3話 前線基地、(早くも)壊滅する 後編
ゴオォォッ!!
「………………………………」
突然、目の前に発生した風の渦。
それが暴発したかのように破裂し、周囲の人間すらも巻き込んで吹っ飛ばした。
術者である冬生は、当然ながら無事。
オレが無事なのは、彼が施した『仲間ですよ~』という識別信号のようなモノ……のおかでだ。
冬生の持つマナの波動を、布陣という見える形でオレの腕に刻んだ。これがあれば、発動した術者と同じ条件化に居られ、被害を受けることはない。
――そんな説明はさておき。
いい加減にしろ、と叫びたかったこの勢い……どうしてくれよう?
最初に破壊された防壁は、更に粉々に破壊された光景。
今なら魔物も入りたい放題だ。
「最後に、言いたいことはあるか?」
「…………どこの悪役の台詞ですか?」
腕を組んで仁王立ちし、未だダメージから立ち直れない兵士たちに告げる。
『す、すみませんでした』
そして、両兵は揃って土下座をした。
「しかし勇者殿、我らを正すとは言え防壁を壊すのはやりすぎでは?」
「うおっ! まともなコト言った!」
意外な常識人に驚き、思わず声に出していた。
冬生がジロリと睨んだが、できるだけ無視。
「お前たちの心が脆いからだ」
「いや、それ違うし」
たとえそうだとしても、冬生の力だと本当に脆いんだか実は頑丈なんだか判別不能だ。
仕切りなおすため、咳払いを一つ。
「とりあえず、現在の状況は? えーっと、責任者っつーか報告してくれる人」
見回すと、両国から一人ずつ挙手が出る。
そしてオレから指されるのを待つことなく、二人同時に喋りだした。
ステレオ放送の、二重音声。
隣の冬生が不快そうに歪んでいく中、言っている内容は同じだったため、何とか内容を聞き出すことができた。
現在の状況はこうだ。
まず、砦から見える闇の城らしき影は、魔王の精鋭部隊の最前線基地であること。
ラスボスの魔王は、その基地を越えた先にあると言う。
辿り着くまでの道のりは、基地を抜ける以外にない。
と言うのも、現魔物の最前線基地は、元々ケルミー、セルミー両国と友好関係にあった隣国の砦だそうだ。
だから魔王の住処までの道は、元々あった状態と同じであると判明していた。
で、肝心の魔王はと言うと、突如現れ宣戦布告をして以来、用がある時以外は姿を現さないそうだ。
姿を表すといっても、上空に姿を映し出す程度。
オレたちが召喚される前にも一度、姿を現しているそうだ。
内容は、この世界の伝説を再来させようとも、この魔王に勝てると思っているのか――とか。
つまり、勇者召喚を察知しての牽制……だな。
それを冬生に伝えると、少し考え込む仕草を見せた。
初めて見る傍若無人以外の姿に、内心、驚きを隠せない。
ちゃんと普通に考えることもできるんだな、と。
「魔王は一方的に用件を伝え、こちら側の返答は聞かないのか?」
「ひっ! い、いえ、返答は城の巫女様が精霊に呼びかけ、上空に反映させると聞いています」
冬生に尋ねられた兵士は、小さく震えた。
気持ちは分からないでもないが、怒らせるようなことをした彼らに非があるためフォローはしない。
「面倒な」
あ、嫌そう。
「し、しかし、それが我々にとっても一番確実な連絡手段なのです」
「そうです! 巫女ミナリーあっての連絡手段です」
「あ、テメェ! 巫女マーシアあっての連絡手段だって言ってンだろーが!」
『団長! 自分たちも加勢します!!』
「何の?!」
思わずツッコミ。
火種と燃える物は、どうやってもなくならない。
この世に火を生み出した人類を、少なからず恨む。
と、
「わー! ちょ、ちょっと冬生待った! 本当にタンマ!」
物凄い形相で、左手に魔力を集中させている。
どれほどの威力かなんて、冬生の表情をみれば一目瞭然。
〈エクスプロード〉の比ではない。
「二度と口が利けないようにしてやろう」
「それ、悪役の台詞! しかも永遠に利けなくなるって!!」
静止の声も聞こえないほど、彼の中では逆鱗に触れすぎているようだ。
「〈プチメテオ〉」
その名からして、小さな隕石っぽいが……、
ゴゴゴゴゴッ!
「……マジかよ」
落ちてくるソレは、どう見ても大きい。正確に測れないため分からないが、大体オレの身長(一七八センチ)くらい。
次々と降り注いでは、防壁や物見塔などと破壊していく。
煙、火、パニック。
ああもう、こんな時、オレ以上にツッコミができる人材が欲しい。
って言うか、それよりもだ。
冬生の魔法による害はなくても、目の前に迫り来るガレキは別物で、オレに防ぐ術はない。
今、必要なのは身を守る方法。
想像しようにも、オレ自身もパニックで卒倒寸前。
とりあえず、オレの人生はここで終わったな――
最弱だから仕方ない……とは思いたくなかった。
3月と4月の停電で、それぞれ執筆中のデータがご臨終されました。
月一ペースで更新できればと理想的だなと、自分の首を絞めてみます。