完了!じゃあ、私からFAX送っとくね~」


「アンドレスって誰だよ!何でFAX!?普通にメール送れよ!」


 天原にアドレスを送信し終わり、俺は少し気分が浮かれていた。


 そして、メアド送信の間、完全に色紙をほったらかしにしていたことに初めて気づいた。


 目線を色紙に移すと、いつの間にか「ドヨヨーン」とした負のオーラを出し、色んな意味で空気と化している。


「わ、悪いな。色紙・・・。決して忘れてたとかじゃ無くてだな・・・」


 一応、色紙を気遣って言葉は選んだつもりだ。


 そこで、今まで防御体制から微動だにしなかった色紙が、歩を進め、俺の前に躍り出る。


「オロロロロ・・・もういい・・・帰ろーぜ・・・どうせ充電池のお前には、俺達の気持なんか分からねーんだろうな・・・」


「うん。分からねーよ。お前の言ってる事も、俺が充電池たる理由も!」


 そんな俺のツッコミに続き、すでにケータイをポケットにしまった天原が、目に涙を溜めているかと思わせるような表情で、俺の顔を見つめながら、


「そうよ・・・あなたなんて!使われ始めて一分しか経ってないのに、充電器に入れられてしまえばいいのよ!」


 と、言いながら「タッタッタ」と走り去って行った。


 まさに、嵐のように。


 本当に最初から最後まで意味不明だった。

 

 そして、そんな天原を見て


「え?」


 と、小さく漏らす色紙。


 その顔には、明らかな動揺が伺えた。


 それもそうだ。


 天原の出現で話が脇道にそれていたが、先程まで色紙が、俺の純粋な責任感を使って遊んでいたという事実が発覚した。


 それに対し、俺が色紙に制裁を加えようとしていた場面だったのだ。


 そして、天原が去った今、有罪執行が再開される。


 おそらく、色紙はそう認識したのだろう。


 もちろん俺もだった。


「・・・」


「・・・」


 二人に流れる短い沈黙。


「あはは・・・」


 引きつった作り笑いで場を繕おうとする色紙。


「・・・充電タイプの電池で悪かったな」


 俺は、そんな色紙から目線を逸らしながら嫌味感たっぷりに言ってやった。


「あ・・・はは・・・」


「俺は充電池だからお前らの気持ちを理解してやれなくてすまなかったな」


「いや~・・・」


「やべぇ。充電もうないわ~。ちょっくら充電器にピットインしてくるわ~」


「ごめん。俺が悪かった」


 そう言いながら、ようやく頭を下げ謝る色紙。


 誰が予想しただろう。


 入学初日、その日出会った男子生徒同士に片や充電池キャラ、片やその充電池に頭を下げるという、傍から見れば謎の上下関係が出来上がっているなんて。


「・・・帰るか」


 俺は、色紙の下がっている頭を右手の人差し指で押し上げながら、心の底から湧き出た願望を口にした。


「・・・そうだな」


 色紙も同じ気持ちだったらしい。返事は即座に返って来た。


 それにしても・・・。


 今までの時間はおそらく、人生規模で見てもトップレベルの無駄な時間だったのではなかろうか。


 まぁ、女子にメアドを教えることができたのが、唯一の収穫だろう。


「はぁ・・・」


 そんなことを思いながら家路に向かう俺達だった。





 家に帰ると、リビングに置いてある電話機が一定のリズムを保って赤色で点滅していた。


 近づいてみると、一通のFAXが項垂れるように届いていた。


 そこには、こう書いてあった。




「andres is very good-looking

 訳・アンドレスはとてもイケメンです。By天原」




「だから、アンドレスって誰!?何で、俺ん家のFAX番号知ってんだよ!てか、肝心のお前のメアドが無いじゃん!?」


 誰も居ない家で、一人叫ぶ高校一年生。


 そんな俺に、何とも言えない虚無感が襲ってくるのは、少し後の話だ。



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