21歳、冬
初めて投稿する作品です。
読んで頂けたら幸いです。
意外に彼女は背が高い。
声は女の子にしてはちょっと低い。
顔はとっても可愛い。
性格はちょっぴり我がまま。
僕の大事な大事な彼女。
君が望んでしまうから、僕はいつもこんな役割を押し付けられてしまうんだ…。
一歩外に出ると、一瞬で目が覚めてしまう様な寒さだった。
風の冷たさに思わず鼻の奥がツンとなる。
「さむい…」
口に出しても変わらない事は重々承知しているが、それでもつい口から出てしまう。
そもそも本来の予定なら、今頃は暖房の効いた部屋で彼女と過ごしている筈だった。
そんな僕の穏やかな時間は、例によって一緒に過ごしている彼女に壊される。
「暖かい部屋でアイス食べるのって幸せだよね」
思いついた様に彼女は僕に言った。
「うん?」
僕は少しだけ考えたけれど、今、僕の部屋の冷蔵庫にはアイスなんて入っていないぞ?
「私、バニラならなんのアイスでも良いからね」
あぁ、これはつまり僕に買って来いということか…。
ここで一緒に買いに行こうって言っても、
「徒歩5分じゃない」
なんて言われてしまうだろうし、ましてや、
「じゃあ、自分で買いに行けば?」
なんて言おうものなら、しばらく機嫌が悪くなるかもしれない。
…そういえば、煙草がそろそろ切れるかな。
あまり緊急を要さない用事を見つけたので仕方なく近くのコンビニへ行くことにした。
「さむ…」
徒歩5分とはいえ、この時期、特に真夜中は信じられないくらいに寒い。
往復10分の間に僕は何度も寒いの言葉を呟いていた。
「ただいまー」
結局バニラのアイスを数種類だけ買って家に戻った。
ただいまの言葉に、彼女からは何のレスポンスもない。
「おかえり」くらい言ってくれても良いのに。
玄関を上がり、ふと見ると、リビングの電気は消されていた。
まさか、この十数分の間に寝ちゃったのか?
僕にこの寒い中、おつかいに行かせて!?
さすがに若干の憤りを感じながら、指先の感覚が戻ってきた手で電気を付けた。
「ハッピーバースデー!!」
盛大にクラッカーを鳴らして、床にちょこんと座っている彼女は言った。
「すごい!ほとんど私の計算通り!」
時計を確認した彼女は、悪戯が成功した子供の様に幼く笑う。
時刻は0時2分。
日付は変わり、僕の誕生日になっていた。
目の前でにこにこと笑う彼女から目を離さずに僕がしばらく無言になってると、さすがに心配したのか彼女は言った。
「あ、もしかしてアイス買いに行かせたこと怒ってる?」
「いや、それは別にもう諦めているから良いんだけど。なんていうか、その、びっくりして」
「あ、びっくりしてくれた!?」
そういって彼女はまた嬉しそうに笑った。
サプライズ成功が相当に嬉しいらしい。
冷静になった、部屋の中を見るとテーブルの真ん中には、生クリームが得意でない僕の為に用意してくれたチーズケーキとプレゼントらしき包みがあった。
彼女は、僕が出て行ってすぐにこれらをセッティングしてニコニコと待っていてくれたんだろうか。
そう考えると、自然と笑みが零れる。
「早く、座って!」
自分の隣に座る様に床をぽんぽんと叩いて促す。
「あ、アイスは冷凍庫にね!」
彼女に言われるままアイスをしまい、戻ったときにはケーキの上のロウソクに火が灯されていた。
「じゃあ、電気消すよー」
暗い部屋の中に浮かぶロウソクの灯は驚くくらいに暖かい。
何年ぶりかのロウソクを吹き消すという行為に、僕は懐かしさと感動を覚えていた。
「お誕生日おめでとう!これからも、私の我がままに付き合ってね」
ロウソクを吹き消して、彼女を見つめると、それはそれは綺麗な笑顔で彼女は言った。
意外に彼女は背が高い。
声は女の子にしてはちょっと低い。
顔はとっても可愛い。
性格はちょっぴり我がまま。
だけど、僕の事を1番に考えてくれる。
僕の大事な大事な彼女。
君が望むから、僕は頑張ってしまうんだ。