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1,ダリアからの予告状

「ルージュさん、どこなの?」

 気品のあるどこか冷たい声が、廊下から聞こえてきた。

(……また説教か)

ルージュは嫌気を感じつつも、声を凛とさせて返事をする。

「はい、お義母さま。私はここです」

 洋間からドアを開け急いで廊下に出でみると、いつもの表情で義母が目の前に立っていた。

見下すような、威圧するような視線。あからさまに嫌なものを見るような顔。この人の笑った顔を見た事は、未だかつて一度もなかった。

「あの、すみません。ちょっと読書をしていて」

 茶色いスカートの皺を両手で伸ばしながら、上目遣いに彼女を見上げた。

白みを帯びた水色の髪。青い瞳。それは黒髪の自分と、血のつながりが明らかに無いという事実を現していた。そして厳しい口調で、だが彼女はいつもと違う事を言い出した。

「これを見なさい。あなた、何か知っていますね?」

 突き出された白いポストカード。まるで、何かの招待状の様な感じだ。

「これは……」

 

〔親愛なるルージュ様

新月の今宵、宝石“二色の原石”を戴きに参上いたします。

何分深夜にうかがいますので、どうぞご注意を。

 盗賊団ダリアより〕


「これはどういうことです。“二色の原石”だなんて! あなた、私の主人がダリアを追っているのは百も承知のはずですね。こんな紙切れをポストに入れるなんて、馬鹿にしているの!?」

「そ、そんな。待ってください、私は何も知りません」

「じゃあなぜ、切手も貼られていないこんなポストカードが入っていたんですか。家でこんな事をやるとすれば、あなたしかいないでしょう!」

 怒鳴り声は廊下を伝い、三階のフロア中に響き渡った。

 返す言葉がみつからなかった。まったくもって、こんなものには身に覚えが無い。きっと今自分は、絵に描いたように目を点にしているのだろう。

 義母はそんなルージュの姿に呆れたのか、一度大きくため息をつくと、

「とにかく、今度またこんな悪戯をしたら、ただでは済みませんよ!? この紙は──」

「ええ、申し訳ありませんでした。責任を持って私が、処分しておきます」

“私が”の部分を強めて言うと少し不満気な顔をしたが、ポストカードを乱暴にルージュに押し付けると、無言で立ち去ってしまった。

 ようやくほっとして、改めてそれにまじまじと目をやった。次の瞬間には、思わず笑みがこぼれる。

(これってまさか──!)

 美しいダリアの華が描かれ装飾された、白いそのカード。そして手書きの美しい文字。

(ダリアだ!! 間違いない、これはダリアの予告状だ!)

 うれしくなって、小走りで自分の部屋に戻っていった。確信を持って、なぜこれが本物といえるのかといえば……ふと、先月の事が頭をよぎる。

「盗賊団ダリア」というグループが起こした、窃盗事件があった時の事。

そのために義父は、緊急会議に出席しなければならなくなった。しかしその日は休日で、義母は旅行中。ルージュを一人屋敷に残すことは出来ないと言われ、南警察署へ連れられていった。

そこで会議が終わるまで、署内を好きに見学しても良い許可を半ば強引にもらった。そう、まさにその時「彼女」と出会った。

──自分の将来を、180度ひっくり変えしてしまう人物との出会いだと、この時まだルージュは微塵も感じていなかったが──

 地下二階の牢獄で、驚く様なものをみてしまった。

なんと“婦警が罪人の脱走を手助けしている瞬間”に鉢合わせしたのだ。焦るどころか、むしろにっこりとこちらに笑いかけてきた婦警に、しばし唖然としてしまった。 

≪取引をしないかい? あんたの望みを何でも一つ叶えてあげる≫

彼女はこう名乗った。

≪あたしはエリザ。ダリアの頭だ。何でも望みを言ってごらん。その代わり、あたしと会った事は口外しちゃならないよ? どうだい、盗賊と警官の娘であるあんたが取引をする…なかなか粋な事じゃないか。そう思わないかい?≫

 なぜ婦警の格好をした盗賊が、こんな所にいるのか。そして、なんと突拍子もない事を言いだすのだろうか。色々なことが頭の中を駆け巡った。しかし意外にも、冷静に彼女と会話をすることができた。

≪なあんだ、あんたそんな事が望みなのかい?成る程ね…たしかに面白そうだ。よしわかった。じゃあ、今から二度目の新月の夜まで待ってなよ。≫

 何が何だか解りきらないうちに、彼女は颯爽と駆けていってしまう。

それから五分とたたないうちに、上の階が大騒ぎになった。だがしばらくは、何とも言えない心持ちで突っ立ていることしか出来なかった。

狐につままれた様な、地に足が着いていない様な、あの時の不思議な感覚。

 印象深く残っているのは、同性の自分でさえ魅力的だと思ってしまうくらいの彼女の大きな瞳。

心の中や、性格や、好きなものから嫌いなものまで、とにかく何もかもがあの瞳に見透かされたような気さえした。あの深く澄んだ青い瞳に。

 そしてこの一ヶ月間、まさかとは思いつつも密かな希望を持ち続けていた。

目を閉じれば今でも、あの時の事を鮮明に思い出せる。

部屋に戻り電気をつけた。何だかこの見慣れた風景も、いつもより明るく輝いて見える。

(本当に、私の願いをきいてくれるっていうの…?)


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