5話 最前線基地の意味 後編
沈黙は、居ないことの証明か。
あるいは、魔王が居る=魔物が居ると思い込んでいるオレたちが悪いのか。
「ジャーマンスープレックス決定だ」
「誰にっ?!」
いや、違う。
正しいツッコミは、できるかどうかを聞くことだ。
いやいや、違う!
どうしてそーなった?!
「騙していた側の、当然の報いだ」
「そうそう。あ、わたしキャメルクラッチやってみたい!」
ノリノリな彼女に、元凶は、
「フィニッシュへ持ち込むためには挨拶代わりに、フライングニーキックはどうだろうか?」
更に悪化する物言いをする。
「ニーキックじゃコンボ決まらないわよ?」
「ならば、踏み込んでからのエルボー、アッパーのコンビネーション。これならばキャメルで逝けるだろう?」
『行ける』が『逝ける』に聞こえているのは気のせいだ。
実行確定なのか?
魔法で滅ぼさないだけ、譲歩していると思いたい。
「その時のモチベーション次第では、十コンボは逝ける気がする」
「何しろ、ここは異世界っていうファンタジーだからね」
いや、確かに異世界でファンタジーだが……それを言ったらお終いだぞ。
「何をやっても現実には影響ないからね」
グッを親指を立てる春歌。
頷く最凶。
「…………もうヤだお前ら」
ツッコミが足りません。
オレのライフはもうゼロです。
「ところで、今更なのだが……名づけてもらったのか?」
「春の歌で春歌よ。冬生から夏芽に続く間。ま……夏芽が思ったのは、季節を生きる生命のことだろうケドね」
「そうか。良い名だ」
「……だって。アンタ、褒められたわよ」
「は? 今のってお前を褒めたんだろう?」
「アホか。わたしの名は、アンタが名づけたの。だからわたしの名を褒めるということは、イコール、名づけ元のアンタを直接褒めてるのよ」
本当に頭の弱い奴――と嘆かれた。
そうは言われても、元々はオレが生み出して名づけた存在だったとしても、今は『春歌』という自我のある一個人だと思っている。
何故なら、繋がっていないからだ。
思考も、心も。
オレと彼女は違う存在だ。
名づけたその瞬間から、春歌は一人歩きしている……いや、最初の時点でかなり自由だったけど。
「あ、あの~……」
気弱な声が聞こえる。
発言者は、兵士。完全に置いて行かれた表情をしながら、申し訳なさそうな声を出した。
「結局の所、我々はどうすれば?」
「知らん」
「ミもフタもねー!」
あ、オレまだツッコめる。
「魔物の出ぬ場所を守っている時点で、ここの存在価値は皆無だ。
改めて聞くが、魔物の軍勢は? お前たち、正直に話すことを推奨する」
『ひぃっ!!』
冬生は無表情だが、言葉に黒いオーラのようなものが含まれている。
兵士は戦う訓練をつんでいる。それなりの死線を潜り抜けているだろうから、殺気などは敏感だろう。
まあ、何回か酷い目にあっているのだ。これで冬生の恐ろしさを分からないバカは、さすがに居ないだろう。
「ま、魔物は出現しておりません」
「代わりといってはなんですが……魔王の脅威に晒されている我ら二国を取り込もうという、諸国の動きがありまして……」
「実際、最前線基地と言うのは、民を安堵させるための処置でして」
しどろもどろ。
言いたくない、察してくれ。そんな雰囲気を察する彼ではない。直接言わせるまで圧迫し続ける鬼である。
「……結論を申し上げますと、ここでの我らはお飾りです」
「そして対峙しているのは魔物ではなく、人間が呼び出す召喚獣です。王国はそれを魔物と公表し、諸国の攻撃をひたすらに隠し続けています」
団長ら、上官クラスの説明により明かされた事実。
下っ端兵士が驚かない所を見ると、ここに配置されて上官にでも教えられたのだろう。
魔物に遭遇しなかった理由は分かった。
だが、いろいろ矛盾や納得しきれない部分も増えた。
「とりあえず、アンタたちが税金ドロボーだってのは分かったわ」
ポツリと呟く彼女に、内心で同意する。
世界は違っても、税金ドロボーは存在するのだな。
多分、彼らは何も知らず、責務を全うしているだけだろうが。
……それでくだらない言い争いをしている現実には、心底ムカつくけど。生きている人間だから、ケンカはするだろうし。一概に悪いとも言えない。
「あの~……せめて砦をどうにかできませんか?」
「建て直し程度、お前たちが行うのだな」
程度、の問題じゃないと思う。
建て直しよりは、土台作りから始めるレベルだ。クレーターを埋めなければ。
「そ、それは重々心得ているつもりですが……我らが申し上げておりますのは、建て直すまでの一週間でも、砦の守りをお願いできないかと」
「ケルミー側からもお願い申し上げます。再建の間、決して言い争いは致しません。そうだな、セルミーの?」
「も、勿論だとも」
はっきり言えなかった所はマイナスだが、及第点ではないだろうか?
春歌は『ま、仕方ないわよね』と呟いた。お願いを受け入れる気だ。
オレは特に反対はしない。反対する点も見あたらない。考えによっては、二国が侵略されるのはマズイと思う。帰れる手段が今の所、この二国しかないからである。
そして冬生は……、
「――一週間が限度だ。言い争いもせぬ約束を違えた折りは……覚悟してもらおう」
かなり譲歩した。これにはオレも春歌も驚いた。
『はいっ!!』
この返事は合格。
だが……何でか嫌な予感しかしないから不思議だ。
※決めているEDに対し、ヒロイン設定は3パターン考えており、どのヒロインに向かうべきか悩んでおります。
一度『第一章・完』という扱いにし、3パターンで書き上げた内容を比べてから更新を考えてみようと思います。
今日までお付き合い頂き、ありがとう御座いました。




