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9,向けられた銃口

「3・2・1。ドッカーン!」

エリザの声に合わせて、南警察署一階の北入り口から、大きな爆発音が聞こえた。

廊下では、警官達の大騒ぎする声が聞こえ始めた。

現在二人がいるのは「第三会議室」という部屋の中。

「よしよし、今のでだいぶ爆発した方へ警官が行ったね」

「アイオンが、相変わらず悪趣味だなぁ。だとよ」

無線を片手に、ラティスはにやりとしながら言った。

「殺傷力はあんまり無いんだから、別に良いじゃないか。そんなに値段もしないし」

エリザがいつも買い物に行く店は、怪しげなものが沢山売っている。さっき爆発した小型の爆弾も、やはりその店から購入したものらしい。

「じゃ、あたし達は金庫室へ行くよ」

「待ってました!」

 二人は部屋から出て、爆発とは正反対の位置にある金庫室へ走りだした。

途中何人かの警官と鉢合わせになったが、上手く倒しながら進んで行った。金庫室までそんなに距離はない。五分とかからず二人はそこへ辿りつく。

「いっちばーん!」

「くっそ〜! ずるいぞ、俺が警官倒してる間に先に行くなんて!」

金庫室前で待機していた警官達は、突然現れて大声で順位を競い合うこの二人の登場に、しばし唖然となった。

「お、おい、ダリアだ。こいつらがきっとダリアだ!」

「あれ、三人しか警備がいないよ。なめられたもんだね」

「まあいいんじゃねーの?」

かかってきた一人をかわしながらその腕をつかみ、エリザは素早く縄を取り出して、胴体をぐるぐる巻きに縛り上げた。

その様子にひるんだほかの二人は、ラティスが背後に回っている事に気付かず、後頭部を殴られ気絶した。

「張り合いがねえなぁ」

「こら、気を緩めるんじゃないよ」

言いながら、早速エリザは金庫室のドアの機械に暗証番号を入力し始めた。

                 *  *  *

 銃を突きつけられたのは、調理室のドアを開けた瞬間だった。

今この状況を把握するのに、ルージュはしばらくの時間がかかったように思われる。それはもちろん驚きと、焦りと、何より、

『ルージュ、さっきの言葉は本当なんだな?』

「お義父さま……なぜここに」

アイオンの額から一ミリたりとも銃口を動かさずに、ノルズ・ウィリアムは自分の養女を冷ややかな目で見下ろした。

「まさかこんなに早くお目にかかれるとは。調度良かった、俺達も今からあなたに会いに行くところだったんですよ」

『屋上だな? ……行けばエリザが来るんだな?』

「よくご存知で。俺達のリーダーに何か用事でも?」

アイオンがやや挑発気味な口調で言うと、ノルズは憎らしそうに眉根を寄せた。

『君はあのラティスとかいう少年より、いくらか頭が良いらしいな』

「さあ、それはどうでしょう。それよりも、質問に答えていただけますか? あなたは俺達のリーダーに何の用があるんですか? どうして彼女の名前を知っているんです」

『うるさい!』

ノルズがアイオンの額から銃口を外したと思った瞬間、乾いた発砲音が鳴り響いた。

一瞬の沈黙。

そして間もなく、ひたひたと小さな紅い音が聞こえてくる。

「アイオン君!!」

「大丈夫。そんなにびっくりするほどの事じゃないよ」

見ると彼の左腕からは、だらだらと血が流れ出ていた。しかし、アイオンに動揺した様子は全く無い。

「お義父さま、なんてことするの!? やめて、私の仲間に」

『黙れ』

今度はルージュに、その銃口が向けられた。

「お義父さま……」

『お前も私を裏切るつもりか!』

引き金がひかれる寸前、アイオンがルージュの腕をつかんで走り出した。

「予定変更。このまま屋上へ向かうよ」

「だって、その腕」

「こんなかすり傷で、いちいち立ち止まってる暇は無い!」

走りながら、自然と涙が溢れ出てくる。さっき自分に向けられた銃口に、身動きが一切とれなかった。もしアイオンが自分を引っ張ってくれなかったら。そう思うと急に怖くなった。

「……ごめん、私何の役にもたってない。アイオン君の足引っ張ってる」

「当たり前だよ、ルージュはまだ慣れてないんだし。それに普通、誰だってびっくりするって。銃口向けられてなんとも思わないのは、あいつだけだ」

「あーあ、私なんだか泣いてばっかりだ。だらしないね」

「まあ、そんなに気にしなくていいんじゃない?」

 廊下には、沢山の警官達が気絶していた。おそらく、エリザとラティスの仕業だろう。

これだけの大騒ぎを起こす事になった原因は、もちろん自分だ。皆、自分のためにしてくれた事だ。

(私も、もっとしっかりしなくちゃ)

「アイオン君、私頑張ります!」

「え? あぁ、うん。いいんじゃない?」

ルージュのいきなりの宣言がツボにはまったのか、アイオンは可笑しそうに笑い出した。

「しっかし、君もまた随分唐突にものをいう人なんだね」

「あ、ごめん……」

「まあ面白いから別にいいけど」


もう引き返すことは出来ない。たとえ血を流す事になろうとも、きっちり義父に自分の思いを告げなければ。

廊下の突き当りまで来てエレベーターに乗ると、最上階へのボタンを押した。

「はぁ。何とかなるもんだね」

「お義父さま、ちゃんと屋上にくるのかな」

「そりゃあもちろん来るでしょ。本当は、こっちからウィリアムさんを見つけて声をかける予定だったんだけどね。ちょっと予定が狂ったけど、結果的には一緒だ」

話をしている間に、屋上へ到達する。エリザとラティスは、金庫室から盗んだ現金を持って一足先についているはずだ。

だが、エレベーターの扉が開いたその先に、二人が見たものは。

「どういう……事?」

「うそだろ……こんなのは、予定に入ってない」

一斉に向けられた、沢山の銃口。

エレベーターを中心として、警官達は二人を完全に取り囲んでいた。その数は、ざっと五十人。

「そこの二人、両手をあげてそのまま前に出なさい! 下手なことをすれば、狙撃を開始する!」

メガホンで、一人の警官がこちらに向かって声を張り上げる。ルージュは思わずアイオンの方を見て、小声で話しかけた。

「どうするの?」

「とりあえず、ここは指示に従っておこう」

両手を軽くあげると、アイオンはゆっくり歩き出した。ルージュもそれにならって、彼の後に続く。二メートルほど進んで止まれという指示が出たので、二人は手を上げたまま立ち止まった。

すると、警官の間から一人の人間が現れた。ボブカットの黒い髪に、黒いタンクトップ、動きやすそうなミニスカート。アイオンにとっては、良く見慣れた人物であろう。

「エリザ……!?」

「やあ、遅かったねアイオン。待ちくたびれたよ」

「そんな、エリザさん……」

そして彼女の隣には、縄で拘束されたラティスが立っていた。

体中あざや傷だらけで、見るに耐えないほど無残な姿だった。服は彼のものと思われる血で、どす黒く変色していた。

「おいラティス! どうした、一体何があった!?」

「エリザさん、まさか」

すると、不敵な笑みを浮かべてエリザはルージュを見た。恐ろしく鋭いその瞳に、体中が凍りついたような感覚におちいる。

「あんたは昨日、あたしの年齢を聴いてびっくりしていたようだね。なぜあたしが、二十歳そこらの小娘にしか見えないのか、今教えてあげようじゃないか」

その表情には、今まで自分に向けてくれていた、優しさや温かさといったものは全く見受けられなかった。

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